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59魔族の四天王が現れたのだが?
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カール・フィリップ・ユングリングは自身が王国一の魔法使いだと、自分より優れたものは絶対に存在しないと信じて疑らなかった。
自身は神に選ばれた存在で、特別な者であると。
しかし。
「……俺の勝ちです、カール殿下」
俺はカールを見下ろして、勝利を宣言していた。
見下されたカールは、信じられないという目で俺を見返していた。
そして、周りを見渡して、みなの表情を見てとって、どう優劣がついたかを客観的に確認した。
「私は負けていない……!」
尚も、認めなかった。頑固ちゃん。
「ち、ちがう、違うのだ! ありえないのだ! 私が負けるはずがないッ!! ──そうだ、これも試練だ。私はまだ真の覚醒を迎えていない、深淵覚醒のみ! そうだ! これから真の覚醒の余地が残っているんだ、そうでなければおかしい!」
「……そこまで、自分に都合良くしか考えることができず、都合の良い真の覚醒に縋るんだな」
「黙れぇッ! お前ごときに何が分かる! この私を見下すような発言! 不敬だろう!」
これまで他者を見下し続けていたカール。自身が初めて見下されたと感じた今この時、カールへ全ての報いが襲い掛かって来ていたのだろう。
だが、弱者の気持ちが理解できたかと言うと。
「わ、私にはまだ真の覚醒が――――」
カールはわかってもなお、認めなかった。
もう、この男には救いはないのだろう。既に人ではなくなっている。
そして、もうじき、人の理を忘れ、魔物と変わらない存在へと変わる。
せめて、最後に人としての心を取り戻してほしかったのだが。
それも、叶わなかったか。
その時!
「こ、これは?」
「どうしたの? アル?」
「アル様?」
「ご主人様?」
クリス達が不思議に思ったのだろう。俺が突然周りをキョロキョロと見渡し始めたから。
俺が感じた違和感。俺の探知のスキルに感があった。
以前のように隠ぺいのスキルを使用していない、あからさまに見つかることを承知の。
例の魔族の気配。
「ふふふッ――ようやく時が来ました。ヘル様への信心は十分、そして聖剣は解き放たれた」
一体いつの間にこんなに近くに近づいていたのか?
俺達のすぐ近くに例の魔物を大量召喚した魔族が姿を現した。
「聖剣とは一体何のことだ?」
俺は魔族を見据え、そう問うた。
聖剣? おそらく、カールの持っている穢れた剣のことだろう。
「ふふッ、いいでしょう。冥途の土産に教えて差し上げましょう。そこの馬鹿な王子が抜いてしまった魔王の復活と魔族の肉体と力を封じていた300年前の勇者の聖剣のことです」
「その聖剣が解き放たれるとどうなるんだ?」
素朴な疑問だった。魔族はここ300年姿を現していない。
しかし、300年ぶりに姿を現したこの魔族は魔王の復活と魔族の肉体と力を封じていた聖剣に言及している。それが解き放たれた?
「ふふっ、ですから、300年前にあなたたち人間の勇者がせっかく私達魔族の肉体と力を封じていた聖剣を、そこの勇者の末裔の馬鹿が抜いてしまったのです。私の甘言に乗せられてね」
そう言うと、魔族はローブのフードを取った。
「―――――!!!!」
それは崩御した筈のセシーリア女王の姿だった。
「女王陛下?」
「?」
「!?」
「お、お母さま……ち、違う、そんなはずがない、ち、ちが」
俺もみな驚いた。その姿は崩御した筈のセシーリア女王だった。
美しい上品な顔、だが、その姿は虚ろだった。
「この姿で、そこの馬鹿な王子に近づいて、白鷲教の信者とかし、聖剣を引き抜かせた。聖剣を抜けるのは勇者の末裔のみだからです」
「そ、そんな……」
さすがにカールは自身の失態の自覚があるようだ。間違いがない筈の男が初めて間違いに気が付いたか?
