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第3話 アリシアの裏切り

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馬小屋で朝起きる。シャワーも無い。体は僅かな水で体をふくしか無い。

朝の洗面をエリスとする。使える水はほんのわずかだ。

エリスは今までずーとこんな生活をしてたんだ。

俺はつくづく自分を恥じた。

エリスが臭かったのはシャワーすら使えない境遇だったからだ。

奴隷階級のエリスは俺よりずっと惨めな生活を余儀なくされていた。

その上、俺はエリスに感謝などした事はなかった。

旅の途中の野営では、彼女が料理や食糧の魔物の解体を行っていた。

料理はともかく、魔物の解体には力もいる、魔物の血抜きや内臓を取り出すなど、嫌な仕事だ。

今日からエリスの手伝いをしよう。俺はそう思った。

朝、宿舎の前でアリシアと会った。アリシアは珍しく俺から逃げていかない。

俺はアリシアに会って、膨れ上がった気持ちを抑えきれなかった。

どこかで、アリシアが俺の元に帰って来てくれるのでは無いか?

そんな幻想を抱いてしまった。

「アリシア、久しぶりに話をしないか?」

「レオン、私、忙しいの。ごめんね」

「ごめん、わかった。悪かった」

「ううん、こちらこそ、ごめんね」

「気にしなくていいよ。アリシアは侍で魔王を倒さなきゃいけないんだから」

俺は無理して笑った。

「どうかしたの? 何か思い詰めているみたい?」

「いや、アリシア、俺は君の事が好きだよ。いつまでも」

「.........................................」

アリシアから私もという言葉はなかった。以前なら当然帰ってきた言葉がなかった。

やはり、先日の事は幻でもなんでも無かったんだろう。

そして、アリシアの目に俺はもう映っていないのだろう。

「ごめん、もう話しかけたりしないよ」

「えっ?」

アリシアは寂しそうな顔をした。アリシアは何か言いたそうだったが、俺はその場を後にした。

アリシアの今の気持ちをはっきりとは聞きたくなかった。惨めな自分を再確認したくなかった。

俺は視界がボケているのに気がついた。いつの間にか涙が出てきた様だ。

今日は休息の日だ。忙しいって何に忙しいのかな?

勇者エリアスとのデートだろうな。

そう思うと、涙がだんだん溢れてきた。

☆☆☆

俺は馬小屋に戻りエリスと話した。

エリスはアリシアと俺が婚約者だった事を知っていた。

そして、心配そうに俺に話かけてきた。

「レオン様とアリシア様は婚約者でしたよね?」

「ああ、アリシアとは婚約者で、幼馴染だったんだ。いつも一緒だった。アリシアはいて当たり前の存在だと思ってた。でも違った。今はもう別の世界の人なんだ」

そうだ、俺とアリシアは燃える様な恋なんてしていない。

なんとなく一緒に過ごして、なんとなく一緒にいるのが当たり前、そんな空気みたいな存在。でも大切な人だった。

アリシアも同じ気持ちだろうと思っていた。

「15の時、告白したんだ。あの時、アリシアは嬉しそうに笑顔で俺の気持ちを受け止めてくれたんだ」

「レオン様はアリシア様が大切なんですね?......レオン様」

エリスは俺の頬に手を添えて、俺の顔を抱き締めると。

「泣いた方が楽になれますよ。エリスは大好きなお母さんに奴隷として売られました。あの時、いっぱい泣きました。レオン様も泣いてください。私は今、お母さんを恨んでなんていません。あの時いっぱい泣いたから、忘れられたんです」

「......エリス!!」
 
俺は泣き出した。情け無いが俺はエリスの胸の中で泣いた。

まだあどけなさの残る少女の胸の中で泣いた。

「エリスの家は貧乏で、誰かがいなくなる必要がありました。ご飯が食べれないから、お母さんは私を選んだ。あんなに大好きだったのに......私達、一緒ですね。大好きな人に裏切られて......」

エリスは俺を気遣ってくれた。でも、俺の心は晴れなかった。

エリスはお母さんを恨んでいないと言った。

でも、俺はアリシアとベアトリスが許せなかった。

故郷での思い出、俺に向けられたたくさんの笑顔、俺達は深い絆で結ばれていると思っていた。

だけど、それは違った。俺だけの一方的な気持ちだったらしい......それがとても悲しかった。

☆☆☆

その日は久しぶりに熟睡した。寝不足が続いたからだろう。

俺は夢を見た。どこかで見たような気がする顔立ちの女神様が出てくる夢だ。

神々しく輝く彼女は何故か、悲しそうな顔をしていた。

そして、俺に頭を垂れた。それは俺に謝罪をしている様だった。
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