吸血鬼アリーは最強の魔王になりたい~実家に追放された上、騙されて命を落とした少女最強になる? 無自覚なので、何故か沈黙の大聖女になりました~

島風

文字の大きさ
上 下
44 / 51

44アリーは恩賞を受ける

しおりを挟む
アリーとソフィア、王国騎士ラナとエイル、ヘリヤ の5人は王城の謁見の間の前室にいた。  

国王からお褒めの言葉を頂戴するためだ。 伝説の呪われた黒竜王を倒したのだから当然と言えば当然のことだ。  

「なんか、あんまり過大なご褒美とか用意されると困よね」 

「あ、ま、そうだなぁ」 

「そうね」 

お気楽に言うアリーだったが、ラナも姉のソフィアも表情が硬い。何故なら過大というか、膨大なご褒美が用意されているに決まっているのだ。それだけのことを成し遂げてしまったのだから。 

それで、ラナやソフィア、エイル、ヘリヤ達の考えていたことは。 

『全部アリー嬢、ソフィア嬢とラナ様だけのせいにしよう』←エイル、ヘリヤ 

『全部アリーとソフィアのせいにしよう』←ラナ 

『全部アリーのせいにしよう』←ソフィア 

彼女らは善人であり、欲がなく、むしろ自分達に不相応な褒美を用意されることを嫌った。 

......謙遜と遠慮。通常美徳だが、何故か皆、人のせいにしようと考えている。 

不思議な美徳である。 

皆がそんなことを思っていると騎士の一人が案内をしてくれた。  

「英雄の皆様、準備が整いました。さあ、謁見の間にお入り下さい」  

「ありがとうございます。では、入ります」  

「英雄の皆様方をご案内できて光栄です!」  

大げさな騎士は敬礼すると、ドアを開けた。  

そして、ラナを筆頭に皆が続く。  

「「「「「おおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」  

アリー達が謁見の間に入ると大歓声が聞こえた。  

アリーはちょっとびびったが騎士や官吏、そして王族、上級貴族達の歓迎の意だと気づいて躊躇うことを止めて国王の前まで敷き詰められた赤い絨毯の上を歩いて行く。  

国王の前に来ると王への敬意と忠誠の証として膝を折り、皆、頭を下げた。  

「顔をあげよ、英雄ラナとその仲間よ」  

「は! ありがたきお言葉に感謝します」  

ラナとアリー達は国王へ顔を上げる。  

王は穏やかな顔で皆を見ていた。その目は優しいが、理知的な風貌と鋭い目が唯の善人ではないことを伺い知る。  
国王は柔らかい笑みを浮かべると、ラナに向かって言った。  

「先ずは英雄ラナとその一行よ。人類の敵、呪われた黒竜王を倒した功績、見事である。王として国民を代表して感謝の意を表すぞ」 

「過分なお言葉です。しかしながら、今回の竜の討伐、報告通り、ほぼここにいるグラキエス家次女ソフィア嬢、三女アリー嬢の二人のみによってのことでした。お褒めの言葉は是非この二人にのみお願いいたします」 

「発言をお許しください」 

「良いぞ、ソフィア嬢」 

「ありがたき幸せです。ラナ様の適切なご指導のおかげで少しだけ貢献することができました。それにラナ様達の武技がなかったら、今頃、私もアリーも、今この場にはおりませんでした。......決して......決して私達二人だけのせいじゃないんです!」 

「......は?」 

王は困惑した。これだけの成果を上げた以上、過大な褒美と我こそが如何に活躍したかが言い争いになることがある恩賞の機会に......成果を謙遜、それどころか......せい? 

