上 下
41 / 46

41おっさん、魔王になる

しおりを挟む
お嬢様を助け出した俺は広場からかなり離れたところまで逃げた。 

「もう、安心ですぜ、お嬢様」 

「あ、ありがとう! 必ず助けに来てくれると思っていたぞ! おっさん!」 

「当然の事をしただけですぜ。俺はお嬢様の護衛なんですぜい」 

「……だが、私は勇者失格だぞ。たった一人の魔族にすら勝てないなんて」 

「魔族?」 

「ああ、森に入ってフェンリル狼とか雑魚を蹴散らしていたらな。魔族が出た」 

そう言うと、お嬢様は下を向いた。多分、魔族に負けた上、あんな目にあって、か弱いお嬢様はさぞかし心細かったにちげえねえ。 

「ところで、聖女ちゃんは何処にいるんでさ?」 

「ミアちゃんは魔王城に囚われているぞ」 

「魔王城? それは最深部にあるんじゃ?」 

「それが、この辺から10分位のとこにあるんだ。おそらく魔王軍は人界に攻め込むために拠点を前進させたんだぞ」 

なるほど。そう言えば、昇華石が埋まったフェンリル狼やトカゲが出たな。 

あれらは全部魔王の仕業か。 

確かにそう考えると辻褄が合うな。 

「助けに行って来ますぜ」 

「えっ? 魔王城には魔王が」 

「例え死んでも、聖女ちゃんを助けて帰って来やすぜ。俺は盗賊でさ。真正面に魔王とやり合う気はごぜえやせん」 

「……え……え……え?」 

お嬢様は目をクルクルさせていた。可愛いー! 

「ここで、結界を張ってお来ますぜ。ここで休んでいてくだせえ」 

そういうと俺は魔物避けの結界を貼って、お嬢様を残して魔王城へ向かった。 

魔王城までの道のりは簡単だった。 

あからさまに道路が作られていて、一番奥に城が見えた。 

途中、たくさん魔物が出たがサクサク潰した。 

見たことねえ魔物ばかりだったが、雑魚ばかりで助かった。 

魔王城の前でとうとう魔族が現れた。 

「お前、魔族か?」 

魔族は女だった。かなり若い。ちなみに乳はGカップ位か? 

俺は魔族の胸をついついガン見してしまった。 

「ここで、撃退したいが、私の力では勝負にならん」 

「は? お前、戦わないのか?」 

「私はどうも今の魔王に忠誠を持ち辛くてな。その……同じ女として人界の勇者への仕打ちはどうも私の趣味には合わん」 

「お前……。上司を裏切るの? サラリーマンだったら、かなり酷いヤツだぞ?」 

「いや、単に、私はあんな非道な上司にはついていけないだけだ。それに私ではお主には役不足だ。私も死にたくはない」 

「ふーん、どうも拍子抜けだが、ありがたく進ませてもらうぞ」 

こうして魔王城を進んだが、何故か他の魔族の攻撃はなかった。 

そして、魔王の間まであっさり進んだ。 

「来たか、人間よ」 

「いいけど、普通魔王城に来るんなら、魔王四天王とか、魔王5人衆とか、襲って来るもんじゃないのか? なんかもう、拍子抜けだぞ?」 

「四天王なら、副官兼四天王のネーナを刺客に送ったはずじゃが?」 

「褐色の肌と銀の髪に、頭に巻角のある女の子のことか?」 

「ああ、その女だ。って! まさか、お前、ネーナを殺したのか?」 

「いや、殺す処か戦ってもいないぜ。お前についていけないそうだ」 

「あ、あのくそ女ぁ! あんなに目をかけてやったのに! そ、それに俺の気持ちにだって気がついている筈なのにぃ!」 

「……」 

部下どころか、好きな女に見捨てられたのか……ちょっと可哀想なヤツだな。 

「……で? 他の四天王はどうしたんだ?」 

「い、いや。予算不足なんだ。人界殲滅作戦で戦費がかさんで、決して部下になってくれる魔族がいなくて、幼馴染のネーナに無理やり頼んだ訳じゃないからな! あくまで予算不足だ! そこを間違えるな!」 

「……お前、友達少ないタイプだろ?」 

「うるさい、お前に何がわかる、わ、私の孤独がぁ!」 

一人しかいないのに四天王とか……ましてや副官と兼任の上……幼馴染。 

幼馴染の女の子しか相手にしてくれない上、捨てられたのか? 

