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暁 星が宿り、縁が交わる
顔合わせ
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詰所の前にはレオンチェフ公爵家の馬車。平民街の境にそんな馬車が止まっているのに行き交う人々はなんだろうと目を向ける。人目が多いのに気づいたアルトゥールは食堂のことを思い出し、外に出る前にフェオドラにソフィーヤから渡されていた少し大きめケープを羽織らせた。フード付きという配慮までされていたおかげで、フェオドラをすっぽりと覆ったケープは彼女がどこかの令嬢であるとだけしかわからない状態になった。
「フェオドラ、人の目があるが、気にすることはない。それにこのケープを纏っていれば、怖い人もお前だとはわからない」
バッグごとぬいぐるみを抱きしめるフェオドラに安心しろとケープの上から頭をぽんぽんと叩く。そして、その手を取り、二人して馬車へと乗り込んだ。馬車の中でソワソワしているフェオドラにくすりと笑いを零し、アルトゥールは御者に出発の合図を送った。
「フェオドラ、気になるのだったら、窓から外を見るといい」
腰を上げ、窓にかかったカーテンを寄せようとするも、必要ないよとばかりにぺちりとその手をフェオドラは叩く。けれどそんなフェオドラだがやはり外が気になるようでカーテンの隙間からちらりと覗き見ていた。
「窓には中の人物が分からないように認識阻害の魔法がかけられている。だから、フェオドラが窓から外を覗いたところでそれがフェオドラだとわかるものはいない」
まぁ、窓を開けて顔を出せばわかってしまうがなと言えば、フェオドラはフルフルと首を振ってそこまではしないとアピール。それじゃあ開けるぞと一声をかけ、カーテンを開けてやれば、予想以上にぺたりと窓に張り付いて外を眺めるフェオドラ。ふぉお、と感動の声を上げるフェオドラからバッグに入れているものの肩にかけてなかったぬいぐるみがぽとりと落ちる。それを拾い、軽く叩いて埃を落としておく。ただ、その際にぬいぐるみの腹の方が少し硬いのが気になった。
「……何か入ってるのか?」
フェオドラに尋ねようとするとフェオドラはひぅと声を上げて、窓から離れる。
「どうした」
怖い人でもいたのかとアルトゥールが窓の外を見たがそこにはいつもの光景。時折、これからお茶会なのだろうかドレスにアクセサリーと着飾ったご令嬢たちが屋敷に入っていく様子も窺える。
「おかしなものはいないぞ」
アルトゥールの言葉に本当? とばかりに窓に戻ってくるフェオドラ。そして、また窓の外を覗いて、飛びのいた。きゅっとアルトゥールの制服を握るフェオドラ。
「……もう、屋敷も近いからカーテン閉めとくぞ」
「ん」
外の光景を思い出し、もしかしてフェオドラは貴族令嬢が苦手なのかと考えが過る。詰所にいた女性陣は貴族令嬢であっても騎士の格好や軽い服装をしている者たちが多かった。つまり令嬢として認識されていなかったおかげでフェオドラがここまで過剰に反応することもなかった可能性がある。
「……もう、この時間なら戻ってきてるな」
しまったなと舌打ちをするアルトゥール。それに自分の態度が悪かったのだろうかとフェオドラは眉を下げて小さくなる。それに気づいたアルトゥールは違う、お前の事じゃないと頭を撫でた。
「アルトゥール様、お屋敷に到着いたしました」
「あぁ、わかった」
ドアが開けられ、アルトゥールはフェオドラの手を取り、外へとエスコートをする。タラップを降りる際は特に注意をした。屋敷の前に出迎えのために並んだ使用人たちはそんな光景を目の当たりし、驚く。付き合いのある上級貴族の令嬢にそんなことをアルトゥールがしたことがなかったからだ。それが、小さな少女に対して、それはもう大事にしているとばかりに気遣っているなど顔に出さずとも信じられなかった。
「あらあら、その子が例の子ね」
その声に振り向けば、そこにいたのはパールピンクに爽やかな蒼の髪を持つ少々鋭目の貴婦人。アルトゥールは彼女にそうだと頷き、フェオドラを前に出そうとして気づいた。フェオドラがガタガタと震えている。緊張しているのかとそう思った。
「こんにちは」
「ひぅっ!」
貴婦人がアルトゥールの影から声をかければ、フェオドラは悲鳴を上げてアルトゥールにしがみつく。あらまぁと不思議そうな貴婦人に対し、使用人たちからは冷たい視線が送られる。
「アーテャ、随分とお嬢さんに気に入られているようだな。お嬢さん、私たちは怖くないよ」
「……やっ」
「おや、嫌われてしまっているようだ」
貴婦人に続いてやってきた鮮やかな緑に毛先が蒲公英色の髪の紳士。妻である貴婦人と同じ様に覗き込むがいやいやとフェオドラに全力で拒否される。アルトゥールの服を握る力が強くなってると同時にその手は力の入れすぎで白くなっていた。
「フェオドラ、大丈夫だ」
「いやっ、いやっ」
アルトゥールはしゃがみ、フェオドラの目を見ながら告げるがそのフェオドラの顔色は悪く、ガタガタと震えるその様はとても緊張しているものではない。目にあるのは恐怖、怯えだ。
タッタッタと軽い足取りが聞こえる。アルトゥールはヤバいと直感した。父と母でこの反応をしているのだから、適齢期の令嬢である妹は危ない、と。
「ま――」
「私のお兄様に迷惑をかけているという小娘はお前ですか」
アルトゥールの制止の前に現れたパールピンクに蒲公英色の髪の令嬢はビシッと畳んだ扇をフェオドラに突きつけた。
その令嬢にフェオドラからは血の気が引き、ふぅっと後ろに倒れた。
「フェオドラ!」
悲痛なアルトゥールの叫びがその場に響く。
「フェオドラ、人の目があるが、気にすることはない。それにこのケープを纏っていれば、怖い人もお前だとはわからない」
バッグごとぬいぐるみを抱きしめるフェオドラに安心しろとケープの上から頭をぽんぽんと叩く。そして、その手を取り、二人して馬車へと乗り込んだ。馬車の中でソワソワしているフェオドラにくすりと笑いを零し、アルトゥールは御者に出発の合図を送った。
「フェオドラ、気になるのだったら、窓から外を見るといい」
腰を上げ、窓にかかったカーテンを寄せようとするも、必要ないよとばかりにぺちりとその手をフェオドラは叩く。けれどそんなフェオドラだがやはり外が気になるようでカーテンの隙間からちらりと覗き見ていた。
「窓には中の人物が分からないように認識阻害の魔法がかけられている。だから、フェオドラが窓から外を覗いたところでそれがフェオドラだとわかるものはいない」
まぁ、窓を開けて顔を出せばわかってしまうがなと言えば、フェオドラはフルフルと首を振ってそこまではしないとアピール。それじゃあ開けるぞと一声をかけ、カーテンを開けてやれば、予想以上にぺたりと窓に張り付いて外を眺めるフェオドラ。ふぉお、と感動の声を上げるフェオドラからバッグに入れているものの肩にかけてなかったぬいぐるみがぽとりと落ちる。それを拾い、軽く叩いて埃を落としておく。ただ、その際にぬいぐるみの腹の方が少し硬いのが気になった。
「……何か入ってるのか?」
フェオドラに尋ねようとするとフェオドラはひぅと声を上げて、窓から離れる。
「どうした」
怖い人でもいたのかとアルトゥールが窓の外を見たがそこにはいつもの光景。時折、これからお茶会なのだろうかドレスにアクセサリーと着飾ったご令嬢たちが屋敷に入っていく様子も窺える。
「おかしなものはいないぞ」
アルトゥールの言葉に本当? とばかりに窓に戻ってくるフェオドラ。そして、また窓の外を覗いて、飛びのいた。きゅっとアルトゥールの制服を握るフェオドラ。
「……もう、屋敷も近いからカーテン閉めとくぞ」
「ん」
外の光景を思い出し、もしかしてフェオドラは貴族令嬢が苦手なのかと考えが過る。詰所にいた女性陣は貴族令嬢であっても騎士の格好や軽い服装をしている者たちが多かった。つまり令嬢として認識されていなかったおかげでフェオドラがここまで過剰に反応することもなかった可能性がある。
「……もう、この時間なら戻ってきてるな」
しまったなと舌打ちをするアルトゥール。それに自分の態度が悪かったのだろうかとフェオドラは眉を下げて小さくなる。それに気づいたアルトゥールは違う、お前の事じゃないと頭を撫でた。
「アルトゥール様、お屋敷に到着いたしました」
「あぁ、わかった」
ドアが開けられ、アルトゥールはフェオドラの手を取り、外へとエスコートをする。タラップを降りる際は特に注意をした。屋敷の前に出迎えのために並んだ使用人たちはそんな光景を目の当たりし、驚く。付き合いのある上級貴族の令嬢にそんなことをアルトゥールがしたことがなかったからだ。それが、小さな少女に対して、それはもう大事にしているとばかりに気遣っているなど顔に出さずとも信じられなかった。
「あらあら、その子が例の子ね」
その声に振り向けば、そこにいたのはパールピンクに爽やかな蒼の髪を持つ少々鋭目の貴婦人。アルトゥールは彼女にそうだと頷き、フェオドラを前に出そうとして気づいた。フェオドラがガタガタと震えている。緊張しているのかとそう思った。
「こんにちは」
「ひぅっ!」
貴婦人がアルトゥールの影から声をかければ、フェオドラは悲鳴を上げてアルトゥールにしがみつく。あらまぁと不思議そうな貴婦人に対し、使用人たちからは冷たい視線が送られる。
「アーテャ、随分とお嬢さんに気に入られているようだな。お嬢さん、私たちは怖くないよ」
「……やっ」
「おや、嫌われてしまっているようだ」
貴婦人に続いてやってきた鮮やかな緑に毛先が蒲公英色の髪の紳士。妻である貴婦人と同じ様に覗き込むがいやいやとフェオドラに全力で拒否される。アルトゥールの服を握る力が強くなってると同時にその手は力の入れすぎで白くなっていた。
「フェオドラ、大丈夫だ」
「いやっ、いやっ」
アルトゥールはしゃがみ、フェオドラの目を見ながら告げるがそのフェオドラの顔色は悪く、ガタガタと震えるその様はとても緊張しているものではない。目にあるのは恐怖、怯えだ。
タッタッタと軽い足取りが聞こえる。アルトゥールはヤバいと直感した。父と母でこの反応をしているのだから、適齢期の令嬢である妹は危ない、と。
「ま――」
「私のお兄様に迷惑をかけているという小娘はお前ですか」
アルトゥールの制止の前に現れたパールピンクに蒲公英色の髪の令嬢はビシッと畳んだ扇をフェオドラに突きつけた。
その令嬢にフェオドラからは血の気が引き、ふぅっと後ろに倒れた。
「フェオドラ!」
悲痛なアルトゥールの叫びがその場に響く。
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