底辺回復術士Lv999 勇者に追放されたのでざまぁした

島風

文字の大きさ
上 下
37 / 106

37トゥールネの帰らずのダンジョン5

しおりを挟む
「ぐはっ……!?」  

僕は血を吐いた。僕の身体は、目玉が集まって形勢された剣によって貫かれていた。幸い、急所は外れている。スピードを重視した為か、かなり無理があったのか、それほど長くも太くもないので、致命傷とはならなかった。もちろん貫かれた場所が心臓や頭なら今頃、僕の命はなかったかもしれない。ただ言える事は、間違いなく僕は重傷だ。  

「くっ……!?」  

「アルベルト様」 

ナーガが心配そうにしている。何故かヒルダもロッテも生暖かい目で見ている。僕が苦痛で呻く。僕がこんなに苦戦するなんて予想していなかった。最大出力の魔法剣でも滅ぼす事ができないなんて……  

僕の身体には、剣で貫かれた出血が多量に見て取ることができ、動くたびにポタポタと地面に血の滴を垂らしていた。  

「アル、まずいです……! 回復しないと!」  

他人事みたいに見ていたヒルデも流石にまずいと思ったのか、僕を助けようとしてくれる。だけど、これは決闘なのだ。  

「駄目だよ、ヒルデ、これは決闘なんだ」  

魔族とは言え、僕は決闘の約束をした。それを破るつもりはない。そもそもこれ位の魔族相手に勝てないで、魔王なんて倒せない。  

しかし、僕の目は虚ろで見えにくくなっているし、身体はフラフラとし始めている。もう、限界だ。体力的にも、HP的にも、精神的にも……何もかもが僕の限界を示していた。  

「下僕は馬鹿なのかしら? 魔族に有効なのは聖剣か魔剣だけ! 思い出しなさい、それは魔族でしてよ!」  

そうか、そうだった。僕は何故この魔族相手に魔剣の力を使わなかったんだ。 

「ズルいですね。決闘で味方からの助言だなんて、しかし、聖剣や魔剣なんてある訳が!」  

「なるほど、魔眼では無く、催眠魔法だったんだね。いっぱい喰わされたよ」  

「…………な?」  

みなの視界から、僕が姿を消した。重症を負っていた筈の僕は、ふっと、突然、何の兆しもなく泡沫のように消えたように見えた筈だ。  

「な、何?」  

僕は一旦魔族の前から姿をくらまし、自身の身体を鑑定した。 

「流石魔族。魔眼の術式を展開する一方で、詠唱破棄呪文で催眠魔法をかけていたとはね」 

「気がつきましたか、あなたは私の催眠魔法にかかって…あなたが見ていた目玉の大半が幻です。しかし…いや、まさか、そんなまさか!?」  

魔族は話している途中で気がついたのだ。僕の魔剣に悪魔の魔力が渦巻き始めた事を! 魔族の表情に焦りが見える。魔法を使う彼には魔力の流れがわかるのだろう。尋常ではない異質の魔力が渦巻いている事に気がついたのだろう。彼だけではない、それまで静観していたヒルデ達も恐怖の悲鳴をあげる。僕から暗黒の悪魔の魔力がほとばしる、魔力が無いものでも、その暗黒の魔力の奔流に、恐怖するだろう。 

魔族に勝ちうる手段は聖剣か魔剣しかない。そして、僕は魔剣の使い手なのだ。 

「今度は僕の番だ!?」  

「いやなんなんですかこれは!?」  

魔族は声を上げる。魔族の彼でさえ見た事のない魔剣の斬撃、それを僕は繰り出すつもりだ。  

魔族の顔が恐怖に染まる。それほど、僕の持つ剣から溢れ出す悪魔の魔力の奔流に魔族に言い知れぬ恐怖を与えていた。  

「そ、そんな馬鹿な! 人間が悪魔の力を使うのだなんて!?」 

「お前に殺された冒険者の仇、いまとらせてもらう!」  

ゴゴゴゴゴと魔力の量と勢いが増し、これから僕がとんでも無い一撃を繰り出す事明らかだ。その場にいる皆の髪をなびかせ、畏怖を与え、僕の魔剣の奥義が繰り出される。  

「闇黒灰燼‐宵闇!」  

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!?」  

魔族にあまりにも大きすぎるダメージが襲う、だが、直前に魔族は防御魔法を唱えた。しかし、僕の魔剣の奥義は信じられない事に彼の防御魔法すら貫通し、減衰無く魔族を襲った。 

こうして勝負がついた。僕が放った魔剣の斬撃で魔族は消えていった。 

そして、 

「流石アルベルト様!」 

「アル、これはどういう事かしら?」 

「お兄ちゃん、一体これはどういう事?」 

「い、いや、僕も良くわからないんだ!」 

僕はヒルデとロッテが僕を責めるけど、僕だって、事態が良くわからないんだ。魔族って人に恋するものなの? 

「先輩、それはおいておいて…」 

「えっと、なんだっけ? ナディヤ?」 

僕は不覚にも、ナディヤがついさっき告白した事を失念していた。 

「わ、私、先輩の5号さんになります」 

「えっ?」 

何かまた増えたような気がする。もしかして、僕は女の子をおかしくするウィルスを保菌しているのかな? 今度、お医者さんにみてもらおう。どう考えても女の子がおかしくなる奇病が蔓延しているとしか思えない。 

「下僕は何か言う事は無いのかしら?」 

「ありがとう。よくやってくれた。全部リーゼのおかげだよ」  

「何をもっともそうな事を言っているのかしら? ホントはまた性欲の処理係が増えて喜々としていたのでしょう? 変態もたいがいにしなさい」  

ええ、そんな事言う? 僕本気で感謝してたんだよ。 

「リーゼ、僕は本当にみんなをそんな風に扱う気はないから、許して!」  

「全く愛人を5人も囲うのだなんて、生意気ね。仕方ないわね。帰ったら、足でお尻を散々蹴ってあげるから、期待してなさい」  

いや、僕、そんなの期待していないから…… 

「流石はアルベルト様、既に愛人を所有されているなんて。まさに英雄は色を好むです」 

忘れていた、魔族の女の子ナーガだ。 

「ナーガも6人目の愛人となります。もちろん正妻にだなんて生意気な事はいいません」 

「でも、君は魔族なのだろう? 僕は一体どうすれば?」 

僕はホントに困った。 

「あら、簡単ですわ。私が卵を産むので、そこになさって頂ければ…」 

この下等動物め!…という言葉は流石に飲み込んだ。
しおりを挟む
読んで頂いててありがとうございます! 第14回ファンタジー小説大賞 参加作品 投票していただけると嬉しいです! ブックマークもね!!
感想 38

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

ree
ファンタジー
古代宗教、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、仏教…人々の信仰により生まれる神々達に見守られる世界《地球》。そんな《地球》で信仰心を欠片も持っていなかなった主人公ー桜田凛。  沢山の深い傷を負い、表情と感情が乏しくならながらも懸命に生きていたが、ある日体調を壊し呆気なく亡くなってしまった。そんな彼女に神は新たな生を与え、異世界《エルムダルム》に転生した。  異世界《エルムダルム》は地球と違い、神の存在が当たり前の世界だった。一抹の不安を抱えながらもリーンとして生きていく中でその世界の個性豊かな人々との出会いや大きな事件を解決していく中で失いかけていた心を取り戻していくまでのお話。  新たな人生は、人生ではなく神生!?  チートな能力で愛が満ち溢れた生活!  新たな神生は素敵な物語の始まり。 小説家になろう。にも掲載しております。

処理中です...