底辺回復術士Lv999 勇者に追放されたのでざまぁした

島風

文字の大きさ
上 下
7 / 106

7初めての冒険は薬草取りからの魔族討伐1

しおりを挟む
冒険者登録の翌日、早速僕達は初仕事に出掛けた。僕はかなりたくさんの国宝級の剣刀や魔道具を所有していたが、全部収納のユニークスキルでしまっていた。あまり目立ちすぎるのはよくない。装備は底辺回復術士の白のローブから、戦いやすい革をあちこちに使った戦闘服、腰には普通の鉄の剣を装備した。そして、ヒルデは青と白をベースにした金属をあちこちに使った戦闘服、スカートに白い剣を帯刀していた。 

「では、いよいよ、記念すべき冒険者としての最初の仕事ですね? 初めての仕事は何がいいのかしら?」 

「えっ? 薬草採集に決まっているじゃないか?」 

「え………」 

僕の回答にどうやらヒルデは不満な様だった。 

「聞いていなかったの? 昨日のギルドの説明、最初は用心してくださいって言っていたよね?」 

「えっ? 確かに用心深くあるべきとは思いますが…薬草採集ですか? アルさんがですか?」 

「多分、規約で最初は薬草採集しかできないと思うよ。昨日ちょっと、ギルドの募集要項に目を通したんだ」 

僕の考えに間違いはなかった。例の受付のお姉さんが対応してくれたが、やはり薬草採集しかできない事がわかった。何故かお姉さんは『勇者に』…とか『レベル999の人に』…『薬草採集なんて頼んでしまった』…とか言っていた。規約だから仕方ないのにね? 

薬草の場所はこの街から北へ歩いて1時間位の「赤の森」だ。この森は深く、最深部ではAクラスの魔物が出る事もある。もちろん僕達は森の入り口近くの比較的安全な処で薬草を採集する。 

僕はヒルデのをエスコートしながら懐かしく森への道を進んだ。まだ勇者パーティで強弱がついていなかった頃、この赤の森は訓練場だった。この森には何度も通った。 

季節が変わったせいか、以前とはかなり趣が異なるが、木々や山々の景色は以前と変わらない。まだ幸せだった頃の思い出が蘇る。 

「あ! これを渡しておくよ。ポーションだよ」  

「ありがとうございます。アルさん。あれ? でも、アルさんは回復術士では?」 

「うん、そうだけど、そのエリクシール(最上級回復薬)早く処分したくて」 

「エ、エリクシール? そんなのこの国の国王に献上した方がいいのでは?」 

「僕、たくさん持っていて、早く使い切りたいんだ。前のダンジョンの外れドロップアイテムで、10万個位あって、これ全部売ると、エリクシールが国宝からただの飲み物になるよ」 

「……」 

ヒルデは何故か黙り込んだ。そしてしばらく歩くと、 

「ありました。薬草です。ギルドの図鑑にそっくりです」 

「ホントだ。これを100枚採集して帰ればいいのか?」 

その時、何か気持ちの悪い感触が深く、強くなって来た。そして、 

「きひゃひゃひゃはっ!! 見つけたぞ! ブリュンヒルト王女! その美しい顔を今、ズタズタにしてさしあげます!!」 

何かヤバい内容の声がした。僕はヒルデに確認した。 

「君の知り合い?」 

「はい、多分…私の祖国を滅ぼした、魔族…」 

「…頑張ってね」 

やっぱり、トラブルメーカーだった。自分で頑張ってもらおう。簡単に人の手を借りるような子に育てた覚えはない。育ててはいないか? 

「ア、アルさん…」 

ヒルデは目に涙を浮かべていた。そして、その瞳から一筋の涙の雫が流れた。 

「お、お父様の敵、私を逃す為、お父様は…」 

ファザコンか? 早く自立した方がいいよ。 

「君と因縁のあるヤツのようだね。一人で大丈夫?」 

「ア、アルさんは私を見捨てるおつもりなのですか?」 

ズルい、女の子の涙、ズルい。これじゃ、助けないと、僕が酷い人間みたいに思われるじゃないか? 

「安心して、僕はいつも君の味方だよ」 

「今しがた見捨てられそうな空気を感じました」 

「気のせいだよ…」 

気のせいじゃないけど、なんて鋭い子だ。脳が故障していてもそういう事はわかるのか? 

