吸血鬼アリーは最強の魔王になりたい~実家に追放された上、騙されて命を落とした少女最強になる? 無自覚なので、何故か沈黙の大聖女になりました~

島風

文字の大きさ
上 下
15 / 51

15アリーはとんずらしたい

しおりを挟む
アリーは悪事を働いたもののとんずらする準備が出来ていないため、街の近くの森で食料や薬草などを採集していた。 

「(なんだろう?)」 

「(どうしたのアリー?)」 

聖剣はアリーが何かを感じたことに問いを投げかける。 

「(街の南の方から強い魔力の塊がたくさんこちらに向かっている。それに街の中で魔法を使う人がたくさんいる)」 

「(なんでそんなことわかるの?)」 

「(え? 普通わからない?)」 

聖剣はハッとした。この子は魔力を操ることの天才。ならば、微弱な魔力であっても検知することが可能ではないだろうか? 

「(君ならわかるのかもしれないな。僕は魔法が全く使えなかったから)」 

「(私も生活魔法のフリーズ・ロックしか使えなくて、他の生活魔法は)」 

アリーは生活魔法のフリーズ・ロックしか魔法を使えなかった。アリーの属性は水だから唯一氷の魔法のみ使うことができたのだが、アリーの魔法は既に生活魔法だなどと呼べるモノではなかった。 

通常のフリーズ・ロックはただ氷の塊を作るだけの魔法。だが、アリーの魔法はその氷の塊に濃厚な魔力を注ぎ、高速で射出し、更に加速させて目標を粉砕するものだった。アリーの魔法はフリーズ・ロックではなく、フリーズ・バレット(氷の弾丸)と呼ぶべき魔法だ。 

もちろんアリーに自覚はない。 

「(とりあえず街に行ってみよう)」 

「(え? なんで? 見つかったら、逮捕されるかもだよ)」 

「(僕は正義の使者なんだ。街に何かあったら、心配だから見に行きたい)」 

「(じゃ、一人で行ってくれないかな?)」 

「(それはできない。君と僕は一心同体だし、君がいないと街の人と会話できない)」 

そう言うと、聖剣はアリーの体を乗っ取って、街に向かって走って行った。 

「(ちょっと、魔剣さん、私、逮捕されちゃう!)」 

「(街の人の安否の方が大切だ)」 

「(このはげぇ! 止めてぇ!)」 

アリーの抵抗もむなしく、街に無事着いてしまった。 

アリーも諦めて、聖剣に協力することにした。どうせ体を乗っ取られるのだから、抵抗するだけ無意味だからだ。 

「(南門の前で、魔力の動きが大きいよ)」 

「(なら、南門に向かおう!)」 

アリーが南門に到着すると、そこは地獄だった。 

「い、痛い、だ、誰か助けてぇ」 

「し、死にたくねぇ、誰かぁー」 

おびただしい冒険者達が重症を負って、痛みに耐えかねていた。 

その中にアリーは顔見知りを見つけた。 

「エグベルドさん!」 

アリーは慌てて副ギルド長、エグベルドの傍らに寄添った。 

「エグベルドさん、しっかりして!」 

重症を負っているエグベルドさんの顔を膝の上に乗せて励ますアリー。 

だが、エグベルドさんの命の灯は消え入りそうだった。 

「......エリー......すまない」 

エグベルドの視界は既に闇に閉ざされていた。 

アリーを自分の妻と勘違いしている。 

「......アリスのことを......頼む。本当にすまない」 

アリスは二人の愛の結晶、生まれて来る赤ちゃんの名前だろう。 

「エグベルドさん、しゃべらないで、傷に障ります」 

「アリーさん。このまましゃべらせてあげて」 

声をかけて来たのは、受付嬢のお姉さんだった」 

「......たくさんの人が亡くなって、生き残った人への治癒薬も......治癒魔法が使える魔法職の方々の魔力も、もう尽きてしまって」 

受付嬢のお姉さんの言わんとしていることはわかった。 

エグベルドさんは助からない。 

このまま、アリーが奥さんのエリーさんだと思ったまま死なせてあげて欲しい。 

それが受付嬢のお姉さんの願いだったのだ。 

「君と過ごした想いではとても楽しかったよ。 

 君が私に告白してくれた時は本当に嬉しかった。 

 今思えば、あの時が人生で一番幸せな時だったと思う。 

 ほんとうに嬉しくかったんだ。 

 本当なんだ。 

 だって他に思い出せないじゃないか? 

