悪役令嬢が最強!伝説の魔法使いが悪役令嬢に転生。いろいろやらかして追放されて贖罪をしながらのんびり。この悪役令嬢あまり懲りてないみたい。

島風

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アンがぶち切れてしまいましたわ。2

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ビシッ 

 手袋が一人の騎士に叩き付けられる。乾いた音と共に、険悪な空気が漂う。お貴族様二人から、禍々しい気が立ち込める。予期せぬ反撃、彼らは、アンを格下に見ていた。自身が強者であると信じて疑らなかった、だから、予想もできなかったし、アンの行動に怒りしか湧かなかったのだろう。アンの行動は騎士なら当然なのだ。騎士が侮辱され沈黙を守る事等あり得ないのだ。それが騎士、私達と違って、アンは騎士を目指していた。彼女は心の奥底から騎士なのだ。 

「私の友人を侮蔑するような発言は許しません!」 

「えっ? そっち?」 

 思わず、私は呟いてしまった。そうか、アンがブチ切れたのは私が侮辱されたからか! 根っからの騎士のアンは自身が侮辱された事より友人(ホントはご主人様、アンは私の下僕なんだけどね)を侮辱された事に我慢の糸が切れた様だ。 

「決闘を申し入れします。二人同時にかかってきて頂いて結構です」 

「何だと? 貴様、気でも振れたのか?」 

「いや、破れかぶれだろう? 二人同時だから負けても仕方ないとでも思ったのだろ?」 

「なるほど、多分そうだな。全く笑わせるぜ! 俺達に決闘だと? 十年早い」 

「いや、十年処か一生かかっても無理じゃね?」 

「違いない、ぎゃははははっは!? こいつ笑え過ぎる」 

私はますますこの二人に不愉快にされた。それで、なぶる事にした。 

「アン、さっさとこの二人始末しなさいよ! 十秒もあれば十分でしょ?」 

「そうですね。でも、クリスさん酷いですよ。十秒もかかりませんよ」 

「そうね、今なら、ほんの数秒、この二人が立っていれたら、奇跡ね」 

しかし、エドヴァルドさんが彼ら二人を諭すように言った。 

「お二方、栄えある入団式に揉めるのは如何かと思われます。ここはお互い、無かった事とされてはいかがでしょうか?」 

 しかし、アルはなぶる事にしたようだ。こいつは性格悪いから、このお貴族様の二人がなぶり殺しになる処を喜々として見るつもりだろう。 

「僕からの忠告だけど、早めにアンに謝った方が身のためだよ。命を粗末にするもんじゃない。身の程をわきまえない、長生きできないよ」 

だから、そんな言葉は火に油でしょ? 親切な口調で酷ぇー 

「(アル!? あなた、遊んでいるでしょう?」 

「(うひゃははははははははははははっ!! こいつらこれで、もう逃げられねえぞぉっ、ふぇへぇへぇへぇへぇへ!! きっと泣いてぴぃぴぃ言うよ!!)」 

「(ふ、ふふふ……中々いい根性じゃない……ちょっと私も快感!!)」 

 もう後戻りはできないだろう。二人の騎士とアンの決闘は避けられそうにない。騎士同士の決闘は正式な手続きを踏めば、対戦者を殺してしまっても罪にはならない。この二人、死んだかも。アンは手加減できないからな。ご愁傷様です。と思っていた時、 

「お前達、待て!! 決闘等見習いのお前達には十年早いわ!」 

凛とした声が響いた。老人のものだろう。渋い、低い年季を積んだ人の声に思えた。 

「クルト・オルフ・ニルソン様!?」 

「(アン、誰、これ?)」 

「(第四中隊長です)」 

「(あっ、そぉ)」 

「(ちっ! アンの殺戮ショーが見れないな)」 

アル怖ぇ? 私でもそこまで思わないわよ。 

「話は聞いておった。アン・ソフィ君。貴殿の気持ちもわかるが、そなたらは未だ見習いじゃ。決闘などは一人前の騎士がするものだ。それに一人前の騎士だとて、簡単に決闘などすべきではない!」 

「しかし、中隊長様! 私は友人への侮辱は許せません。騎士の矜持にかけて、名誉を取り戻したいのです!」 

「クルト中隊長殿。ここは決闘をさせてください。身の程をわきまえない輩にはわからせませんと!」 

「その通りです! この様な侮辱、耐えられません!」 

騎士失格の二人も引き下がらない。引き下がらないと死んでもしらないよ。 

「儂はそなた達二人の命を救おうと思ったのじゃがな……いいだろう、この決闘、儂が預かる。ちょうどいい、今日の模擬戦の対戦カードに悩んでおったところじゃ。お前ら三人でやってもらう」 

「さ、三人?」 

「そうだ。アン・ソフィ君と君達二人が対戦するのじゃ」 

「そ! そんな!!」 

「ばかげてます! 二人で一人と対戦だなんて、末代までの恥です」 

「お前達自身が選んだのだ。恥ならとっくにかいておるわ! 女性になんという事を言ったのじゃ? その上、彼我の差もわからんとは、嘆かわしい!!」 

 どうも、この中隊長は私達の技量を良く知っている様だ。あの馬鹿犬(第三中隊長の事)、喋りやがったな? 約束が違うくねぇ? 

