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第3章 恋してはいけない相手

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【新校舎1年A組の教室】

教室に入ると、何だかクラスメイトの視線が一斉に集まってるけど…

「ねえ、瀬戸君達が魔族をやっつけたって本当?」

「えっ?」

遠山さんが何で知ってるんだろう?

「ワイワイ、ガヤガヤ」

そうか、昨日の戦い誰かに見られてたみたいだ。

「本当に魔族が出たの?」

「ああそうだ、俺たちがやっつけた」

「ほらね、やっぱり魔族は居たんだ。お父さんが言った通りよ。警察の人達じゃ手に負える相手じゃなくて困ってたの」

遠山さんのお父さん刑事なんだね。

「勇者様は?来なかったの?」

大岡さんは勇者が大好きらしい。

「ねえ、勇者様よ、勇者様。助けに来てくれた?」

「はっ、だりぃ。勇者なんて居るかよ」

「なーんだ。魔族倒したの勇者様じゃないんだ。本当にあんた達なの?信じられなーい」

「悪かったな、勇者じゃなくて」

「魔族をやっつけるのは、勇者様じゃなくちゃねぇ」

そりゃ僕達は勇者じゃないですけど…

でも、カプセルに選ばれたんだから、これから戦って行かなくちゃならないんだ。

【カフェ】

《ランチを食べる大河、翔、司、蓮》

今日は先生達の都合で特別クラスまでまだ時間が有る。

「何で僕は、ランチまでお前達と一緒にしなければならんのだ」

「だりぃ、誰も頼んでないぞ」

「鬼嫁の弁当じゃねえのかよ?」

「そんな物は無い」

「頼めば作ってくれるんじゃないの?」

「良いか大河。女子なら頼まれなくても作るものだ」

そうなの?

何か昔の男みたいだね、蓮君。

まあ、僕も古典の世界で育ったから人の事言えないけど、女性のこと「こう有るべき」っていうのはあんまり無いな。

そりゃあ、理想は有るけどね。

「美味っ」

「翔、ガツガツ食べるな、行儀悪い。ほら、こぼしたぞ」

蓮君、翔の事も名前で呼んだ。

何だかんだ言いながら、仲良くなって来てるよな、僕達。

《スマホの通知音が鳴る》

「何だ?大河。女からのメールか?」

司はすぐそういう事言うし。

《スマホを見る大河》

「女性には違い無いけど…」

お婆ちゃまからだ。

え?今度のおさらい会の序開き?

僕が踊るの?

