上 下
25 / 46

25おっさんは聖女ちゃんの相談に乗る←恋愛フラグ進行中

しおりを挟む
散々遊んで、少し陽が落ちてきたので、帰り支度をして、俺は聖女ちゃんを教会まで送っていた。 

「……ありがと。久々に楽しかった」 

そう言った聖女ちゃんは少し寂しそうだった。 

おかしい。 

吹っ切った筈なのに、なぜ? 

俺は思い切って、踏み込んだことを聞いた。 

「もしかして……他にも逃亡した原因がありやすかい?」 

俺の質問に対し、聖女ちゃんは驚いた顔になる。 

「……どうしてわかったのですか?」 

「ミアさんは立派な聖女様です。周りの人のこともあるでしょうが、それだけじゃない。……もっと重大な何かが……あるのじゃねえですかい?」 

「おじさま……すごい。何でもお見通しなんだね」 

「一体、何があったんですかい?」 

「……お母様にね。……お前なんて、聖女じゃないって言われたの」 

「俺には親がいないので、わかりやせんが、本意ではないと思いやすぜ」 

「お母さんは治癒の乙女の固有スキルを持つ聖女だったの……それで、剛腕の乙女のスキルを持つ……つまり、治癒なんてこれっぽっちも得意じゃない私に愛想を尽かしたんだと思う」 

俺には親がいない。 

だけど、一つだけわかることがあった。 

「ミアさんは聖女の仕事が嫌いなんですかい?」 

「……そ、それは。私はお母様に憧れて聖女になったのに……そのお母様に認めてもらえないなんてね」 

「そうじゃなくて、ミアさんは聖女の仕事が好きなんですかい? って聞いてるんです」 

「……え?」 

思わず聖女ちゃんの言葉に逆らってしまった。  

「自分の人生は自分が決めるものでやす。お母さんの真意はわかりやせんが、さっき、少年を助けたミアさんはとてもいい顔でしたぜ。聖女の仕事、好きなんでしょう? 好きなら、お母さんのことは置いておいて、自分のために努めればいいだけはないですかい?」 

「私が聖女の仕事が好き?」 

「嫌いなんですかい?」 

「そ……そんなことは」 

聖女ちゃんは不意を突かれたような面持ちだった。 

おそらく考えたことがないのだろう。 

誰の為に仕事をしているのか? 

自分のため? 

お母さんのため? 

違う。聖女ちゃんはみんなの為に働いていたと思う、無自覚に。 

「……わ、私はお母様に認めてもらうために……ただ、そう思って頑張って……皆さんが思うほど私は清らかな聖女なんかじゃなくて……聖女は目的のための手段でしかなくて、お母様が喜んでくれないのに、私、何やってたんだろうって、だから……」 

「それは違いやす」 

俺は聖女ちゃんの言葉に違を唱えた。 

「……どうしてそう思うんですか? 私はただの女の子です。清らかな聖人なんか……じゃ」 

「ミアさんは普通の女の子でさ。溺れ死にそうな男の子を助けられて喜ぶ、普通の女の子。違えやすか? だってミアさん、人が喜ぶの大好きでしょう?」 

「普通の女の子……普通の女の子みたいに人が喜ぶのが……好き?」 

やっぱり無自覚だったんだ。 

手段と割り切ってできるほど聖女様は楽とは思えねぇ。 

それにさっき、溺れ死にしだった少年を助けようとした聖女ちゃんの熱意も、うまくいった時の笑顔も本物だった。 

「……私、そうなの?」 

「さっきの少年を助けた時の笑顔はキラキラと輝いていて、見惚れましたぜ。惚れそうでしたぜ」 

「……」 

いけね。惚れそうとか言っちまった。 

きっと、キモいとか思われてる。 

「私、そんな聖人君子じゃ……」 

「そうですかねぇ? 人を助けた時、本当に何とも思わなかったですかい?」 

「……うれし……かった」 

俺はキモい発言を誤魔化す為に畳み掛けた。 

聖女ちゃんは自分の気持ちに気がついていない。 

人の意思ではなく、自分の意思で聖女をしていたことを。 

「…………そっか。私、お母様のためじゃなくて、自分のために聖女してたんだ」 

「やっぱりそうじゃねえですかい」 

「……うん。そうみたい」 

聖女ちゃんの顔は、どこまでも晴れやかに、キラキラ輝くように素敵な笑顔が浮かんでいた。 

「……今までずっと、お母様に褒めてもらおうと思ってた。尊敬するお母様に認めてもらいたくて。歴代の聖女でも三本の指に入ると言われたお母様の期待に応えたくて、私はひたすら聖女として頑張って来た。……でも、違ったんだね。いつの間にか、聖女の仕事が好きになってたんだ」 

