13 / 92
13地竜の階層
しおりを挟む
俺は十分に力がついたので先に進むことにした。
剣術に関するステータスも敏捷を上げたおかげで前より段違いの強さになった。
力だけでなく、スピードも身につけ、火の巫術で多数の魔物にも対応出来るようになった。
死角はない筈。
むしろ今の俺には誰かと話すことの方が重要に思えた。
精神的な面の弱さの方が気になる。
話したい衝動に駆られた。
寂しい、孤独だ。
人と話していないことがこんなに辛いとは思わなかった。
俺の家族は俺のことを蔑んで満足に話したことはないが、使用人達とは朗らかに話していた。みな、いい人達ばかりだった。
中でもリリー。
いや、リリーのことは今は考えまい。
考えると激しい感情が溢れる。
戦いにおいて冷静さは重要だと思う。
同じ実力がある者同士なら、冷静でいられるヤツの方が勝つ。
当然のことだ。
今はリリーの復讐のことより、今を生きること。
そう自分に言い聞かせた。
生き残れないと復讐ができないから。
そう納得した。
☆☆☆
新しい階層に降りるとそこは草原だった。
これまでの薄暗いほのかな光を放つダンジョンではなく空高い青空。
どう考えてもおかしい。
そもそも下に降りた階段の距離は10mもないだろう。
にも関わらずどこまでも遠い青い空。
この久しぶりの太陽に俺は心地よさを感じた。
その上。
「うん? この音?」
それは川のせせらぎの音だった。
水!
それは俺が10日以上口にしていない水の音だった。
急いで走るとやはり小川があった。
清らかで清涼感溢れる水。
俺は慌てて水を手ですくって少し舐める。
大丈夫だ。
毒とかおかしなものじゃない。
毒なら舌が痺れたりおかしな味がするものだ。
だがこの水は今まで飲んだどんな水より美味い水だった。
俺はたまらず手にすくってゴクゴクと水を飲む。
ああ!
もどかしい!
俺は手ですくって飲むだけでは我慢できず頭を小川に突っ込んだ。
「ぷはっ!! 生き返る!!」
5日ぶりの水は俺に人らしさを取り戻してくれた。
しかし、俺から警戒心を奪ってしまった。
突然背後に気配を感じる。
「!!!!!!!!!!」
俺は驚き過ぎて声にならない叫びをあげた。
振り返るとほんの1m後ろにいた。
地竜が。
地竜、竜の一種で竜族の中では弱い方だ。
この竜は太古の竜が退化したものと考えられている。
生息地は比較的強い魔物が出ないところばかり。
体長2mほどのサイズは竜種の中ではかなり小さいが、通常の人界のテリトリーの魔物の中では最強クラスだ。
それ以上の魔物はダンジョンや魔の森など人界のテリトリー外に行かないと出くわさない。
ガツン
俺がついさっきまでいた所に竜の顎の牙が音を鳴らす。
俺を食おうと閉じた口の牙と牙が音を鳴らす。
危なかった。
ここがダンジョンの中と言うことを失念していた。
水飲み場は肉食獣の狩場だ。
あまりにも自分が迂闊だった。
だが、俺は更に致命的なことをしでかした。
剣がない!
水を呑む時に地面に置いてしまった。
今はちょうど地竜の足元にある。
寒気にも似た恐怖を感じる。
剣無しでやれるか?
いや愚問だ。
やるしかない。
すると宙に文字が浮き出た。
『我が拳は無限なり。我拳に勝るものなし』
良かった。
武術言語は剣だけが対象じゃない。
俺は慌てて武術言語を唱える。
そして。
「オラァアアアア!!」
地竜に殴りかかった。
意外とあっさりと地竜の顔面に俺のグーが入った。
のけぞる地竜。
そのガラ空きの腹へ蹴りを入れる。
しかし。
威力が小さ過ぎる!