梅の春か…

清元は唄の間が取りにくいんだよな。

今の僕にはまだ難しいよ、梅の春は。

メール
「千代の友鶴ではいけませんか?常磐津なら弾けるから踊りやすいです」

メール
「友鶴で良いです。しっかりさらっておきなさい。お休みには帰って来るのよ。見てあげるから」

メール
「はい」

とは言ったものの、女の踊りは得意じゃないんだよな。

梅の春は男だから、家元はそっちが良いと思ったんだろうけど…

やっぱり清元より常磐津の方が踊りやすい。

お稽古は厳しいんだよね。

普段は優しいお婆ちゃまなんだけど。

「なあなあ、これからどっか行かねえか?」

「だりぃ」

「ったあく、司は「だりぃ」しか言わねえな」

「僕は勉強が有る。一年坊主に付き合ってる暇など無い」

「ああ、そうですかっ?大河は?」

「ごめん」

「んだよ、皆して」

【旧校舎の講堂】

ここは板の間だから、トンしたら響きそうだね。

まあ、床の下に瓶は入れてないだろうけどね。

トンしたらちゃんと響かないと踊りにくい。

さて、お稽古しますか。

「チャチャチャチャーン、チャンチャン。霞たーぁぁ、つーぅーチーンチンチンチンチンチンチンそらのどーぉぉかなるーぅぅぅぅぅー」

【廊下】

《トントンと床を踏む音が聞こえる》

「何の音かしら?」

《音のする方へ歩く優里香先生》

【講堂】

《優里香先生は入り口から中を見るとハッとして足を止める》

「(大河君?…踊ってる…何か歌いながら…)」

《踊る大河を見ている優里香先生》

「(何だか不思議な空間に迷い込んだみたい。ちょっと、声をかけづらい感じね)」

「優里香、何してるの?」

「しーっ」

《優里香先生と紗羅先生に気付かず集中して踊る大河》

「歌舞伎?女みたいね」

《と小声で言う紗羅先生》

「恵ぃの、末ぇやー、契ぃるーらーぁぁ、んーんーんーーん」

《パチパチパチ拍手する紗羅先生と優里香先生》

「あ…」

見られちゃった。

「いつからそこに?」

「結構前から見てたわよー」

「気付かなかった」

「凄い集中力だわ」

「でも、何で日本舞踊なワケー?」

「おさらい会が有って、序に踊らないといけなくて…」

「習ってるのー?日本舞踊」

《興味津々で根掘り葉掘り聞く紗羅先生》

「家元の孫に生まれちゃったから…」

はあ…

紗羅先生の質問攻め。

《答える大河に目を丸くする二人》

「踊りが好きとか嫌いとか考える前に、当たり前に毎日の生活の中にお稽古が有ったと言うか…」

「へー、そうなんだー」

「あ、先生時間」

「わっ、本当」

「そろそろ教室に行きましょう」

【旧校舎の教室】

僕が教室に戻ると、もう皆んな揃っていた。

「何だよ大河。先生達と一緒に来やがった」

そこ、突っ込まないで。

「さあ、始めるわよー」

紗羅先生が分厚い歴史書を持っ来て開いた。

昔天界で精霊と魔族の戦いが有った事。

天界で負けた魔族が地に降りて来た事。

この地は一度壊滅状態になった事。

勇者が現れて魔族を退治した事など、ここでは魔族達との戦いの歴史を勉強したり、現在の魔族の事を先生達から報告されたりするんだ。

武器の手入れなんかもここでする。

これは昔勇者が使っていた物だそうだ。

精霊から貰ったんだって。

武器の手入れが終わったら、裏庭に出て訓練だ。

【裏庭】

僕も早くスキルを身に付けないと。

戦闘用アンドロイド相手にバトルする。

本当こんな物まで有る時代に、この武器は確かに古臭いけど、魔族にはこれしか通用しないんだから仕方ない。

でも、何だか蓮君の杖初めの時と少し変わった気がするよね。

スキルを覚えた時赤く光ってだけど、あれは宝石みたいなのが輝いてたんだよな。

「さーて、次にスキルを覚えるのは誰かしらねー」

「俺俺、ぜってえ俺が覚えてやっかんな」

「ふっ、だりぃ。順番なんてどうでも良い」

「この僕が2つ目のスキルを覚えるという事も有りうるな」

僕だって、頑張るんだ。

優里香先生魔族とのバトルの時毎回来るつもりなのかな?

だったら僕がしっかり守らないと。

僕はガーディアンなんだ。

でも…

僕、本当に優里香先生の事好きになっちゃったのかな?

もしそうなら、お婆ちゃまに知られたら大変だぞ。

師弟関係の恋愛はいけない、っていつも言われているんだ。

まあ、僕は家元がお婆ちゃまだから有り得ないけど、代稽古の姉弟子がそれに当たる。

「弟子が師匠に恋をするのは、簡単だ。でもそれは芸に惚れているのだから、弟子に手を付けたりしちゃいけないよ」って、お弟子さんを持っている名取さん達にそう言っている。

