悪役令嬢が最強!伝説の魔法使いが悪役令嬢に転生。いろいろやらかして追放されて贖罪をしながらのんびり。この悪役令嬢あまり懲りてないみたい。

島風

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魔王と勇者討伐8

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ダンジョンだと言うのに目の前に天井より光が射し、そこに人の姿が現れた。しかし、その姿は私の知っている人だった。 

「エ、エリスちゃん!?」 

「その節はありがとうございました。クリスさん」 

「う、嘘!? エリスちゃん、女神様だったの?」 

エリスちゃんは慈愛に満ちた微笑みを浮かべて頷いた。 

「クリスさん、ありがとうございます。よくぞ、魔王と人の関係に疑問を思って頂けました。それこそが人の贖罪だったのです」 

「そ、そんな…贖罪をすべきだったのはやはり人の方だったのですか?」 

私はショックを受けた。女神エリスの言う事が本当なら贖罪をすべきだったのは人の方? 

「その通りとも言えますが、そうではありません」 

「ど、どういう事ですか?」 

「初代勇者も、初代聖女、そしてたくさんの人も、この魔王に対して人としてあってはならない事をしました。煩わしいというだけの理由で、建国の英雄であった筈のこの魔王を大勢で嬲り殺しにしようとしたのです。決して私は許す事はできません。 

しかし、魔王はあまりに多くの人を殺してしまった。初代勇者や聖女もそうですが、彼らの軍勢数十万を殺してしまった。その罪はやはり許す事はできません」 

「そ、それは一体どういう意味なのですか?」 

私は理解が追い付かない。女神様は人を許せないと言ったが、魔王も許せない? 

「魔王よ。あなたは何故今世の勇者を殺してしまったのですか? あなたはここ900年近く、人を殺した事などなかったではないですか?」 

魔王が900年も人を殺した事がない? 魔王は人を滅ぼす為に存在しているのではなかったの? 

魔王は口を開いて、説明し始めた。 

「私があのクズを殺したのは、その若い青の魔導士の為です。彼は深い恨みを抱いていました。それはまるで私が未だ人だった頃の最後に見た初代勇者の心の中の様でした。このまま放置すれば若い青の魔導士に必ず仇なすと確信しました。だから…」 

「魔王!? あなたは私の為に? でも、どうして? あなたは人を殺したくなかったのでしょう?」 

「好んで殺す趣味はない。だが、どうせ私の手は血で汚れきっている。だから、お前に仇なす者を放置できなかった。放置すればお前が第二の魔王になると思ったからだ」 

「そ、それは…」 

確かにカール皇子の私への恨みは前世から来ている。だからか? そうか、彼は人の心を読む禁断の魔法で彼の心を読んでいたのか。 

「魔王よ。わかっていました。私もまた、あなたの心の中を読み取る事ができます。私は全ての人の心の奥底を読む事ができます。あなたの言っている事は本当です」 

えっ? マジで? 私、エリスちゃんが悪米問屋にいいようにされそうになった時、私頑張ったよね? もういいよね? と、見捨てようとした様な気がする。 

「あの、女神様、人の心の中を読む事ができるって、マジですか?」 

「マジですよ。クリスさん。だから、私があのあくどい米問屋に汚されようとしていた時にクリスさんが本当にあっさり、すんなり、きっぱり諦めて見捨てようとした事を根にもってたりしません」 

えっ? やっぱり? 私もあの時の事が気になって聞いたんだけど、藪蛇だったわ。 

「き、気にしてなくて良かったわ。はは、ははははははっははは……」 

「安心してください。決して根に持ったりしていませんから…ははは」 

絶対根にもっているよね? これ? 

「まあ、それはともかく、人も魔王双方が贖罪をする必要があったのです。説明をします。先ずは魔王の事、そもそも魔王は魔族の一人なのです。魔族とは人に非ざる負の感情を取り込み、瘴気に染まり、闇に堕ちた者の事です。魔族が救われる事はありません。人は悪人でも死んだ後、輪廻転生により新たな人生を歩み、正しい人として生まれ変わるチャンスが与えられます。しかし、魔族にはそれがありません。だから魔族の命は永遠なのです」 

「魔王の贖罪とは何だったんですか?」 

「魔王は多くの人を殺してしまいました。例え気が触れてしまっていたとしても許されません。同情はできますが、許す事はできないのです」 

「しかし、900年間殺してはいなかったんではないですか?」 

私は魔王の為に訴えた。この魔王の悲しみ、親友に裏切られて、恋人に裏切られて、全ての人に裏切られて、そして、私も彼と同じ道を歩むかもしれないのだ。他人事とは思えない。 

「クリスさんの言う通りです。魔王の贖罪は終わっていました。そこの勇者を殺してしまう迄は…」 

「あれは私を助ける為に!? 女神様、お慈悲をください。魔王を助けてあげてください!」 

「その言葉は人の贖罪なのですよ。クリスさん」 

「えっ?」 

私は一瞬キョトンとしてしまった。しかし、女神様の真意が測れない。 

「人の贖罪は魔王に殺される事ではないのです。魔王の事を理解する者が現れる事、500年前にもあなたに期待したのですが…」 

500年前、魔王を殺してしまった。こんなにも話しあいをしなかった。会った瞬間から戦いが始まって、それどころじゃなかった。油断すれば殺られると思った。でも、実際は本気ではなかったのだ。魔王は誰も殺してはいない。むしろ手を抜いて、ただ倒されるのを待った。 

「女神である私も過ちを犯します。それが1000年前の事です。それまで、この大陸は群雄割拠の戦国時代が何百年も続き、終わりの無い戦いに明け暮れていました。それに終止符を打つ為に新たに送ったタレントが青の魔導士、虚数魔法使いです。しかし、虚数魔法使いの力は大き過ぎました。人があれ程虚数魔法使いを恐れ、妬み、嫉妬するとは思いませんでした」 

「あの、そんな失敗があったのに、何故私にまた、虚数魔法使いのタレントを送ったのですか?」 

「…悔しいからです」 

「はあ?」 

私は思わず口走った。今、この女神様、悔しいって言わなかった? それって、自分が間違えたんじゃない。自分が悪いんじゃないもんという逃げじゃないだろうか? 

「その通りです。クリスさん。私が間違えたんじゃないのです。たまたま運が悪かったのです」 

「でも…私、500年前に人に陥れられて死にましたけど…魔族に酷い目にあわされて…」 

どうも女神様に心を読まれたらしい。でも、やはり絶対、この女神様、悔しがりだよね? 

「二度ある事は三度あると言います。4回試行して結果が同じなら、自身の誤りを認めようと思いました」 

わぁ、この女神様往生際、悪! 

「クリスさん。どうせ、私は往生際が悪いですよ。でも私、悪くないもん!」 

女神様、エリスちゃんは涙を流していた。一見美しい絵面だが、この女神様結構酷くない? 

「えっと、今回失敗しても、更にもう一度虚数魔法使いを生み出すつもりだったのですか?」 

「はい、その時は最悪魔王が二人になるので勘弁して欲しいのですが、覚悟してました」 

この女神様、勘弁して欲しいという言葉の使い方おかしくね? 

「あの、じゃ、この後の展開どうするつもりなんですか?」 

「……どうしよう」 

嘘でしょ? 
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