『ペガサスが舞い降りる日』“僕の人生を変えた恋人”

大輝

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第24章 女王の貫禄

僕の人生を変えた恋人24

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「コユキ来たよ」

僕の膝の上で桜ちゃんがそう言った。

「来たね」

「最後にやって来ました。桜花賞馬の登場です。夏を越して逞しく成長した桜の女王コユキ。秋の京都競馬場に美しい白い花を咲かせます」

弾けるように飛んで行った。

良い感じで返し馬してるな。

「走る気満々でないかい?」

「うん、元気一杯だね」

落ち着いて輪乗りしてる。

「あ、あ、うー」

華ちゃんが何か言ってる。

コユキを応援してくれてるのかな?

「きゃっ、きゃっ、あはー」

「華、ご機嫌だなー」

「笑顔の勝利の女神ね」

「今日も勝利の女神になれると良いね、華ちゃん」

舞ちゃんがそう言った。

そうだ、去年の10月華ちゃんが生まれて、そして、コユキが初勝利を挙げたんだ。

秋華賞の月に生まれた女の子だから華ちゃん。

コユキ、勝利の女神の華ちゃん、ニコニコしてるよ。

頑張れ。

明日は、華ちゃんのお誕生日だよ。

一生に一度、3歳の時だけ挑戦出来る三冠レース。

牝馬三冠の最後の一冠だ。

「今日は絶対口取りするぞー。祝勝会はいつだ?」

「勝ったら考えるわよ」

ファンファーレが鳴った。

ゲート入りが始まった。

コユキは奇数番だから、先に入る。

3歳の女の子達、だいぶ慣れたね。

スムーズにゲート入りしている。

コユキ物見してるけど大丈夫か?

君は出遅れ癖が有るんだからね。

全頭収まった。

コユキ、無事に帰っておいで。

皆んな無事に回って来るんだよ。

きっと皆んな良いお母さんになるんだからね。


ゲートが開いた!

「スタートしました!綺麗に揃ったスタートです。誰が行くのか?カネノカンムリがハナを切るようです」

「コユキ定位置だな」

「ハナに立ったのは、カネノカンムリ。単騎の逃げになりました。カミノクインは、先行集団。コユキは後方に付けています」

カネノカンムリも、単騎で逃げられればしぶといからな。

「コユキ、外から被されてる」

「馬群に入っちゃった」

大丈夫。

馬群に包まれても、メジロドーベルみたいに力を出せるから。

「オークスの時も3番だったよな。内に入って前が開かなかったんだよなー」

京都競馬場は、4コーナーで内が開くけど…

「動かないで脚を溜めるしかないね」

3、4コーナー中間まで、コユキは後方の馬群の中に居る。

いつもなら自分で上がって行くんだけど、身動きが取れない感じでじっと我慢している。

「4コーナー手前。この辺りで後方の馬が前を捉えにかかります。コユキはまだ馬群の中。どこで動くのか?」

第4コーナーを回ると、コユキは、馬群を縫うように上がって行った。

前の方で1頭抜け出した馬が居る。

「カミノクインが満を持して抜け出しました!」

やっぱりカミノクインが相手か。

「後方からコユキが物凄い脚で上がって来ました」

一騎打ちになった。

カミノクインもしぶとい。

もうすぐゴール板だよ。

「コユキが競り落とした!ゴール前粘るカミノクインを力でねじ伏せました!勝ったのはコユキ。牝馬二冠達成です!もう同世代に敵は居ない。次は女王杯で古馬との戦いが待っています」

「やったなー!」

「コユキ良い子良い子。華ちゃんも良い子」

桜ちゃんは、華ちゃんが勝利の女神だって意味が、ちゃんとわかってるみたいだ。

ニコニコして妹の頭を撫でている。

「私来させてもらって良かったー。凛ちゃんに感謝だねー」

今頃春風牧場も大騒ぎだろうな。

凛ちゃんどうしてるだろう?


ウイニングランだ。

桜花賞の時は戸惑ってたコユキだけど、今日はわかってるみたいだね。

写真を撮られるのも随分慣れたな。

カメラマンが並んでいる所へも、スッと行った。

桜花賞の時は、あそこへ行くの嫌がってたけどね。

「口取り行くぞー」

「一杯褒めてあげたいわ」

口取りも慣れたもんだね。

「コユキ良い子ね」

桜ちゃんがコユキの鼻先を撫でた。

【京都の旅館】

祝勝会は後日なので、駿さんは行けるかどうかわからなくて、残念そうだね。

いつもなら、凛ちゃんからメールが来る頃なんだけど、今日はまだ来ないな。

「菱、何携帯見てるんだー?メールか?凛からか?」

「ずっと来てないよ」

「だったらお前の方からすれば良いべさ」

「この前牧場に行った日から来ないんだ」

あの日、交際宣言した日から、メールが来ていない。

「何やってんだ?お前達…」

〈自分の携帯を出してメールする駿〉

「菱ちゃん、シャンパーニュ開けて」

「はーい」

【凛の部屋】

〈携帯を見る凛〉

メール来てる。

え?お兄ちゃんから?

