ハズレスキルがぶっ壊れなんだが? ~俺の才能に気付いて今さら戻って来いと言われてもな~

島風

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33賢者ガブリエルはわからせられる?

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「私に逆らうからクビになるのだ」 

嗜虐心を湛えた笑みを浮かべ、年代もののワインを転がす。ベルナドッテ家当主、ガブリエル。 

彼は息子のアル追放に対して撤回を直訴して来た領地の屋敷の執事長エーリヒへの解雇通告を発行していた。 

「明日は騎士団長のベルンハルトあたりのクビだな」 

彼は主人の取り決めに口を出す臣下に怒りを露わにして、解雇という強硬手段をとった。 

しかし、彼は知らない。アルの追放の撤回がほぼ絶望的と知ったエーリヒ達はさっさと辞表を出して出奔していた。 

「ハズレスキルのくせに……代わりはいくらでもいるんだよ。才能魔法のスキルを持つ、我らと違ってな」 

再び、歪んだ笑みを浮かべ、ワインを飲み干すと。 

「た、大変です! 賢者様!」 

「なんだ騒々しい。私の休息中に突然、無礼であろう」 

「し、しかし、ことは重要ですので」 

一体、何があったのだ? エーリヒの代わりなら、金を積んで、優秀な人材を赴任済みだ。 

今頃、後釜が自身の解雇通告を持って参上した頃だ、さぞかし驚いて、自身の浅はかだった考えを嘆いていることだろう。 

しかし。 

「執事長エーリヒ様をはじめ、領の屋敷の使用人全員が辞表を出して出奔しました」 

「ぶぅぅぅぅー。何だと!?」 

ガブリエルは使用人にも主人を選ぶ権利があることを失念していた。賢者と謳われ、その強力な魔法と才能を欲しいままにしてきた彼にとって、才能魔法のスキルを持たない彼らは虫けら同然だと考えていた。そんな虫けらが自身にNOを叩きつけるだなど、考えたこともなかった。 

「いや、わかった。いい、その程度のこと。また新しく雇い直せばいいだけだ。あんな奴らの代わりはいくらでもいる」 

「そ、それが……」 

一体何だと言うのだ? 彼は疑問に思った。確かに屋敷の使用人が突然全員辞めてしまったら、雇い直すのもかなり面倒だ。だが、一体この狼狽ぶりは。 

「行政府の役人も全員辞表を提出して出奔してしまいました……」 

「な……な・ん・だ・と?」 

彼はあまりのことに間抜けた顔になってしまっていた。 

「エーリヒ様の後継者の方が行政府を見に行ったところ、行政長官の机の上に辞表が山のように積まれ、全員退職金を受け取リ済で、やはり領を出奔していました」 

「エ、エーリヒめぇ!!」 

執事長、エーリヒは行政府の長官も兼務していた。博識の彼に適任と先代から着任していた。 

彼は怒り狂い、持っていたワイングラスを床に叩きつけると。 

「至急、エーリヒの後継者に行政府の再建と屋敷の使用人の確保を伝えよ。金はいくら使ってもいい!!」 

「……は、はい」 

ようは金だけの問題だ。全くどいつもこいつも面倒かけよって、ハズレスキルごときが。 

そんな時。 

「ガブリエル様!! 大変です!!」 

「今度は何だ!?」 

矢継ぎ早にやってくる報告に苛立ちを覚えるガブリエル。 

「リ、領債の、き、金利が、高騰しましたぁ!!」 

「そんな馬鹿なことはあるか! 我が領の債権の格付けはトリプルSだぞ!」 

あり得ない話だった。先日まで債権の格付けは最大級の信頼度のSSS。それが金利の高騰などあり得ない。ベルナドッテ領はエーリヒが始めた領債発行により、財源を確保し、他の領とは比較ならない繁栄を見せていた。それが、突然の暴落など、たとえエーリヒがいなくなったからと言って、あり得る話ではない。 

「そ、それが、アル様やエーリヒ様を慕う領民が移民申請を出して、多量の領民が転出しているのです。それに各種ギルドや商店が辺境領への移転を申請しており……」 

「アルめを慕うだと? そんな馬鹿なことがあるか! あんなハズレスキルに、エーリヒもそうだ。ハズレスキルの無能を慕うなどあり得んだろう!!」 

ガブリエルは怒りの頂点に達した。領民に慕われる? 信頼される? 敬意を受ける? それは圧倒的な才能魔法のスキルを持つ、自身だけの筈だろう。ハズレスキルにそんなことが起きるわけがない。 

彼は庶民の心が分からなかった。何もしてくれない領主ではなく、親身に領民に接し、都度領の問題を解決してきた、アルとエーリヒに領民は心から信頼を寄せていた。 

「賢者様! た、大変です!!」 

「まだ、何かあるのか!? もう、驚かんぞ!」 

「そ、それが、領に災害級の魔物が発生しました」 

まったく、次から次へと。 

「では、騎士団長のベルンハルトに討伐命令を出せ。ヤツだけでは荷が重いだろう。王都の屋敷の騎士の精鋭を貸してやれ」 

「いえ、それがベルンハルト様はすでに辞表を出されており、領にはおりません」 

「何だとー!?」 

彼の怒りは頂点を超えて、顔を真っ赤にしていた。 

「わかった。エリアスを呼べ、私自らが出る、それに屋敷の騎士団の精鋭に至急出撃命令だ」 

「はぁ!? 承知しました。ところで……」 

「一体何だ? こんな時に煩わしい」 

「お暇をいただきたいのですが?」 

「はあ?」 

見ると、伝令の使用人は辞表を差し出していた。他の使用人達も列を作って。 
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