ハズレスキルがぶっ壊れなんだが? ~俺の才能に気付いて今さら戻って来いと言われてもな~

島風

文字の大きさ
上 下
25 / 66

25初めてのクエストが薬草取りなのだが?

しおりを挟む
「いや、絶対怖いから、うやむやにして逃げたでしょ?」 

「怖いって、何が?」 

「わかんないの? クリスとアル様だよ!」 

俺とクリスは顔を見合わせる。 

「「どこが?」」 

「だから、その無自覚なところがよ!」 

俺に初めての家臣ができたのだが、行方知れずになった。 

まあ、そのうち顔を出すだろう。
そんなことより俺達は冒険者ギルドのクエストを受注することにした。 

「それではアル様とそのパーティの皆さん、改めて確認しますが、今回の依頼は街から2時間ほど歩いた森に群生する『薬草』を採集することです」 

冒険者ギルドの受付嬢からクエスト発注の注文書をもらって、初めてのミッションに挑戦することになった。 

「それとこれは冒険者の皆さん全員すべてにお願いしているのですが、最近、強い魔物が出るようになりました。エリアに不相応な魔物を見たりしたら教えて下さい。それと、もし、このところ発生している極端に強い魔物が何の前触れもなく出現する理由のヒントでも掴めましたらご連絡ください。報奨金は最大で10万ディナールになります」 

「わかっているわ。王家からの勅命ね。もちろん何かわかれば報告するわ……薬草取りで何かわかれば……なんだけどね」 

クリスは受付嬢にちょっと自嘲気味に言った。と、言うのも、今日はクリスの騎士団は参加しない。あえて騎士団の休息日を狙ってミッションを受注したのだ。 

彼らがいないと人員不足が理由で高難度クエストは受けられない。 

全てはクリスの神級光魔法、治癒の魔法を攻撃魔法に変えてみる実験のためだ。 

この実験はできれば秘密裡に行いたい。俺はこの実験の結果をメクレンブルグ家の資産にするつもりだ。王族にでも知られれば、国にそのすべてを提供させられてしまう可能性がある。 

同時にリーゼのハズレスキルを逆手にとって、能力を向上させる実験もする。 

俺は魔力解析で、魔法の本質に気が付いてしまった。 

魔法は紡ぐ言霊による魔法陣の発動。そして、言霊、つまり呪文詠唱を少し変え、魔法陣をほんの少し改変すると大きな違いになる。 

通常、魔法自体が発動しなくなったり、威力が弱くなるだけ。魔法が改良されたことはここ百年ない。そもそも才能魔法のスキルは何も考えなくても呪文が頭に浮かぶのだ。 

だが、魔法陣をこの目で直接見て、その刻まれたルーン文字を読み取る能力、【魔力解析】のスキルを持った俺は容易に魔法の呪文を改良できることに気づいた。 

「そう言えば、冒険者ギルドで噂が出てましたよ」 

「何なの? 噂って?」 

クリスとリーゼが話している。最近仲いいな。時々グーで殴り合うけど。 

「最近の規格外の魔物が出るとき、必ず白鷲教の人たちが布教活動しているって」 

「……そう言えば」 

俺もはたと気が付いた。王都からこのメクレンブルグ領、ディセルドルフへ至る前に白鷲教の人たちを見た。 

「まあ、それだけで彼らお疑う訳にはいかないな。根拠がない」 

「そうね。憶測でものを言ってはダメね。キチンとした証拠もなく疑るのは良くないわ」 

「それはそうですね。さすがアル様、賢明です!」 

そういう訳で、南の森へ薬草取りに向かう。 

☆ 

「……そろそろいいかしら?」 

クリスがちょうどいいころ合いだという感じの処で声をかけてくれた。 

俺もちょうどいい処かと思った。人気はないし、街から山を一つ越えているので、多少派手に魔法を使っても、まずバレないだろう。 

「先ずはリーゼからかな」 

「あら、アルは幼馴染の私より妹の方を優先?」 

「すねるなよ、クリス、単に難しい方から先にやっておきたかったんだ」 

クリスが口先をすぼめて拗ねる。何、ちょっと可愛いんだが。 

「リーゼ、先ず、この髪飾りを身に付けて、魔力を2倍にできるはずだよ」 

「わあー! 可愛い髪飾り! アル様からのプレゼントだぁ!」 

リーゼに渡したのは街で購入した魔道具を解析して俺の【錬金術】のスキルで作り直した俺の作品だ。魔道具を【魔法解析】で解析して、そのメカニズムを理解した。 

この魔道具は魔力、すなわち魔素を貯めることができるアイテムだ。術者が魔法を使う際、魔素でアシストして、魔力を底上げする。通常のは2割も上げらればいいが、俺のは2倍だ。 

