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31アリーの父は誤魔化したい

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「アリー! アリーじゃないか!」 

突然大声を上げたのは、グラキエス家の当主ジャックだった。 

実家の傍にいたのだから当たり前だが、家長のジャックに見つかってしまったのである。 

「「......お父様」」 

アリーとソフィアの声がハモる。 

これまでのアリーへの仕打ちを考えたら当然だろう。 

「お父様! 聞いてくださいまし! アリーがわたくしに酷い仕打ちを!」 

ジャックが視線を向けた先には自身の火魔法をくらっってススで顔が真っ黒の愛娘な筈のエリザベスがいた。 

「酷いんです。アリーたら、卑怯な魔道具かなんかでわたくしの魔法を無力化してわたくしをイジメたのです!」 

パシーン! 

突然エリザベスの頬にジャックが平手打ちを放つ。 

「......へ?」 

始めて父親に頬を平手打ちされたエリザベスは理解が追い付かず、呆けてしまった。 

「(なんとかアリーを追放して殺そうとしたことを誤魔化さないとな)」 

アリー達の父は困っていた。王立魔法協会からアリーの招待を受けていたが、アリーが勝手に出奔したと嘘の報告をしていた。そして、密かにアリーを亡き者にしようと各地の冒険者ギルドに密命を送ったのだが、返り討ちにあった。例の小悪党ギルド長エミリアである。 

彼女が送って来た魔法文にはこう記されていた。 

『むりれす。せめて余生を平穏に過ごしたいのでこれを最後に退職します』 

なんか色々意味不明だが、なんとあのエミリアがアリー暗殺に失敗したという。 

「(隙を見て密かに毒殺するよりあるまい。万が一魔術協会にでもバレたら一大事だ)」 

「お父様。すいません。追放されておきながら実家のすぐそばまで来てしまいました」 

「良いのだ。私はお前の覚醒を信じていた。今までのは我が子を谷底に突き落とす獅子の行いだったのだ。ワシも本当は胸がつらくての」 

だが、自身の父の性格位さすがのアリーもわかっていた。 

愛されたいが、愛されていないのは百も承知だった。 

なので、疑いの眼を向ける。 

「(まだ誠意が足りない?)」 

ジャックはこれまでの自身の行いに流石に無理がある言動であること位はわかっていた。 

「あ……エリザベスお姉さま……」 

「……ッ!!」 

アリーが姉のエリザベスを気遣っての言葉で、二人の間に何かいさかいがあったことに気が付く。 

「こ……これはエリザベスお姉様が一方的にアリーを......」 

ソフィアがアリーを庇うために事情を説明しようとする。 

普段の彼なら問答無用でアリーとソフィアを折檻をするところだが。 

「ふぅんんん――ッ!」 

突然エリザベスを蹴とばした。 

「お、お父様......何を?」 

「どうやら、エリザベスがアリーを一方的に虐めていたようだな」 

「そんな......お父様はいつもわたくしの味方だった......筈」 

アリーとソフィアはあまりの出来事に二人で目を合わせて驚いている。 

「(足らんか!)」 

「アリーに謝れ! エリザベスぅぅうッ!!」 

ジャックに更に顔を足の裏で踏まれるエリザベス......やり過ぎである。 

「お父様......気は確かですか?」 

「これで気を取り直してくれるか? アリー?」 

「は、はっ、へ、へくちっ!」 

流石にアリーも姉であるエリザベスへの折檻に「はい」と言わざるを得なかったのに、肝心な時にくしゃみが出た。アリーは少し、花粉症気味だった。吸血鬼になっても花粉症は治らなかった。しかし、それにしてもエリザベスはまだ謝ってないのだが。 

「――死ね、エリザベスぅぅうッ!!」 

 ジャックはエリザベスの頭を掴むと更に何度も地面に叩きつけた。 

「………………もう許して」 

アリーとソフィアがうっかり呆けていたが、エリザベスからギブの声が上がると、ソフィアが反応した。 

「お父様。アリーの追放は取り消して頂けるのですね?」 

「も、もちろんだ。愛しい我が子が覚醒したんだ。喜んで迎える」 

「え? 私、追放を取り消して貰えるんですか?」 

アリーが嬉色を見せて父親であるジャックを見るが、やはり心配で姉のソフィアを見る。 

ソフィアと目が合うと、首を横に振っていた。ソフィアに全面的な信頼を寄せるアリーは父親の言動に嘘か何かあるとわかった。 

「アリー。ワシの計算通り、無事覚醒したんだ。これまでのクズのエリザベスに代わって、我が家の宝となるのだ」 

「お父様。それにしても、今日アリーが帰って来ても泊まる部屋はないでしょう? 私の部屋で一緒に過ごさせて頂いてもよろしいでしょうか?」 

「ああ、かまわん。確かに客間は修理中だったな。頼む、ソフィア」 

こうしてアリーとソフィアは実家に戻って行った。 

二人をエスコートしたジャックだったが、慌てて本当に愛しい愛娘のエリザベスの元へ戻ってきた。 

「わかん............ない......」 

「は?」 

エリザベスがその場に崩れ落ちる。 

「……わからない……もうなにもかも、わかんない……」 

「エリザベス!! 気を確かに!!」 

気を確かにもなにも、全て父親のジャックが全部悪い。 

「......クズって言われた」 

「気にするな。ワシも何度か言われたことがあるぞ」 

流石......クズである。 
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