『ペガサスが舞い降りる日』“僕の人生を変えた恋人”

大輝

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第20章 オークス発走!

僕の人生を変えた恋人20

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「最後に入って来ました。桜花賞馬の登場です。桜の女王が府中に姿を現しました。白い馬体がターフに映えます。女王の座は譲れない3番コユキ」

ああ、いつもハラハラさせられるよな…

返し馬、頭を上げて、ちょっとかかってたぞ…

馬体重もプラス4?で、調子は良いみたいだけど。

あ…

ゼッケンの下結構汗かいてるな。

輪乗りの間も、首を上げ下げして、カリカリしてる。

時々止まって物見してるな。

止まったら中々動こうとしない。

スターターが上がって、ファンファーレが鳴った。

枠入りが始まったぞ。

奇数番が先に入る。

コユキは3番だから、早く入ったけど、中で大人しくしていられるかな?

「芦毛はコユキだけだから、わかりやすいな」

無事に…

皆んな無事に回っておいで。

きっと皆んな、良いお母さんになるんだから。

今日は、全頭すんなり入った。

「スタートしました!ちょっとばらっとしたスタート。コユキ、やや出遅れ」

またやってくれました…

それ程大きな出負けではないけど…

「まあ、どうせ追い込みだから、あのぐらいの出遅れどうって事ないだろ?」

「出遅れよりも、我慢出来るかだね」

皆んな未知の距離だから、誰も行きたがらなくてペースが落ち着いた。

「今日は、カネノカンムリ逃げてないわね」

行けなかったみたいで、番手につけてるな。

コユキは後方で、ジョッキーが宥めている。

道中馬群に入れた。

ドーベルみたいに、馬群に包まれても力を出せると良いけど…

「とにかく無事に回って来て」

僕の隣りでお姉さんがそう言った。

そうだ…

オークスで僕が応援してた仔が、競争中止した事が有ったんだ。

コイウタ。

パドックで馬体を見て好きになった仔で、クラシックはコイウタを応援すると決めていた。

3歳になると、菜の花賞、G3クイーンカップと連勝してくれた。

桜花賞は3着。

フジキセキ産駒だからマイラーかな?と思っていたけど、勿論オークスも応援してたんだ。

だけど…

3コーナーで競争中止。

僕は、血の気が引いた。

他に応援してた仔はカワカミプリンセス、アサヒライジング、キストゥヘヴン。

結果カワカミプリンセスが勝ってくれたけど、僕はコイウタが心配で…


後で、跛行とわかってホッとした。

そして翌年の2007年のヴィクトリアマイル。

勿論応援してた。

彼女は、12番人気だった。

他に好きな仔は、頑固姫のスイープトウショウとずっと応援してたジョリーダンス。

それに、カワカミプリンセス、ディアデラノビアなどなど。

他にも、もうどうしよう?って言うぐらい好きな馬が揃ってたんだ。

ここで全部名前を挙げるのはよそう。

僕は馬券を買わないから、好きな馬が揃っても、皆んな応援出来るんだよね。

最有力馬は、頑固姫とプリンセスだったけど…

やってくれた!

コイウタが勝ってくれたんだ。

ジョリーちゃんも5着と頑張った。

頑固姫の9着はショックだったけど、コイウタが勝ってくれて嬉しかった。

さて、コユキは…

一塊だった馬群が、縦長になってきた。

ちょっと行きたがってるな。

このスローペースでは、無理も無いか。

「あんなに後ろで届くのか?」

出負けして、無理に脚を使わず後方に付けたんだから、ジョッキーの判断は正しいよ。

どこで動くか、だね。

馬群に包まれてるな。

コユキは怯まず馬群を割って行ける仔だけど…

4コーナーを回って直線に向いた。

そろそろ仕掛けどころだけど、前が開かない。

ちょっと仕掛けが遅れた。

やっと前が開いて、コユキは一気に加速した。

「前残りだな」

残り2ハロン、コユキはまだ中段。

残り1ハロン。

先段から馬場の良い所を突いて抜け出した馬が居る。

コユキ届くのか?!

「コユキがんばれ!」

桜ちゃんが叫んだ。

「コユキが馬群を割って来ました。ラスト1ハロンの女コユキ!」

コユキは凄い脚で上がって来たけど、前の馬もしぶとい。

「あ!」

届かなかった…

「前が残ったか!?勝ったのはカミノクイン。コユキ、物凄いい脚で突っ込んで来ましたが、わずかに届きませんでした」

スイープトウショウを思い出した。

力は有るのに…

ああ、また「内弁慶」って言われちゃうのかな…

「首差だよ。良く頑張ってくれたわよ」

凛ちゃんが、そう言った。

桜花賞馬の意地は見せてくれた。

良く頑張ったね、コユキ。

とにかく無事で良かった。


「あー…俺、口取り楽しみにしてたのにな…そりゃ、そんなに簡単に勝てるもんじゃないけど、あいつ桜花賞馬だし…」

「ごめんね、コユキ頑張ってくれたんだけど…」と、お姉さんが言った。

「マイラーなのかな?」

「僕は、血統的に距離は持つと思う」

「じゃあ、秋華賞に期待ね」と舞ちゃんが言った。

今は、早く休ませてあげたいけどね。

「あー、初めての東京で、祝勝会楽しみにしてたんだけどな」

「あら、ごめんね」

「いやあ、残念会すれば良いっしょ」

と言うわけで、残念会です。

魚は北海道の方が美味しいという事で、フレンチレストラン…

と言っても、急に予約は取れないよね。

兄貴に無理言って、入れてもらったみたい。

今日は、吉祥寺の店だね。

皆んなうちに泊まれば良いもんね。

【レストラン】

子供が居るから個室。

桜ちゃんは、大人しくしている。

良い子だね。

僕の前には舞ちゃんが座った。

正面に座られると…どうしたら良いんだろう…?