「魔族、いつ来ても良いぞ。俺がやっつけてやっかんな」

「でも、何だか可哀想な気がするな」

「はあ?お前はバカか?何故魔族などに情けをかける?」

「大河は甘いんだよ」

「魔族だって、僕達と同じように家族とか居るのかな?って」

「居るわよー。だから増えてるのよー」

「ボスのような者が居るのならば、そいつを叩けば早いのではないか?」

「ボスねえ、魔王が居るわよー」

「魔王だあ?ゲームじゃあるめえし、魔王だ勇者だって、バカバカしい」

「魔王がこの世界を自分達の物にしようとしてるのよー」

「だって、勇者が倒したんじゃねえのかよ?」

「ゲームだってー、倒しても倒しても復活するでしょーう?」

「するな、三度は。倒す度にバージョンアップして。はあ、だりぃ、マジ生きてたのかよ魔王」

「ええ、生きていたの。そして残った魔族達と再建を始めた」

「この世界をって、他に行くとこねえのかよ?」

「元は天に居たのよねー、悪い事するもんだから、精霊に追い出されたってわけよー。だ・か・らー、行き場所は無いのねー」

「共存する事出来ないのかな?戦わないで」

「本当大河君は甘いわねー。人が襲われてるの。向こうは共存なんて考えてないわよ。人間を全て殺して、この世界を魔族の物にしようとしてるの。昔みたいに」

「あの時勇者が現れなければ、人間は絶滅して、この世界は魔族の物になっていたでしょうね」

「勇者は人間だから死んじまったけど、魔王は生きてたってか。どんだけ長生きなんだよ」

【学生寮】

翔と司と蓮君は夕食を食べに外に出たけど、僕はちょっとストレスが有るから…

お婆ちゃまの会で序の舞を踊るのは、ちょっとだげストレスになってるみたいだ。

だから、ストレス解消に音楽を聴いてる。

僕の初恋のピアニスト、マリア・マルタさんのシューマン。

初恋の人なんだ、本当に。

お婆ちゃまより年上なんだけど、そんなの知らなかった。

僕が12歳の時初めて彼女のショパンコンクールの時の第1コンチェルトを聞いて、名前と演奏しか知らなかったけど恋してしまったんだ。

あんなに美しい女性だなんて、後から知った。

お年を召されても美しくて、素敵なお婆様だよね。

ああ、この弾き方…

もう、そこが彼女なんだよ。

素敵だよな、本当に。

はあ…ついため息が出てしまう。

《シューマンのピアノコンチェルトを最後まで聴いて余韻に浸る大河》

はあ、気持ち良い。

さて、僕もお腹が空いて来たぞ。

夕食を食べに行くかな。

どうしよう?

取り敢えずキッチンに行ってみるか。

何か適当に作って食べよう。

【キッチン】

うーん、ご飯は有るか…冷たいけど。

冷蔵庫は…卵と、豚肉。

野菜は有るかな?

玉ねぎと人参と…

良し。

フライパンに油を引いて温めてと。

豚肉に火が通ったら野菜を入れて塩胡椒だな。

ご飯を入れて少し炒めたらもう一度味を整えて…

僕はここでケチャップは使わないんだ。

「美味しそうな匂いがしてるわね」

《ニコニコしながら優里香先生がやって来る》

「食べる?」

「え?良いの?」

「二人分ぐらい作れるよ」

「そう?じゃあ頂こうかしら。フフフ」

卵にマヨネーズを入れると、ふっくら焼けるんだよな。

後はトマトソースをかけてオムライスの出来上がり。

「こっちも出来たわよ~」

優里香先生がサラダとスープを作ってくれた。

本当に手際良くサッと作るよな。

慣れてるんだね。

あ、誰かの為に作ったりするのかな?

羨ましいぞ。

【ダイニングテーブル】

《食事をする優里香先生と大河》

「男の子にお料理作ってもらったの初めてだわ」

「え?作ってくれないの?」

「誰?」

「彼氏」

「そんな人居ないもの」

「良かった。ライバルが少なくて」

「少なくて?」

「先生結構男子に人気だから」

「あら、知らなかったわ。フフフ」

教師と生徒だけど、この特別クラスでは先生と僕達は一つのチームなんだって。

だから、ここでは友達みたいに話すように言われている。

作法にうるさく育ったから、最初は戸惑ったけど、だいぶ慣れて来た。

勿論目上の人なのだから、敬意を払う必要が有ると僕は思っているけどね。

「美味しい。お料理はお母様から?」

「内弟子さんから。母親は居ないんだ」

「まあ…ごめんなさい」

「良いよ、謝らなくても。僕が小さい時離婚して家を出て行った」

「そう…」

「普通の暖かい家庭って、どんなだろうな…」

「大河君…」

「優しいお父さんとお母さんに可愛い子供…女の子が良いな。優里香先生はどっちが欲しい?」

「え?」

「そんな家庭を二人で築きませんか?」

「あら、プロポーズなら大人になってから聞くわ」

「あ、今のセリフ忘れないよ。大人になったらもう一度言うからね」

「良いわよ。その時本当に私の事好きになってくれていたら」

「あ、その言い方は信じてないな」

「だって、今の貴方は本気じゃないでしょう?からかわれてるとしか思えないもの」

「うーん…」

「(本気になられても困るけれど…教師と生徒だもの)」

やっぱり心のどこかに、好きになってはいけないというブロックが有るのかな?

でも、人を好きになる時って、好きになろうとしてなるものじゃないし、いけないとわかっていても好きになってしまうものだよ。
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