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5幼馴染がグイグイ来るんだが?
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「撒けた……みたいね」
「そのようだな。俺の探知魔法にも反応はもうない」
エリアスと騎士団を完全に撒いたことをお互い確認しあうと、クリスがへなへなと座り込んでしまった。
「大丈夫か?」
「……大丈夫よ……でも、ちょっと休ませて……」
しばらくクリスが休んでいると、ようやく人心地ついたのか、クリスが話し始めた。
「……アル、なのよね? 本当に、あの私の幼馴染のアル?」
「あ、ああ、俺だよ」
俺もクリスが落ち着くと、改めて彼女を見た。
『……綺麗になったな』
うっかり嘆息して呟いてしまいそうになる位、クリスは美しく成長していた。
まだ幼さを残す面差し、大きな瞳、綺麗に通った鼻筋。銀の長い髪。
王都の劇場の女優と言われても、信じるしかないほどの美貌。
細い腕や足はすらりと長く、全身がきゅっと小さく、彼女はまるで神様が美しくこしらえた人形のような端整な外見をしていた。
そして彼女の美しいプロポーションを黒を基調としたシックなドレスが包んでいた。
俺がついクリスに一瞬見惚れてしまっていると、クリスは、大きく息を吸い込んで。
「──この、どあほ!!」
いきなり怒られた。助けたんだよな? 俺?
「へ?」
「へ、じゃないでしょ! 実家を追放されたのに、なんで私のところに来なかったの? あなた、その……スキルに恵まれなかったから、実家を……私のところへ来て欲しかった」
「……そりゃ、俺だって男だ。いくらクリスが優しいからといって頼るなんてな」
クリスが婚約破棄されてしまったことは聞いていたが、クリスは侯爵令嬢で、いずれ他の貴族令息と婚約しなおすだろう。だから、その、なんだ、クリスがいずれ他の男のものになるとわかっていると、俺の心も揺れるものがあるわけだ。
「『いくらクリスが優しいから頼るなんて』? ふざけないで!」
何故か俺はクリスに怒られている。しかし、クリスは俺の手を握ると。
「アルは私の勇者でしょ?……。なんですぐに、私を慰めにこなかったの?」
クリスはなんで自分を慰めに来なかったんだと言っているが、一番言いたかったことは、なんで自分を頼ってくれなかった? だろう。
彼女はそういう娘だ。口は関西弁で悪いけど、優しい子だ。
「……」
「ケーニスマルク家に助けを求めたらよかったんじゃないの! あなたは私の父様にも気に入られているでしょう? それなら、いくらでもやりようはあったでしょう! あなたがそのまま、どっかへ姿を消してしまって、私がどれだけ……っ!」
叱責の言葉には、クリスの俺への慈悲が含まれていた。
『……家族にはこれっぽっちも心配されなかったのに』
「貴族だったあなたが、街の外へ一人で何処かへ行ってしまって、万が一、何処かで死んでしまったらどうしよう思って、どれだけ私が心配した思てんねん!! もっと早く知っていれば……どれだけ……心配、したと思っ、てるの! ……わ、わたし……っ!」
そして、言いお終わらないうちから、堪えられなくなったのかポロポロと大粒の涙がこぼれて。
泣き顔を見られたくないのか、クリスは俺の胸に抱き着いて来た。
「……会えて、よかった。……本当に心配、してたんだから……!」
「……クリス。すまん」
いや、こんな時になんだが、俺の胸に柔らかい、クリスの双丘の感触が伝わっているのだが。
まあ、それはしばらく堪能するとして。実際、クリスに助けを求めることはできなかっただろう。クリスにそんな情けない頼り方もしたくなかった。クリスは俺に自分を一生守ってくれと言ってくれたんだ。なのに……
何処までも優しい俺の幼馴染に、俺は感謝した。この子がいなければ、俺はやさぐれていただろう。そして、今も俺の心を癒してくれる。
俺を心配してくれる人がいる。それがどれだけ心の支えになるか。
「すまん」
それしか言えなくて、クリスを抱きしめる。今はいいよな? 今のクリスに婚約者はいない。
