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第23話 エリスとデート

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俺達のパーティはなんとかやっていける様になった。
なんと言ってもイェスタの加入が大きかった。
彼はクラス3のルーンナイトのタレントにレベル99の聖騎士のジョブを持つ、冒険者にはありえない戦力だ。おかげで俺達は安全に依頼をこなすことが出来、レベルもどんどん上がっていった。
『今日はエリスとデートだ。最近彼女は俺にとても懐いてくれてる』
エリスの面差しはアリシアに似ていたし、幼い頃の妹のベアトリスのようでもあった。
皮肉な話しだが、エリスは俺に安らぎと二人を思い出させる存在だった。
俺には二人を殺したい程憎くむ気持ちと、戻ってきて欲しいという相反する気持ちが混在していた。
『早く忘れよう』
俺は呟いた。二人が俺の元へ戻ってくる筈もなく、また、俺が二人を許す事も無いだろう。
二人の事は忘れてしまう。それが一番いい。
俺にとって大切な故郷の思い出は、アリシアにとっては貧乏で惨めたらしい思い出でしかないらしい。多分、妹のベアトリスの方も同じなんだろう
俺にはもう、あの二人と同じ価値観を共有することは出来無いのだろう。
『あの二人は違う世界の住人なんだ』
そう、あの二人ははるか遠い別の世界の人間になってしまった。
俺にはエリスがいる。それが俺の救いだった。
同じパーティから捨てられた者同士、家族に捨てられた者同士......
エリスは家族に売られて奴隷になったそうだ。
俺には彼女の気持ちが痛いほど良くわかった。
家族同然の幼馴染と家族である妹に売られた俺には、そのエリスの境遇に共感することが出来るのだ。
「エリス、そろそろ行こうか?」
「はい、レオン様」
エリスは冒険者用の軽装の皮鎧を身につけていた。
もちろん、それはデートに着ていくには相応しくないものだ。
でも俺はエリスにそれ以外のものを買ってあげられなかった。
駆け出しの冒険者である俺は、まだそれなりの金額を稼げないでいた。
しかし、最近ようやくそこそこの額が貯まったので、エリスの為に服を買おうという話になった。
待ち合わせの場所に着くとエリスが俺の方を振り向いた。まるで百夢花の花びらが雪のように舞い散る中で彼女は美しい肖像画のように佇んでいた。
春まだ浅い日の冷たい風が百夢花の花びらを揺らし、彼女の金色に輝く髪もはらはらと揺らめいていた。
俺はエリスのあまりの美しさに思わず息をのんでしまった。
百夢花は俺の故郷にはたくさん咲いている。
いつかも、こんな事があったな、アリシアが隣り街から引っ越してきて、俺と初めて会った時のことだ。
季節は今日と同じ様にまだ肌寒い頃だった。百夢花が舞い散る中、アリシアはそこにいた。
『綺麗な子だな』
そう思ってアリシアに見惚れていた。
あの頃のアリシアは純真で無垢な存在だった。
今のアリシアを見たとしても、あの時の記憶は蘇らないだろう。
純真で無垢なエリスがその記憶を蘇らせた。
皮肉な話だが、エリスが俺とアリシアとの美しい記憶を蘇らせてくれる。
きっとあの二人は大切な何かを無くしてしまったんだろう。
エリスは家族の事を恨んではいないそうだ。
エリスの家は貧困に喘いでいた。生きていくためには、誰かが居なくなる必要があった。
その誰かが自分であっても決して恨んだりはしない。彼女はそんな娘だ。
エリスは俺に微笑みかけると俺の腕に手を絡ませてきた。
エリスが隣りにいるだけでとても幸せな気持ちになれる。
エリスは俺の心を癒してくれる薬の様な存在だ。
エリスのお陰で、俺の心に渦巻いていた復讐心という名のドス黒い霧がどんどん晴れていった。
そして少しづつ俺は人間らしさを取り戻していった。
「エリス、似合ってるよ」
「ありがとうございます! レオン様」
可愛らしい白いワンピース姿のエリスを俺は褒めた。
エリスは恥ずかしがってはいたが、本人も気にいったのだろう。
いくつもの中から慎重に選んでいたエリスだが、その中で白いワンピースを欲しがった。
俺はエリスにようやく新しい服を買ってあげる事が出来た。
こんな甲斐性無しの俺に、エリスは白いワンピースを身にまとい、ひらひらと花びらのように舞って懐いてきてくる。
エリスが、例えようもなく美しく、そして可愛いらしく思えた。
俺はエリスに優しく微笑む事が出来た。
俺は自分が微笑む事が出来なくなっていた事に最初驚いた。
勇者パーティは長い間、俺から微笑みを奪った。
そして、俺は微笑み方を忘れていた。
今、エリスは俺に微笑み方を思い出させてくれた。
俺はエリスに心から感謝していた。
買い物を済ませると、俺は郊外の河原にエリスを誘った。
河原には百夢花がたくさん咲いていて、とても綺麗だった。
「わー、綺麗」
エリスは感嘆の声をあげた。俺達の距離はいくらも離れてない。
「エリスの方が綺麗だよ」
俺はエリスに囁いた。エリスは大きな目を見開いて俺を見た。
だが、エリスが返って来た言葉は......
「レオン様はアリシア様の事が忘れられるのですか?」
彼女はアリシアの事が気になるのだろう。アリシアは一応、今でも俺の婚約者のままだ。
もちろん、今更、形だけだし気にする必要はない。
「俺の知っているアリシアはもういないんだ。彼女はすっかり変わってしまった。今の俺にとって必要なのは、エリスだけなんだ」
「そうでしたか。確かに大切に思っている人が変わってしまう事って、本当に辛いですよね」
「ああ。でも、もう忘れてしまえばいいことさ」
俺はそういうと、エリスに顔を寄せた。
そして、彼女は黙って目を瞑った。
そのまま俺は優しく触れるようなキスをした。エリスの体は小さく震えていた。
エリスの唇を奪うのはこれが二度目だった。
一度目はエリスに従者になってもらうための契約として、そしてこれが二度目の、心と心を通い合わせるためのキス。
エリスは瞼を開くと自分の唇にそっと人差し指で触れて、その余韻と感触を確かめていた。
「エリス、ごめんね。突然で」
「いいのです、レオン様。私、レオン様となら何度でもキスしたい」
その言葉に再びエリスの唇を啄んだ。それから何度も何度もキスの雨を降らせた。
「エリス、心から愛してる。大好きだよ」キスの合間に囁きかけると。
「レオン様、私も、私も大好きです」息苦しいように喘ぎながらも言葉を返してくれた。
こうして主従の俺達は、一人の男と女として恋に落ちたのだった。
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