自分で自分の気持ちを整理する為に言葉を紡ぐ聖女ちゃん。 

「ミアさんがやるせなかったのは、頑張っていた聖女の仕事を、尊敬するお母さんに否定されてショックを受けたんでさ」 

「……そう。私はお母様に褒めてもらいたかった。それは……事実」 

「何、気にすることはありやせんぜ。お母さんが何と言おうと、ミアさんの聖女の仕事に対する想いを伝えるんでさ。ミアさんは普通の女の子みたいに、人を助けると笑顔になれるんだって言えばいいだけでさ」 

「でも、お母様は……私なんて聖女じゃ……ないって」 

「多分、お母さんの本意は他にあると思いやすぜ。最近知り合った俺でも、ミアさんが人を助けたり、人が喜ぶのが好きな人だって思いやすぜ。聖女だったお母さんがそんな想いを汲まない訳がないですぜ。……きっと、お母さんには何か事情があって、わざと冷たく振る舞ったんじゃないですかね」 

「…………」 

「まずはお母さんと、ちゃんと向き合って、じっくり話しあってみてくだせえ」 

「……うん、そうだね。逃げてちゃ何も始まらないね」 

どうやら、今度こそ、キチンと吹っ切れたようだ。 

さっきのどこか寂しげな表情ではなく、自信に満ちた笑みを浮かべて、歩き出した。 

それは聖女ちゃんが人の為ではなく、自分の為に歩き出したことを示唆するようだった。 

「おじさま……今度は違う意味で逃走してもいいかな?」 

「へ? 違う意味で逃走?」 

「嫌なことがあったら、おじさまの所で癒して欲しいな。だめ?」 

「べ、べ、別にい、い、いいですぜ。俺なんかで良ければ」 

聖女ちゃんの決意を汲んだかのように夏の爽やかな風が一陣吹いた。 

ヤバかった。 

もう一度会いたいなんて言われて、勘違いしそうになった。 

いかん、いかん、俺は勘違いしないおっさんなのだ。 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

家族に辺境追放された貴族少年、実は天職が《チート魔道具師》で内政無双をしていたら、有能な家臣領民が続々と移住してきて本家を超える国力に急成長

ハーーナ殿下
ファンタジー
 貴族五男ライルは魔道具作りが好きな少年だったが、無理解な義理の家族に「攻撃魔法もろくに使えない無能者め!」と辺境に追放されてしまう。ライルは自分の力不足を嘆きつつ、魔物だらけの辺境の開拓に一人で着手する。  しかし家族の誰も知らなかった。実はライルが世界で一人だけの《チート魔道具師》の才能を持ち、規格外な魔道具で今まで領地を密かに繁栄させていたことを。彼の有能さを知る家臣領民は、ライルの領地に移住開始。人の良いライルは「やれやれ、仕方がないですね」と言いながらも内政無双で受け入れ、口コミで領民はどんどん増えて栄えていく。  これは魔道具作りが好きな少年が、亡国の王女やエルフ族長の娘、親を失った子どもたち、多くの困っている人を受け入れ助け、規格外の魔道具で大活躍。一方で追放した無能な本家は衰退していく物語である。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順
ファンタジー
ある日、異世界と行き来できる『門』を手に入れた。 友人たちとの下校中に橋で多重事故に巻き込まれたハルアキは、そのきっかけを作った天使からお詫びとしてある能力を授かる。それは、THERE AND BACK=往復。異世界と地球を行き来する能力だった。 しかし異世界へ転移してみると、着いた先は暗い崖の下。しかも出口はどこにもなさそうだ。 「いや、これ詰んでない? 仕方ない。トンネル掘るか!」 これはRPGを彷彿とさせるゲームのように、魔法やスキルの存在する剣と魔法のファンタジー世界と地球を往復しながら、主人公たちが降り掛かる数々の問題を、時に強引に、時に力業で解決していく冒険譚。たまには頭も使うかも。 週一、不定期投稿していきます。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しています。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第七部開始】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

処理中です...