いずれ、誰かと婚約してしまう高嶺の花。でも、今だけは。そして、クリスは。
「ちゃんと約束を守って、助けに来てくれたから、許してあげる。……それと、助けてくれて……ありがとう」
クリスの頬が赤い。まだ、擦りむいたところが治ってないんだな。
「……それで、アル。――これから、どうするの?」
クリスが思ってもいなかったことを言い出した。
「――行くあてが無いなら、私の護衛としてデュッセルドルフの街に一緒に来ない?」
「え……」
「ほら。私の叔父様の街、デュッセルドルフよ」
「へ?」
クリスが口を尖らせて。
「へ? じゃないわよ。もう、私の護衛として一緒にいなさい! 私があなたを雇うわ!」
「……ええ!?」
何故か更に頬を赤めたクリスが予想外の提案をしてきた。
でも、確かに無職の俺にはありがたい話だ。
しばらくクリスが目を閉じて、何か感慨深げにしていたが、クリスの騎士達に無事見つかり、馬車で移動する事になった。
そして、馬車での車中。
「……お弁当、あるんだ、食べる?」
「……ありがとう。クリス」
馬車の旅は長い、それでクリスはお弁当を俺にも分けてくれるようだ。
嬉しい気持ちと、でもいつかクリスとは離れ離れになるんだと考えて、ちょっとセンチな気持ちになりながら、クリスのお弁当の唐揚げを口に運んだ。
「!? この唐揚げ美味い!」
クリスのお弁当の唐揚げはびっくりする位美味かった。もちろん俺は唐揚げは大好物だが、これは別格だ。こんなに上手に味付けされた唐揚げは初めてだ。
「そ、そう? 美味しい? じゃ、私のもあげる」
そういうと、クリスは箸で唐揚げをつまんで、俺に差し出した。そして。
「アル、はい、『あ~ん』」
俺は心臓が止まるかと思った。突然の『あ~ん』だ。それもクリスは顔を赤らめて、明らかに凄い意を決して言っている。断った方がいいよな?
「あの、クリス、その、そこまでしたらダメだと思う。嬉しいけど……君は深窓のご令嬢だろ?」
「わ、私に恥をかかせる気? 泣くわよ、盛大に泣くわよ、アルが私の『あ~ん』に応えてくれなかったって!」
クリスの騎士さん達からの受けが悪くなるんだが?
「わ、わかったから、食べるから」
「うん、ありがとう」
そう言うと、クリスは更に俺に近づき、って、近い、近すぎる! いい香りと共に凄い近距離で唐揚げを持った箸を俺の口に突っ込んだ。
もぐもぐ。
「美味しい?」
美少女クリスの『あ~ん』の効果もあって、唐揚げは最高に美味しかった。
「おお。凄い美味しい。こんなに美味しいの初めてだ」
「ホント? 私が作ったのよ! もう、アルったら私達お似合い過ぎるだなんて! まるで、もう夫婦みたいだなんて! 街に着いたら結婚しようだなんて。恥ずかしい事言わないでよ!」
何時言った? そんな事……クリスは何故か俺にグイグイぶっ壊れたように来ている。エリアスに吹っ飛ばされた時に頭でも打ったか? それに、どうもクリスは妄想癖があるらしい。俺とのことが都合がいい様に脳内で現実の捏造が行われる機能を有している様だ。やはり、脳神経外科への受診を勧めよう。せっかくの美少女がかなり台無しだ。
ていうか、クリスって、かなり残念な女の子だな。
クリスは更に身体をねじらせてイヤンイヤンのポーズを取りだして。
「ええ!? 私の事! 運命の人だって? あわわわわわわっわわ!? そ、そんな急に! そ、そんなに急いでは駄目よ! イケないわ。未だ早いわ!? ちょっと待って。アル! 落ち着いて!」
「(いや、落ち着くべきはクリスの方だろう? もしかしてこの子、頭のねじがどっかにとんじゃったのか? やはり、救急馬車を呼ぶべきだろうか? しかし、どこの科を受診すべきだろう? 妄想科?)」
「私達、そんなにお似合いかしら? ねぇ? どうしましょう? うへへへへ、じゅるり」
「(いや、だから誰がいつ言った? 誰もそんな事言ってないのだが? これは緊急修理が必要だ。スマホやパソコンなら電源ON/OFFでたいてい治るが、クリスには電源スイッチが無いな。いっそ殴るか?)」
そんな事を考えていると、周りの騎士達が俺とクリスのやり取りを見ていて、クスクスと笑っていた。
いや、これ、クリスがグイグイ来すぎだと思うのだが?