 始めて魔物を倒したときよりも、 

 副ギルド長に選ばれた時よりも、 

 一番嬉しかったのは、君が告白してくれた時、 

 初めてキスした時、あの時の君は可愛かったなぁ。 

 本当に嬉しかったんだ」 

「......エグベルドさん」 

アリーの目に涙が溢れんばかりにたまる。そして、一滴、二滴とエグベルドの顔を濡らす。 

「アリス。君に会えなかったことが心残りだ。 

君とずっと一緒にいたかった。 

きっと、エリーに似て、可愛い女の子に育つんだろうな。 

きっと、何をしても許してしまう、ダメなお父さんになっただろうな。 

君はどんどん可愛く、そして綺麗になるんだろな、それをずっと見ていたかった。 

......ああ......ああ。 

......本当に......本当に。 

死にたくない......なぁ。 

......二人と一緒にずっといたかった......なあ。 

......ああ、あいして......いるよ......エリー、アリ......ス」 

最後の命の灯を妻のエリーと愛娘のアリスへの言葉に使って、エグベルドは逝ってしまった。 

「......エグベルド......さん」 

ポタポタとアリーの瞳から大粒の涙がエグベルドの顔に落ちていく。 

「エグベルドさんは何故?」 

アリーらしくないキツイ詰問口調で、受付嬢に聞く。 

「副ギルド長は、昨晩の壊滅した中級冒険者パーティが出会った魔物群を不審に思って、調査隊を編成したの。そうしたら、とんでもなく強い魔物達に出会ってしまって......それに、この街の危機は脱していません。スタンピードなんです。この街の全戦力が迎撃に向かっています」 

「南の方ですね」 

「......はい」 

それを聞き取ると、アリーはばさりと背中に白い羽根を生み出し、空を見上げた。 

その姿は多くの人の目に焼き付いた。 

金髪の髪は風にたなびき、緩やかに広がり美しい曲線を描き、碧い目は吸い込まれるかのように何処までも澄んでいる。周りの人々を惚けさせるには十分な美しさだった。 

皆の頭に一つの言葉が浮かぶ。 

『沈黙の聖女さま?』 

白いスカートが風で膨らみ、白いキュロットスカートのフリルがフルフルと揺れる、そして白い翼から落ちた何枚かの羽根が彼女の周りを包み込み、まるで花が咲いたかの様な彼女が地面を蹴る。 

空高く舞い上がる彼女に、それが伝説の沈黙の聖女の再臨だと誰しもが確信した。 

その時。 

「う、ん? 私は一体?」 

なんと、死んだ筈のエグベルドはすっかり息を吹き返した。 

それは500年前の聖女と同じ......涙の奇跡だった。 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!

貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる

みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。 「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。 「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」 「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」 追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

最後に報われるのは誰でしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
散々婚約者に罵倒され侮辱されてきたリリアは、いい加減我慢の限界を迎える。 「もう限界だ、きみとは婚約破棄をさせてもらう!」と婚約者に突きつけられたリリアはそれを聞いてラッキーだと思った。 限界なのはリリアの方だったからだ。 なので彼女は、ある提案をする。 「婚約者を取り替えっこしませんか?」と。 リリアの婚約者、ホシュアは婚約者のいる令嬢に手を出していたのだ。その令嬢とリリア、ホシュアと令嬢の婚約者を取り替えようとリリアは提案する。 「別にどちらでも私は構わないのです。どちらにせよ、私は痛くも痒くもないですから」 リリアには考えがある。どっちに転ぼうが、リリアにはどうだっていいのだ。 だけど、提案したリリアにこれからどう物事が進むか理解していないホシュアは一も二もなく頷く。 そうして婚約者を取り替えてからしばらくして、辺境の街で聖女が現れたと報告が入った。

異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。

真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆ 【あらすじ】 どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。 神様は言った。 「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」 現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。 神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。 それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。 あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。 そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。 そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。 ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。 この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。 さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。 そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。 チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。 しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。 もちろん、攻略スキルを使って。 もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。 下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。 これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

処理中です...