ハズレスキルがぶっ壊れなんだが? ~俺の才能に気付いて今さら戻って来いと言われてもな~

島風

文字の大きさ
上 下
2 / 66

2ハズレスキルがぶっ壊れてるんだが?

しおりを挟む
「……すまない。エーリヒ、ベルンハルト」 

実家を追放されて、一人街から追放される俺が発した言葉は、家族へのものではなく、この王都から離れた地で領地経営を一人で奮闘しなければならない、執事長のエーリヒや騎士団長のベルンハルトに対してだった。 

家族には何の未練もない。実際、血の繋がり以外、何もないのだ。 

俺にとっては、エーリヒや良くしてくれた家臣の方が余程家族の様に思えた。 

とはいえ、誰一人にも見送られることもなく旅立つことに対し、込み上げてくるものがあった。 

これから生きにくくなるだろう。俺の父は賢者の称号を持つ、魔法の天才だった。 

俺の立場はある程度、親の威光が影響していただろう。 

――賢者の次男は、ハズレスキルの持ちだった―― 

この情報は王都に瞬く間に広まっているだろう。 

幸い、俺は十分な用意をしていた。魔法の才能のない俺が上級魔法あたりのスキルしかもらえなかったら、やはり追放されていただろう。 

だから、十分な資金と装備は予め用意しておいた。 

準備は十分なんだが……行く宛はない。 

とりあえずできるだけ離れた隣街に行こう。俺のことを知っているヤツが多い王都より、近隣の街の方が住みやすいだろう。 

それ程、父親の賢者の名は偉大だった。 

もっとも、偉大なのは魔法だけで、他はまるで無能だが。 

街の出口で白いローブ姿の一団がいた。 

「あなたは神を信じますか?」 

ローブ姿の一団は街へ出入りする人々にそう訴えていた。 

最近勢力を増した新興宗教団体、白鷲教の信者だ。 

神、つまりこの国の主教エリスが女神なのに対して男性の神を崇める人々だ。 

まあ、ああいった奴らを弾圧しないのはまだ良い傾向なのかもしれない。 

そんなことを思いながら、ひたすら広い草原を歩いていくと。 

俺の背後の草むらで音がした。  

「誰だ? お礼はするから、街まで道案内してもらえないか?」   

街の近くの冒険者がたまたま近くを通りがかった、と、そう考えていた。  

だが、そこにいたのは冒険者なんかじゃなくて、狼の姿をした凶悪な魔物だった。 

「ガルルルルル……」 

牙の生えた口から涎を垂らしながら、俺を舐めるように見ている。  

魔物に出会うかもしれないとは聞いていた。  

「……予想外だな」  

思わず身構える。  

隣街までの道では魔物が出ることがある。しかし、それはかなり弱い魔物で、スライムとかゴブリンとか、強いスキルの無い俺でも、剣を振り回せば何とか勝てる筈だった。 

魔物、ホワイトハングの群に遭遇してしまった。 

真白な美しい狼だ。そして、口には見事な牙。 

かなりのピンチだ。俺は辺境の領で、魔物退治などに同行して、戦いには慣れている。 

しかし。 

こんな凶暴な魔物の前では、俺の剣など役にたたず、餌になるだけなのは明かだった。とは言え、おとなしく餌になる気はないのだが。   

「おおおおおおおおっ!!」 

辺境の領地の騎士達に教えてもらった剣技で何とか1匹を屠る。 

しかし。 

ホワイトハングは1匹や2匹ではなかった。そもそも狼の魔物は群れで人を襲う傾向にある。集団で狩りをするずる賢い、厄介な魔物だ。 

とても、一人では倒しきれない。 

剣を持つ手に汗がにじむ。 

ならば。 

俺はダメ元で、俺の魔法、スライム召喚の魔法を唱えた。 

誰に教えられた訳でもなく、すらすらと呪文が口から出る。 

「【我の魂よ、女神をたたえよ。わたしの内にあるものはこぞって聖なる御名をたたえよ。その者はケファに現れた女神の為】サモン・スライム!」 

『ぴぎゃー』 

召喚されたスライムは可愛らしい声のようなものをあげた。頼む、1匹でもいいから、ホワイトハングを倒してくれ!! そう願い、命じる。 

「スライム!! その魔物を倒せ!」 

『ぴぎゃー!!』 

「はぁ!?」 

俺は思わず間抜けな声を上げてしまった。何故なら。 

『ピシュ!! ドコッ!! ピュン、バシバシバシ、ドコドコドコドコ!!』 

俺の号令と共に、スライムが縦横無尽に跳ねまわる。 

そして。 

大半のホワイトファングがボコボコになって死んでいた。  

そして、天の声が聞こえた。 

戦闘の勝利より、スライムのレベルが上がりました。 

スキル【簒奪者】が解放されました。 

スキル【身体強化(小)】を入手しました。 

マスターへのスキル付与がなされます。 

スキル【簒奪者】が付与されました。 

スキル【身体強化(小)】が付与されました。 

「は?」 

俺は思わず間抜けな声を上げてしまった。 

スキル【簒奪者】? そして、マスターへのスキル【身体強化(小)】付与? 

どういうことだ? この世界で女神から与えられるスキルは一人一つ。稀に例外がいても、せいぜい2つ。聞いたことないぞ? 

だが、今はそんなことを考えている時間はない。 

以前、領地の騎士達から教えてもらった剣術の奥義を身体強化魔法を使って思い浮かべ。 

「冥王破妖斬!!」 

ドゴドコドコドコォォォォォォォン!! 

轟音と同時、見るも激しい剣技の衝撃波がホワイトファングに襲いかかる。 

いや、なんか、地面がエグレとる。魔物ごと。 

「はあ!? なんだこれ?」 

俺は更に間抜けな声を上げると、最後の生き残りのホワイトファングが、立ち上がろうとして、力尽きた。 

そして、その場にはおびただしい魔物の死骸が散乱していた。 

俺は思わず叫んでしまった。 

「ハズレスキルがぶっ壊れたんだが?」 
しおりを挟む
読んで頂いててありがとうございます! 第14回ファンタジー小説大賞 参加作品 投票していただけると嬉しいです! ブックマークもね(__)
感想 58

あなたにおすすめの小説

救助者ギルドから追放された俺は、ハズレだと思われていたスキル【思念収集】でやり返す

名無し
ファンタジー
 アセンドラの都で暮らす少年テッドは救助者ギルドに在籍しており、【思念収集】というスキルによって、ダンジョンで亡くなった冒険者の最期の思いを遺族に伝える仕事をしていた。  だが、ある日思わぬ冤罪をかけられ、幼馴染で親友だったはずのギルド長ライルによって除名を言い渡された挙句、最凶最悪と言われる異次元の監獄へと送り込まれてしまう。  それでも、幼馴染の少女シェリアとの面会をきっかけに、ハズレ認定されていた【思念収集】のスキルが本領を発揮する。喧嘩で最も強い者がここから出られることを知ったテッドは、最強の囚人王を目指すとともに、自分を陥れた者たちへの復讐を誓うのであった……。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる

名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。 冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。 味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。 死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~

名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」 「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」 「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」 「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」 「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」 「くっ……」  問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。  彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。  さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。 「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」 「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」 「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」  拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。  これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

処理中です...