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72その頃勇者エルヴィンは? 8

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「もうじき猫耳族の里だな」 

「ずいぶん時間かかっちゃったわね」 

「まあ、途中の犬耳族の女が良かったからな」 

「……まったく、エルヴィンは私というものがありながら」 

第一王子レオンの言いつけで猫耳族の救援に向かったエルヴィンだが。 

彼は途中で立ち寄った犬耳族の女に入れ込んで何日も無為に、いや情欲に溺れて猫耳族のことなんてすっかり忘れていた。 

しかし、里の近くに来ると。 

ビイーーーーーン 

突然目の前に弓矢が刺さる。 

「お前ら一体何者だ?」 

見ると木の上から猫耳の少女が弓を構えていた。 

「ほう?」 

エルヴィンは猫耳の少女を見ると舌なめずりをした。 

犬耳族も可愛かったが、猫耳な。 

魅了の魔法をかけてやったら、尻尾を振って毎日おねだりだもんなたまらんかった。 

しかし、猫耳も良さそうだ。 

早速魅了の魔法を使うか? 

その美しい猫耳少女を魔眼で見つめる。 

ふっ。 

これでこの女は俺のモノだ。 

だが。 

ビィーーーン。 

「お前ら何者だと聞いている?」 

「そ、そんな馬鹿な!」 

エルヴィンは自分の魅了の魔法が効かないことに驚いた。 

その猫耳族の女の子はリリーだった。 

リリーはアルから耐魅了の魔道具をもらって身につけていた。 

だからエルヴィンの魅了はこれっぽっちも効かない。 

狼狽えるものの、エルヴィンはとにかく猫耳族の里へ行かなければならない。 

理由はわからんが、この女には自分の魅了が効かない。 

だが、他の女には効くに違いない。 

かなり適当な考えで、幼稚だが、あながち間違っていない。 

恐るべきはクズの感だ。 

エルヴィンはここは穏便に済まそうと考えていた。 

「俺は勇者エルヴィン。君達猫耳族のピンチを助けに来た。第一王子レオン様からの指示だ。安心してくれ。怪しい者じゃない」 

「何? 私達を助けに来てくれたのか?」 

ニヤリと笑うエルヴィン。 

里に入ってしまえば、魅了で適当に見繕って、女を何人かたらし込もう。 

今は煉獄魔導士のアンネだけでつまらないんだ。 

ナディヤを失ったのは失敗したな。 

まあ、そのうち新しいメンバーが補充されるだろう。 

そしたらアンネの首も刎ねてみたいな。 

それまでの辛抱だ。 

しばらくは市井のどうでもいい女でも抱いて気を紛らわすか。 

結構これも面白いものだ。 

彼氏や旦那がいる女をモノにすると、元彼や旦那が怒り狂って来て。 

俺のモノに成り下がった姿を見せて目の前で構わずヤルと奴ら発狂するんだ。 

本当にたまらない。 

「だが、猫耳族のピンチはもう、英雄アル殿のおかげで解決済だ。帰るんだな。まだ里に人族の訪問の許可が降りていないんだ。その内解除されるから、その時まで待ってくれ」 

「な! なんだと!」 

猫耳族のピンチをあのアルが救っただと? 

また抜け駆けか? 

俺の手柄をことごとく盗みやがって! 

厚顔無恥にもほどがある。 

厚顔無恥は自分の方であることにつゆほども思わないエルヴィン。 

それに猫耳族の女を抱くことにまだ固執していた。 

ここは強行突破だな。 

「そのアルというヤツがピンチを救ったからと言っても、この勇者エルヴィン様がわざわざ来てやったんだぞ。歓待するのが礼儀だろう?」 

「そうは言っても里の掟だ。私の一存ではどうにもならん。出直してくれ」 

まったく、腹が立つ。 

どこに行ってもアルが俺の行き先を邪魔しやがる。 

きっとヤツが裏の汚い手段で俺の邪魔をしているに違いない。 

エルヴィンは目の前の少女リリーを排除。 

ついでに強姦しようと考えた。 

「まあ、無理矢理ヤルってのもいいものかもしれんな」 

「お、お前? 何を言って?」 

「アンネ、俺を援護しろ。殺すなよ。こいつを捕らえたら3人でするぞ」 

ニヤリとゲス顔のエルヴィン。 

「どうやら、招かれざる客のようだな。猫耳族一の戦士としてここを通すわけにはいかん」 

「なら、力ずくでヤルだけだ!」 

エルヴィンが剣を抜き放ち、アンネが魔法を唱える。 

2対1。 

有利だと思っていた。 

しかし、アルにとってリリーは可愛いだけの存在だが、普通にリリーは強い。 

「ヒャァ!! 助けてくれー!!」 

「精霊魔法なんて聞いてないよぉ」 

リリーに弓矢を雨あられのように降り注がれ、精霊魔法で風の攻撃魔法を受けると、脱兎のごとく逃げ出した。 

ビィーーーン!! 

目の前の地面に矢が刺さる。 

「殺さないでー!!」 

「し、死にたくないよー」 

もちろん、リリーは牽制で、本気で狙ってなどいない。 

本気だったら、とっくに二人共死んでいた。 

そして何とか逃げ出すことに成功、いや、見逃してもらえた。 

「ちきしょう!! こんな筈じゃ!!」 

その時、突然、声がかけられた。 

「エルヴィン、しかと確認させてもらった」 

「だ、誰だ?」 

いつの間にか10人程の騎士達が現れていた。 

猫耳族じゃない。 

装備から見て、近衛騎士団だ。 

エルヴィンは悪辣だが足らないおつむを回転させると、この騎士達を利用しようとした。 

「近衛騎士団とお見受けする。先程俺は不当に猫耳族の女に攻撃された。あいつを捕らえて罰して欲しい」 

「一部始終を見させてもらった」 

「おお、なら見ただろう? あの生意気な女の所業が?」 

エルヴィンはシンプルに馬鹿である。 

リリーに落ち度などない。 

「いや、貴様が禁断の魔法『魅了』を使うのを確認した。勇者エルヴィン、貴様を捕らえよと国王陛下の命だ。証拠も押さえた。もはや観念しておとなしくお縄につけ」 

な、何だと? 

ここをどう乗り切る? 

そうだ、煉獄魔導士のアンネに死ぬまで時間稼ぎをさせてその間に逃げるか? 

だが。 

「アンネ殿、情報提供感謝する。あなたも犠牲者だ。国王陛下も寛大な措置をなされるだろう」 

「なっ!?」 

エルヴィンは心底驚いた。 

心の奥底まで魅了漬けにした筈のアンネが俺を裏切っただと? 

「じゃ、そういう訳だから、エルヴィン君、さっさと捕まってね。あなたの腕じゃこの人達に敵う筈ないからね。それと多分、死刑だから覚悟してね。それにしても私も大概ビッチだけど、あなた下手くそすぎるよ。あんなにしといて全然上手くならいとか……何もかもに才能がないよ君は」 

「……」 

エルヴィンはただ驚くばかりだった。 

そして、アンネの冷たい視線に恐怖した。 

あれは何人も人を殺したような人間の目だ。 
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