「おや、おや、おや? まさか、この女を助けるつもりなのですか? 逃げたなら見逃してやるつもりだったのですが?」 

ひぇぇ……怖ぇ、この魔族怖い、魔族は初めて見るが、こんなヤバそうなヤツは見た事がない。こんな綺麗な女の子の顔をズタズタにしようだなんてヤツ、ヤバすぎる。 

「私は、ここで死んでしまうのでしょうか?」 

「いや、君をここで死なせたりはしないさ…」 

とりあえず、格好つけて体裁を繕った。しかし、この魔族、ヤバい性格な上、見た目も気持ち悪いのに、相対させられる僕の心の内は、 

あぁ……もうヤダぁ、かんべんしてくださいよぉ……。 

魔族は雄羊の角、赤っかに光る眼、ぬめぬめとした漆黒の肌。いびつに湾曲した腕、コウモリの翼、矢じりのついた二股の尻尾。かなり上級の魔族、めっちゃ怖いです。 

「安心してください。今すぐには殺しません。この場所にダンジョンを作ります。無事、我のいる最下層に辿りついたら、生きて帰れる可能性があります」 

「いや、それ、ダンジョンに強い魔物を大量に配置して、疲労して魔力も尽きた僕達と対戦するという汚い方法だろう?」 

「中々頭がいいですね。それに気がつくとは、大抵の人間が喜々として、ダンジョンの途中で死ぬのですが…もしかしたら、あなたは辿りつくのかもしれませんね。期待します」 

「誰かお前のダンジョンを突破してお前がいるという最下層に辿りついた人間はいたの?」 

魔族はにやにやとした笑いを浮かべると、 

「いる訳がないでしょう。みな死にました。その女の父親も騎士団も何処かで死んだのでしょう」 

そう言うと、足元が歪み、飲み込まれた。僕達は落ちる感覚はないが、視覚では落ちている感覚を味わった。そして、周りが真っ白になった。 

真っ白な風景が収まると、普通の岩肌が見えて、そこは洞窟のような場所だった。落ちた様な視覚のイメージと魔族の言ったダンジョンという言葉から、やはりダンジョンなのだろう。 

「ご、ごめんなさい。わ、私、アルさんを巻き込んでしまって」 

「気にしないで、覚悟はしていたから」 

パーティに入れた時から、トラブルになる事は予想していました。もちろん後悔はしているけど… 

「わ、私…」 

「安心して、僕にはパーティステータス強化10倍のユニークスキルがあるから、何とかダンジョンを攻略して、あの魔族を倒す事できると思うよ。多分、君一人でもできるよ」 

「ええっ!? じゃ、さっきのは、見捨てたのじゃ無くて、愛の鞭? わ、私、アルさんの事、勘違いしていました!?」 

う…ん。勘違いではないよ。見捨てようとしたのは事実だよ。でも、あの魔族に一人でも勝てるだろうという事は本当だと思う。鑑定のスキルで見たけど、あの魔族あまりステータスは高くない。だから、こんなダンジョンなんて作っただろう。 

この子に魔族と戦ってもらえば、気持ち悪い思いをしないで済むと思っただけなんだ。僕、ゴキブリとか変な動物とか駄目なタイプなんだ。あの魔族はこの子のお父さんの敵みたいだし、僕はこの子からしばらく解放されてちょうどいい話だよね? 
しおりを挟む
読んで頂いててありがとうございます! 第14回ファンタジー小説大賞 参加作品 投票していただけると嬉しいです! ブックマークもね!!
感想 38

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

ree
ファンタジー
古代宗教、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、仏教…人々の信仰により生まれる神々達に見守られる世界《地球》。そんな《地球》で信仰心を欠片も持っていなかなった主人公ー桜田凛。  沢山の深い傷を負い、表情と感情が乏しくならながらも懸命に生きていたが、ある日体調を壊し呆気なく亡くなってしまった。そんな彼女に神は新たな生を与え、異世界《エルムダルム》に転生した。  異世界《エルムダルム》は地球と違い、神の存在が当たり前の世界だった。一抹の不安を抱えながらもリーンとして生きていく中でその世界の個性豊かな人々との出会いや大きな事件を解決していく中で失いかけていた心を取り戻していくまでのお話。  新たな人生は、人生ではなく神生!?  チートな能力で愛が満ち溢れた生活!  新たな神生は素敵な物語の始まり。 小説家になろう。にも掲載しております。

処理中です...