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第2話 希望

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俺と幼馴染や妹の間に起こった関係の亀裂。それは全て16才の時にもらったギフトが原因だ。

この世界では誰でも16才の誕生日に、教会で女神の祝福により、ギフトをもらう。

このギフトにより、その人間の一生が変わる事がある。

優れたギフトをもらったものは豊める人生を送る事ができ、そうでないものには無為な人生が待っている。

この世界は残酷だ。

努力?

そんなものは女神からもらうギフトの前では意味を成さない。

100年の努力はギフトにより1日で乗り越えられる。それがギフトだ。

☆☆☆

俺は16歳の誕生日の時、教会でクラス4の戦闘ギフト『eiπ+ 1=0』を女神の祝福としてもらった。

このギフトの正体はわからない、100万人に1人のクラス4ギフトである事だけがわかっていた。

ギフトにはクラス1からクラス4迄あり、クラス4は最高峰だった。

優れたギフトを授かった者は皆、王都へ行き、それぞれ適切な職につく。

俺の住んでいる街では俺の他、幼馴染のアリシアがクラス2のギフトをもらった。

アリシアは『侍』、剣技における優秀なギフトだ。

この頃、俺達は自分達に明るい未来しか無い。そう思っていた。

そして、1年後、妹のベアトリスがクラス3ギフト『ウォーロック』を授かり、俺達は王都で再会した。

それから半年程して、俺達は国王より勇者のパーティのメンバーに選抜された。

名誉な事だった。俺のクラス4ギフトは相変わらず正体不明だったが、勇者パーティの中で花ひらくと思われていた。

☆☆☆

だが、俺のギフトは何も開花しなかった。

一方、アリシアやベアトリスはメキメキと剣や魔法が上達した。

1週間も経たず、俺は戦いの場から去り、サポーター、荷物持ちになった。

先日の勇者エリアスと幼馴染アリシアと妹ベアトリクスの夜の愛の営みは俺を傷つけた。

俺は勇者エリアスにアリシアの事を抗議する気にもなれなかった。

どこかで、いずれこうなるんだろうと思っていたからだ。

☆☆☆

俺はその日気晴らしに古本屋に立ち寄った。気まぐれだったが、何故かその本屋が気になった。

たくさんの本の中で、魔導書のコーナーを見ていると、何か惹かれるモノを感じて一冊の古い魔導書を手にとった。

ファーストページをめくる。

『!』

俺は驚いた。その魔導書の最初のページには『eiπ+ 1 = 0』という記載があった。

俺の心は乱れた。俺のギフトに関係があるのか?

俺はたまらずその本を手にとってすぐさま買い求めた。

☆☆☆

その日の宿舎で、俺は普通の部屋には泊めてもらえなかった。

俺の泊まる場所は馬小屋のようだ。

勇者エリアスは「すまないレオン。部屋が取れなかったんだ。辛抱してくれ」

そう言った。

宿舎はあまり客がいないにもかかわらず。つまり、俺に宿賃を払うのが惜しくなったのだろう。

俺は黙って従った。

馬小屋には奴隷のエリスもいた。彼はいつも馬小屋だった。

俺は奴隷のエリスと同じ扱いなんだ。そう思った。

奴隷のエリスは最初驚いたが、俺に優しくしてくれた。

それと、彼は男の子ではなかった。女の子だった。それに俺は驚いた。

近くで見ると大きな瞳、長い睫毛。

シャワーを浴びて、髪を整え、化粧すればかなりの美少女では無いだろうか?

そして、彼女の面差しはアリシアそっくりだった。

彼女はいつも汚い格好をしていた。

顔はいつも汚れ、シャワーもあまり浴びていない。短い髪はぼさぼさだ。

いつも臭かったし、近くでよく見ようと思った事がなかった。

エリスは俺に気を使って、たくさん話をしてくれた。

「レオン様、難しい本を読まれるのですね。さすがですね」

「エリス、気を使わなくてもいいよ。君も知っているだろ? 俺は戦力外の無駄飯喰いなんだ」

「そんな、レオン様、きっと、レオン様には素晴らしい才能がありますよ。素晴らしいギフトをお持ちなんでしょう?」

「ああ、確かにね。でも、果たして世の中の役になるものかどうか......」

エリスは悲しそうな顔をした。そして、俺は今日買った本を読み初めた。

その本は『虚数魔術について』という本だった。内容は俺も知っていた。

魔法には4つの属性がある。火、風、土、水、それが全てだ。

しかし、御伽話に5つ目の属性が存在するというものがある、あくまで御伽話の世界を出ない話だが、この本もその5つ目の魔法について書いてあるのだろう。

大抵、御伽話から書かれた、インチキだ。

俺は本を読み進めて行き、驚いた。本にはこう記載されていた。

『5番目の魔法、虚数魔法を使えるのは『eiπ+ 1 = 0』のギフトを得たものだけである』

俺は寝不足をものともせず読み進めた。

『5番目の魔法の発現は従者の契約より始まる。一人の従者に術者の能力を分け与える。そして術者を守る、戦士となる。従者の契約が成せた時、虚数魔法使いは目覚める』

魔導書には従者契約の魔法のスペルが書いてあった。

俺は、いてもたまらなくなった。俺に伝説の魔法が使えるかもしれない。

すぐに試したい。そう思った。そして、奴隷のエリスをおこした。

「お願いがある。俺の従者になってくれないか?」

「レオン様の? もちろんいいですよ。私は皆様の奴隷ですから、お役に立てるなら」

「頼む、もしかしたら、俺のギフトが使える様になるかもしれないんだ!」

「レオン様のギフトが? わかりました。それで私はどうすれば?」

「えーと、先ず、魔法陣を書くから、その中で二人で立つ」

「はい。わかりました」

俺は道具箱から魔法陣を描く魔法の羽ペンを取り出した。

そして本の通りの魔法陣を描いた。

「エリス、この魔法陣に一緒に入って!」

「は、はい!」

俺達は魔法陣に入った。そして、俺は本に書いてあった呪文を詠唱した。

魔法を詠唱し終わると。魔法陣が輝き始めた。そして美しい五芒星の光が俺達を包み、そして光が収まった。

「せ、成功だ!」

「レオン様さすがです。レオン様おめでとうございます!」

しかし、俺は気が焦りこの魔法最後の工程を読んでいなかった。

慌てて、本の最後のページをめくると、こう書いてあった。

『従者との契約は従者との接吻により発動する』

「キ、キス!」

「どうしたのですか、レオン様?」

「なあ、エリス。キスしてもいいか?」

「えっ? キ、キスですか? それが魔法と関係するのですか?」

「この魔法はエリスとキスする事で成立する魔法みたいなんだ」

「わかりました。私はレオン様達の奴隷です。どうぞ」

エリスは目を瞑った。

俺は震えるエリスにキスをした。

術式を終えて、俺は、エリスに聞いた。

「何か変わった?」

「すいません。私には何も感じられません。でも多分、何か変化があるのだと思います」

俺は後悔した。この魔導書はインチキだったのだろう。

俺は夢物語に魅入られただけだったんだ。

「ごめんな、エリス、君の唇を奪って......本当にごめん」

エリスは俺を慰めてくれた。以前、俺はこの子を奴隷としてしか見なかった。

今はそれを恥じていた。奴隷という身分でも、彼女は心の綺麗な女の子だった。
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