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さつきのいろどり

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⑩あの世からのコール

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これは数年前の、少し肌寒い季節の出来事。

夕方、Aさんと待ち合わせをして
ご飯を食べに行き、その後、ゲームセンターで犬のヌイグルミを取りました。
大きさは、30センチくらいの大きめの物です。
ヌイグルミは、取った時にもらった
袋の中に入れました。

ゲームセンターを出た頃には
辺りは既に暗くなっていて
普段、人通りの多い駅への道は
ほとんど、人が歩いていませんでした。

終電が、ギリギリだったので
私とAさんは、近道を通る事に。

その近道は、街灯はなく薄暗い小道。

何だか、嫌な雰囲気だなと思いながらも
駅まで、走りました。

帰りの電車の中で、袋の中のヌイグルミが
何となく気になり始めました。

椅子に座っている私の膝の上のヌイグルミは
何か異様なオーラを放っているような
気がしたからです。

なんて言ったらいいのか…
生き物を膝に乗せているような感覚です。

その時点で、なんとかすれば良かったのですが
疲れがたまっていたのと
次の日は、早く起きなければいけなかったので
その気持ちが先立ち、家に着くなり
ヌイグルミをそのままにして
バスルームに向かいました。

そして、バスルームから出た後
何を思ったのか、私はそのヌイグルミを
枕元に置いて布団に入りました。

疲れているはずなのに、なぜか眠れずにいると
体が動かなくなりました！

金縛りってやつです。

その金縛りの原因は、すぐにヌイグルミだと
気がつきました。

『やっぱり何か憑いてたんだ！』

声が出ないので、心の中で言う。

いつもならすぐに自力でとける金縛りも
その日は、なかなかとけない…

『ヤバイ』

『これ、ヤバイやつだ！』

その瞬間、引きずり込まれました！

どこへって？…わかりません。
知っているような、知らない場所です。

ベッドで寝ていたはずの体が
一瞬で、知らない空間へ移動していました。

何故か携帯を握りしめて。

するとその携帯が、この世の物とは
思えない音を出して鳴りました。

画面を見ると見た事もない番号からで
着信画面には、あらゆる動物の死骸が
ぐちゃぐちゃに混ざり合ったかのような
画像が表示されていました。

『連れて行かれる！』

私は咄嗟に、そう思いました。

上から得体の知れない黒い渦のような物が現れ
下りてきて、私の体を引き込もうとしました。

その渦から、無数の手らしき物体が！

いや、はっきり言って、それが手なのか
何なのか、わかりませんでした。

なぜなら、私を引きずり込もうとしている
物体は、ごちゃ混ぜになった動物の死骸と
その手のような物が、ぐちゃぐちゃになって
絡まり、ひとつの束になっていたから。

『助けて！』

『誰か助けて！』

この知らない空間でも声を出す事が
出来ない私は、心の中で叫びました！

祈りに近かったかと思います。

だけどその心の声も、その黒い渦の中に
吸い込まれているかのように虚しく

ぐちゃぐちゃの得体の知れない物体が
私の体に、まとわり付き
「ズズズ…」と私を持ち上げる。

『もうダメだっ！』

そう思った時、また着信が鳴りました！

Bさんからの着信でした。

『行くな！』

『こっち！』

と、なぜかBさんの声がしました。
そのBさんの手が、私の腕を引っ張ると…

私が、ついさっきまで横になっていた
ベッドの上にいました！

『チュンチュン』

外は、既に明るくなっていて小鳥のさえずりが
聞こえてきました。

「え、もう朝？」

そんなにも長く、あの変な空間にいたのか…？

夢だったのか、現実だったのかどっちなのか
わからないくらい、不思議な体験でした。

恐る恐る携帯を見ると、たった今
私の腕を取り、助けてくれたBさんの
着信が入っていました。

これは、この体験が現実に起きた事だったと
言う事を証明していました。

次の日、Bさんに電話の理由を聞くと
かけてないそう。
まぁ、確かに夜中だったので、
よっぽどの理由が無い限りかけないですよね。

ただ、私の事を「なんとなく気になって
思い出していた」との事でした。

でもBさんから着信が入っていたのは事実。
不思議ですよね。

あのまま誰にも助けて貰えなかったら
私は今、この話を誰かに伝える事
書く事が出来なかったかも知れません。

今でもあの時、助けていただいたBさんには
感謝しています。

ところで後日、Aさんが、こんな事を
言っていました。

「あの道を曲がった時、変な感じがしたんだよね。私に憑いてくる分には良かったけど
まさかヌイグルミに入るなんてね…」

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