吸血鬼アリーは最強の魔王になりたい~実家に追放された上、騙されて命を落とした少女最強になる? 無自覚なので、何故か沈黙の大聖女になりました~

島風

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20ギルド長アメリアは死にたくない

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「(あれ、また前からトカゲさんが来るよ)」 

「(何だって?)」 

聖剣は驚いた。てっきりスタンピードの最後の将は飛龍達と思い込んでいた。 

スタンピードを起こした際、弱い魔物から順番に襲来し、最後に最も強力な魔物がやって来る。このことから、スタンピードとは魔物の生息域に新たに強力な魔物が現れ、強者に追われた魔物が逃げ惑うために発生するという説がある。より弱い魔物から本能的に逃げ出すのではないかという説だ。 

しかし、最後の魔物が飛龍ではないとしたら? 一体どんな強力な魔物が逃げているのか? いや、飛龍以上に強力な魔物などいるのか? 

「(アリー、慎重に行こう、トカゲの後ろに回り込んで、確認できる?)」 

「(できると思うよ。ゆっくり飛んでいるし、こちらに気がついてないみたいだから)」 

いや、遠方の魔力を検知できる魔物など存在しない。探知の魔法を使う以外に知り得ることはあり得ないのだ。 

アリーは迂回して、トカゲの後ろに周りこんだ。そして、トカゲの姿を目で見える距離までつめた。 

『ケツアルクアトル!』 

それは火龍や飛龍などより遥かに上位の竜種だった。危険度は最低Sランクだろう。 

「(気がついてないみたいなの。攻撃しちゃおっと♡)」 

「(あ、いや、ちょっと、まッ!)」 

聖剣は最後まで言えなかった。無詠唱で魔法を発動できるアリーは聖剣の制止の言葉が届く前にフリーズ・バレットを発動してまった。 

「(あれ、3発じゃ、駄目か?)」 

「(ア、アリー、に、)」 

アリーに急いで逃げろと言う前にアリーは更に攻撃を続けた。 

アリーのフリーズ・バレットをしても、ケツアルクアトルの竜の鱗は撃ち抜けなかった。 

だから、逃げろと聖剣は言いたかったが、その前にまたアリーは攻撃を開始した。 

3点バーストショットを合計4回、12発の氷の弾丸を寸分違いなく同じ場所に着弾させる。すると、竜の鱗を突き破った弾丸は竜の腹の中を跳ね回り、致命傷を与える。 

「(やったー! やっぱり、ちょっと硬いから、同じところに打ち込んだらと思ったの♡)」 

『ちょっとじゃない!』 

聖剣は抗議の声を上げたかったが、もっと疑問に思ったことがあったから、ツッコミよりそちらを優先した。 

「(ねえ、アリー。君はどうしてそんなに正確に氷の弾丸を目標に当てることができるの? いくらスピードが速い弾丸でも、この距離でお互いの位置関係が変わるし、風もあるよ)」 

「(え? そんなの計算すればいいだけだよ。古代書に大昔の戦艦という船の大砲の話が書いてあったの。どんなに遠くても、風やお互いの進行方向と速度が解れば計算できるよ)」 

「(なっ!)」 

聖剣は思わず感嘆の声を出してしまった。飛行中、違うベクトルに飛んでいる目標に向かって魔法を放っても角度の偏差により着弾点はずれてしまう。距離が変われば当然その差は大きくなる。 

にもかかわらず、アリーは12発の弾丸を寸分違わず同じ場所に着弾させている。 

それを計算した? 

確かに物理的には可能な話だ。そんな短時間で計算ができるとしたらだが。 

『アリーは魔法の天才であるだけでなく、数学の天才?』 

事実そうだった。引きこもりのアリーは古代書を読み漁るのが趣味だった。その中で魔法学の次に大好きだったのが、数学。アリーは複雑な計算をしたかったが、紙やペンを買ってもらえる筈もなく、仕方なく暗算で数学を勉強していた。 

そのおかげで、複雑な計算を並列に数十同時に行うことが可能だった。 

天才としか言いようがないが、それが迫害されたが上に身についたのは皮肉である。 

「(あ! 街に着いたよ! とりあえず冒険者登録しよ♡)」 

アリーが無自覚にとんでもないことをやらかすが、本人に自覚はない。 

聖剣はあまりのことに無言でいるが。 

「(実家の街のギルドにもイケメンさんがいるといいなぁ♡)」 

聖剣は落差に疲労を感じていた。 

☆☆☆ 

街に着くと、アリーは冒険者になるため、試験を受けることになった。 

ある程度実力がないと冒険者にはなれない。 

冒険者ギルド金の皿、ギルドマスターエミリア。よわい18歳にしてマスターを務める天才。 

彼女は二つのスキルを持っていた。 

スキル【煉獄】、【オーラ】 

煉獄は炎の魔術に圧倒的な適正を持ち、オーラは相手の能力を図る能力だ。 

エミリアはアリー・グラキエスという娘が冒険者試験を受けに来たら、事故に見せかせて殺せという密命を受けていた。 

命令通り、アリーの冒険者試験を行い、事故に見せかけて殺害しようと企んだ。 

……しかし。 

エミリアの目にはアリーから立ち上る膨大なオーラを感じて恐怖した。 

「男爵さまは……私に死ね?……とおっしゃる?」 

思わず、天を見上げた。 
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