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第32話 アルベルティーナの初恋
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俺達は馬車旅の疲れを癒す為、アルベルティーナの幼馴染アンダースの屋敷に1泊した。
そして、なんだかアルベルティーナの様子がおかしくなった。
朝、食堂にエリスと一緒に行くと、どこからか視線を感じた。
『うん?』
と、辺りを窺うと、視線の主はアルベルティーナだった。
彼女はやたらと俺を見ては下を見て、それからモジモジしてる。俺はエリスに聞いた。
「エリス、アルベルティーナの様子、おかしくないか?」
「はい、レオン様。アルベルティーナさんの様子は確かにおかしいですよ」
「一体どうしたんだ?」
「......レオン様に恋したんだと思います」
「なんで?」
「レオン様がアルベルティーナさんと何度もキスなんかするからじゃないですか!」
エリスは怒っている、明らかに。
「なんでそうなるの?」
アルベルティーナにはアンダースという幼馴染がいる。
彼は明らかにアルベルティーナに好意を持っている。
アルベルティーナの方も、そうとしか見えない。だが、俺は気がついた。
幼馴染同士にとって、お互いはいて当たり前の存在、空気の様な存在なのだと。
俺にとってのアリシアもそうだった。好きだったけれど、そこまでの激しい恋心を抱いた事はない。
だけど、その存在を失った時の喪失感は想像出来ないくらい大きかった。
俺が初めてアリシアに激しい恋心を抱いたのはアリシアがエリアスに抱かれている時だった。
激しい怒りと喪失感、そして俺はアリシアを深く愛していた事をようやく理解した。
一方でアリシアとの仲が深くなっていなかった事を後悔した。
きっとアリシアも俺には強い恋心なんて持って無かったんだろう。
だからこそ、エリアスにあんな風にあっさりと心を持っていかれたのだろう。
俺はアリシアを失って、息が出来なくなった。俺にとってのアリシアは空気の様な存在。
だけど、人間は空気が無いと生きてはいられない。
アリシアを失った時、俺の心は死んだ。
それくらい、アリシアは大事な存在だった。もっともっと、アリシアとの仲を深めておくべきだった。
何故、アリシアとの仲が深まらなかったのか?
それは、アリシアが俺から離れるなんて考えた事も無かったからだ。
多分、両親や街のみんなもそう思っていたろう。二人がもっと深い仲になっていたら?
だがどうだろうか?
やはり、あまり何も変わらなかったのかもしれない......
俺は血の繋がりのある妹のベアトリスにも捨てられた。
情けない兄の俺と全てに優れた勇者のエリアスを比べられたから......
以前のベアトリスは兄の俺から見てもブラコン気味の妹だった。
15にもなってお兄ちゃん、お兄ちゃんと俺の後をついてきた。
だが、俺のことを荷物持ちと名付けたのは、そのベアトリスだった。
勇者パーティに加入してから二人は変わってしまった。
ただ、それだけの事なのかもしれない。
しかし、俺はエリアスの様な勇者じゃない。
俺とアンダースとを比べたら、どう考えても貴族のアンダースの方が条件が良いだろう。
彼は容姿も優れていた。
アルベルティーナは幼馴染のアンダースと離れてしまうという事がどういう事か分かってるのだろうか?
自分に恋人が出来たら、今までと同じようにはアンダースと会えないという事をわかってはいないのだろう。
そもそも、アンダースと二度と会えなくなったら、アルベルティーナはどう思うのか?
多分、彼女は考えていない。失った時にしか分からないからことだから......
そのことで俺は少しばかりアルベルティーナに対して怒りが沸いた。
加えて、彼女にとって誰が一番大切なのかも見定めたかった。
ほんの数日前に出会ったばかりの俺か?
それとも10年以上もの月日を共にした幼馴染のアンダースか?