「菱が寂しがってるから、メールぐらいしてやれ(^_^)v」

え?

何言ってるのよ。

だいたいお兄ちゃんが無理矢理あんな事言わせるからじゃない。

もう。

【京都の旅館】

「コユキが勝ってくれたから、酒が旨いな」

「次は女王杯ね」

「お姉さん達相手だから、そう簡単に勝たせてくれないだろうけどね」

「来年は、男馬との戦いになるな」

あ、メールだ。

凛ちゃんからだ。

「コユキ勝ってくれて良かったね♪(v^_^)v」

「うんうん。良く頑張ってくれたよね(^ν^)」と返した。

これで、今迄のように普通にしてくれるかな?

駿さんが、横から覗いて笑ってる。

「凛からか、良かったでねーか」

〈菱の肩を叩く駿〉

「痛いよ」

「ハッハッハー」

「桜お兄ちゃんと寝る」

「菱と寝るのか?オネショすんなよ」

「しないもん」


「桜は、本当菱ちゃんが好きだねー」

「子供好きだから、懐かれるのよね」

「早く子供作れ。自分の子供は可愛いぞ」

「その前に結婚でしょう」

「俺の弟になるのか、ハハア」

「え?」

「「え?」じゃねーだろ」

「お兄ちゃん、そのぐらいにしときなさいよ」

やっぱり、いつもならこの席に居るはずの凛ちゃんが居ないのが、凄く寂しい。

女王杯には来てくれるかな?

それまで会えないのか。

メールしてみよう。

「女王杯には来るよね?」と送った。

あれ?

もう返信?

「女王杯応援に行くね(^.^)」だって。

同時に送ったのか?

【凛の部屋】

「あれ?」

同じ事言ってる。

「フフフ」

「ニャー」

「ぶーニャンおいで」

〈微笑んでぶーニャンを抱っこする凛〉

「来月会えるのよ」

「ンニャー」

でも…

私の事好きなのかな?

そんな事言ってくれた事無いよ。

「ニャン、ニャー」

【京都の旅館】

〈翌日〉

「見て見て、新聞」

「女王の貫禄だって」

「こっちは、牝馬二冠達成」

【葉月家】

秋華賞の日から、凛ちゃんとはまた普通にメールするようになった。

コユキが勝ってくれたおかげだね。

と、思っていたら。

あの日駿さんから「メールしてやれ」って言われた、って、後で凛ちゃんから聞いたんだ。

何か…いつも助けられてるよな。

でも、結婚とか子供とかって…

付き合うって言ったけど、遠距離だし、今迄と何も変わってないよな。

「遠距離恋愛に良いパワーストーンでもプレゼントすれば?」

「ガーネットね。あの石は、一途な願いでないと嫌がるから」

「何よ、まだ舞ちゃんの事が気になってるの?」

あ、舞ちゃんね。

やっぱり、気にならないと言えば嘘になるけど、樫野さんは良い人だったからね。

ちょっと、ホッとしてる。

問題は、僕の魂がペルソナを忘れない事だな。

ガーネットに一途な願いをかけるほど、今の僕は凛ちゃんを思っているのだろうか?

こんなんじゃ、彼女に申し訳ない。


11月、コユキは疲れも取れて元気にしていた。

良く食べるので、絞るのが大変らしい。

16日の女王杯にはプラス体重で臨めるかな?

相変わらず距離不安説を囁かれているけどね。

2000までじゃないか?とか、マイルがベストだろう、とか…

オークスで負けたから、クラシックディスタンスは長いと思われているんだよな。

女王杯は2200m。

距離が微妙みたいに書かれてる。

秋華賞からあまり間隔が無いから、3歳馬は、目に見えない疲れも有ったり、ここ目標にして来る古馬も怖いね。

昔は「古馬が強いぞ女王杯」って言ったものだけど、最近は3歳馬の勝ちも有る。

僕の恋人エアグルーヴの長女アドマイヤグルーヴも、3歳で勝利して、連覇しているんだ。

「姫ちゃんの名前、何にしようかな?」

来年デビューのエアグルーヴの孫ね。

「本当に気品が有るのよ。やっぱり血統かしらね」

でも、のんびりした仔らしいね。

おっとり姫?

「怪獣君も姫ちゃんも、コユキみたいに、誰にでもすぐに覚えてもらえる名前が良いわね」

「そうだね、カッコいいのも良いけど、覚えやすいのが良いな」

「菱ちゃんも考えてくれた?」

「ホワイトビーストとか」

「白い野獣?怪獣君の方が可愛いわね」

「そうですか…」

凛ちゃんのブログではニックネームの怪獣君で知られているんだよな。

あのヤンチャ坊主。

もう少し大人しくならないと、本当に怪獣君て名前でデビューさせられるぞ。

もう、すっかり怪我は治って、元気に走り回っているそうだ。

相変わらず手のつけられないヤンチャぶりらしいよ。

どんな競走馬になるんだろう?

暴れ馬?


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