悪役令嬢が最強!伝説の魔法使いが悪役令嬢に転生。いろいろやらかして追放されて贖罪をしながらのんびり。この悪役令嬢あまり懲りてないみたい。

島風

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アンがブチ切れてしまいましたわ。5

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「アン・ソフィ! 剣はこれを使え!」 

 ぽいっと第三中隊長馬鹿犬が鉄の剣を投げる。アンははしっと鉄の剣を受け取る。そして、鉄剣をすらりと抜いた。 

「あの、私、別に木の剣でも、こんな素晴らしい細工の剣、申し訳なくて受け取れません」 

「いや、万が一、木剣の新人騎士に負けたら、どうしてくれるんだ? 末代までの恥だぞ?」 

「えっ? いや、私、そんな……」 

「君はクリスやアルとは違うと思っていたのだが、どうも感化したか?」 

「そんな! クリスさんやアル君とは一緒にしないでください!」 

アン? それは酷くない? 

「まあ、受け取っておけ。俺も木の剣の相手じゃ、やる気がおきん。それにそれは、第三中隊の支給品だ。お前の物だ」 

「それではお言葉に甘えて受け取らせて頂きます」 

シュン 

と、アンが剣を試し振りする。 

 よし、よし、これでみんなの目はアンに注がれる。うまく行くとこれまでの汚名は返上して、アンだけ人外の人になってもらえるかもしれない。私に平凡が訪れる。ニマッ♡ 

それにしても、中隊長の腕はどんなものだろうか? 剣だけならおそらくアン以上だが、アンは魔法も魔法剣も使える。しかし、仮にもこの団一の精鋭、赤い森でサラマンダーの首を一撃で落としたアンを見ている中隊長馬鹿犬が挑むのである。勝算が無いとは思えなかった。それに私は叔父様に負けた。あの時は未だLv1だったけど、彼我の差はそんなの問題外だった。団長がそうなら、中隊長だって……しかし、 

「ねぇ? クリス、どうしたの? お金儲かりすぎて、脳内麻薬がキマッた?」 

「アル! 私の事どう思ってるの? 私だって、たまには真面目に考えるわよ」 

「えっ? まさか本物の薬やってるの? 駄目だよそれは、幼馴染として忠告するよ」 

 いや、アル、脳内麻薬でキマってるのはお前の頭の中身だけだよ。両脇に金貨の入った革袋を持って、いかれた顔の幼馴染を少し心の中で罵倒する。心配してくれた事は一応感謝するけど…… 

「ねぇ、アル? どう思う? 中隊長の事?」 

「どうって、何処をどう考えても只者な訳ないよ」 

「やっぱり?」 

「ああ、さっきから剣を素振りしているけど、闘気の流れに全く無駄がない」 

「アルにもわかるの?」 

「ああ、君に教えてもらって、ぼんやりだったのが、今ははっきり。中隊長はかなりの腕だ」 

 確かに中隊長の闘気の流れには無駄が全くない。問題は闘気がどの程度出せるのか? だ。もし、叔父様レベルの闘気が出せるのなら、アンでさえ勝機はない。力の差は果てしない。 

そして、それはアンも感じたのだろうか。先程と違い、既に闘気を練り始めている。更に、魔素も…… 

「アンは本気ね……」 

「当然だよ。彼女は騎士だ。例え上司でも全力で挑むだろ?」 

「それはそうね」 

「アン・ソフィ本気でいかせてもらう!」 

「第三中隊アン・ソフィ! 隊長の胸を借して頂きます!!」 

「それでは双方始めぇー!!」 

 第四中隊長クルトの号令と共に模範試合が始まった。アンは既に魔力を剣に込めている。炎の魔力が渦巻き、熱気が場外の私の近くまで伝わっている。渦巻く魔力の奔流の中、アンの剣と髪から炎が立ち上る。アンは先日のサラマンダー討伐で、LV3に上がった。魔力の加護は3割増しと言ったところだろうか。だから以前と異なり、渦巻く魔力が顕現してしまっていた。それ自体は未だ、魔素のコントロールが不十分な証拠だったが、見る者にとって、炎を纏うアンは魅了される存在だった。炎髪……髪は魔力や魔素の影響を受けやすい。アンの髪は炎の魔力を吸い上げ、燃え盛る炎となって、現れていた。 

「う、嘘だろ?」 

「ま、まさか、伝説の魔法剣じゃ?」 

 新人騎士の誰かが呟いた。それは確かに魔法剣だった。ごく初歩の……しかし、多くの魔法と共に忘れられた。幻の剣がそこにはあった。 

アンは丁寧な騎士の敬礼をすると、声を張り上げた。 

「アン・ソフィ! 参ります!」 

「受けて立つ!」 

 アンは猛然と走り出すと、5メートル程手前で更にスピードを上げ、剣をかざし、全力で切りかかった。 

「炎の剣!」 

煌めく炎を迸らせアンが剣を振るう、瞬歩のスキルでもなければ、避けられない。しかし、 

ゴキン!? 

 大きな音と共に、中隊長はアンの剣を自身の剣で受けた。音はまるで、金属の塊同士がぶつかったかの様な音だ。 

「中隊長の闘気、アンと同等だよ」 

「そうね。そうすると、アンが優勢かな?」 

「それはどうかな? そうとは思えないよ」 

「何故? 闘気が同等なら、魔力に勝るアンが優勢じゃ?」 

「中隊長は何か隠している技があるよ。おそらくはだけど」 

ゴキン! ゴキン! ゴキン! 

