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64親父がもやしを食べて生活しているらしいのだが?
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「どうしてこうなったのだ……」
みすぼらしいあばらやにひきこもりながら、元賢者、アルの父親は一人呟く。
ベルナドッテ家は財務報告書の捏造が知れ渡り、ついに破綻した。
次男のアルベルトのせいで、私の人生が変わってしまった。
アルベルトが魔族を討伐したというニュースが王国中を駆け巡り、結果的に、アイツを追放したのがけしからんと王家から色々追及され、結果的に財務報告の虚偽までバレた。
私が各種利権を独占し、下級貴族から賄賂を巻き上げていたこと。
上級貴族に賄賂を贈り、様々な便利を図ってもらっていたこと。
みなやっていたことなのに!
息子が優秀すぎるが上に、その優秀な息子を追放してしまったばかりに、悪目立ちした。王都の平民からのヘイトもハンパない。
まあ、アルベルトを追い出したことは元妻のハンナに押し付けてやりはしたがな。
だが……そんな些末なことより、もはやこに王都に私の居場所はない。
長男のエリアスは相変わらず自室にこもったままだ。
どうやら心身喪失状態で、最近食事も満足にとらない。先日1ヶ月ぶり顔を見たら、まるで病人のように痩せ細り、青白い顔色が不気味だった。
目には光がなく、薄ら笑いを浮かべていた。
「いずれ……貴族に復帰するからな」
私が何の根拠もない、慰めの言葉をかけた時のエリアスの顔は傑作だったな。
ぱあ、と表情を明るくさせて、「頑張ってくれ」だの「お父さんなら出来る!」って……そう言って自室に戻って行ったな。
まあ、明日にはエリアスを置いて、王都を出て行くつもりだが。
このアホな長男の顔を見ることは二度とないだろうな。
それにつけても……あのクソ陛下。あのくたばり損いは私を責め立てた。
何故アルベルトを追放したのか?
何故領地経営の財務報告の虚偽報告なぞしたのか。
賄賂、横領……何故このようなバカな真似をしたんだとか。
何を言ってるんだ?
あの魔法の才能がないくせに生意気なアルベルトを懲らしめたいからだ、それのどこが悪い?
私が領地経営に失敗などするわけがない。だから復活するまで些末な情報を隠した、それのどこが悪い?
賄賂、横領、みなやっている。もちろん一番やっていたのは私だが、それのどこが悪い?
「……私のほうが追放されてたら世話ない、がな」
アルの親父ガブリエルはそう呟く。
その時。
——ガン!
ああ、またか。
誰かが、私の家の窓に石を投げ入れたんだろう。
もう何度も石を投げ込まれているから、今では窓ガラスは全部なく、窓際には石が散乱していた。
それだけではない。
時折、家の前で私を罵倒するヘイトスピーチをする者が後をたたない。
まあ、私が昔陥れた奴らだろうがな。
冒険者ギルドもそうだ。それまで神級魔法使いの私にへりくだっていた冒険者どもがすっかり掌を返して、今では上から目線で私の魔法に意見してくる。私を見下すとか……自惚れるな。
だからもう、かれこれ一週間、冒険者ギルドには行っていない。
何故、この私がこんな目に会うのだ?
何故、この私がこんな惨めな思いを?
決まってる。
アルベルト……あの出来損ないの息子のせいだ!
「必ず……必ず見返してやる……!」
そう決意し、私は昼食のもやしを口に入れる。
「……美味い」
私は粗食の中で、このもやしが一番美味いと思った。
いや、今はもうこれしか買えないのだが。
明日には遠くの街に移住しよう。
都落ちだが、やむを得まい。
他の街では自分の過去の経歴を隠して冒険者として生きよう。
何、冒険者としては一流の私……次の街ではちやほやされるに違いない。
そして運が向いてきたら、きっと貴族に復帰できるに違いない。
そして、あのアルベルドに復讐してやる。
そう考えると、顔の筋肉が緩んだ。
「ふ……ふふふ…!」
その妄想だけを信じて、私は一人、もやしを食べ続ける。
彼は知らなかった。この1週間でそれまで効果2倍だった安価な魔道具が5倍となり、既に彼の神級魔法の優位性はあまり無くなっていた。
そして、彼のような人間性の男とパーティを組みたがる冒険者はいまい。
来年には更に10倍の魔道具が安価に売り出される。
そう、彼の未来はない。
みすぼらしいあばらやにひきこもりながら、元賢者、アルの父親は一人呟く。
ベルナドッテ家は財務報告書の捏造が知れ渡り、ついに破綻した。
次男のアルベルトのせいで、私の人生が変わってしまった。
アルベルトが魔族を討伐したというニュースが王国中を駆け巡り、結果的に、アイツを追放したのがけしからんと王家から色々追及され、結果的に財務報告の虚偽までバレた。
私が各種利権を独占し、下級貴族から賄賂を巻き上げていたこと。
上級貴族に賄賂を贈り、様々な便利を図ってもらっていたこと。
みなやっていたことなのに!
