吸血鬼アリーは最強の魔王になりたい~実家に追放された上、騙されて命を落とした少女最強になる? 無自覚なので、何故か沈黙の大聖女になりました~

島風

文字の大きさ
上 下
25 / 51

25アリーは悪事が働きたい

しおりを挟む
「(エミリアさんごめんなさい)」 

「(そんなに気に病むなら、止めておけばよかったんじゃないの?)」 

「(そうはいかないんです。悪事を働くには、まず身内からと言うじゃないですか?)」 

『……言わない……と、思う』 

聖剣は心の中で突っ込むものの、アリーのしたことは悪事より、むしろ善行だった。 

「(本当にあの毒、ちょっと気分が悪くなるだけなんだよね?)」 

「(ああ、君が感じたのと同じ位で、命に別状はないはずだよ)」 

「(よかった。エミリアさんに、もし、何かあったらと思うと)」 

『なら、毒を盛ろうとか、思わなきゃいいのに』 

聖剣は尚も突っ込む。実は魔の山で採集した幻の薬草、アネモネを生成して、ポーションを作ったのだ。エミリアに渡したのは、その内の1本だった。 

「(この杖、便利だね)」 

「(ああ、その杖はユグドラシルの杖と言うんだよ。製薬の魔道具にもなるし、君の魔力や攻撃力、防御力を10倍にしてくれるよ)」 

魔の山でエンシャントドラゴンを倒した時、ドロップアイテムで杖を手に入れた。 

杖には、製薬の魔道具と同じ機能があり、杖1本だけでポーションを作れるようになっていたのである。 

「(それにしても、エミリアさんのことを思うと、胃がキリキリ痛むよう)」 

「(なら、やっぱり止めておけば良かったんじゃ?)」 

「(だめなの。立派な悪人になるには、恩人に毒を盛る位じゃないと……でも、ちょっと気分が悪くなるだけだから、大丈夫よね?)」 

「(気がつかないよ。多分ね)」 

『気がつかないような毒を盛って、悪人になるとか理解できないな』 

聖剣は恩人に毒を盛って、一人前の悪人になりたいというアリーの謎思考に困ったものの、例のポーションは凄まじい解毒など状態異常回復の効果があることを知っているので、放置した。 

「(あとはポーションをギルドでお金に変えて、トンズラしないと)」 

「(うん。お金にした方がいいよ。今後の活動資金にもなるし)」 

アリーはまたしてもこの街をトンズラするつもりだった。実は実家の街に向かったつもりだったが、方角を180度間違えていたのである。 

アリーは方向音痴だった。 

☆☆☆ 

「本当にこのポーションを銀貨100枚でよろしいのですか? 金貨100枚は下らないと思われますが?」 

「だ、だいじょうひなのです。そ、それより、早く買い取ってくだしゃい」 

アリーは冒険者ギルドでポーションを売っていたが、例によって、悪事を働いているつもりだから、ドキマギとして、思わず噛んでしまっていた。 

しかし、冒険者ギルドはアリーの作ったポーションの鑑定を間違えていた。鑑定の魔道具で上級ポーションと判定されたが、実は更に上の最上級、というか、存在事態が伝説の幻の秘薬エリクシール(最上級回復薬)とアムネタ(最上級解毒薬)だったのである。 

「(お腹痛い。早くお家に帰りたい)」 

『ほんと、この子、悪人には全く向いてないな』 

人間、なりたいものと素養が合わないことは多々にしてあるが、アリーも典型的なそれである。悪の権化、魔王になりたいのだが、小悪党にすら無理な性格である。 

それに、魔王ではなく、聖女への道を着実に爆走していた。 

まさしく、全力で後ろ向きに全力疾走しているのである。 

「(日が暮れない内に逃げよう。バレたら、逮捕だよね?)」 

「(ああ、そうだね。今の君の飛行能力なら、君の実家のディセルドルフまでひとっ飛びでいけるよ)」 

聖剣は方向音痴なアリーの代わりに冒険者ギルドで閲覧できる地図を見て、方角と距離を頭に入れていたのである。 

聖剣のはこれからの苦労を考えると、頭が痛くなった。 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!

貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

処理中です...