吸血鬼アリーは最強の魔王になりたい~実家に追放された上、騙されて命を落とした少女最強になる? 無自覚なので、何故か沈黙の大聖女になりました~

島風

文字の大きさ
上 下
5 / 51

5アリーは家族と食事がしたい

しおりを挟む
アリーは火竜の寝床に入った。人間とはサイズが違うがダンジョンの石の床より、藁が敷き詰められた火竜の寝床の方が快適そうだった。 

「(ねえ、寝入る前に、君のことを教えてくれないかな? 君は何故冒険者なんてしていたんだい?)」 

「(うん、いいよ。話すよ。というより、愚痴になっちゃう。情けない人生だったから)」 

アリーは自分の人生を語り始めた。 

 

魔法王国、ユグドラシル。  

その名の通り、魔法が国家の根幹にある王国である。  

アリーはそのグラキエス男爵家に三女として生を受けた。 

グラキエス男爵家は元々優れた魔法研究により、男爵を叙勲されたが、最近は強力な攻撃魔法や治癒魔法の使い手を代々輩出している。魔法では名門の一族として一目置かれていた。 

グラキエス男爵家の者は魔法が使えて当然、より強力な魔法を使える者が優秀であるという家風だった。 

そんな中で、魔力が極端に弱いアリーは家族からも疎まれ、蔑まれて生きて来た。 

 

「わ、私のご飯は?」 

「これがそうです。お嬢様」 

手渡された籠にはかじった跡があるパンくずのようなパンと、残り物のスープを水で薄めた物。 

「それにしても、口を開けば食事のことばかり、もう少し、貴族のご令嬢らしく振舞って頂きたいものです」 

冷たく言い放つ使用人の言葉はとても主の娘へものではなかった。 

「......はい」 

痩せこけたアリーにとっては食事は命に係わる問題なのだ。 

それでも、使用人に文句ひとつすら言えない。すべてはこの家の家風が原因だ。 

アリーに与えられていた部屋は屋根裏部屋だった。とても実の娘に対する仕打ちとは思えない。 

家族にとって、アリーは人に見られたくない、汚物だったのだ。 

 

アリーの夢、それはいつか魔法を上手く扱えるようになって、家族と一緒に食事をとることだった。 

アリーには家族と一緒に食事をとることは許されていない。 

与えられた食事は使用人の残飯。時には抜かれてしまう時があった。 

明るい笑い声が聞こえてきた。長女のエリザベスのものだろう。 

父や母の声も聞こえる。長女のエリザベスは同世代では最大の魔力を持ち、王家からも期待を寄せられるグラキエス男爵家の宝だった。 

エリザベスと会話をしたのは、魔力測定をして以来、一度もない。 

いや、次女のソフィア以外と家族と話した記憶がない。 

そんなアリーにも家族で食事をした経験があった。 

まだ、魔力測定をしていなかった頃。 

ようやく物心がついて来た頃。 

アリーにとって、家族と一緒の食事は最高に幸せな時間だったと記憶している。 

「みんなと......ごはんが食べたい」 

ただ、そう一言呟くと、硬いゴミクズのようなパンをかじる。 
 

それでも、アリーはまだ家族と食事を共にすることを夢見て魔法の鍛練を欠かさなかった。 

あの日までは。 

それは、スキルの鑑定の儀の日。 

この国では16歳になると、スキルの鑑定を行う。 

スキルは生まれて来た時から身に着くわけではない。 

一定の年齢にならないと、発現しないのだ。 

もちろん、全ての人に宿る訳でもない。 

だが、アリーに現れたスキルは。 

 

スキル【無自覚】 

 

意味不明のスキルだった。 

 

「この出来損ない! 貴様は追放だ!!」     

冷たく、大きな声が、部屋中に響いた。    

「生まれた時から落ちこぼれだとは思っていたが、よりにもよってこんなハズレスキルとはな! お前らしい!!」    

怒りと嘲りの両方を含んだ声が、アリーに冷たく浴びせかけられる。    

「優秀な姉たちに比べて、何の成長もないばかりか、魔法すらろくに使えないことが確定するとはな! このグラキエス家に恥をかかせおって!! 名誉あるわが家からハズレスキル持ちが現れるなぞ!! そんなお前を今まで養わなければならなかったワシの気持ちが、お前に分かるか?」    

バシン! 父はアリーに近付くと、その頬を平手で叩いた。      

アリーの頬が赤くなり、同時にガシャンと花瓶が割れる音が響く。     

父が怒りに任せて花瓶を床に叩きつけたのだ。    

 

こうして、アリーは実家を追放された。 

 

『魔力が極端に少ないだと? そんな馬鹿なことが』 

 

聖剣は一人沈痛な気持ちになる。 

アリーの境遇を不憫に思うも、重大な問題があった。 

聖剣の適合者は聖なる心を持つこと、そして魔法に優れていることだったからだ。アリーは火竜の寝床に入った。人間とはサイズが違うがダンジョンの石の床より、藁が敷き詰められた火竜の寝床の方が快適そうだった。 

「(ねえ、寝入る前に、君のことを教えてくれないかな? 君は何故冒険者なんてしていたんだい?)」 

「(うん、いいよ。話すよ。というより、愚痴になっちゃう。情けない人生だったから)」 

アリーは自分の人生を語り始めた。 

 

