『ペガサスが舞い降りる日』“僕の人生を変えた恋人”

大輝

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第21章 凛ちゃんの願い

僕の人生を変えた恋人21

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コユキは、オークスの後放牧に出されている。

ゆっくり休んで、元気になって帰って来てほしいね。

7月、牧場の工事もほぼ終わり、ふれあい牧場の公開が始まるので、僕は北海道に飛んだ。

慎二も一緒だけど、釣りをする時間有るかな?

【春風牧場の放牧場】

ユキが走って来た。

「ボスになったんだって?」

頭を擦り付けて甘えてくる。

繁殖牝馬のフルーツバスケットは、ケガも治ってお腹に赤ちゃんが居るんだ。

この仔は中々の良血だし、お婿さんも良い仔を選んだから、生まれて来るのが楽しみだね。

高齢のサフランは、他の馬の子供達を可愛がっている。

隣りの牧場から来た馬達は、皆んな来た当初より元気になっていた。

春風牧場の皆んなが、大事に世話してくれたおかげだね。

本当に良かった。

「あー、菱のおかげでわんやわんやだー」

なんて言いながら、駿さんは笑顔で走り回っている。

忙しそうだね。

僕に手伝える事は無いか聞いてみた。

「お前は、牧場を潰さない事だけ考えてろー。後は凛の事もな」

って…

凛ちゃんの事…

ちゃんと考えてるつもりなんだけどね。

「凛は、舞がお前の事が好きだから遠慮してる。だけど、もう舞は樫野と付き合ってるからな」

そうなんだよな。

もう舞ちゃんに遠慮する事は無い、って駿さんは言う。

【ふれあい牧場】

爺ちゃんと駿さんが馬達を連れて来た。

「サフラン」

僕が行くと、サフランがラチの所まで来た。

さつきさんがニンジンを渡してくれたので、サフランにあげてみた。

噛まれないように、手のひらに乗せてあげるんだ。

前に指で持ってあげたら噛まれた。

怪獣君。

凄い痛かったよなぁ。

「ここは、明日から公開するからね」

サフランの他には、前から居た繁殖牝馬2頭。

血統があまり良く無いので、中央で走る産駒を産まなかった仔達だ。

そういう繁殖牝馬は、よその牧場では処分されるそうだ。

でも、ふれあい牧場では血統は関係無いからね。

もうこの牧場から処分する馬は出したくない。

【空き放牧場】

将来的には、ここで種牡馬を繁養したいんだ。

来年は、怪獣君がデビューだ。

もし、もしもだよ、種牡馬になれたら、他の牧場に行っちゃったら嫌だよね。

だって、ユキの仔だよ。

コユキの弟だよ。

絶対、ぜーったい、ここで繁養するんだ。

でも、大きなレースで活躍しないと、お嫁さん来てくれないからね。

頑張って重賞勝ってくれよ。


【ショップ】

ショップもすっかり出来上がっていた。

コユキのグッズなどが並べられている。

それから、凛ちゃんのハンドメイドアクセのコーナーも有る。

中には凛ちゃんの工房が有って、作っているところが見れるようにしたんだ。

東京の僕の店fleurみたいにしたい、って彼女の提案だった。

「あ、菱さん」

「僕に何か手伝える事有る?」

「じゃあ、ディスプレイお願いして良い?」

「オッケー」

「私は、アクセ作っちゃうね」

「空いてる所に家建てて、住もうかな」

「そうしろ、凛と結婚して」

入り口から駿さんが顔を出して言った。

「もう、お兄ちゃん。何言ってるのよ」

「そしたら、東京とこっちと半々の生活になるだろうね」

「菱さん。冗談ならやめてよね」

「俺は忙しいから、2人でゆっくり相談しろ」

そう言うと駿さんは行ってしまった。

僕も、ついうっかり、駿さんの話しに乗せられて、あんな事言っちゃったけど、そんな生活が出来たら良いなあ。

凛ちゃんがお嫁さんになってくれるかどうかは、わからないけどね。

「この休みにアクセ作りの勉強しに、東京来るんだよね?」

「うん」

そして…

ふれあい牧場展示初日は、大人しいサフランと仲良しぶーニャンにお客さんも大喜びで大盛況だった。

うーん…功労馬になるには、気性矯正が必要な馬も居るよな。

〈翌朝〉

時間が取れたので、鮎釣りに出かける事にした。

鮎は7月~9月までが解禁で、7月半ば~8月ぐらいが一番釣れるらしい。

9月になると、オスは真っ黒になって、その頃にはもう釣れなくなるそうだ。

【渓流】

鮎が居た!