なんて考えてたら、見透かされたみたいに、凛ちゃんと目が合ってしまった。

妙に鋭いとこ有るんだよな…

でも、余計な事は言わないで、黙っていてくれるから好きだよ。

「あー、何だ、このフランス料理って、どうやって食えば良いんだ?」

駿さんは、料理を睨んで困ってる。

「外側から使えば良いだけだよ」

「マナーが、良くわかんねー」

「マナーって、自分を良く見せるんじゃなくて、周りの人を不愉快にさせない為の物だと思うよ」

「音を立てたりしなければ良いわよ」

「なるほど、静かに食えば良いだけか」

【葉月家】

「葉月社長に、お線香をあげさせてください」

「どうぞ、どうぞ」

母がそう言うと、駿さんは仏壇にお線香をあげてくれた。

「菱の親父さんが居なかったら、うちの牧場は、今頃どうなってたかわかんねーからなー」

桜ちゃんは、僕に抱っこされたまま寝ちゃった。

部屋に運んで、ベッドに寝かせた。

それから皆んなで少し呑んだけど、駿さん達は、明日は帰らなければいけないので早めに寝た。


僕は、中々寝付けなくて…

気がつくと、ニコロが居ない。

いつも僕の横で、人間みたいに枕して寝てるんだけど…

下に降りると、テンちゃんが客間から出て来た。

「お兄ちゃんは?」

「ミャ?」

フレデリックは、僕がニコロを探し回っていると「ここだよ」って教えてくれたんだけどな…

彼はもう天国だ。

ニコロより7才年上だからね。

なんて思ってたら、凛ちゃんが客間から出て来た。

「あっ…」

「…」

「テンちゃん抱っこしてたんだけど、急に飛んで行っちゃって」

「ニコロ来てない?」

「来てないよ」

そうだよな…

テンちゃんは誰にでもすぐ懐くけど、ニコロは中々だから。

【リビング】

凛ちゃんと話してたら、キッチンからニコロが来た。

ご飯を食べてたみたいだ。

「明日は、帰っちゃうんだね」

「そうだね…もっとゆっくりこっちに居たいな」

「講義が有るから無理だよね。夏休みには来る?」

「え?」

あ…困った顔してる。

「……」

「……」

「どうして平気なの?」

「何が?」

「お姉ちゃんの事よ。樫野さんと付き合ってるのよ」

その事か…

「僕の為に、っていうのは、申し訳ないなと思う」

「そうじゃなくて、お姉ちゃんの事好きなんじゃないの?」

「そう見えるのかな?」

「え?」

「……」

「そうだと思ってた」

何か…ちょっと痛かった。

舞ちゃんが、僕の為に他の人と付き合う事もだけど、凛ちゃんに、舞ちゃんの事が好きだと思われている事が痛かった。

何でだ?

何で痛いんだろう…?

「凛ちゃんは…その…居ないのかな?付き合ってる人」

聞いちゃった。

「知ってるくせに」

「え?」

「お兄ちゃんから聞いて、私の初恋知ってるでしょう?」

初恋?

駿さんからって…僕の事好きって事?

え?本当だったんだ…

何だかカーッと身体が熱くなった。

「……」

「……」

黙っていると、何だか…

何か…言ってよ。

「……」

「……」


初恋なんだ…僕が…

他に居ないって事だよね…?

もう、4年…僕だけを思ってくれているのか…

なのに僕は、舞ちゃんにドキドキしたり、あのペルソナの事が忘れられなかったり…

いい加減にしろ、僕。

「お姉ちゃん…菱さんの事が好きなのに…」

だから悩むんだよ。

だいたい僕は誰が好きなの?

自分の気持ちがわからない。

ペルソナの事は、本当に好きだったけど、ご主人が居るとわかって諦めたんだ。

今は、あの頃の気持ちとは違っている。

どうしても思い出してしまうけど、それは魂が忘れないからで…

もう今は、好きとかそういう感情ではないな…たぶん。

そんな事を思っていたら、テンちゃんが走った。

「キャ」

猫は夜行性だから、夜になると走ったりする。

テンちゃんの猛獣タイムだ。

ニコロが若い頃は、追いかけっこして追い詰めたりしてたけど…

あ、一緒に走り出した。

でも、もう16才だ。

途中で休んでる。

「あ…」

凛ちゃんが、僕の肩に捕まって走り回るテンちゃんを避けている。

舞ちゃんにはドキドキさせられるけど、一緒に居て楽なのは凛ちゃんだな。

「ぶーニャンも、よく走り回ってるわよ」

「ガオガオ言いながら走るよね」

「そうそう」

何か…猫で和んでるけど…

さっき、告白されたみたいな形になってたんだよな。

ダメだな僕は…

そういう事を女の子に先に言わせるなんて。

僕の方が先に好きになってたら、ちゃんと僕から言うのに。

あの時みたいに…

僕から「愛している」という言葉を言ったのは、後にも先にもあの人だけだな。

あの写真の人、ペルソナ。

ああ、何とかしないと。

このままじゃダメだ。

「痛ててて」

テンちゃんが飛び付いて噛んだ。

「あー、血が出てるよ」

「いつもの事だよ。油断すると頭でも噛むんだ」

凛ちゃんが薬を塗って、ばんそうこうを貼ってくれた。

「ぶーニャンは、噛んだりしないけど…」

「テンちゃんの噛むのは治らないね」

子猫の時は噛むけど、大人になると噛まなくなるものだけど…

フレデリックも最後まで治らなかったから、テンちゃんもそうだね。

「はい、終わり」

「ありがとう」

凛ちゃんはいつも、こういう事よく気がきいて優しいね。


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