「いえ、私如き、何もできておりません。これは全部アリー嬢とソフィア嬢のせいなんです」 

ラナが必死に声を上げる。彼女やエイル、ヘリヤは王旗下の騎士なので発言の許可を得る必要はない。 

「いえ、違います! アリー嬢とソフィア嬢とラナ様だけが活躍されたんです」 

「そうです。私なんて、1回武技を放っただけで、ものの3分で戦いは終わってしまいましたので」 

エイル、ヘリヤは敬愛するラナには恩賞を受けて欲しいというラナにとって迷惑な忠誠心を発揮していた。 

「......さ、三分」 

誰かが王の御前にも関わらず思わずこぼしてしまった。 

すると同時に場がざわざわし始めた。誰もが伝説の災害竜をさぞかし激戦の上、打ち破ったのだろうと考えていた。まさか3分で瞬殺したなどと思いもよらなかった。 

しかし、その空気にソフィアは耐えられなかった。 

「エイル様、ヘリヤ様の仰っている通りです。ラナ様やエイル様、ヘリヤ様のお力添えがあったからこそです」 

「ちょっと、巻き込まないでよソフィア!」 

「そうです。武技一回放っただけで恩賞なんてもらえないもの、それ位空気を察して! 全部ラナ様とあなたとアリーのせいなんだから!」 

王はこの善人過ぎる勇者達に好感を持たざるを得なかった。 

だが、ソフィア、ラナ、エイル、ヘリヤは何故かいさかいを始めてしまった。 

「ちょっと、ソフィア、酷いわよ。なんで私を巻き込むの?」 

「だって、ラナさんが私達だけのせいにしようとするから」 

「いや、事実上そうでしょう? あんなことできるのあなた達姉妹以外にいないわよ」 

「そんな、人を非常識人みたいに言わないでください!」 

『いや、自覚持てよ!』 

聖剣は一人突っ込んだ。アリーもだが、ソフィアも十分非常識な人物だ。 

いさかいを始めて、それぞれが人のせいにしようとしている中で、皆、はたと気が付く。 

この場で、ボケッとしている人物がいることに。それも一番の立役者がいることに。 

それで、勝手に話しあった。寛大な王はクククッと笑い、看過していた。 

「話あった結果を申し上げます。全員の総意です」 

「うむ、騎士ラナよ申してみよ」 

「「「「全部アリー一人のせいなんです」」」」 

「えええええ!?」 

今更の事態に驚くアリー。だが、もう後の祭り......とはならなかった。 

「はっはっはっはっは。実に愉快だ。ワシの目の前で女子会を開くのも非常に面白い経験じゃが、その謙遜しあう姿、誠に感心に値する」 

「え?」 

「いえ」 

「わわ」 

「ちが」 

思わぬ方向に話が進んでしまって、困惑する4人。 

「騎士ラナの報告と竜を調査した調査隊の報告を元に恩賞を与える。事前に考えておった恩賞を再考する。褒美は更に弾まんといかんな。わっはははははっは」 

......なんで......なんでこうなった? ラナ達は皆、そう思うのであった。 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

妹に婚約者を奪われ、聖女の座まで譲れと言ってきたので潔く譲る事にしました。〜あなたに聖女が務まるといいですね?〜

雪島 由
恋愛
聖女として国を守ってきたマリア。 だが、突然妹ミアとともに現れた婚約者である第一王子に婚約を破棄され、ミアに聖女の座まで譲れと言われてしまう。 国を頑張って守ってきたことが馬鹿馬鹿しくなったマリアは潔くミアに聖女の座を譲って国を離れることを決意した。 「あ、そういえばミアの魔力量じゃ国を守護するの難しそうだけど……まぁなんとかするよね、きっと」 *この作品はなろうでも連載しています。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

聖女なのに王太子から婚約破棄の上、国外追放って言われたけど、どうしましょう?

もふっとしたクリームパン
ファンタジー
王城内で開かれたパーティーで王太子は宣言した。その内容に聖女は思わず声が出た、「え、どうしましょう」と。*世界観はふわっとしてます。*何番煎じ、よくある設定のざまぁ話です。*書きたいとこだけ書いた話で、あっさり終わります。*本編とオマケで完結。*カクヨム様でも公開。

処理中です...