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77晩餐会で第一王子レオンと鉢合わせする

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「アル様、この後、是非私のエスコートを……」   

「あなた、抜け駆けしないでよ! アル様、是非私と……」   

「アル様、今度、私と食事を如何ですか?……」   

「王都に面白い見世物が来ておりまして……私と……」   

「我が領の名産の美味しい紅茶が入りまして、是非一緒に如何?……」   

「珍しいお菓子が……」   

貴族令嬢の婚約者のいない者達なのだろう   

一斉に俺の周りを囲み、我先にと声をかけ始めていた。  

めっちゃ嬉しい! 人生最大のモテ期、来たー! 

しかし、そんなことをクリス達が許してくれる筈がない。 

「アル。アリー殿下が呼んでいるよ」  

「ああ、クリス。──うん、分かったよ。何かどうでもいい用件があるんだよね」  

俺は空気を読んでクリスの言う通りにアリーの方に向かった。 

ああ、後ろ髪を引かれる。 

初めてモテたのに。 

貴族令嬢達に、丁寧に挨拶をして、その場を立ち去った。  

「……ああ、もう。折角のチャンスが。英雄のアル様とお近づきになれそうなのに」  

「ううん。憧れのアル様と一言話せただけでも」  

「ああん。あれだけの男性、誰が正妻の座を射止めるのやら。私、妾姫でいい」  

そんなざわざわとしたなか。  

「英雄アル殿」  

「……どちら様でしょうか」  

「アタナス・フーシェと申します! 南部で伯爵家を営ませていただいております、どうぞお見知り置きください」  

なんか男に興味ないんだけど? 

多分、人脈作りとかだろう。 

しかし、この男は配慮が足らない。 

何故女性ばかりに声をかけられて、男性から声をかけられないのか? 

アリーから聞いていたのだけど。 

今、真の勇者の称号を巡って、俺と第一王子レオンとの間に争いがある。 

これは貴族にとっては重要関心事項なのだ。 

だが俺は新参者で王子に配慮する必要がある。 

あからさまに俺に近づいたりしない。 

皆、簡単な挨拶で済ます。 

しかし、この男はかなり強引だ。他の貴族は遠慮がちに挨拶していたが、この男は一切それを考慮することがないようだ。  

「先日の終末の化け物との一戦、伝説のスキル『レールガン』で倒したと! 聞けばアル殿は勇者パーティでは落ちこぼれていたにもかかわらず、努力によりその領域に! アル殿のあくなき努力、私は感銘を受けました! つきましては是非お話が──」  

「縁談ですか?」  

「アル殿は聡明ですな! ご明察の通り! さすが真の勇者であらされる」  

「ちょっと! あなた! まだアル君が真の勇者と決まった訳じゃないよ」  

アリーから聞いてたけど、女の子から言い寄られても、すぐに結婚とじゃなくて、お付き合いのお願いに過ぎないけど、貴族の主人から縁談を持ちかけられたら要注意みたい。 

それは貴族間の政略闘争に巻き込まれることになる。 

第一王子を敵に回すとか考えられない。 

「あの、申し訳ございません。俺は平民出身の新参者。まだ右も左もわからないのです。しかし、身分違いはわかっております。大変ありがたいとは思っておりますが何卒……」  

「そ、そうは言わず、私はあなたこそが真の勇者と確信していります! 何卒私にチャンスを!」  

「……あの」  

俺の言外の意味を汲もうとせず、ひたすら自身の想いを、そしてこちらの話などお構いなく、強引に自分の都合で話を進めようとする。 

俺は言外に察してもらうことを諦めたので、ハッキリとした言葉を伝えた。  

「伯爵様、私は昨日貴族の末席に加わったばかりの新参者です。真の勇者には第一王子殿下が最も近くにおられます。俺のような新参者より殿下の方が真の勇者に相応しいとお考えになりませんか?」  

「!?」  

「ご理解頂いておりますか? それを踏まえた上で言葉を選んで下さい」  

「そ、それはそうですが!」  

俺の苦労を察して欲しい。俺も困るけど、この貴族も困ることになる。 

相手は王族だぞ?  

慎重な配慮が必要だ。  

しかし、この男の愚かさは、俺達の想像外だった。  

「王子殿下も伝説の勇者【レールガン】のスキルが宿ったアル殿に遠慮せざるを得ないでしょう。それに殿下は周りが良く見えておられないと地方では有名な話ですよ!」  

「は、伯爵様、やめて下さい!」  

「アル殿は謙虚過ぎる。あなたのように強く、才能に溢れ、女神様の愛情を一身に受けて! あなたの力は既に王子殿下以上と。レオン殿下とあなたを比べたらはっきり言って──」  

「ほう。僕が、なんですか?」  

冷たく冴え渡った声が大きく響いた。  

大勢の参加客の中でも、はっきり通る声。それを聞いた途端、全ての人の声が一斉に静まり返った。  

静粛の中、高い靴音を響かせてこちらにやって来る人物。  

人の壁が自然に通り道となって開かれていく。全ての人が靴音の主に道を譲り、人垣の中からその姿があらわになる。  

光の束を集めたような金髪、黒曜石のように美しく、意思の強そうな目。  

長身の美丈夫、端正な顔立ちとスタイル、優雅な貴賓を纏い、自信にみなぎり、傲岸を感じさせる表情。  

そして、誰もを威圧する圧を纏いその男は現れた。  

さすがに自身の失態に気がついたのか、例の若い伯爵は青ざめた顔で震えて言葉がでない。  

アリーがその男の名を呼んだ。  

「……レオン。兄様」  

第一王子レオン。  

この国の王位継承権一位であり、俺たち元勇者パーティの強化担当。 

彼は俺に嫌悪感を持っていた。 

落ちこぼれの俺が疎ましかったのだろう。  

真の勇者を巡る戦いに巻き込まれている。 

俺が既にこの王子にとって、敵となっていることは間違いない。  

このまま気ままにスローライフを送ろうとした。  

だが、好むと好まざるとも、自然に衝突するだろう人物。  

それがレオン王子、ついに俺はこの男と邂逅した。 
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