上 下
22 / 66

22冒険者になったのだが?

しおりを挟む
俺とクリス、リーゼは冒険者ギルドへ向かった。クリスの話によると、貴族とは言っても、冒険者ギルドに顔を出して、一緒に魔物討伐をした方がいいとのことだった。 

それには俺も賛成だ。実は俺もベルナドッテの領で、冒険者になって魔物討伐を行っていた。現場の空気というか、彼らとの一体感は重要だと思う。それに領民の支持も上がる。 

魔物はダンジョンから魔の森を通じて、人の住む世界に絶えず侵入してくる。どこの領にもダンジョンや魔の森が存在する。 

その魔物を狩るのは冒険者だけの仕事ではない。むしろ、本来貴族の仕事だ。 

流石に全ての魔物を貴族だけでは討伐できないから、冒険者達に金を支払い、代行してもらっているに過ぎない。だが、俺の父は賢者の身でありながら、自身の領には滅多に顔を出さない。 

確かに実家の領には大した魔物は出ない。だが、時々強い魔物が出没することがある。 

そんな時に、父がいれば簡単に討伐できていただろうに。だが、冒険者任せの実家の領では強い魔物の襲来によって、時々被害者を出していた。 

「案内といっても、王都に比べるとささやかで、なにもない田舎なんですが」 

俺達に街を案内してくれているのは、あの冒険者レオンだ。街で偶然出会って、案内してもらえることになった。彼も目的地が冒険者ギルドなので、ついでに、という感じだ。 

「田舎だけど、景色もいいし、山菜や川や湖の魚が美味しいし……気に入ってもらえると嬉しいな」 

「ありがとうございます。すごくいい街だと思います」 

「リーゼ、川魚って食べたことないなー」 

「リーゼは食べることばかりね」 

4人でブラブラと街を散策する。口には出せないが、この領は発展が遅れている。 

理由は察しがついていた。この街は巨大な魔の森に面していて、他の領より魔物の出現率が高い。自然に騎士団や冒険者にかかる費用負担は増える。 

騎士団も冒険者のクエストの大半も貴族である領主が負担している。領民の安全を確保するには金がかかるのだ。 

そして、領地の発展にも金がかかるものなのだ。 

同じような規模の俺の実家の領は比較的安全な処だったから、発展が早かった。 

イェスタさんは俺の領地経営の手腕をかってくれたが、どこまで俺の経験が生かせるものやら。 

レオンはいくつかの街に施設を紹介してくれた。 

街のショッピングモール。 

飲食店街。 

冒険者ギルドをはじめとするさまざまなギルド。 

街の施政を担う行政府。 

などなど。 

そして、最終目的地、冒険者ギルド。俺もクリス、リーゼも既に冒険者登録をしている。 

俺は訂正をしないとな。ベルドナット家を追放された身だから、家名は名乗れない。 

貴族でもないから、それも訂正しないとな。 

「今日はありがとう。俺たち、今日はクエスト情報だけ見て帰るよ」 

流石に昨日災害級の魔物と戦ったばかりだし、俺は剣を折ってしまったし。 

「どういたしまして、いつか、アルベルト様とパーティを組める日を楽しみにしてます」 

「こちらこそ、Aクラスのレオンさんなら是非!」 

というわけでレオンさんと別れると、とりあえず俺の冒険者登録情報修正することにした。 

意外と思うかもしれないが、実はリーゼも冒険者の資格を持っている。 

実家の領で連れていけとうるさいから、連れて行ったから、自然に冒険者の資格をとってた。 

そんな感じでギルドの受付で手続きをしていると。 

「見かけない人だな?」 

「いや、さっきレオンさんと話していた……じゃ、あれが賢者のハズレスキルの息子か……?」 

田舎の街ではあっても、さすがに冒険者ギルド。情報網は確からしい。俺の情報は瞬く間に広がったようだ。まあ俺の父 賢者ガブリエルは誰でも知っている存在だしな。 

賢者ガブリエル・ベルナドッテ。希代の魔法使い、その実力は1人でSSS級冒険者のパーティに匹敵すると言われている。 

「おい! お前! ひょっとして賢者のハズレスキルの息子じゃねぇか!?」 

ふいに明らかに粗暴そうな男が俺達の間に割り込んできた。 

遺憾だが、どう見ても紳士的な態度ではないな。 

とはいえ、新参者として、とりあえずは気を使うか。 

「ええ。俺は賢者の息子、いえ、息子でした」 

「ぎゃははは! やっぱりな! その情けない顔! 確か王都で見かけたぜ! 俺はな、弱いヤツは死ぬほど嫌いなんだ」 

「…………」 

はぁ。 

王都から離れた街と言っても、賢者のハズレスキルの息子はこんなにも馬鹿にされて生きていかなければならないのか。父が高名な人間でなければな。突然、頭ごなしに見下されることもなかっただろうに。 