「そのようだな。俺の探知魔法にも反応はもうない」
エリアスと騎士団を完全に撒いたことをお互い確認しあうと、クリスがへなへなと座り込んでしまった。
「大丈夫か?」
「……大丈夫よ……でも、ちょっと休ませて……」
しばらくクリスが休んでいると、ようやく人心地ついたのか、クリスが話し始めた。
「……アル、なのよね? 本当に、あの私の幼馴染のアル?」
「あ、ああ、俺だよ」
俺もクリスが落ち着くと、改めて彼女を見た。
『……綺麗になったな』
うっかり嘆息して呟いてしまいそうになる位、クリスは美しく成長していた。
まだ幼さを残す面差し、大きな瞳、綺麗に通った鼻筋。銀の長い髪。
王都の劇場の女優と言われても、信じるしかないほどの美貌。
細い腕や足はすらりと長く、全身がきゅっと小さく、彼女はまるで神様が美しくこしらえた人形のような端整な外見をしていた。
そして彼女の美しいプロポーションを黒を基調としたシックなドレスが包んでいた。
俺がついクリスに一瞬見惚れてしまっていると、クリスは、大きく息を吸い込んで。
「──この、どあほ!!」
いきなり怒られた。助けたんだよな? 俺?
「へ?」
「へ、じゃないでしょ! 実家を追放されたのに、なんで私のところに来なかったの? あなた、その……スキルに恵まれなかったから、実家を……私のところへ来て欲しかった」
「……そりゃ、俺だって男だ。いくらクリスが優しいからといって頼るなんてな」
クリスが婚約破棄されてしまったことは聞いていたが、クリスは侯爵令嬢で、いずれ他の貴族令息と婚約しなおすだろう。だから、その、なんだ、クリスがいずれ他の男のものになるとわかっていると、俺の心も揺れるものがあるわけだ。
「『いくらクリスが優しいから頼るなんて』? ふざけないで!」
何故か俺はクリスに怒られている。しかし、クリスは俺の手を握ると。
「アルは私の勇者でしょ?……。なんですぐに、私を慰めにこなかったの?」
クリスはなんで自分を慰めに来なかったんだと言っているが、一番言いたかったことは、なんで自分を頼ってくれなかった? だろう。
彼女はそういう娘だ。口は関西弁で悪いけど、優しい子だ。
「……」
「ケーニスマルク家に助けを求めたらよかったんじゃないの! あなたは私の父様にも気に入られているでしょう? それなら、いくらでもやりようはあったでしょう! あなたがそのまま、どっかへ姿を消してしまって、私がどれだけ……っ!」
叱責の言葉には、クリスの俺への慈悲が含まれていた。
『……家族にはこれっぽっちも心配されなかったのに』
「貴族だったあなたが、街の外へ一人で何処かへ行ってしまって、万が一、何処かで死んでしまったらどうしよう思って、どれだけ私が心配した思てんねん!! もっと早く知っていれば……どれだけ……心配、したと思っ、てるの! ……わ、わたし……っ!」
そして、言いお終わらないうちから、堪えられなくなったのかポロポロと大粒の涙がこぼれて。
泣き顔を見られたくないのか、クリスは俺の胸に抱き着いて来た。
「……会えて、よかった。……本当に心配、してたんだから……!」
「……クリス。すまん」
いや、こんな時になんだが、俺の胸に柔らかい、クリスの双丘の感触が伝わっているのだが。
まあ、それはしばらく堪能するとして。実際、クリスに助けを求めることはできなかっただろう。クリスにそんな情けない頼り方もしたくなかった。クリスは俺に自分を一生守ってくれと言ってくれたんだ。なのに……
何処までも優しい俺の幼馴染に、俺は感謝した。この子がいなければ、俺はやさぐれていただろう。そして、今も俺の心を癒してくれる。
俺を心配してくれる人がいる。それがどれだけ心の支えになるか。
「すまん」
それしか言えなくて、クリスを抱きしめる。今はいいよな? 今のクリスに婚約者はいない。
いずれ、誰かと婚約してしまう高嶺の花。でも、今だけは。そして、クリスは。
「ちゃんと約束を守って、助けに来てくれたから、許してあげる。……それと、助けてくれて……ありがとう」