考えるまでもない話だと思った。
俺はつかつかとアルベルティーナに近づくと話しかけた。
「アルベルティーナ。様子が変だけど、大丈夫か?」
「え、う、うん。何でもない」
「いや、おかしいだろ? さっきから何回こっち見るんだ?」
「え、私、そんなに見ていたか?」
「見てたよ」
「見てましたよ」
エリスも同意する。
単刀直入に訊いた。
「お前、俺の事好きなのか?」
「いや、なんと酷い。そんな事、女の私から言わせる気か?」
「アルベルティーナ、仮にそうだったとしても俺にはエリスがいる」
「それくらいわかっておる。エリスが第一夫人で、私が第二夫人でも良い」
もう、アルベルティーナは隠そうともしない様だ。
まあ、既にバレバレなのだが。問題は何故に結婚の事にまで考えが至るんだ?
それに第二夫人?
俺は平民、いや、今は奴隷だ。そもそも貴族と結婚なんてありえないだろ?
「いや、君は貴族だけど、俺は奴隷なんだ。貴族との結婚なんてあり得ないぞ」
「そんなの関係ない。お主のこれまでの境遇はイェスタから全て聞いておる。あまりにも哀れ過ぎるではないか! お主は絶対に幸せにならなければいけない!」
アルベルティーナはそう言うと泣きだした。
どうやら彼女は俺に憐憫の情を抱いてくれたらしい。本当は心根の優しい娘なんだと思う。
でも、多分彼女は人を心から愛した事はないのだろう。
憐憫の情と恋愛感情は違う。だから俺はアルベルティーナを諭す事にした。
「いいか、アルベルティーナ。仮に俺と付き合うことになるなら、アンダースさんとは滅多に会えなくなるぞ! それこそ俺と結婚したら、二度と会えないかも知れないぞ!」
「そ、それは嫌だ。何故アンダースに会っては駄目なのか?」
「普通、恋人が他の男と会っていたら嫌なものだろう? 逆にアルベルティーナは、恋人が他の女と頻繁に会って仲良くしてたらどう思う?」
「そ、それはアンダースは特別だから」
「俺にとっては誰でも同じことだよ」
「そ、そんな」
「アルベルティーナ。気持ちは嬉しいけど、君は本当の恋を知らないんじゃないかと思う。アンダースさんと俺、本当に好きなのはどちらかを良く考えて欲しい」
「う、うむ、わかった」
✩.*˚✩.*˚✩.*˚
夕食の直前に、俺とエリスの前にアルベルティーナが現れた。そして。
「ごめんなさい」
そう一言だけ言うと、アルベルティーナは去っていった。
これで一先ず安心、だと思ったのだが、直後に思わぬ悲劇が俺を襲った。
「おい、レオン、聞いたぜ。アルベルティーナさんに告って振られたんだって?」
「いや、それは」
俺が訂正しようとすると、
「本当にレオン様ったら酷いんですよ。恋人の私の前でアルベルティーナさんに告白するんですから」
エ、エリス一体何を?