 数度二人が打ち合う。とても人が扱う剣同士が擦れ合う音とは思えない重厚な音が響く。アンの剣は魔力で染まっている。しかし、その剣をいとも容易く受ける中隊長。剣に多量の魔力を宿しているのだ。アンと同じ様に。そうでなければ、中隊長の剣は折れている筈だ。 

「中隊長は魔法も使えるって事?」 

いや、しかし、中隊長から魔力の動きが見えない。 

「おかしいわね。中隊長は魔法使いではないみたい」 

「..................じゃ、あの剣はどういう事?」 

答えは直にわかった。二人は少し間合いを開け、対峙した。 

「いいものを見せてもらった。今度はこちらの秘技を見せてやろう」 

「秘技? よろしくお願いいたします。全力で受け止めます!!」 

「魔石よ、俺に力を! セブンス・ペイン!」 

 中隊長が叫ぶと周りに煌めく色とりどりの色の魔石が浮かび上がった。魔石は宙を浮かび、中隊長の周りを周回する。 

「フレア・アロー!炎の矢よ」 

「ティザースター!幻影術」 

魔石からフレア・アローが放たれる。それを風の幻影の魔法で避けるアン。 

「こ、これはユニークスキル! 魔石使い!」 

 私は思わず呟いた。ユニークスキル。女神様から気まぐれの様に与えられる特殊な能力。タレントもジョブも関係ない。ある時、突然付与されるこのスキルは非常に希少で、その存在さえ知るものは少ない。中隊長はその希少な一人だったのだ。 

「いっぱい喰わされたわね……」 

 私は顔を歪めた。ホント、例のサラマンダー、もしかしたら、第三中隊の人にとって、それ程の魔物ではなかったのかもしれない。全ては私達を騎士団に入団させる為の八百長芝居。少々腹がたった。本気で命を捨てる覚悟の人をほおっておけないと思った。例え、自分の正体がバレても贖罪の為なら仕方無いと思った。でも、騙された。 

「大人ってズルい……」 

 そうなのである。中隊長は魔法が使えたのだ。魔石を使って……彼は魔石を自在に扱うユニークスキルを持つ。魔力が無くても、魔法が使えるのだ。 

「こんな使い方もできるんだぜ! セブンズ・ペイン!」 

ドシュッ!? 

魔石の一つがアンに向かって、弾丸の様に突き進む。 

ガキン!? 

アンが魔石を剣で叩き伏せる。しかし、 

「くぅ!?」 

「かかったな? 今のは氷の魔素が詰まった魔石だ。お前の炎の剣の魔力は半減したろう?」 

「ならば!?」 

「フリーズ・ブリット*3」 

アンは氷の攻撃魔法を発動した。それも同時に3発! 更にやるようになったな! アン! 

七魔石バリアセブンスパージョン!」 

カキン*3 

アンの氷の攻撃魔法は中隊長に届く前に潰えた。 

「バリアの魔法ね」 

「そんなの聞いた事ないよ?」 

「私も初めて見るけど、同時に7つの魔石からそれぞれ属性の防御バリアが展開されているみたい」 

「それじゃ? 攻撃魔法は?」 

「全て無効化されるわ……」 

それはすなわち私でも勝てないという事だ。 

 アンはそれでも負けを認めず戦っていた。私と違って、騎士魂を持っているアンは勝てないと知りながら最後まで闘うつもりだ。私は既に勝負が見えた試合……鼻くそをほじっていた。 

「わっ! クリス……女の子がそんな。僕だってそんな鼻大きくしてほじらないよ」 

「別にいいじゃないの? 女の子だって人間よ。これ位するわよ。多分アンだって」 

「アンはそんな事しない!」 

差別だ。 

しかし、戦いは終盤に入ってきた。アンは最後の魔法を放とうとしていた。 

「フリーズ・ブリット*3」 

 成程! 私は思わず感嘆した。アンの魔法はおそらく中隊長には届かないだろう。だが、アンの放った魔法は見るべきものがあった。アンは左右と上、3か所から同時に攻撃した。バリアのある中隊長には効果はないが、他の者にとったら、さぞかし困るだろう。全周を防御する魔法は無い。通常前面だけだ。例外は目の前の中隊長の魔法だ。 

「マジック・ミラー!」 

ズシャー*3 

 中隊長が叫ぶと、なんと3つの氷の弾丸は文字通り跳ね返った。そして、発したアンの元へ戻った。放った時の倍の速度で! 

「あああああああああああああああ” あ” あ” あ” あ” あ” あ” !」 

「勝負あり! それまで!」 

 審判の第三中隊長クルトが判定した。私は慌てて、アンの元へ駆け寄った。通常の倍の速度でフリーズ・ブリットを3発も受けたのだ。下手したら? 

「ア、アン? 大丈夫?」 

「……わ、私、負けちゃいました?」 

「うん、アンは頑張ったけど、あの馬鹿犬、凄い強い」 

 アンは直ぐに気を失った様だった。慌ててヒールの呪文を唱える。幸い、アンは魔法防御ファランクスの魔法を使った様だった。そうでなければ、氷の弾丸はアンの体を突き抜けただろう。
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