「ちょっと。あんた馬鹿ぁ! 私のご主人様に何てこと言うの? フツーそんなこと言う? というかウケるんだけど? 人としてアルの方が立派よね。はぁ? その態度はないわ」 

「そうね、歳相応の礼節をもった態度が取れないなんて、きっと惨めな人生を歩んで来たのね」 

クリスとリーゼの方が俺より先に怒った。 

だが男も引かない。 

「はあ? なんだオメーら、ぶっ飛ばされたいのかよ!」 

女の子になんて暴言を。まあ、クリスとリーゼも大概なのだが。 

ふいに粗暴な男が俺に下卑た笑みを浮かべて。 

「おい、お前、良く見たら上玉の女連れてるじゃねえか。俺と勝負しろ。俺が勝ったら、二人共俺の女な。うひょー! 俺、ついているぜ!」 

俺はクリスとリーゼの方を向いて。 

「どうやら話し合いが通じる相手じゃないな」 

「そうね、この人、かなりの戦士(笑)みたいだから、身の程を教えてあげたら」 

「アル様、ギタギタにしてください。こんなヤツの女とか、マジ無理!」 

俺は先程購入したばかりの無銘の剣に手をかける、と、その時一人の男が割って入って来た。 

「おい、お前、誰に喧嘩を売っているのか分かっているのか? そのお方は先日のSS災害級の魔物を一人で倒した方だ……不敬だろう」 

「ふ、不敬……一人で災害級を? いや、そんな馬鹿な、ハズレスキルがそんな訳が……」 

戸惑う粗暴な男、だが外野からは。 

「あの人がうちのギルドのAクラスの精鋭が倒せなかった災害級の魔物から助けてくれたのか?」 

「えっ!? あの人がなの? 良く見るとカッコいい! 素敵! 恋人になってくれないかな」 

「マジで? あの災害級を倒したのがあの人か? そう言えば、一部の隙もねぇ!」 

何故か謎のブームがやって来た。
しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~

名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」 「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」 「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」 「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」 「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」 「くっ……」  問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。  彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。  さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。 「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」 「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」 「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」  拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。  これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~

名無し
ファンタジー
 主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

没落貴族に転生した俺、外れ職【吟遊詩人】が規格外のジョブだったので無双しながら領地開拓を目指す

名無し
ファンタジー
 現実世界で事故死したはずの主人公だったが、気付いたときには異世界の貴族として転生していた。  貴族の名はシオン=ギルバートといって、気弱で怠惰な少年で知られており、不良たちに遊ぶ金を渡すために父親の形見を売り払う有様だった。  そんな没落寸前のシオンがある日、酒に酔って転倒し、頭を打って気絶してしまう。  そこに警備員として働いていた主人公の魂が入り込む形になり、【吟遊詩人】というジョブを授かることに。  外れだと思われていたが実は至高のジョブで、さらに主人公は剣道の達人であったため、それまで彼をバカにしていた周囲の人間を見返しつつ、剣と音の力で領地開拓を目指す第二の人生が幕を開けるのであった。

処理中です...