 一旦は場が収まり、私達は入団式を迎えていた。私達騎士見習いは、講堂の真ん中に固まって整列していた。みんな緊張していて直立不動だ。 

時間が来ると、第一中隊から順に騎士達が行進して入場した。最初は第一中隊、そして第二中隊と見事にそろった足並みは練度の高さを物語っていた。そして、見習い騎士を囲んで、一番前に第一中隊、左に第二中隊、右に第三中隊、後方に第四中隊と整列した。第一中隊から第四中隊まで、各中隊約50名いるらしいので、全体で200名程度が集まっている……集まった騎士達の姿に息を呑んだ。 

一目で、一人ひとりが鍛錬しつくされた騎士であることが分かる。しっかりと鍛えられた肢体に、精悍な騎士の制服に身を包み、あるいは鎧を纏い、腰には剣をさしている。 

 全員が揃ったかと思われたころ、10名位の貴族が入ってきた。気品に飛んだ貴族達、このケルンの領主は王族でもある。その為、品格は高い。その中でも、ひときわ気品の高い人物がいた。叔父様だ。そういえば、叔父様は貴族でもあった。それもメクレンブルグ家、王族であり、この領主の嫡男なのだ。そして団長のみに着用を許された、誠実と信頼を象徴する白を基調とした制服に団長専用の金のライン、そして、たくさんの装飾、更に団長である事を示す団の象徴である、聖竜のバッチを胸に着け騎士団第一種礼装を身にまとっていた。空気が変わった。おれまでの緊張がより、重い緊張に変わる。緊張は各中隊の精鋭から発され、それが末端まで伝わる。私達見習いにも伝播した。凛とした空気に突然纏われた感じだ。最初ざわついていた講堂も、気がつけばしんと静寂が続いていた。 

 静寂を破ったのは一人の貴族の女性だった。唯の貴族ではない。私はその人を知っていた。セシーリア・メクレンブルグ侯爵令嬢にして、聖女。彼女の気品はずば抜けていた。美しさと清楚さ、そして何者も侵せない清らかさ。まさしく聖女だ。その彼女が壇上の中央に歩む。 

 多くの騎士達が集まっているというのに、彼女が歩を進めるだけで、僅かな衣擦れの音が聞こえる。講堂が深く静まり返っていたからだ。そして、壇上に立ち、言葉を発する。 

「ヤッホー! まぁ、みんな死なないい程度に頑張ってね!」 

 檀上に上ったセシーリア嬢は朗らかに明るく気さくな言葉で私達の入団への祝賀の言葉を述べてくれた。 
がたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがた! どこん! 

 見習い騎士達全員がずっこける。皆、聖女様の言葉を一言一句聞き逃すまいと耳をそばだてていたのだ。そこに軽い言葉をぶっこまれたのだ。当然だろう? 今までのいかにもな雰囲気はなんだったんだ? 気がつくと、先輩騎士達はくっくっと笑いを押し殺していた。やられた! 聖女様の性格を知っていて、いっぱいひっかけられたんだ。 

第三中隊長を見ると、ニヤリと笑われた。やっぱり引っかかってしまった。実は私も膝を落としてしまった一人である。不覚だった。 

 しかし、私は違った意味で、この聖女セシーリア・メクレンブルグ嬢を眺めていた。そこには私が持つべきものがあった。侯爵令嬢、そして聖女……彼女はほんの一か月前までの私と同じ位置にいる。だけど、その差ははっきりと感じられた。清廉さ、慈悲深さ……そして信頼……彼女がたくさんの信頼を勝ち取っているのは明白だ。先輩騎士団の聖女を見る目は仲間を見る目だ。彼女の姿は私が持つべき姿だったのだ。 

気がつくと頬に涙があふれていた。久しぶりに自身への嫌悪感が湧き出た。かつての自身の悪行、目の前に理想があるからこそ、自身の醜悪さが蘇る。 

「(クリス、君は君の素敵な処があるよ。僕にとっては一番素敵な聖女はクリスだよ)」 

「(ありがとう。アル)」 

「(クリスさん……)」 

 アルとアンが私を励ましてくれる。ふと目を見上げると叔父様と目があった。叔父様は困った様な顔をしていた。私は慌てて目の涙を拭った。私は騎士、聖女の位置にはいない、私には聖女の資格なんてないのだ。叔父様を困らせる様な事はしちゃいけない。そんな思いで、涙を拭い、叔父様に笑顔を返す。なんとなく、聖女様と目があってしまった。慌てて目を逸らす。とても真っすぐ聖女様の目が見れなかった。こんなにも汚らしい自分を見られたくなかった。 

「冗談はおいておいて、まずは、私達を守護して頂ける騎士団に新たな若き騎士が加わったことに喜びを覚えます。皆さまのご活躍期待してますよ!」 

 先ほどのおどけた口調と違い、今度は慈愛に満ちた声で、見習い騎士の入団への謝辞を述べる聖女様、その声は透明に凛としており、見習い騎士達の胸をうった 

聖女様は一瞬で騎士達の心を掴んだ。誰もがこの気さくな聖女様と共にあらんと思うだろう。私もその気もちが湧き出ている。聖女様と魔族を討伐する。それは騎士の本懐だ。 

…なんというか。 

……すごいな。 
やっぱり、私なんかじゃ聖女様は務まらなかったんだ……私は一人納得した。
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