底辺回復術士Lv999 勇者に追放されたのでざまぁした

島風

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52王女クリスティーナの婚約破棄3

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「うわああああああああああああああ!?」 

「きゃああああああああああああああ!!」 

会場に悲鳴が響き渡る。晩餐会に出席していた全ての人々の悲鳴だ。 

無理もないだろう。ここは安全な筈の街の中なのだ。歴史上、街の真っ只中に魔族が出現したなどいう記録はない。 

リーゼの話では、魔族は聖石の埋まっている街に出現すると、聖石の聖なる力により、力が半減する。だから、街には出没しない。それに狡猾な魔族は安全なダンジョンに潜み、魔物を多数配置して、安全を買うのが普通だ。実際、セリアの魔族もトゥールネの魔族もそうだった。彼らは人間がダンジョンの中を進む事で弱らせて、弱った処を最終層で待ち受ける訳である。 

しかし、この魔族は? 

正体を現した魔族は溢れる瘴気を放ち、禍々しい姿からは、聖石の影響を受けているようには見えない。 

魔族から逃れようと、晩餐会の出席者は我先にと出口へと逃げて行く。幸い、ほとんどの者が無事に出口に辿り着いて、脱出することに成功していた。 

この場にいるのはヒルデ、リーゼ、そしてティーナ王女を抱いた僕だけだ。 

「……みなを連れて来なかったのは失敗だったね」 

「今更ながらよ。それより下僕、剣を頂戴!!」 

「アル、3人で戦うしかないわ。でも、あの魔族、変よ」 

やはり魔族か? 魔族だよね? いやいや、しかし、なんでこんなところに? シュミット侯爵はちゃんとした貴族だった筈だ……おかしい…… 

「ア、アル様にお姫様抱っこされてる」 

こんがらがっている僕の耳に、ティーナ王女の声が聞こえた。 

見ると、顔を真っ赤にした王女が僕を見つめていた。 

なんで僕は王女様の好感度上げてるの? 

「えっと、婚約者が魔族って聞いていなかったのだけど…」 

「わたくしも知りませんでした。と、いうよりシュミット侯爵は50歳を超えていますけど、アマルフィ地方の重鎮です。あれはシュミット侯爵ではございません。50年も人をたばかるだなどとは思えません」 

なるほど、シュミット侯爵は最近魔族と入れ代わってしまったという事か…それにしても、貴族とはいえ、50歳の男に嫁がされるティーナ王女が可愛そうになった。だからと言って、僕が引き取るというのも違う話だと思うのだけど。馬鹿の王女枠はもう、一人いるのだ。 

まあいい。今はとにかく魔族討伐だ。 

「ティーナ王女、ここは任せてください。シュミット侯爵、いえ、魔族は必ず倒してご覧ににいれます。あなたのことは必ずお守りします」 

「助けてくれるのですね!! アル様」 

「は、はい、必ず…」 

王女様を助けるのは当然なんだけど、平民の僕に様をつけて、そんな熱い目で見られても…もうまにあっています。 

いかん、今はそれより魔族討伐だ! 

「あなた誰だ? シュミット侯爵ではないのでしょう? 誰なの?」 

王女ティーナが問いかける。王女は既に僕の腕の中から、後ろに下がってもらっている。僕達に守られながら、魔族に問いかける。 

しかし……。 

「駄目だ、駄目だ。殺すしかない、殺う、殺そう……」 

ひぇ……。真っ黒な虚ろな姿から聞こえてくるのは、そんなおぞましいとしか形容できない声だった。 

怖いよぉ……。これ、絶対不死の王、リッチの魔族だよ。 

「死ね、死ね、殺さないと、殺さないと、気が紛れん! だから、殺そう……」  

ひぇ……。黒い靄の様なフードを被った骸骨からはかなりヤバい発言が聞こえてくる。しかも、その声はおぞましいとしか形容のしようがない。 

「ヒルデ、リーゼ、行くぞ!!」 

「うん、アル!!」 

「当然よ。下僕!」 

ヒルデが聖剣を抜き放ち、リーゼがデュランダルを構える。 

「様子が変よ! この魔族、意識がはっきりしていないみたい」 

頭のいいリーゼは魔族を観察してくれる。リーゼはよく魔物の弱点や特性を見出すのだ、その鋭い観察力で。 

意識がない? どういう事だ? 