魔法王国、ユグドラシル。  

その名の通り、魔法が国家の根幹にある王国である。  

アリーはそのグラキエス男爵家に三女として生を受けた。 

グラキエス男爵家は元々優れた魔法研究により、男爵を叙勲されたが、最近は強力な攻撃魔法や治癒魔法の使い手を代々輩出している。魔法では名門の一族として一目置かれていた。 

グラキエス男爵家の者は魔法が使えて当然、より強力な魔法を使える者が優秀であるという家風だった。 

そんな中で、魔力が極端に弱いアリーは家族からも疎まれ、蔑まれて生きて来た。 

 

「わ、私のご飯は?」 

「これがそうです。お嬢様」 

手渡された籠にはかじった跡があるパンくずのようなパンと、残り物のスープを水で薄めた物。 

「それにしても、口を開けば食事のことばかり、もう少し、貴族のご令嬢らしく振舞って頂きたいものです」 

冷たく言い放つ使用人の言葉はとても主の娘へものではなかった。 

「......はい」 

痩せこけたアリーにとっては食事は命に係わる問題なのだ。 

それでも、使用人に文句ひとつすら言えない。すべてはこの家の家風が原因だ。 

アリーに与えられていた部屋は屋根裏部屋だった。とても実の娘に対する仕打ちとは思えない。 

家族にとって、アリーは人に見られたくない、汚物だったのだ。 

 

アリーの夢、それはいつか魔法を上手く扱えるようになって、家族と一緒に食事をとることだった。 

アリーには家族と一緒に食事をとることは許されていない。 

与えられた食事は使用人の残飯。時には抜かれてしまう時があった。 

明るい笑い声が聞こえてきた。長女のエリザベスのものだろう。 

父や母の声も聞こえる。長女のエリザベスは同世代では最大の魔力を持ち、王家からも期待を寄せられるグラキエス男爵家の宝だった。 

エリザベスと会話をしたのは、魔力測定をして以来、一度もない。 

いや、次女のソフィア以外と家族と話した記憶がない。 

そんなアリーにも家族で食事をした経験があった。 

まだ、魔力測定をしていなかった頃。 

ようやく物心がついて来た頃。 

アリーにとって、家族と一緒の食事は最高に幸せな時間だったと記憶している。 

「みんなと......ごはんが食べたい」 

ただ、そう一言呟くと、硬いゴミクズのようなパンをかじる。 
 

それでも、アリーはまだ家族と食事を共にすることを夢見て魔法の鍛練を欠かさなかった。 

あの日までは。 

それは、スキルの鑑定の儀の日。 

この国では16歳になると、スキルの鑑定を行う。 

スキルは生まれて来た時から身に着くわけではない。 

一定の年齢にならないと、発現しないのだ。 

もちろん、全ての人に宿る訳でもない。 

だが、アリーに現れたスキルは。 

 

スキル【無自覚】 

 

意味不明のスキルだった。 

 

「この出来損ない! 貴様は追放だ!!」     

冷たく、大きな声が、部屋中に響いた。    

「生まれた時から落ちこぼれだとは思っていたが、よりにもよってこんなハズレスキルとはな! お前らしい!!」    

怒りと嘲りの両方を含んだ声が、アリーに冷たく浴びせかけられる。    

「優秀な姉たちに比べて、何の成長もないばかりか、魔法すらろくに使えないことが確定するとはな! このグラキエス家に恥をかかせおって!! 名誉あるわが家からハズレスキル持ちが現れるなぞ!! そんなお前を今まで養わなければならなかったワシの気持ちが、お前に分かるか?」    

バシン! 父はアリーに近付くと、その頬を平手で叩いた。      

アリーの頬が赤くなり、同時にガシャンと花瓶が割れる音が響く。     

父が怒りに任せて花瓶を床に叩きつけたのだ。    

 

こうして、アリーは実家を追放された。 

 

『魔力が極端に少ないだと? そんな馬鹿なことが』 

 

聖剣は一人沈痛な気持ちになる。 

アリーの境遇を不憫に思うも、重大な問題があった。 

聖剣の適合者は聖なる心を持つこと、そして魔法に優れていることだったからだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

聖女なのに王太子から婚約破棄の上、国外追放って言われたけど、どうしましょう?

もふっとしたクリームパン
ファンタジー
王城内で開かれたパーティーで王太子は宣言した。その内容に聖女は思わず声が出た、「え、どうしましょう」と。*世界観はふわっとしてます。*何番煎じ、よくある設定のざまぁ話です。*書きたいとこだけ書いた話で、あっさり終わります。*本編とオマケで完結。*カクヨム様でも公開。

半神の守護者

ぴっさま
ファンタジー
ロッドは何の力も無い少年だったが、異世界の創造神の血縁者だった。 超能力を手に入れたロッドは前世のペット、忠実な従者をお供に世界の守護者として邪神に立ち向かう。 〜概要〜 臨時パーティーにオークの群れの中に取り残されたロッドは、不思議な生き物に助けられこの世界の神と出会う。 実は神の遠い血縁者でこの世界の守護を頼まれたロッドは承諾し、通常では得られない超能力を得る。 そして魂の絆で結ばれたユニークモンスターのペット、従者のホムンクルスの少女を供にした旅が始まる。 ■注記 本作品のメインはファンタジー世界においての超能力の行使になります。 他サイトにも投稿中

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

処理中です...