ここはルアーを使っても怒られないので、鮎にそっくりな10?ぐらいのミノーで釣る。

ルアーを鮎が居るポイントに投げてチョンチョンとすると、ヒット!

23?の鮎ゲット!

この日の釣果。

慎二鮎5匹、僕鮎6匹。

【春風牧場】

「釣れた?」

「ニャオニャー?」

「ぶーニャンも、1匹ぐらいは貰えるかな?」

釣って来た鮎を、凛ちゃんに渡した。

「塩焼きね」

「たくさん釣れたら、マリネでも良かったのにな」

「少ないから塩焼き」

「ニャオニャニャー」

「味をつける前に、ぶーニャンにもあげるからね」


【放牧場】

怪獣君が居た。

また少し逞しくなった気がするな。

相変わらず聞かないところを見せている。

もうちょっと大人しくならないと、名前怪獣君のまま登録されちゃうぞ。

あのお姉さんの事だから、有り得るよね。

ふれあい牧場の公開と、ショップの開店のお祝いにと、樫野さんが飼料を持って来てくれた。

何だかちょっと情け無い気もするよな…

牧場の経営が大変なのに、僕が繁殖牝馬を7頭も買っちゃって、それで、舞ちゃんは樫野さんと付き合う事にしたんだよな。

でも、話してみたら良い人そうだった。

樫野英一さん。

オークスと言えば、樫の女王。

樫野さんのお母さんは、イギリスオークスの女王と言う意味を込めて、彼の名前を英一にしたんだって。

情け無いついでに、飼料を安く分けてもらう事になったから、質を上げたんだ。

良いご飯を食べて、いつかうちの牧場から、イギリスの樫の女王が出ると良いなあ。

「頑張ってもらいたいねー」

「その前に、日本のオークスを勝たないとね」

「コユキは惜しかったねー。牧場帰って来たら良い飼料食べて、良い仔を産んで、その仔に勝ってもらいたいねー」

「そうだね、コユキの子供に期待だな」

今日初めて会ったのに、友達みたいに話してる。

この人も、ビジネスばかりではなくて、馬に愛情が感じられるな。

舞ちゃんの付き合っている人が、嫌な人じゃなくて良かった。

舞ちゃんが僕の事好きだ、って事も知っているけど、彼は黙っていてくれた。

男は余計な事は言わないところも、僕と気が合いそうだな。

「あら」

舞ちゃんが2人の顔を覗いた。

「え?どういう組み合わせ?」

「ただの馬好き」

「だねー」

「へー、気が合うんだ」

「葉月社長。俺…俺、舞ちゃんと結婚しても良いかな?」

何で僕に…?

「葉月社長には、断っておかないと」

「その、社長って言うのやめてよ」

「ちょっと、英一さん。私に言う前に菱ちゃんに聞く?」

恋のライバルが嫌な奴なら話しは違うけど、こんな良い人じゃ、僕の出る幕無いでしょう。

だいたい僕、恋してたの?

煮え切らないうちに終わっちゃった感じだよね。

ダメだなあ。

駿さんは、凛ちゃんの事考えろ、って言ってたけど、彼女はどうなんだろう?

大学に誰か居ないのかな?

僕が初恋って言ってたけど…

離れてるし、いつも一緒にいられる地元の人の方が良いんじゃないのかな?