「おかしい。リッチにしても魔族にしても狡猾で、知性の高い種族よ。なのにまるで知性がないみたい」 

確かに妙だ。今までの魔族は探りの言葉をかけたり、罠に誘いこもうとしたり、仲間に引き込もうとしたり…たいてい狡猾な事を言葉で投げかけてきていた。だが…この魔族は、 

「敵、お前が敵? 殺していいのか? 殺せるのか?」 

やはり、知性がないとしか思えない。さっきまで、シュミット侯爵の時にはあった、知性がない。狡猾な筈の魔族、それもリッチの魔族が何故? 

「何故知性がないかはわからないけど、とにかく好都合です。魔族はその狡猾さが一番怖いですから!」 

「なら、むしろ好都合!」 

とはいうものの、何故この魔族はシュミット侯爵にすり替わっていたのだろうか? いつから? それはこの魔族に知性が無い事と関係するのか? 

「シュミット侯爵、いえ、魔族、あなた私のアル様に近ずく為に侯爵とすり替わっていたのですね?」 

はっとした。そうか、魔族の次の狙いは僕達だ。そして、貴族に扮していれば近づきやすい、いや、近づいてきても疑う事などないのだ。勇者パーティを厚く遇するのは貴族の務めなのだから、 

「クリスティーナ殿下、おそらくはですけど、魔族がシュミット侯爵とすり替わっていたのではなく、彼に憑りついたんじゃないかと思います」 

なるほど、それなら納得がいく。いくらなんでもすり替わったら、周りの人が気がつく、しかし憑依したのなら? 

それなら、周りに気取られる事も無く、のうのうと街に潜み、そして僕達を…そうか、他のSSS級冒険者も騎士団も身近の人に憑依されて、油断しているところを…それも街の中で、魔族に…突然 

信じがたく狡猾な魔族だ。だが、そんなに狡猾な魔族に何故知性がない? 

「危険、危険だ。この男は、とてつもなく危険……」 

魔族がまるで意思がないかの様に、機械の様に話す。  

「良く分かったな。僕達は勇者パーティだ! 貴様らを滅ぼす存在だ!」  

「手加減は、手加減はできない。遊ぶ事はできない、確実に、徹底的に、殺す……」 

怖っ! この魔族はめちゃ怖いんですけど、頭がやられているのが幸いだ。魔族となったリッチはとてつも無く強敵だ。だが、頭がやられているなら、脅威は半減する。リッチはその頭脳が一番怖いからだ。 

「アル!! 来るわ!」  

「ヒルデ、任せて!!」  

キシン! と凄まじい勢いで黒い矢印が襲い掛かってきた。禍々しく黒く光る矢印は鈍く光っている。そして、全く予備動作を見せずに襲い掛かってきたことから、無詠唱の魔法だろう。大抵の人なら不意を突かれてこの一撃で死んでしまうだろう。だが、戦いに慣れた僕は一気にバックステップでかわす、後ろに一気に飛ぶことによって、その矢印の脅威から逃れた。  

凄い威力高っ!! 魔力どんなけ高いの? 心の中で毒づく。想像以上の矢印の威力に驚く。あんなのくらったら、一たまりもない。 

「とんでもない魔力だ!」  

次々と繰り出される黒い矢印を魔剣で受け止める。剣には悪魔の魔力がたっぷりのっている。剣が折れるのだなとは思っていなかったが、なんと魔族の魔力と拮抗しているのだ。今までの魔族に比べて、とんでもない魔力量だ。   

だが、黒い矢印にただ黙って斬られるつもりは無い、僕は隙を見て魔族に斬りかかり、それを魔族の黒い矢印が受け、魔族の黒い矢印は僕が受ける。  

「殺す、殺す……。我らが魔王様のため、より強い人を……勇者を。人と勇者と聖石を、殺さなければ……」  

突然、魔族の黒い矢印は複数現れて、矢印はまるで落雷のようにその軌道をジグザグに変えて、大半は避けたけど、最後の一つが僕の身体を襲った。  

「ぐっ!?」  

「アル!?」  

魔族がほのかな瘴気の黒い粒子を振りまき、黒い矢印が僕の身体を貫いた。 
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