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39グラキエス家はアリーとソフィアを引き留めたい

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「ラナ様、ようやく追いつきました!」 

「もう、ラナ様の駿馬は早すぎます!」 

冒険者ギルドに入って来るなり、開口一番にラナへの抗議なのか賛美なのかわからない不平をこぼす一目で騎士とわかる若い女性二人。 

「あら? ようやく追いついたのね、エイル、ヘリヤ」 

「もう、いくら急ぎの試験だからといって、私達を置いてくなんて!」 

「そうです。万が一ラナ様に何かございましたら、ラナ様のお父様に合わせる顔がございません」 

どうやらラナ旗下の騎士らしい。それも二人そろって気品ある顔立ち。おそらくラナと同様貴族出身の騎士だろう。 

「(なんか弱そうな人達が来たね)」 

「(......アリー。君、失礼の度合いが加速してるね)」 

「(もう、魔剣さん、そんなに褒めないで♡)」 

『はあ』 

聖剣は一人ため息をつく。どこまでも良くわからないアリー。 

どうも、失礼になることは魔王へ近づくことだとでも思ってるのだと推測した。 

「まあ、そんなことより紹介しよう。この二人が今年最初の合格者だ」 

「ソフィア・グラキエスです」 

「ア、アリー・グラキエスれす」 

ソフィアがそつなく挨拶すると、慌ててアリーも挨拶する。ついでに、やはり噛んだ。 

「まあ、可愛らしい!」 

「姉妹なのね。手を繋ぐなんて、仲良しなのね」 

二人の騎士は顔をほころばせた、だが。 

「あら? どうやら、あなた達以外の訪問者も来たようね」 

「え?」 

「お、お母さま!」 

試験の為か、ギルドは閑散としていたが、次々と訪問者がやって来る冒険者ギルド。 

「(なんでお母様が? 今は東の砂漠でサンドワームを討伐してたんじゃ?)」 

「(あれ、君たちのお母さんなの? 嘘だろ?)」 

聖剣がアリーとソフィアの母親を見て驚くのも無理はない。 

アリーもソフィアも美形である。性格が最悪のエリザベスですら、黙って微笑んでいれば美少女の類に入る。 

しかし、三人の母親は...... 

「なんで、ここにゴリラが?」 

「エイル! 失礼を謝罪しなさい!」 

「そうよエイル! 良く見ないと判別しがたいけど、これ、人よ!」 

いや、ヘリヤの言っていることの方がもっと失礼だ。ラナは流石にこの失礼への謝罪をエイルに促したが、台無しだ。 

「......ほほほほ。誰がゴリラですって?」 

他に誰が? と一同、内心思っていることは間違いないが、誰も口に出さない。 

「(魔物だ! ゴリラの魔物になったぁ!)」 

「(アリー、君、実の母親に酷くない?)」 

「部下の失言をお許し下さい。おそらく何かの勘違いの発言かと」 

素直に謝罪するラナ。二人の部下に話されるとかえってこじれると思ったのだろう。 

「失言? それはつまり、私がゴリラ顔だという失言があったと認めてる訳よね? お人形さんみたいな騎士様?」 

「ラナと申します。イニティウム家の三女です。どうか、部下の無礼をお許しください」 

イニティウム家の名前を出して牽制するラナ。普通、男爵家風情であれば黙るよりない。 

しかし。 

「イニティウム家の三女......ということは、あの勘当された娘という理解で宜しいですか?」 

「グッ!!」 

どうやら、ラナは意に沿わない相手と結婚を拒んで、魔法学園に入学、騎士になれたものの、実家からは勘当されたらしい。 

「いえ、それは表向きであって、本当はラナ様のお父様も勘当なんてしたくないんです! ただ、元婚約者の公爵家への体裁からそうなっているだけです!」 

「そうです。ラナ様は今でも実家にお戻りになり、お父様や家族の方と楽しく過ごしておられます!」 

ラナ旗下の騎士、エイル、ヘリヤは釈明する。どうやら、ラナは実家と完全に仲たがいしている訳ではないようだ。しかし、それで問題は解決しなかった。 

「つまり、そこのお人形さんに何か問題が生じてもイニティウム家は何もできないということよね?」 

「流石お母様! 頭いい! 私、この人に年齢をバカにされたのよ! 酷いのよ! 女の子の年齢を理由に馬鹿にするなんて!」 

「お、お前、本当に大丈夫なのか?」 

ゴリラの他に長女のエリザベスや父親ジャックも姿を現した。 

それにしても、この男爵家一同はバカである。イニティウム家が公式にラナを守ることはできなくとも、僅かな意図をほのめかせば、忖度する貴族や商人、役人は大勢いる。ラナがイニティウム家から見捨てられている訳でなければ、男爵家風情など、簡単に詰んでしまう。ある意味、父親のジャックが一番まともだった。 

「私はただ、エリザベス嬢の年齢が魔法学園特待生試験の受験資格がないという事実をお伝えしただけです。失礼と感じましたら、それはお詫びしますが、事務的な問題でした」 

「う、嘘よー! この女、絶対悪意をもってやったのよ! ちょっと挑発しただけなのに!」 

挑発しといたなら、自業自得だと聖剣は呆れていたが、長女は更にエスカレートした。 

「だいたい、私を差し置いてこの役立たずの二人が王都の魔法学園にぃ! 最高学府の魔法学園に行くなんて許せないわぁ! 【汝は炎、我が敵を打ち砕く燃え盛る炎。我が敵を打ち砕く刃なり。ファイヤーアロー!】」 

エリザベスが突然ラナ目がけて省略魔法の炎の魔法を放ったので、聖剣が動いた。 

「え?」 

「は?」 

「な!」 

アリーは咄嗟に氷の魔法を聖剣に付与していた。 

聖剣でエリザベスのファイヤーアローを断ち切る。 

「これで理解できましたね?」 

ラナは口調を強めて更に続ける。 

「ソフィア嬢もアリー嬢も立派な魔法使いです。これから魔法学院で研鑽を積み、わが国に大きく貢献をするでしょう。お二人は、私が責任を持って王都へお連れいたします」 

しかし、アリーの母親、ゴリラは黙っていなかった。 
目を剥き、大声で怒鳴った。 

「ならいっそうソフィアとアリーは渡せないわ! そいつらは我が家のモノよ! 我が家の財産の価値が上がったのに、おめおめと渡すとでも思うか! 絶対に渡さないわ! 二人はより良い縁談をまとめて金に換えるのよ!」 

アリーの母親、ゴリラ、もとい、リラゴ ・グラキエスは剣を抜き、ラナに斬りかかった。 
「(ラナさんが!)」 

「(任せて!)」 

ラナも応戦しようとするが、剣を抜く前にS級冒険者でもあるリラゴの振るった剣がラナの脇腹をとらえたかに見えた。 

が、アリーの聖剣が一足早く、リラゴの剣を受け止める。 

「なにっ……!!」 

「……」 

アリーは無言だが、珍しく表情が変わっていた。そう、怒りの表情を露わにしたのだ。 
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