エリスは俺にヒソヒソ囁いた
「レオン様、女の子に恥をかかせる気ですか? ここはレオン様が悪いことにしましょう」
俺は何も言い返せなかった。
こうして俺はエリスという恋人がいるにも関わらず、アルベルティーナに告白した破廉恥な男のレッテルを貼られた。
一方「私は大丈夫です。私、レオン様を信じてます。最後は、私のところに帰ってくると」
ぐすんと涙ぐむ彼女は全くもっていじらしく見える。
アーネとアーネの彼女のベネディクトが「本当にレオンは最低だな。それに比べてエリスさんはなんて健気なんだ」
「アーネの幼馴染、ほんっと最低ね。私なら殺すわよ」
ベネディクトの冷たい視線が痛い。
俺はエリスに聞いた。
「ねえ、エリス。なんでこんな事になったんだ?」
「レオン様がアルベルティーナさんと何度も何度も何度もキスなんかするからです。自業自得です!」
俺は返す言葉がなかった。
こうしてアルベルティーナの初恋は1日で終わった。
そして、なんだかアルベルティーナの様子がおかしくなった。
朝、食堂にエリスと一緒に行くと、どこからか視線を感じた。
『うん?』
と、辺りを窺うと、視線の主はアルベルティーナだった。
彼女はやたらと俺を見ては下を見て、それからモジモジしてる。俺はエリスに聞いた。
「エリス、アルベルティーナの様子、おかしくないか?」
「はい、レオン様。アルベルティーナさんの様子は確かにおかしいですよ」
「一体どうしたんだ?」
「......レオン様に恋したんだと思います」
「なんで?」
「レオン様がアルベルティーナさんと何度もキスなんかするからじゃないですか!」
エリスは怒っている、明らかに。
「なんでそうなるの?」
アルベルティーナにはアンダースという幼馴染がいる。
彼は明らかにアルベルティーナに好意を持っている。
アルベルティーナの方も、そうとしか見えない。だが、俺は気がついた。
幼馴染同士にとって、お互いはいて当たり前の存在、空気の様な存在なのだと。
俺にとってのアリシアもそうだった。好きだったけれど、そこまでの激しい恋心を抱いた事はない。
だけど、その存在を失った時の喪失感は想像出来ないくらい大きかった。
俺が初めてアリシアに激しい恋心を抱いたのはアリシアがエリアスに抱かれている時だった。
激しい怒りと喪失感、そして俺はアリシアを深く愛していた事をようやく理解した。
一方でアリシアとの仲が深くなっていなかった事を後悔した。
きっとアリシアも俺には強い恋心なんて持って無かったんだろう。
だからこそ、エリアスにあんな風にあっさりと心を持っていかれたのだろう。
俺はアリシアを失って、息が出来なくなった。俺にとってのアリシアは空気の様な存在。
だけど、人間は空気が無いと生きてはいられない。
アリシアを失った時、俺の心は死んだ。
それくらい、アリシアは大事な存在だった。もっともっと、アリシアとの仲を深めておくべきだった。
何故、アリシアとの仲が深まらなかったのか?
それは、アリシアが俺から離れるなんて考えた事も無かったからだ。
多分、両親や街のみんなもそう思っていたろう。二人がもっと深い仲になっていたら?
だがどうだろうか?
やはり、あまり何も変わらなかったのかもしれない......
俺は血の繋がりのある妹のベアトリスにも捨てられた。
情けない兄の俺と全てに優れた勇者のエリアスを比べられたから......
以前のベアトリスは兄の俺から見てもブラコン気味の妹だった。
15にもなってお兄ちゃん、お兄ちゃんと俺の後をついてきた。
だが、俺のことを荷物持ちと名付けたのは、そのベアトリスだった。
勇者パーティに加入してから二人は変わってしまった。
ただ、それだけの事なのかもしれない。
しかし、俺はエリアスの様な勇者じゃない。
俺とアンダースとを比べたら、どう考えても貴族のアンダースの方が条件が良いだろう。
彼は容姿も優れていた。
アルベルティーナは幼馴染のアンダースと離れてしまうという事がどういう事か分かってるのだろうか?
自分に恋人が出来たら、今までと同じようにはアンダースと会えないという事をわかってはいないのだろう。
そもそも、アンダースと二度と会えなくなったら、アルベルティーナはどう思うのか?
多分、彼女は考えていない。失った時にしか分からないからことだから......
そのことで俺は少しばかりアルベルティーナに対して怒りが沸いた。
加えて、彼女にとって誰が一番大切なのかも見定めたかった。
ほんの数日前に出会ったばかりの俺か?
それとも10年以上もの月日を共にした幼馴染のアンダースか?