「いい、それで、リーゼのスキル【汎用魔法】を生かすことができる筈なんだ」 

「ほ、本当ですか? リーゼのハズレスキルが役に立つんですね!」 

「ああ、多分うまく行くと思う」 

俺の理論が正しければ、リーゼは【上級魔法】並の魔法が使える筈だ。それも、全ての属性が。 

「リーゼの汎用魔法のすべてが攻撃魔法や治癒魔法に変えることができる。それに応用も加えれば、更に威力を出せる。まずは、昨日思いついた【爆裂】の呪文をやるぞ」 

「はい、アル様、お願いします」 

俺が思うに、理論上、全ての魔法が誰にでも発動可能。もちろん、実際複雑な魔法陣を構築するにはスキルがないと不可能だ。魔法陣が見えていない限り。 

だが、俺には魔法陣が見えるのだ。だから、術者にアドバイスすることで一段上の魔法を唱えさせることが可能な筈だ。もちろん、時間をかければ誰もが神級魔法ですら発動可能だ。 

リーゼのスキルは【汎用魔法】というハズレスキルだ。汎用魔法とは【上級魔法】、【伝説級魔法】、【神級魔法】の更に下に位置する最下層の才能魔法だ。 

汎用魔法は誰でも魔法が発動できる。スキルが無くても発動できる一番簡単なもの。ただし、向き不向きがあり、たいていの人が1種類か2種類しか発動できない。 

【汎用魔法】は全ての属性の魔法を使えるが、【汎用魔法】では生活に役立つ程度で戦いの役には立たない、普通はな。 

爆裂 エクスプロージョン」 

リーゼが俺の教えた呪文を唱える。通常、汎用魔法は短い1節、上級魔法の1節より更に短い呪文で発動する。リーゼはそこを火と土の合わせて2節の短い呪文を唱えた。 

「な……何、この魔力……!」 

魔道具とリーゼのスキルの相乗効果で3倍近い魔力の高まり。 

これまでのリーゼの魔法と違い、火と土の魔素が混じり合い、圧倒的な力がリーゼの頭上に光球として顕現する。 

「ようやく分かった、リーゼ。君のスキル【汎用魔法】の本当の使い方が」 

リーゼが目を見開く。 

そう。この世の中にはハズレスキルなんてないのかもしれない。神級魔法のように何も努力しなくても結果が出せる魔法、努力と応用により劇的に威力が増すハズレスキルによる魔法。 

この国の人達は才能魔法の理解を致命的に間違えていた。 

それを理解し、改善すればハズレスキルは劇的に進化する。神級魔法に匹敵する──いや、或いはそれ以上の可能性も。 

「私のスキルの本当の使い方?」 

「ああ、君の魔法は努力無しでは意味がないんだよ。君の魔法の真価は応用だ」 

何せ、今まで自身が学んで来たことを俺があっさりと否定したから彼女は驚く。 

「今、リーゼが唱えた魔法は火の魔法に土の魔法を付与したもの。明日からは自身でも研究するんだ。おそらく付与の仕方によって、更に強い魔法が生まれる」 

「私の魔法の真価は付与魔法なんですか?」 

「そうだ」 

そう、リーゼのように全ての属性の魔法が使えるなら、付与魔法は有効な応用だ。付与魔法は神級魔法などでは、軽視される傾向にある。一人では成立しないからだ。主に身体強化の魔法使いとセットで使われる。 

「行きます! 爆裂 エクスプロージョン!」 

魔法の銘を叫び、リーゼの攻撃魔法の光球が山の中腹に吸い込まれる。 

凄まじい爆発が起きた。山の中腹には大きな穴がぽっかり空いた。そして温泉が噴き出る。 

「……あっ!?」 

「……えっ?」 

クリスも当人のリーゼもポカンとした表情になる。それ程に威力が大き過ぎたのだ。 

リーゼの汎用魔法が上級魔法並になるというのは訂正だ。既に伝説級魔法以上、神級に近い。 

「……わ、私、本当に私の力?」 

「そうだ。リーゼの力だ。こんなに威力があるとは思わなかったのだが」 

「呆れた威力ね。アルに拘ると凄いことになるわね」 

しかし、今度はクリスの番というところで、思わぬ邪魔が入った。 

「何だ? この反応は?」 

俺の探知のスキルに、人、いや何か異質の反応があった。
しおりを挟む
読んで頂いててありがとうございます! 第14回ファンタジー小説大賞 参加作品 投票していただけると嬉しいです! ブックマークもね(__)
感想 58

あなたにおすすめの小説

救助者ギルドから追放された俺は、ハズレだと思われていたスキル【思念収集】でやり返す

名無し
ファンタジー
 アセンドラの都で暮らす少年テッドは救助者ギルドに在籍しており、【思念収集】というスキルによって、ダンジョンで亡くなった冒険者の最期の思いを遺族に伝える仕事をしていた。  だが、ある日思わぬ冤罪をかけられ、幼馴染で親友だったはずのギルド長ライルによって除名を言い渡された挙句、最凶最悪と言われる異次元の監獄へと送り込まれてしまう。  それでも、幼馴染の少女シェリアとの面会をきっかけに、ハズレ認定されていた【思念収集】のスキルが本領を発揮する。喧嘩で最も強い者がここから出られることを知ったテッドは、最強の囚人王を目指すとともに、自分を陥れた者たちへの復讐を誓うのであった……。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる

名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。 冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。 味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。 死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~

名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」 「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」 「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」 「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」 「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」 「くっ……」  問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。  彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。  さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。 「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」 「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」 「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」  拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。  これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

処理中です...