上 下
15 / 62

第15話 アリシアの心

しおりを挟む
私はなんてことをしてしまったのか?

私には幼馴染で婚約者の彼がいる。

レオンだ。

私と彼は同じ街のご近所さんで子供の頃から一緒に育った。

『大きくなったらレオンのお嫁さんになる』

今から考えたら恥ずかしい事をあの頃は当たり前の様に言えた。

今でも気持ちは同じだ。私はレオンが好き。

だけど、私はレオンを裏切った。

私は勇者エリアスと一夜を共にしてしまった。

エリアスは優しく、心強い仲間。

かっこいいなとは思った。

荷物持ちのレオンとは違って、勇者として剣をふるう彼の姿は格好良かった。

それだけではない。エリアスは私とベアトリスを王都の晩餐会にも連れて行ってくれた。

煌びやかなドレスを纏い、美しい宝石のアクセサリーを着け、貴族の方々と談笑する。

そのどれもが、私にとっては、夢の様な話しだった。

だけど、私にはレオンがいる。

レオンとは10年以上にもわたる歴史がある。その中に彼が割って入る余地は無かった、筈だった。

あの日、誰もいない廊下でエリアスから話しかけられた。

「アリシア、ちょっと時間あるかな?」

「何、エリアス?」

「アリシア、俺は君の事が好きなんだ」

「......」

「レオンの事は知ってる。でも止められないんだ、君への熱い想いが......」

「駄目よエリアス。私はレオンと婚約してるの」

エリアスを見る。そこには燃えるような深紅の瞳。

私はエリアスの瞳から目が離せなかった。吸い込まれる様な瞳に。

私はエリアスへの気持ちが急激に高まった。

エリアス、切れ長の目、爽やかな笑顔。

彼からこぼれる微笑み。

ひょっとしてこれが本当の恋?

私にはそう思えた。レオンには感じた事がない激しい感情が湧き出してきた。

「アリシア、もし、よかったら、今晩、俺の部屋に来てくれないか?」

「う、うん。わかった......」

私は簡単に返事をしてしまった。

こんな時間に男性の部屋を訪ねる。それがどんな意味を持つか私には十分分かっていた。

でもこの感情を止められなかった。そして、私はレオンの事を忘れてしまった。

エリアスの部屋を訪れる。

私の口からはエリアスへの愛を告げる言葉が溢れ出てきた。

エリアスも私の気持ちに答え、愛を囁いてくれた。

そして、キス......

私はエリアスが求めるがまま、身体を許した。

最高の幸福感だった。その時は......

自室へ戻るとあの激しい感情はだんだんと消えていった。

そして、私はレオンの事を思い出した。

涙が出てきた。

『わ、私はいったい何て事をしてしまったのか?』

レオン、レオン、ごめんなさい。私、あなたを裏切ってしまった。

さっきまでの自分が信じられなかった。あの感情は今は無い。

今あるのはレオンへの罪悪感。そして、レ、レオンは私を許してくれるだろうか?

許される事では無い。だけど、レオンが私のそばからいなくなる。そう考えたら!!

私の心は奈落の底へ落ちていった。嫌!! レオンと別れるなんて!

レオンとの将来を想像すると簡単に出来た。

優しい顔の旦那様のレオン、そして私、私の腕にはレオンの赤ちゃんが笑っている。

昔からずっと一緒。レオンに熱いあの感情を感じた事は無かった。

でも、二人でいる時間はいつも優しく、穏やかな時間が流れていた。

レ、レオン、ごめんなさい。

私はその夜、泣き続け、眠れなかった。

☆☆☆

あくる朝、レオンに会った。

私は逃げ出したい衝動にかられた。

私を見ないで、私はあなたを裏切った。汚い女。

お願いだから、そんなに愛おしそうな目で私を見ないで!

私はレオンへの罪悪感で心臓が握り潰れそうだった。

「アリシア、久しぶりに話をしないか?」

「レオン、私、忙しいの。ごめんね」

「ごめん、わかった。悪かった」

「ううん、こちらこそごめんね」

「気にしなくていいよ。アリシアは侍で魔王を倒さなきゃいけないのだから」

レオンは笑った。無理した笑いにしか見えなかった。

「どうしたの? 何か思い詰めているみたい」

「いや、アリシア、君の事が好きだよ。いつまでも」

「.........................................」

私は、いつものように、自分も好きと返事ができなかった。

私にそんな事を言う資格はないし、激しい罪悪感が私を襲った。

私はレオンをまっすぐ見れなかった。

「ごめん、もう話しかけたりしないよ」

「えっ?」

レオンは行ってしまった。いや、私がレオンから逃げた。

『ごめんなさい。レオン』

でも、私はレオンが好き。私は一体どうすれば?

考えた。今、出来るのはエリアスとの関係を終わらせる事! 

間違いを訂正する事!

そして、レオンに謝ろう。

私は初めてをエリアスに捧げてしまった。

例え誤魔化してもレオンには分かってしまうだろう。

本当の事を話して、レオンに謝ろう。

レオンなら許してくれる、きっと......