考えるまでもない話だと思った。
俺はつかつかとアルベルティーナに近づくと話しかけた。
「アルベルティーナ。様子が変だけど、大丈夫か?」
「え、う、うん。何でもない」
「いや、おかしいだろ? さっきから何回こっち見るんだ?」
「え、私、そんなに見ていたか?」
「見てたよ」
「見てましたよ」
エリスも同意する。
単刀直入に訊いた。
「お前、俺の事好きなのか?」
「いや、なんと酷い。そんな事、女の私から言わせる気か?」
「アルベルティーナ、仮にそうだったとしても俺にはエリスがいる」
「それくらいわかっておる。エリスが第一夫人で、私が第二夫人でも良い」
もう、アルベルティーナは隠そうともしない様だ。
まあ、既にバレバレなのだが。問題は何故に結婚の事にまで考えが至るんだ?
それに第二夫人?
俺は平民、いや、今は奴隷だ。そもそも貴族と結婚なんてありえないだろ?
「いや、君は貴族だけど、俺は奴隷なんだ。貴族との結婚なんてあり得ないぞ」
「そんなの関係ない。お主のこれまでの境遇はイェスタから全て聞いておる。あまりにも哀れ過ぎるではないか! お主は絶対に幸せにならなければいけない!」
アルベルティーナはそう言うと泣きだした。
どうやら彼女は俺に憐憫の情を抱いてくれたらしい。本当は心根の優しい娘なんだと思う。
でも、多分彼女は人を心から愛した事はないのだろう。
憐憫の情と恋愛感情は違う。だから俺はアルベルティーナを諭す事にした。
「いいか、アルベルティーナ。仮に俺と付き合うことになるなら、アンダースさんとは滅多に会えなくなるぞ! それこそ俺と結婚したら、二度と会えないかも知れないぞ!」
「そ、それは嫌だ。何故アンダースに会っては駄目なのか?」
「普通、恋人が他の男と会っていたら嫌なものだろう? 逆にアルベルティーナは、恋人が他の女と頻繁に会って仲良くしてたらどう思う?」
「そ、それはアンダースは特別だから」
「俺にとっては誰でも同じことだよ」
「そ、そんな」
「アルベルティーナ。気持ちは嬉しいけど、君は本当の恋を知らないんじゃないかと思う。アンダースさんと俺、本当に好きなのはどちらかを良く考えて欲しい」
「う、うむ、わかった」
✩.*˚✩.*˚✩.*˚
夕食の直前に、俺とエリスの前にアルベルティーナが現れた。そして。
「ごめんなさい」
そう一言だけ言うと、アルベルティーナは去っていった。
これで一先ず安心、だと思ったのだが、直後に思わぬ悲劇が俺を襲った。
「おい、レオン、聞いたぜ。アルベルティーナさんに告って振られたんだって?」
「いや、それは」
俺が訂正しようとすると、
「本当にレオン様ったら酷いんですよ。恋人の私の前でアルベルティーナさんに告白するんですから」
エ、エリス一体何を?
エリスは俺にヒソヒソ囁いた
「レオン様、女の子に恥をかかせる気ですか? ここはレオン様が悪いことにしましょう」
俺は何も言い返せなかった。
こうして俺はエリスという恋人がいるにも関わらず、アルベルティーナに告白した破廉恥な男のレッテルを貼られた。
一方「私は大丈夫です。私、レオン様を信じてます。最後は、私のところに帰ってくると」
ぐすんと涙ぐむ彼女は全くもっていじらしく見える。
アーネとアーネの彼女のベネディクトが「本当にレオンは最低だな。それに比べてエリスさんはなんて健気なんだ」
「アーネの幼馴染、ほんっと最低ね。私なら殺すわよ」
ベネディクトの冷たい視線が痛い。
俺はエリスに聞いた。
「ねえ、エリス。なんでこんな事になったんだ?」
「レオン様がアルベルティーナさんと何度も何度も何度もキスなんかするからです。自業自得です!」
俺は返す言葉がなかった。
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