息子が優秀すぎるが上に、その優秀な息子を追放してしまったばかりに、悪目立ちした。王都の平民からのヘイトもハンパない。
まあ、アルベルトを追い出したことは元妻のハンナに押し付けてやりはしたがな。
だが……そんな些末なことより、もはやこに王都に私の居場所はない。
長男のエリアスは相変わらず自室にこもったままだ。
どうやら心身喪失状態で、最近食事も満足にとらない。先日1ヶ月ぶり顔を見たら、まるで病人のように痩せ細り、青白い顔色が不気味だった。
目には光がなく、薄ら笑いを浮かべていた。
「いずれ……貴族に復帰するからな」
私が何の根拠もない、慰めの言葉をかけた時のエリアスの顔は傑作だったな。
ぱあ、と表情を明るくさせて、「頑張ってくれ」だの「お父さんなら出来る!」って……そう言って自室に戻って行ったな。
まあ、明日にはエリアスを置いて、王都を出て行くつもりだが。
このアホな長男の顔を見ることは二度とないだろうな。
それにつけても……あのクソ陛下。あのくたばり損いは私を責め立てた。
何故アルベルトを追放したのか?
何故領地経営の財務報告の虚偽報告なぞしたのか。
賄賂、横領……何故このようなバカな真似をしたんだとか。
何を言ってるんだ?
あの魔法の才能がないくせに生意気なアルベルトを懲らしめたいからだ、それのどこが悪い?
私が領地経営に失敗などするわけがない。だから復活するまで些末な情報を隠した、それのどこが悪い?
賄賂、横領、みなやっている。もちろん一番やっていたのは私だが、それのどこが悪い?
「……私のほうが追放されてたら世話ない、がな」
アルの親父ガブリエルはそう呟く。
その時。
——ガン!
ああ、またか。
誰かが、私の家の窓に石を投げ入れたんだろう。
もう何度も石を投げ込まれているから、今では窓ガラスは全部なく、窓際には石が散乱していた。
それだけではない。
時折、家の前で私を罵倒するヘイトスピーチをする者が後をたたない。
まあ、私が昔陥れた奴らだろうがな。
冒険者ギルドもそうだ。それまで神級魔法使いの私にへりくだっていた冒険者どもがすっかり掌を返して、今では上から目線で私の魔法に意見してくる。私を見下すとか……自惚れるな。
だからもう、かれこれ一週間、冒険者ギルドには行っていない。
何故、この私がこんな目に会うのだ?
何故、この私がこんな惨めな思いを?
決まってる。
アルベルト……あの出来損ないの息子のせいだ!
「必ず……必ず見返してやる……!」
そう決意し、私は昼食のもやしを口に入れる。
「……美味い」
私は粗食の中で、このもやしが一番美味いと思った。
いや、今はもうこれしか買えないのだが。
明日には遠くの街に移住しよう。
都落ちだが、やむを得まい。
他の街では自分の過去の経歴を隠して冒険者として生きよう。
何、冒険者としては一流の私……次の街ではちやほやされるに違いない。
そして運が向いてきたら、きっと貴族に復帰できるに違いない。
そして、あのアルベルドに復讐してやる。
そう考えると、顔の筋肉が緩んだ。
「ふ……ふふふ…!」
その妄想だけを信じて、私は一人、もやしを食べ続ける。
彼は知らなかった。この1週間でそれまで効果2倍だった安価な魔道具が5倍となり、既に彼の神級魔法の優位性はあまり無くなっていた。
そして、彼のような人間性の男とパーティを組みたがる冒険者はいまい。
来年には更に10倍の魔道具が安価に売り出される。
そう、彼の未来はない。
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