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第51話 遺髪

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俺は処刑場に来ていた。二人の刑が執行されたのは3日前だった。

二人は仲良く並んでいた。首だけが、晒されていた......

俺は膝をついた。頬に涙が伝った。アリシアもベアトリスも俺を裏切ってなどいなかった。

涙が止まらなかった、嗚咽が止まらなかった。

「お前、こいつらの仲間か?」

誰かが来た。この街の市民だろう。身なりは貧しそうだった。

「俺の妹が餓死して死んだのに、こいつらは豪華な飯を食って」

「私の子供も栄養が足らなくて」

「お前も仲間か?」

「そうです。仲間です」

『ビシ』

石つぶてが飛んで来た。頭に当たる。

たくさんの石つぶてが飛んで来た、顔や頭に当たる。俺はひたすら堪えた。

彼らの気持ちはわかる。だけど、二人だって無実だったんだ。

でも、彼らの二人への嫌悪の気持ちがなくなる事が無いのもわかっていた。

しばらくすると彼らはいなくなった。

おそらく、時間が来たのだ。晒されるのは3日間。

もう時期、時間だ。

そして、俺に声をかける者がいた。

「あんた、この子達の知り合いか?」

男だった。奴隷だろう。処刑場の処刑人だろう。

「俺の幼馴染と妹です」

「......お前の」

「この二人は本当に罪を犯したのか? 俺は学がない、罪状は書いてあるが、読めねえ。それに、あの日、天に聖紋が現れた。本当にこんな子達が罪なんて犯すものなのか?」

「二人は無実です」

俺は強く訴えた。

「無実だったんです」

「わかった」

男はそういうと二人に近づき、二人の髪を切った。

『遺髪』だ。

「これを持っていけ、この事は黙っていろ、俺が罪に問われる」

俺は男に礼を言うと、いくらか金を渡した。

俺の目的は遺髪だった。マリアが教えてくれた。

二人の無実の話はまだ公表されていない。

王の誤断、簡単には公表されないらしい。
 
俺は、二人の遺髪を手に、マリアの屋敷へ帰った。

俺は二人を弔った。重罪人は埋葬も葬式も許されない。

体は魔導兵団の新しい剣や魔法の試し斬りに使われる。

その後はごみとして投棄される。

重罪人は全てを踏みにじられる

密かな葬儀、俺の他、エリス、イェスタ、アルベルティーナ、マリアが参列してくれた。

二人にはお墓を作ってあげられなかった。埋葬も墓も許されない。

二人の遺髪を百夢花の木の下に埋めた。二人が故郷を懐かしめる様に。

☆☆☆

俺はいつかの様にエリスの胸の中で泣いていた

「レオン様、二人はきっと、安堵してますよ。レオン様を本当に裏切ってなんてなかったんですから」

「だけど、俺は今でもあの日の夜の事が忘れらない。例え、『魅了』の魔法だとしても、俺はどう心を治めればいいんだ? いっそ、『魅了』の魔法なんてなければ、二人を忘れられた。憎い人間と割り切れた」

「泣いたら、楽になれますよ。エリスの大切な人は人を傷つけても平気な悪人になりました。悪行を止めて欲しいから、睨んだり、嫌味を言いました。でも、あの人は私を性奴隷として売り飛ばしてしまいました。あの時も、いっぱい泣きました。レオン様も泣いてください。いっぱい泣いたら、忘れられるんです」

「......エリス」 

俺は泣き出した。いつかの様に、情け無いが俺はエリスの胸の中でひたすら泣いた。

まだあどけなさの残る少女の胸の中で泣いた。

「私達、一緒ですね。大好きな人の罪から逃げられなくて......」

エリスは俺を癒してくれた。ただ、ただ、俺を癒してくれた。
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