――――だが。
カールの厚顔無恥は俺達の想像をはるかに超えていた。
ここは一致団結して戦いに挑むべきところだ。たとえカールと言えども、協力してくれるなら、協力を得るべきだろう。
「―――― そういうことだったのかッ!!」
突然立ち上がり、生気が消えた目に爛々と闘志、というより狂気を宿らせたカール。
カールは無傷だ。俺の闇魔法が着弾する寸前で光球を反らせて直撃させていない。
ただ、彼我の差を理解させてだけだ。
消耗しつくしたのはプライドという精神だけ。
だが、突然彼のプライドは復活し、消耗している魔力と精神にむち打ち、嬉々として立ち上がると、残り少ない魔力でカールの深淵魔法を唱えた。
「ふ、ふふ! 私がお前の甘言に騙されただと! 違う! 私はお前の油断を誘うためにこうしたのだ! こうなると――わかっていて――そう、お前と戦うために力を温存して――私は本気じゃなかった! そして、お前と戦うことで私の真の覚醒が待っているのだッ!!」
という妄言を叫ぶと、信じがたいことに。
――あの魔族に向かって、一人で攻撃を初めたのだった。
「『流刑の神々【セブンス・ペイン】!!』」
こいつ、もう知らん。多分死ぬな。
再び深淵魔法を唱えたカールは魔族に向かって渾身の魔法を叩き込み。
――しかし、カールの魔法はあっさりと――全く効いていなかった。
「え?」
ドコーン
カールは天高く吹っ飛んで行った。
自身は神に選ばれた存在で、特別な者であると。
しかし。
「……俺の勝ちです、カール殿下」
俺はカールを見下ろして、勝利を宣言していた。
見下されたカールは、信じられないという目で俺を見返していた。
そして、周りを見渡して、みなの表情を見てとって、どう優劣がついたかを客観的に確認した。
「私は負けていない……!」
尚も、認めなかった。頑固ちゃん。
「ち、ちがう、違うのだ! ありえないのだ! 私が負けるはずがないッ!! ──そうだ、これも試練だ。私はまだ真の覚醒を迎えていない、深淵覚醒のみ! そうだ! これから真の覚醒の余地が残っているんだ、そうでなければおかしい!」
「……そこまで、自分に都合良くしか考えることができず、都合の良い真の覚醒に縋るんだな」
「黙れぇッ! お前ごときに何が分かる! この私を見下すような発言! 不敬だろう!」
これまで他者を見下し続けていたカール。自身が初めて見下されたと感じた今この時、カールへ全ての報いが襲い掛かって来ていたのだろう。
だが、弱者の気持ちが理解できたかと言うと。
「わ、私にはまだ真の覚醒が――――」
カールはわかってもなお、認めなかった。
もう、この男には救いはないのだろう。既に人ではなくなっている。
そして、もうじき、人の理を忘れ、魔物と変わらない存在へと変わる。
せめて、最後に人としての心を取り戻してほしかったのだが。
それも、叶わなかったか。
その時!
「こ、これは?」
「どうしたの? アル?」
「アル様?」
「ご主人様?」
クリス達が不思議に思ったのだろう。俺が突然周りをキョロキョロと見渡し始めたから。
俺が感じた違和感。俺の探知のスキルに感があった。
以前のように隠ぺいのスキルを使用していない、あからさまに見つかることを承知の。
例の魔族の気配。
「ふふふッ――ようやく時が来ました。ヘル様への信心は十分、そして聖剣は解き放たれた」
一体いつの間にこんなに近くに近づいていたのか?
俺達のすぐ近くに例の魔物を大量召喚した魔族が姿を現した。
「聖剣とは一体何のことだ?」
俺は魔族を見据え、そう問うた。
聖剣? おそらく、カールの持っている穢れた剣のことだろう。
「ふふッ、いいでしょう。冥途の土産に教えて差し上げましょう。そこの馬鹿な王子が抜いてしまった魔王の復活と魔族の肉体と力を封じていた300年前の勇者の聖剣のことです」
「その聖剣が解き放たれるとどうなるんだ?」
素朴な疑問だった。魔族はここ300年姿を現していない。
しかし、300年ぶりに姿を現したこの魔族は魔王の復活と魔族の肉体と力を封じていた聖剣に言及している。それが解き放たれた?
「ふふっ、ですから、300年前にあなたたち人間の勇者がせっかく私達魔族の肉体と力を封じていた聖剣を、そこの勇者の末裔の馬鹿が抜いてしまったのです。私の甘言に乗せられてね」
そう言うと、魔族はローブのフードを取った。
「―――――!!!!」
それは崩御した筈のセシーリア女王の姿だった。
「女王陛下?」
「?」
「!?」
「お、お母さま……ち、違う、そんなはずがない、ち、ちが」
俺もみな驚いた。その姿は崩御した筈のセシーリア女王だった。
美しい上品な顔、だが、その姿は虚ろだった。
「この姿で、そこの馬鹿な王子に近づいて、白鷲教の信者とかし、聖剣を引き抜かせた。聖剣を抜けるのは勇者の末裔のみだからです」
「そ、そんな……」
さすがにカールは自身の失態の自覚があるようだ。間違いがない筈の男が初めて間違いに気が付いたか?
――――だが。
カールの厚顔無恥は俺達の想像をはるかに超えていた。
ここは一致団結して戦いに挑むべきところだ。たとえカールと言えども、協力してくれるなら、協力を得るべきだろう。
「―――― そういうことだったのかッ!!」
突然立ち上がり、生気が消えた目に爛々と闘志、というより狂気を宿らせたカール。
カールは無傷だ。俺の闇魔法が着弾する寸前で光球を反らせて直撃させていない。
ただ、彼我の差を理解させてだけだ。
消耗しつくしたのはプライドという精神だけ。
だが、突然彼のプライドは復活し、消耗している魔力と精神にむち打ち、嬉々として立ち上がると、残り少ない魔力でカールの深淵魔法を唱えた。
「ふ、ふふ! 私がお前の甘言に騙されただと! 違う! 私はお前の油断を誘うためにこうしたのだ! こうなると――わかっていて――そう、お前と戦うために力を温存して――私は本気じゃなかった! そして、お前と戦うことで私の真の覚醒が待っているのだッ!!」
という妄言を叫ぶと、信じがたいことに。
――あの魔族に向かって、一人で攻撃を初めたのだった。
「『流刑の神々【セブンス・ペイン】!!』」
こいつ、もう知らん。多分死ぬな。
再び深淵魔法を唱えたカールは魔族に向かって渾身の魔法を叩き込み。
――しかし、カールの魔法はあっさりと――全く効いていなかった。
「え?」
ドコーン
カールは天高く吹っ飛んで行った。
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