上 下
11 / 51

11アリーはビッチになりたい

しおりを挟む
「副ギルド長、私の体狙ってます?」 

「は?」 

副ギルド長の驚きは当然だった。親切のつもりで、こんなことを言われたら、普通怒っていいと思う。 

「ごめんなさい。私如きにそんな気持ちがわかないことは知っています。でも、一応、こういうことはちゃんと確認しておけって、お姉ちゃんから言われていて」 

「君のお姉さんは君の身を案じて、そういうしつけをしたのか? 良くわからんが、安心してくれ。私はこれでも副ギルド長を任された身だ。新人冒険者に手を出すような真似は決してしない。それに、私には妻がいる。今、身重でな」 

「(どうしよう魔剣さん!)」 

「(どうしようって、素直にお世話になった方がいいんじゃないかな?)」 

「(でも、奥さんが身重なんですよ?)」 

「(奥さんがいる身で、そんな変なことはできないだろう?)」 

アリーが魔剣と話している間、副ギルド長はほったらかしだが、彼は怪訝に思った。 

アリーの自己評価の低さがおかしい。アリーは金髪、碧眼の美しい少女だ。 

ある意味、自分の純潔の心配をするのは当然のことだ。 

もちろん、彼にそんな下心などないし、彼は善良な人間だ。 

ただ……この少女、こんなに美しい子だっけ? そう思った。 

彼の疑問は当然だ。このギルドに入ったばかりの頃のアリーはガリガリに痩せていて、その美しさに誰も気が付かなかった。良く見ると本人と確認できるが、たいていの人は別人と思うだろう。 

アリーは聖剣の力を得て、魔物の血を飲んだ時、すっかり栄養状態が良くなった。 

唯一、胸だけは貧弱なままだったが、そこは基本スペックだからどうしようもない。 

「(奥さんが身重なんだよ。きっと溜まっているんだよ)」 

「(君、そんな知識、どこから持ってきたの?)」 

「(家にあった古代書に書いてあったの。なんかR18とか書いてあったよ)」 

それはあかんやつである。 

「(きっとね、奥さんが寝ているすぐそばでするとか、スゴイこと考えてるよ)」 

「(いや、君の方こそスゴイこと考えているだろ? それに失礼だろ? この人そんな人には見えないよ。僕にはただのいい人にしか見えない)」 

「(そうかな?)」 

「(そうだよ。それにいざとなったら、僕の力を使って、懲らしめればいい)」 

「(そっか!)」 

ようやく、アリーと聖剣の間で折り合いがつき、副ギルド長に宿泊のお願いをする。 

「わかりました。一晩泊めてください。御恩は後日何かでお返しします」 

ぺこりと頭を下げるアリー。 

「うん、わかった。ついておいで、奥さんに紹介するよ」 

「はい……あと」 

「どうした?」 

「あ、あの、万が一、魔がさした時はその……わ、私、初めてなので、優しくしてね」 

「は?」 

「(こらー!)」 

「ひゃぁ!」 

魔剣から怒られるアリー。 

「(君、何言ってんの? 失礼だろ? それに、それじゃむしろ君の方から誘っているようなものだろ?)」 

「(だって、副団長さん、年上の貫禄があって、イケメンだし、雰囲気が良ければ、いいかなって、えへ)」 

「(君はビッチなのか? 雰囲気が良くて、相手がイケメンだと簡単に体を許すような女の子なのか?)」 

「(わ、私みたいな貧弱な女……間違いでも起こしてもらわないと嫁の貰い手もないんだよ。大丈夫だよ。誰も私如きにそんな気持ち湧かないよ)」 

「(ううっ!)」 

聖剣はアリーの尻の軽さが自身の容姿への劣等感からだと知ると、言葉に詰まった。 

『だからと言って、今は美少女になってるって、教えると、絶対調子に乗るよな?』 

聖剣はあえて黙っていることにした。 

それにいざとなったら、アリーの体を乗っ取って、正義の鉄槌を下すつもりだ。 

美少女のアリーに手を出すなんて、僕が許さない。 

聖剣も結構勝手である。 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

追放勇者ガイウス

兜坂嵐
ファンタジー
「クズだから」 あまりに端的な理由で追放された勇者。 その勇者の旅路の果ては…?

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...