……こいつ。 

ますます哀れになって来た。 

「な、なんだ! その哀れんだ目は!」 

「いや、何も言うな。俺はわかってやれるぞ」 

俺は魔王と話しながら聖女ちゃんの姿を探した。 

いた。聖女ちゃんは裸で、お嬢様の様に木の枷と隷属の首輪をされていた。 

「お前は女の子への配慮が足りないな。幼馴染の女の子でも見捨てられるのも当然だ」 

「何故、私が人間の勇者たちに配慮しなければならないのだ! こいつらは私の命を狙っているんだぞ!」 

「だが、趣味が悪いぞ。お前の趣味か?」 

「う、うるさい、少し位役得があってもいいだろう!」 

「やはりお前とは会いいれられないようだ。お前は俺を怒らせた、俺のリスペクトするお嬢様や聖女ちゃんに辱めを与えた。悪いが倒す」 

「人間にそんな事ができる訳がなかろう?」 

「多分、簡単だと思う」 

「な、お前馬鹿か? 人間と魔族にどれだけの差があると思うのだ。魔族と対等に戦えるのは高レベルの勇者だけだ」 

「でも、俺、ChatとWikiでお前が弱いこと調査済みだから」 

「ちゃ? ウィき? なんだそれは? そんな馬鹿な事があるか! 今、その馬鹿げた妄想を打ち消してやる」 

魔王は剣を抜いた。 

俺も久しぶりに聖剣をアイテムボックスから取り出して構えると魔王と戦い始めた。 

スキル『縮地』で距離をつめる。そして、一太刀。 

魔王は対処できず、時間稼ぎで魔法を放った。 

魔王の攻撃魔法を素受けする。 

「馬鹿が、この魔法を受けてただで済む訳がな.....な.....ない」 

ただで済んだ。 

俺も攻撃魔法を唱えた。 

「炎よ、岩を砕き、貫く矢となりて、我が敵を焼き尽くせ!『フレアアロー』。 

俺の攻撃魔法は魔王に吸い込まれた。 

「馬鹿な! 何故だ、ただのフレアアローに何故こんな威力が!」 

「俺のフレアアロー、レベル99なんだ。ディスカウントショップで素材はたっぷりつぎ込んだ」 

「そんな馬鹿な! あり得ん」 

「まあ、信じるか信じないはお前次第だ」 

そういうと俺はスキル『縮地』で魔王に接近すると俺の剣が魔王を捉えた。 

「グアッ!」 

効いてる。効いてる。 

「お前はやりすぎたんだ。お嬢様達に悪さをしなければ、話し合いで解決する糸口もあると思ったんだがな」 

そういうと、俺は『空間転移』で、魔王の後ろに周りこむと、魔王に剣を振るった。 

魔王は胴で、上半身と下半身が別れた。 

「ば、馬鹿な」 

そう言うと、魔王は黒い結晶の様なものに変わって行き、消えた。 

あっさりしたものだ。 

「ん、んん。おじさま?」 

ちょうど、目を覚ました聖女ちゃんが俺によって来た。 

あ、勘弁して、裸だと俺、ちょっと前屈みになっちゃう。 

「困ったな。聖女ちゃんに何とか服を用意できないかな?」 

「かしこまりました。魔王様」 

は? 今、なんか変な事、誰か言わなかったか? 

魔王は死んだろ? 

何処に魔王がいるんだ? 

さっきの魔王を裏切った魔族、ネーナが現れ、聖女ちゃんに服を渡して着せた。 

元々着てた、清楚な魔法学園の制服だ。 

よかった。これで俺の下半身の心配がなくなった。 

「魔王様、この者達は如何なさいますか?」 

「ちょっと待て、誰が魔王なんだ?」 

「あなた様です」 

「は?」 

「魔王様は魔王を倒したものに受け継がれます。例外は勇者に倒された場合のみです」 

「じゃ、俺、魔王なの?」 

「おっしゃる通りです」 

俺はすごく困った。 

「誰か代わってくれないの?」 

「致しかねます」 

俺は観念したが、とにかく、聖女ちゃんと何故かくっ付いて来た元魔王の副官兼四天王兼幼馴染のネーナを連れて、お嬢様の元へ行き、装備を返して、食糧や旅に必要なアイテムを渡した。 

「それじゃ、二人とも気をつけて帰ってくだせえ。俺はちょっと、魔王の仕事しなければならないみたいですぜ」 

「おっさん、来てくれないのか?」 

「魔王になっちゃったんでさ。まずは、人に害をなさない様にしておく必要がありやす」 

「わ、わかった。とにかく、帰り次第、魔王はおっさんの手によって滅ぼされたことを報告するぞ」 

「おじさま、危ないところをありがとうございました」 

二人とも、ぺこりと頭を下げた。 

「「おっさん/おじさま、すぐに逢いに来るぞ/からね」」 

そう言って、王都へ帰って行った。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

ちょっと神様!私もうステータス調整されてるんですが!!

べちてん
ファンタジー
アニメ、マンガ、ラノベに小説好きの典型的な陰キャ高校生の西園千成はある日河川敷に花見に来ていた。人混みに酔い、体調が悪くなったので少し離れた路地で休憩していたらいつの間にか神域に迷い込んでしまっていた!!もう元居た世界には戻れないとのことなので魔法の世界へ転移することに。申し訳ないとか何とかでステータスを古龍の半分にしてもらったのだが、別の神様がそれを知らずに私のステータスをそこからさらに2倍にしてしまった!ちょっと神様!もうステータス調整されてるんですが!!

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

家族に辺境追放された貴族少年、実は天職が《チート魔道具師》で内政無双をしていたら、有能な家臣領民が続々と移住してきて本家を超える国力に急成長

ハーーナ殿下
ファンタジー
 貴族五男ライルは魔道具作りが好きな少年だったが、無理解な義理の家族に「攻撃魔法もろくに使えない無能者め!」と辺境に追放されてしまう。ライルは自分の力不足を嘆きつつ、魔物だらけの辺境の開拓に一人で着手する。  しかし家族の誰も知らなかった。実はライルが世界で一人だけの《チート魔道具師》の才能を持ち、規格外な魔道具で今まで領地を密かに繁栄させていたことを。彼の有能さを知る家臣領民は、ライルの領地に移住開始。人の良いライルは「やれやれ、仕方がないですね」と言いながらも内政無双で受け入れ、口コミで領民はどんどん増えて栄えていく。  これは魔道具作りが好きな少年が、亡国の王女やエルフ族長の娘、親を失った子どもたち、多くの困っている人を受け入れ助け、規格外の魔道具で大活躍。一方で追放した無能な本家は衰退していく物語である。

新しい自分(女体化しても生きていく)

雪城朝香
ファンタジー
明日から大学生となる節目に突如女性になってしまった少年の話です♪♪ 男では絶対にありえない痛みから始まり、最後には・・・。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~

秋鷺 照
ファンタジー
 強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)

処理中です...