2 / 72
暁 星が宿り、縁が交わる
母の言葉
しおりを挟む
『可愛い可愛い私のフェオドラ。よく言葉を聞いて、学び、覚えておきなさい。ただ、アレらの前では決して言葉を発してはダメよ』
少女――フェオドラはまだ母が生きている時、彼女からそう言い聞かされていた。言葉は分かる。意味も彼らの表情からなんとなく理解はしていた。ただ、言葉を発するのは母と母が作ってくれたドラゴンのぬいぐるみに対してだったため、その発音であっているのかはわからなかった。
『大丈夫よ。だって、あなたは私とパパの子だもの』
いつも母はぬいぐるみをパパと呼び、大事にそれを抱える娘ごとそう言って抱き締める。優しくて、あったかくて、生活は大変であったけど、フェオドラの中で幸せな時間だった。
「…………まぁま?」
ちんちろと鳴く虫の音にフェオドラは目を覚ます。もう空は暗くなっていた。
周りにあるのは森。母の姿はどこにもなかった。あれは夢だったのだと分かると肩を落とす。冷たくなって動かなくなってしまったあの日から母はもういないのだと思い出し、フェオドラは痛む体に鞭を打ち、立ち上がる。
「お月さま、まーまるちあうね」
空を見上げ、月を見る。いつだったか、母は言っていた。
『十五の満月の日、あなたの道が開けるわ』
満月というのがわからなくて首を傾げれば、お月様が真ん丸になる時のことよと教えてもらった。そして、道が開けるというのはその時にならないとわからないことだけど、フェオドラにとって良いことがあると母は語った。
母がいなくなってからフェオドラの救いはそれだけだった。だから、毎日夜空を見上げた。
「うー」
今日の月はまるで怖いあの子が笑ってるかのような弧を描いて、思わずフェオドラは唸ってしまった。いつもいつも会う度になんかしらしてくるあの子。魔法を覚えてからは魔法を飛ばしてくるのだから、厄介だ。
「まーまるお月さま、まらかな」
真ん丸お月様は何度か目にしたが、いいことはなかった。でも、母の言っていた十五に当てはまる時がくれば、きっとと諦めきれない。
はぁと溜息を吐き、再度空を見上げるも空に浮かんでいるのは笑っているかのような月。いくら見上げても変わるはすもなく、フェオドラは諦めて、住処にしている洞へと向かった。
途中、木の窪みに溜まった水で喉を潤し、洞への道に落ちている木の実を食べた。
「これはパパにあげよ」
美味しいなと思えば、数個は寝る前にどうぞとぬいぐるみに捧げる。とはいえ、ぬいぐるみは抱きしめて眠るのでぬいぐるみを置いていた場所に置くだけなのだが。それでも、翌朝には置いていた木の実はなくなっている。小動物が持っていったのか、はたまた本当にぬいぐるみが頂戴したのかはわからない。
「レーラに幸を、ヤーシャに祝福を」
洞で寝床を整えたフェオドラはぬいぐるみを前に手を組み、そう言葉を口にする。母がいつもぬいぐるみにしていたおまじない。どういう意味なのか聞いても穏やかに微笑んで首を傾げるだけだった。だけど、少し母を感じるようでフェオドラは毎日寝る前には必ずそれを母亡き後行うようになっていた。
そして、ぬいぐるみを抱き締めて深い眠りに落ちていく。
少女――フェオドラはまだ母が生きている時、彼女からそう言い聞かされていた。言葉は分かる。意味も彼らの表情からなんとなく理解はしていた。ただ、言葉を発するのは母と母が作ってくれたドラゴンのぬいぐるみに対してだったため、その発音であっているのかはわからなかった。
『大丈夫よ。だって、あなたは私とパパの子だもの』
いつも母はぬいぐるみをパパと呼び、大事にそれを抱える娘ごとそう言って抱き締める。優しくて、あったかくて、生活は大変であったけど、フェオドラの中で幸せな時間だった。
「…………まぁま?」
ちんちろと鳴く虫の音にフェオドラは目を覚ます。もう空は暗くなっていた。
周りにあるのは森。母の姿はどこにもなかった。あれは夢だったのだと分かると肩を落とす。冷たくなって動かなくなってしまったあの日から母はもういないのだと思い出し、フェオドラは痛む体に鞭を打ち、立ち上がる。
「お月さま、まーまるちあうね」
空を見上げ、月を見る。いつだったか、母は言っていた。
『十五の満月の日、あなたの道が開けるわ』
満月というのがわからなくて首を傾げれば、お月様が真ん丸になる時のことよと教えてもらった。そして、道が開けるというのはその時にならないとわからないことだけど、フェオドラにとって良いことがあると母は語った。
母がいなくなってからフェオドラの救いはそれだけだった。だから、毎日夜空を見上げた。
「うー」
今日の月はまるで怖いあの子が笑ってるかのような弧を描いて、思わずフェオドラは唸ってしまった。いつもいつも会う度になんかしらしてくるあの子。魔法を覚えてからは魔法を飛ばしてくるのだから、厄介だ。
「まーまるお月さま、まらかな」
真ん丸お月様は何度か目にしたが、いいことはなかった。でも、母の言っていた十五に当てはまる時がくれば、きっとと諦めきれない。
はぁと溜息を吐き、再度空を見上げるも空に浮かんでいるのは笑っているかのような月。いくら見上げても変わるはすもなく、フェオドラは諦めて、住処にしている洞へと向かった。
途中、木の窪みに溜まった水で喉を潤し、洞への道に落ちている木の実を食べた。
「これはパパにあげよ」
美味しいなと思えば、数個は寝る前にどうぞとぬいぐるみに捧げる。とはいえ、ぬいぐるみは抱きしめて眠るのでぬいぐるみを置いていた場所に置くだけなのだが。それでも、翌朝には置いていた木の実はなくなっている。小動物が持っていったのか、はたまた本当にぬいぐるみが頂戴したのかはわからない。
「レーラに幸を、ヤーシャに祝福を」
洞で寝床を整えたフェオドラはぬいぐるみを前に手を組み、そう言葉を口にする。母がいつもぬいぐるみにしていたおまじない。どういう意味なのか聞いても穏やかに微笑んで首を傾げるだけだった。だけど、少し母を感じるようでフェオドラは毎日寝る前には必ずそれを母亡き後行うようになっていた。
そして、ぬいぐるみを抱き締めて深い眠りに落ちていく。
0
お気に入りに追加
111
あなたにおすすめの小説
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる
佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます
「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」
なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。
彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。
私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。
それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。
そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。
ただ。
婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。
切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。
彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。
「どうか、私と結婚してください」
「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」
私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。
彼のことはよく知っている。
彼もまた、私のことをよく知っている。
でも彼は『それ』が私だとは知らない。
まったくの別人に見えているはずなのだから。
なのに、何故私にプロポーズを?
しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。
どういうこと?
============
番外編は思いついたら追加していく予定です。
<レジーナ公式サイト番外編>
「番外編 相変わらずな日常」
レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。
いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。
※転載・複写はお断りいたします。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる