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49グラキエス家は詰む

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「七賢人候補のアリー嬢を追放したのだと!? 貴様、何をしたのか、わかっておるのか!!」  

「も、申し訳ございませんっ!」 

 ここは王城の謁見の間。グラキエス家当主ジャックは国王陛下から直々に呼び出されていた。 

国王の凛とした鋭い目は先日アリー達を見ていたものと打って変わって厳しいものだ。 

と、言うのも、アリー達が伝説の黒竜王討伐を成就して、国王の耳にアリー姉妹の境遇が耳に入ったのだ。 

なんでアリーごときの為にワシが......と、ジャックは 歯を食いしばる。 

魔力0のアリーの為に、自分が王の御前とは言え、情けなくひれ伏していることに我慢がならない。 

とはいえ、とりあえずは平謝りにあやまって誤解を解くしかない。 

誤解など1mmもないのだが。 

「しかし、アリーの魔力は0の上、ハズレスキルの無能と鑑定されております。役に立たないクズです。あれが世の中で役に立つことなど、万に一つもございません!」  

ジャックは静かなるも、明らかに怒り心頭の王に申し開きをする。  

アリーの魔力鑑定では0だったのだ。故に追放して当然。自分に一体何の責があるというのか? 

「ハズレスキルの無能を追放するのは当たり前では?」 

「そうか、お前の娘はハズレスキルの無能か?」  

「ハズレスキルの無能でございますっ! ごみくず同然です!」  

「ほう? ごみくずとまで申すのか?」  

「いいえ、むしろごみくず以下です!」  

「だからと言って、実の娘を追放して言い訳がなかろう!」 
当たり前である。魔力至上主義のグラキエス家ではあったが、だからと言って娘を追放していいと言う理由にはならない。ただの虐待である。 

「しかし、ハズレスキルの無能を追放するのは常識では?」   

「ラノベの読み過ぎじゃ!」 

一刀の元に切り捨てる王。魔力に価値があることは当然だが、だからと言って子を追放していいという無茶な法はこの大陸にはない。 

ジャックはよく考えたら、自分達のしたことはもしかしてマズイのでは? という疑心暗鬼に捕らわれていた。 

いや、ただの犯罪である。 

更に思考が追い付いて来て、…ま、まさかアリーを殺そうとした事もバレたのか?  

い、いや。しかし証拠なぞ無い筈。あのギルド長エミリアの独断にすればいい。 

そもそもハズレスキルの娘を追放しても、責められるなんておかしい。 

「魔力0のハズレスキルの娘など、グラキエス家においてはゴミ同然。そんな者を追放するのは当然というわけだな?」  

「ははぁっ、そのとおりでございまする!」 

  王ははぁとため息をつくと、ジャックに告げた。 

「アリー嬢は先日伝説の黒竜王を討伐した。その魔法は100年先を行く魔法、七賢人とするか、聖女とするか魔法協会と国教会で論議になる始末であった。......そのアリー嬢を無能と申すか?」 

「そ、そんな馬鹿なことはあり得ません! な、何かの間違いではないのですか?」 

「ええい、貴様の魔法協会の書簡を見たであろう? アリー嬢は魔法の天才だ。そして、その才能が開花して、遂に七賢人どころか、この国一の魔法使いとなった。貴様はこの国を危機におとしいれたのだぞ? その罪、わかっておるのか? 何より貴様の常識を疑う!」 

「そ、それは何かの間違いです。アリーに限ってそんな筈はございません。あの娘はせいぜい何処かの色好きの貴族か商人でも金で売るしか価値がない女でございます」 

「実の娘をなんだと思っておる! ええい、貴様は貴族をクビじゃ!」 

「た、大変申し訳ありません!! こ、国王陛下! し、しかし、な、な、なんとか貴族をクビにだけは再考ください! 私には妻と娘がいるのです!!」  

いや、その娘に何をした? 

王はジャックの釈明を受けて帰って激高して厳しい処分を受けた。つまり、貴族をクビだ。もちろん、前代未聞の事だ。  

必死のジャックは咄嗟に土下座で嘆願するが、国王はあまりの事に聞く耳を持たない。  

「目ざわりだ! 直ちに何処へでも行くがいい! 二度と私の前に現れるでない!」  

「こ、こ、こっ こくおぉうへ……い……か、お、お、おゆゆるし……を……!!!!!」  

「黙れ! このクズ!!」 

この一件は一歩間違えれば災害級の人材の流出、いや、敵に回した可能性がある。国家の存亡をかけた問題なのだ。ジャックに寛大な処遇などあり得ない。 

しかし、側近の官吏より、意見が出た。 

「陛下、グラキエス家に情状酌量の余地はございませんが、かの領地を治めたがる貴族はおりますまい。あの地はとても芳醇な地とはいえず、代わりに収めたがる人物はおらぬでしょう。ここは、この男への罰として、良い方法を思いつきました」  

「なんじゃ、申してみよ」  

王は官吏の意見に耳を傾けた。ジャックは一縷の望みをかけて官吏を見た。 

しかし。  

「グラキエス男爵殿は人の上下がどうも未だに理解が及ばない様子。ちょうど、陛下の椅子の調子が悪く、今日、修理に出されるご予定であったかと」 

「ほう、なるほど、良い考えだ!!」 

何の話だ? ジャックはそう思った。 

「グラキエス男爵よ。お前に、もう一度、上下関係を叩き込まなければなるまいのぉ」 

国王は笑顔であったが、その顔には彼らしくなく、嗜虐心に満ちた顔になっていた。 

怖い。ジャックはちびりそうになる。 

「グラキエス男爵よ、今日はワシの椅子になれ」 

「え? は? いや、椅子ですか? あの座る椅子ですか?」 

「それ以外に椅子があるか、このクズめ!」 

「そ、そんな馬鹿な! 貴族のワシが人間椅子だなぞ、そんな馬鹿な事があっていい筈がない!」   

 ジャックの叫びが虚しく王宮にこだまする。しかし、誰もが不快を感じて顔をしかめる。 

気づいたときには、人間椅子となっていた。  

体中の骨や筋肉が痛み、疲れ果てる。  
さらには様々な客人や家臣全てにその様子を見られてしまう。 

王も流石にやりすぎと思ったのか、数時間で『出来が悪い椅子だ』とジャックを解放したが、王宮の家臣たちは皆、大笑いだった。 

「ちくしょうぉぉおおおおお!」 

王の仕打ちはジャックのプライドを大いに傷つけるのだった。 

しかも、それだけでなく、グラキエス家の権威は丸つぶれであった。 

後日、ハワード男爵から長女エリザベスとの婚約話がなかったことにされた。 

グラキエス男爵家は完全に詰んでしまったのである。 
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