なんか…

樫野さん、今プロポーズしてるみたいになっちゃってるけど…

「まだ付き合い初めたばっかりだから、もう少し…」

「そ、そうだよねー。俺、急ぎ過ぎたなー」

高校生の時から好きだったんだもんね、無理ないと思うよ。

そして…

東京に帰る日、凛ちゃんも一緒に来る事になった。

うちの皆んなが喜ぶな。

「凛の事、宜しくお願いしますね」

「はい」

【葉月家】

「あら、凛ちゃん。いらっしゃい」

「またしばらく、お世話になります」

「うちは、いつまで居てくれたって良いのよ」

「ありがとうございます」

うちの場合、この言葉は社交辞令じゃないからね。

翌日から凛ちゃんは、アクセ製作の勉強に行っている。

そして、帰って来ると、僕のお店を手伝ってくれているんだ。

【アクセサリーショップfleur】

夏は汗をかくし、日差しが強いから、パワーストーンは、水に溶けたり、日に当たると色褪せしたりする物は避けた方が良いね。

色目やデザインも大事だけど、そういう事も考えて作らないと。

ローズクウォーツは人気だけど、直射日光で褪色するから、気をつけないとね。

勿論パワーストーンの色が変わる理由はそれだけではないんだけど。

石が持ち主の為に頑張って、色が変わってしまったりするからね。

前に母に作ったのは、ローズクウォーツとカーネリアンの美容と健康のブレス。

ローズクウォーツの色が濁って、カーネリアンは透明な部分が出てきた。

ローズクウォーツは、外からの波動を溜め込んで放出するのが苦手だから、こまめに浄化してあげないと割れてしまったりする事が有るんだ。

カーネリアンは、血行を良くして、デトックス効果が期待される石だからね、頑張っちゃって透明になってしまったんだろうな。

それから、プログラミングの時に、無茶なお願いしたら可哀想だよね。

ガーネットなんて、八方美人はダメだよ。

一途な人の願いでないと聞いてくれないんだ。

石は、他人を傷つけても自分さえ良ければ良いという願いは、聞いてくれなかったり、身体に不調が有れば、そこからアクセスしようとする場合も有る。

自分さえ良ければ良いという願いをかけると、石が自らエネルギーを無くして、死んでしまう事も有るんだ。

鉱物って、本当に生き物だよね。

「一途な人の願いか…私にピッタリの石だわ」


ドキッとする事言うよな…

本人そんなつもりなくて言ってるみたいだけど…

「ガーネットは、水も日光も大丈夫だよ」

石の暗示は…愛と友情の絆、持続、貞節、忍耐力、洞察力、直感力、血行を良くし、精神と肉体のエネルギーを高め、ネガティブなエネルギーをシールドする護符。

凛ちゃんの誕生日は9月だから、誕生石は、サファイアとアイオライトだね。

凛ちゃんは、まだガーネットのブレスを見ている。

結局社割で買っちゃったみたいだ。

何の願いをかけるんだろう?

「石は願い事を叶える魔法使いじゃなくて、念願成就のサポートをしてくれるパートナーだよ」

「そうよね、自分では何もしないで願い事を叶えてくれるはずないもんね」

【葉月家の客間】

〈ガーネットのブレスレットを浄化してから眠る凛。朝起きて、菱の写真の上にブレスレットを乗せ、瞑想する〉

【リビング】

「私、夕方に帰るの」

「うん」

「帰らないといけないのね」

帰りたくないみたいだね。

僕も、家族の皆んなも、帰ってほしくないんだけどね。

いつも、凛ちゃんが帰ると寂しくて、皆んな、彼女が居ない事に慣れるのに時間がかかるんだ。

母なんて、娘が出来たみたいに喜んで、凛ちゃんと一緒に料理するのが楽しいみたいだしね。

健康オタクの凛ちゃんは、母に長生きしてほしい、って体に良い料理を作ってくれるんだ。

親父が若くして亡くなっているから「もっと早く私が来て料理を作ってあげたかった」って、言ってくれてたな…

「もう、菱ちゃん、何してるのよ。凛ちゃん帰っちゃったじゃない」

「何って…」

「僕と付き合ってください、って言えば良いだけじゃない」

お姉さんて、時々僕の気持ち先読みするんだよね。

僕が自分で気づいてない気持ちを、先に言ったりする。

時々じゃなくて、いつもだ。

僕…

凛ちゃんの事を好きになっているのかな?


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