クリスの頬が赤い。まだ、擦りむいたところが治ってないんだな。
「……それで、アル。――これから、どうするの?」
クリスが思ってもいなかったことを言い出した。
「――行くあてが無いなら、私の護衛としてデュッセルドルフの街に一緒に来ない?」
「え……」
「ほら。私の叔父様の街、デュッセルドルフよ」
「へ?」
クリスが口を尖らせて。
「へ? じゃないわよ。もう、私の護衛として一緒にいなさい! 私があなたを雇うわ!」
「……ええ!?」
何故か更に頬を赤めたクリスが予想外の提案をしてきた。
でも、確かに無職の俺にはありがたい話だ。
しばらくクリスが目を閉じて、何か感慨深げにしていたが、クリスの騎士達に無事見つかり、馬車で移動する事になった。
そして、馬車での車中。
「……お弁当、あるんだ、食べる?」
「……ありがとう。クリス」
馬車の旅は長い、それでクリスはお弁当を俺にも分けてくれるようだ。
嬉しい気持ちと、でもいつかクリスとは離れ離れになるんだと考えて、ちょっとセンチな気持ちになりながら、クリスのお弁当の唐揚げを口に運んだ。
「!? この唐揚げ美味い!」
クリスのお弁当の唐揚げはびっくりする位美味かった。もちろん俺は唐揚げは大好物だが、これは別格だ。こんなに上手に味付けされた唐揚げは初めてだ。
「そ、そう? 美味しい? じゃ、私のもあげる」
そういうと、クリスは箸で唐揚げをつまんで、俺に差し出した。そして。
「アル、はい、『あ~ん』」
俺は心臓が止まるかと思った。突然の『あ~ん』だ。それもクリスは顔を赤らめて、明らかに凄い意を決して言っている。断った方がいいよな?
「あの、クリス、その、そこまでしたらダメだと思う。嬉しいけど……君は深窓のご令嬢だろ?」
「わ、私に恥をかかせる気? 泣くわよ、盛大に泣くわよ、アルが私の『あ~ん』に応えてくれなかったって!」
クリスの騎士さん達からの受けが悪くなるんだが?
「わ、わかったから、食べるから」
「うん、ありがとう」
そう言うと、クリスは更に俺に近づき、って、近い、近すぎる! いい香りと共に凄い近距離で唐揚げを持った箸を俺の口に突っ込んだ。
もぐもぐ。
「美味しい?」
美少女クリスの『あ~ん』の効果もあって、唐揚げは最高に美味しかった。
「おお。凄い美味しい。こんなに美味しいの初めてだ」
「ホント? 私が作ったのよ! もう、アルったら私達お似合い過ぎるだなんて! まるで、もう夫婦みたいだなんて! 街に着いたら結婚しようだなんて。恥ずかしい事言わないでよ!」
何時言った? そんな事……クリスは何故か俺にグイグイぶっ壊れたように来ている。エリアスに吹っ飛ばされた時に頭でも打ったか? それに、どうもクリスは妄想癖があるらしい。俺とのことが都合がいい様に脳内で現実の捏造が行われる機能を有している様だ。やはり、脳神経外科への受診を勧めよう。せっかくの美少女がかなり台無しだ。
ていうか、クリスって、かなり残念な女の子だな。
クリスは更に身体をねじらせてイヤンイヤンのポーズを取りだして。
「ええ!? 私の事! 運命の人だって? あわわわわわわっわわ!? そ、そんな急に! そ、そんなに急いでは駄目よ! イケないわ。未だ早いわ!? ちょっと待って。アル! 落ち着いて!」
「(いや、落ち着くべきはクリスの方だろう? もしかしてこの子、頭のねじがどっかにとんじゃったのか? やはり、救急馬車を呼ぶべきだろうか? しかし、どこの科を受診すべきだろう? 妄想科?)」
「私達、そんなにお似合いかしら? ねぇ? どうしましょう? うへへへへ、じゅるり」
「(いや、だから誰がいつ言った? 誰もそんな事言ってないのだが? これは緊急修理が必要だ。スマホやパソコンなら電源ON/OFFでたいてい治るが、クリスには電源スイッチが無いな。いっそ殴るか?)」
そんな事を考えていると、周りの騎士達が俺とクリスのやり取りを見ていて、クスクスと笑っていた。
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