武器を持たない不利だけじゃないかもしれない。
剣を握っている時には感じたことがない違和感。
拳も蹴りも他人の手足を動かしているようだ。
俺の力ならもっとエネルギーを魔物に叩き込める筈だ。
しかし、俺の拳も蹴りも効率良く体を動かせていない。
俺は決定打を与えることができず、地竜と命をかけた戦いをひたすら続けていた。
剣術に関するステータスも敏捷を上げたおかげで前より段違いの強さになった。
力だけでなく、スピードも身につけ、火の巫術で多数の魔物にも対応出来るようになった。
死角はない筈。
むしろ今の俺には誰かと話すことの方が重要に思えた。
精神的な面の弱さの方が気になる。
話したい衝動に駆られた。
寂しい、孤独だ。
人と話していないことがこんなに辛いとは思わなかった。
俺の家族は俺のことを蔑んで満足に話したことはないが、使用人達とは朗らかに話していた。みな、いい人達ばかりだった。
中でもリリー。
いや、リリーのことは今は考えまい。
考えると激しい感情が溢れる。
戦いにおいて冷静さは重要だと思う。
同じ実力がある者同士なら、冷静でいられるヤツの方が勝つ。
当然のことだ。
今はリリーの復讐のことより、今を生きること。
そう自分に言い聞かせた。
生き残れないと復讐ができないから。
そう納得した。
☆☆☆
新しい階層に降りるとそこは草原だった。
これまでの薄暗いほのかな光を放つダンジョンではなく空高い青空。
どう考えてもおかしい。
そもそも下に降りた階段の距離は10mもないだろう。
にも関わらずどこまでも遠い青い空。
この久しぶりの太陽に俺は心地よさを感じた。
その上。
「うん? この音?」
それは川のせせらぎの音だった。
水!
それは俺が10日以上口にしていない水の音だった。
急いで走るとやはり小川があった。
清らかで清涼感溢れる水。
俺は慌てて水を手ですくって少し舐める。
大丈夫だ。
毒とかおかしなものじゃない。
毒なら舌が痺れたりおかしな味がするものだ。
だがこの水は今まで飲んだどんな水より美味い水だった。
俺はたまらず手にすくってゴクゴクと水を飲む。
ああ!
もどかしい!
俺は手ですくって飲むだけでは我慢できず頭を小川に突っ込んだ。
「ぷはっ!! 生き返る!!」
5日ぶりの水は俺に人らしさを取り戻してくれた。
しかし、俺から警戒心を奪ってしまった。
突然背後に気配を感じる。
「!!!!!!!!!!」
俺は驚き過ぎて声にならない叫びをあげた。
振り返るとほんの1m後ろにいた。
地竜が。
地竜、竜の一種で竜族の中では弱い方だ。
この竜は太古の竜が退化したものと考えられている。
生息地は比較的強い魔物が出ないところばかり。
体長2mほどのサイズは竜種の中ではかなり小さいが、通常の人界のテリトリーの魔物の中では最強クラスだ。
それ以上の魔物はダンジョンや魔の森など人界のテリトリー外に行かないと出くわさない。
ガツン
俺がついさっきまでいた所に竜の顎の牙が音を鳴らす。
俺を食おうと閉じた口の牙と牙が音を鳴らす。
危なかった。
ここがダンジョンの中と言うことを失念していた。
水飲み場は肉食獣の狩場だ。
あまりにも自分が迂闊だった。
だが、俺は更に致命的なことをしでかした。
剣がない!
水を呑む時に地面に置いてしまった。
今はちょうど地竜の足元にある。
寒気にも似た恐怖を感じる。
剣無しでやれるか?
いや愚問だ。
やるしかない。
すると宙に文字が浮き出た。
『我が拳は無限なり。我拳に勝るものなし』
良かった。
武術言語は剣だけが対象じゃない。
俺は慌てて武術言語を唱える。
そして。
「オラァアアアア!!」
地竜に殴りかかった。
意外とあっさりと地竜の顔面に俺のグーが入った。
のけぞる地竜。
そのガラ空きの腹へ蹴りを入れる。
しかし。
威力が小さ過ぎる!
武器を持たない不利だけじゃないかもしれない。
剣を握っている時には感じたことがない違和感。
拳も蹴りも他人の手足を動かしているようだ。
俺の力ならもっとエネルギーを魔物に叩き込める筈だ。
しかし、俺の拳も蹴りも効率良く体を動かせていない。
俺は決定打を与えることができず、地竜と命をかけた戦いをひたすら続けていた。
0
お気に入りに追加
711
あなたにおすすめの小説

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる