黒き星持つ龍は無自覚な番様に溺愛される

東川 善通

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暁 星が宿り、縁が交わる

黒い星

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「……子供? こんな夜中にか」

 訝しげに眉を顰め、剣の先にいる子供――フェオドラを見つめる。けれど、フェオドラは剣を怖がる様子もなく、ジッと男を見上げていた。年は八歳から十歳くらいだろうか、ボロボロの服にぱさぱさの髪。この辺りに浮浪孤児がいる話など聞いたことはなかった。では、目の前にいる子供は何なのだろうか。

「お前は――」

 敵意がないと判断し、剣を仕舞い、フェオドラを見て口を噤んだ。あり得ない。何故、浮浪孤児にと男は目撃してしまったものに疑問を抱く。

「失礼する」

 男は屈み、そういうとフェオドラの頬に手をやり、フェオドラの顔、目を見る。ただの黒い瞳かと思ったが、違った。満月が作り出したそれは星。フェオドラの黒い瞳の中に六条の星が現れていた。
 男はフェオドラの目を見て、唸る。どうしたのかわからないフェオドラは男を見つつもギュッとぬいぐるみを抱きしめた。

「あっれー? アルトゥール・レオンチェフ様という人が誘拐ですかー?」
「違う」

 アルトゥール・レオンチェフと呼ばれた男は後から来た同様の格好をした青年に立ち上がりながら否定を飛ばす。そもそも、否定されることがわかっていたのだろう青年はケラケラと笑っていた。

「で、その子、どうしたんです?」
「アキム、この辺りには浮浪孤児を見たことないと言っていたよな」
「まぁ、いいましたね。事実、見たことなかったんですけどねー」

 いますよね、今ココに、と苦笑いを浮かべる。聞いてみましょうかとフェオドラに屈んだが、フェオドラはさっとアルトゥールの足にしがみつく。

「おい」
「えー、もしかして、僕フラれちゃいました?」
「冗談はよせ」
「はいはい、わかってますとも」

 えへらと笑ったアキムに笑い事じゃないだろうと言葉を飛ばせば、柔らかな笑みを浮かべてフェオドラに向き直る。

「えっと、君はどこから来たのかな?」

 フェオドラは首をかしげる。ただただ、いい香りに釣られて来ただけなので道順など覚えていないし、そもそも自分がいた屋敷の場所も知らない。咄嗟にアルトゥールにしがみついてしまったが逆に落ち着いたし、何よりもその香りに安心した。

「いい匂い」
「は?」
「えーと、どういうことだ? いい匂いに釣られてきたから帰る場所がわからないとか、え、そんなことある?」

 困惑する二人に対し、フェオドラはのんびりとアルトゥールのいい匂いを堪能していた。すりすりと頬擦りをされれば、流石にもしかしてという解に辿り着く。

「まさかのレオンチェフ様」
「いや、待て、それはない、だろ?」
「まぁ、とりあえず、こうしてるのもなんですし、詰所に戻りましょう、そうしましょう」

 うん、そうだそうしようと膝を叩いたアキムはさっさと立ち上がり、詰所へ向かう。残されそうになったアルトゥールは致し方ないとフェオドラを抱えあげ、向かった。

「お前、軽すぎないか?」
「??」

 言葉の意味がわからず、首を傾げる。けれど、アルトゥールは何となく分かったのだろう、いや、なんでもないと告げると歩く速度を早めた。
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