でも、もし、許してくれない時は......

死のう。それでレオンへの贖罪としよう。

だけど、その日、再びエリアスから誘われた私はふらふらと彼の部屋に行って、また関係をもってしまった。

エリアスの目を見ると抗えない情熱が私を襲う。

エリアスと肌を重ねると至福が、魔族討伐や旅の疲れ、全ての嫌な事を忘れられた。

エリアスは麻薬の様に私を蝕んだ。

エリアスは私に快楽と幸福、そして、耐えがたい罪悪感を私に与えた。

私はその罪悪感を忘れたくて、エリアスにまた抱かれた。

彼に抱かれると全ての負の感情が消えて、幸福になれた。

死んだ方がいい人間なんていない、子供の頃はそう思っていた。

だけど、世の中には死んだ方がいい人間はいた。

それが......私だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

高校デビューを果たした幼馴染みが俺を裏切り、親友に全てを奪われるまで

みっちゃん
恋愛
小さい頃、僕は虐められていた幼馴染みの女の子、サユが好きだった 勇気を持って助けるとサユは僕に懐くようになり、次第に仲が良くなっていった 中学生になったある日、 サユから俺は告白される、俺は勿論OKした、その日から俺達は恋人同士になったんだ しかし高校生になり彼女が所謂高校生デビューをはたしてから、俺の大切な人は変わっていき そして 俺は彼女が陽キャグループのリーダーとホテルに向かうの見てしまった、しかも俺といるよりも随分と嬉しそうに… そんな絶望の中、元いじめっ子のチサトが俺に話しかけてくる そして俺はチサトと共にサユを忘れ立ち直る為に前を向く

幼馴染み達がハーレム勇者に行ったが別にどうでもいい

みっちゃん
ファンタジー
アイ「恥ずかしいから家の外では話しかけて来ないで」 サユリ「貴方と話していると、誤解されるからもう2度と近寄らないで」 メグミ「家族とか気持ち悪、あんたとは赤の他人だから、それじゃ」 義理の妹で同い年のアイ 幼馴染みのサユリ 義理の姉のメグミ 彼女達とは仲が良く、小さい頃はよく一緒遊んでいた仲だった… しかし カイト「皆んなおはよう」 勇者でありイケメンでもあるカイトと出会ってから、彼女達は変わってしまった 家でも必要最低限しか話さなくなったアイ 近くにいることさえ拒絶するサユリ 最初から知らなかった事にするメグミ そんな生活のを続けるのが この世界の主人公 エイト そんな生活をしていれば、普通なら心を病むものだが、彼は違った…何故なら ミュウ「おはよう、エイト」 アリアン「おっす!エイト!」 シルフィ「おはようございます、エイト様」 エイト「おはよう、ミュウ、アリアン、シルフィ」 カイトの幼馴染みでカイトが密かに想いを寄せている彼女達と付き合っているからだ 彼女達にカイトについて言っても ミュウ「カイト君?ただ小さい頃から知ってるだけだよ?」 アリアン「ただの知り合い」 シルフィ「お嬢様のストーカー」 エイト「酷い言われ様だな…」 彼女達はカイトの事をなんとも思っていなかった カイト「僕の彼女達を奪いやがって」

寝取られた幼馴染みがヤンデレとなって帰ってきた

みっちゃん
ファンタジー
アイリ「貴方のような落ちこぼれの婚約者だったなんて、人生の恥だわ」 そう言って彼女は幼馴染みで婚約者のルクスに唾を吐きかける、それを見て嘲笑うのが、勇者リムルだった。 リムル「ごめんなぁ、寝とるつもりはなかったんだけどぉ、僕が魅力的すぎるから、こうなっちゃうんだよねぇ」 そう言って彼女達は去っていった。 そして寝取られ、裏切られたルクスは1人でとある街に行く、そしてそこの酒場には リムル「ルクスさん!本当にすいませんでしたぁぁぁぁぁ!!!!」 そう叫んで土下座するリムル ルクス「いや、良いよ、これも"君の計画"なんでしょ?」 果たして彼らの計画とは如何に.......... そして、 アイリ「ルクスゥミーツケタァ❤️」 ヤンデレとなって、元婚約者が帰って来た。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

彼女の浮気相手からNTRビデオレターが送られてきたから全力で反撃しますが、今さら許してくれと言われてももう遅い

うぱー
恋愛
彼女の浮気相手からハメ撮りを送られてきたことにより、浮気されていた事実を知る。 浮気相手はサークルの女性にモテまくりの先輩だった。 裏切られていた悲しみと憎しみを糧に社会的制裁を徹底的に加えて復讐することを誓う。 ■一行あらすじ 浮気相手と彼女を地獄に落とすために頑張る話です(●´艸`)ィヒヒ

このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~

夢幻の翼
ファンタジー
 典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。  男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。  それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。  一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。  持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

処理中です...