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第15章 舞ちゃんの相談
僕の人生を変えた恋人15
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家に帰って、早速ニコロにご飯をあげてみる。
美味しそうな匂いがしてるぞ。
「ワーオン、ワーオン」
「待ってね~」
トロトロのスープに細かい魚の身が入ってるんだけど、これをもっと小さくしないと食べないからな。
「ワンワーン」
犬みたいに鳴く時は、ごきげんな時だ。
「はい、どーじょ」
おっ、食べてる。
ああ良かった。
わざわざ大阪のデパートで探して来て良かったよ。
嫌だったら、開けただけで逃げるもんな。
それから僕は、疲れたのでお風呂に入ってすぐに寝てしまった。
朝起きると、舞ちゃんからメールが来ていた。
「ちょっと、相談が有るんだけど良い?」だって?
夜中に来たみたいだ。
どうしたんだろう?
「勿論良いよ。どうしたの?」と返した。
「実はね、近所の牧場からお嫁に来てくれないか、って言われてるの」だって。
ふーん、お嫁にね…
え?
お嫁に?
そうなんだ…
あ、また来た…
「大学の先輩からも付き合ってくれ、って、しつこく言われて困ってるのΣ( ̄。 ̄ノ)ノ」だって。
舞ちゃんも今年24才だもんな、そろそろ結婚の話しも有るよな。
困ってる?
「どうして困ってるの?その先輩の事は好きじゃないの?」と聞いてみた。
「とっても良い人で、いつも色々教えてもらってたんだけど、恋愛対象とは考えてなかっから…」と返って来た。
「そうか…近所の牧場の人は良さそうな人なの?」と聞いてみた。
「私が獣医になるから、牧場に必要なだけじゃないかしら?」って。
え?
それだけでお嫁さんに望まれてるの?
これは、なんて答えたら良いんだろう?
女の子って、良くこういう相談してくるんだよな…
僕の答えはいつも同じ。
「舞ちゃんは、どうしたいの?」と返した。
「皆んなは、付き合うだけ付き合ってみれば?って言うんだけど、どうしたら良いかわからなくて…貴方がやめろ、って言うならやめるわ」だって。
はあ…
そして、女の子の答えもいつも同じ「貴方がやめろ、って言うならやめるわ」だよね…
「決めるのは僕じゃなくて、舞ちゃんでしょ?」と返した。
しばらく返信が来なかった。
そして…
「それが貴方の答えなのね…もう良いわ( ̄^ ̄)ゞ」だって。
何だか怒っているみたいだけど、僕にはこれしか言えないよな…
「菱ちゃんダメね」
「え?何で?」
「舞ちゃんは「そんなのやめてくれ」って言ってほしかったんじゃない?」
「え?何で僕が?そんな事言えないでしょ」
「言って良いのよ、舞ちゃんの事が好きなら」
好きなら…ね…
あ、またメールだ。
「コユキが雑誌に載ってる( ´ ▽ ` )ノ」って凛ちゃんからだ。
「桜花賞の有力候補ですって」
本当だ!
桜花賞誌上パドックに載ってる!
生まれた頃より随分白くなったよな。
まだ少し子供っぽいけど…
「バランスのとれた馬体で、良い感じに成長してきたね^ ^」と返した。
コユキは、飼い葉も良く食べて、桜花賞には+体重で臨めそうだね。
「+体重だと良いの?」
これは必ずしもそうとは言い切れないと思うけど、使い減りして体重が落ちていると少し心配だと思うんだ。
古馬ならだいたいベストがわかるけど、成長途中の3歳馬だからね。
牝馬は消耗が激しくて体調管理が難しいから、食べないのは心配だよね。
前に僕が応援していた馬で、人気が無かったんだけど、オークスの前の新聞の厩舎コメントで「飼い葉を沢山食べてます」っていうのが有ったんだ。
僕は、そういう動じない仔が好きで「良し良し良い仔だぞ」と思っていたんだけど、それで勝ってくれた仔が何頭か居たな。
ウメノファイバーとかスマイルトゥモローとかがそうだったかな?
コユキも頑張って彼女達名牝の仲間入りしてくれると良いな。
あ、また凛ちゃんからメールだ。
「ところで、お姉ちゃんがお嫁に行っちゃっても良いの?」だって。
「え?良いって?」と返した。
「お姉ちゃんの事好きだと思ってたんだけどな」って。
「好きだけど、そういう好きかどうか、僕も良くわからなくて…」と送ってしまった。
好き…なのかな?
でも、それなら、凛ちゃんにも同じ感情のような気がするな…
凛ちゃんの方が、一緒に居て気を使わないと言うか…
年上だと、無意識に気を使うのかな?
ちょっと付き合うだけなら良いかも知れないけど、結婚となると自然体で居られる相手が一番だと思う。
慎二は、凛ちゃんに振られてしばらくは落ち込んだけど、最近復活して彼女が出来たんだ。
僕もいい加減あのペルソナの事は忘れて、前に進まないとな…
2014年4月13日いよいよ桜花賞だ。
「ねえ菱ちゃん。クラシックって何?」
「一生に一度、3歳馬だけで頂点を争う三冠レースだよ。男の子の一冠目は皐月賞で、女の子の一冠目は桜花賞」
「コユキは、そのクラシックに出られるのね」
「出るだけでも大変なんだ。とにかく」
「無事に帰って来てくれたら、それで良いわ」
「そうそう」
【阪神競馬場】
「何だか今日は、競馬場も華やかね」
さすがに女性が多いな。
レディースデーのイベントもやっているみたいだ。
レーシングプログラムも、桜の花がデザインされていて華やいだ雰囲気だな。
「桜が満開ね」
「最近の気候だと、毎年散ってしまわないか心配するけど、大切に管理されてるからね」
【馬主席】
「おや、葉月さん。お宅の馬も出られたんですかいな」
「こんにちは」
「ここへ出て来るからには、それなりの血統の馬なんでっしゃろな?」
「私、血統は良くわからないんですけど、弟の牧場で生まれた馬なんです」
「ウチは、良血馬しか買わへんのですわ。今日走るカネノカンムリも大牧場のセリで買うたんです。2億何千万やったかな?1千万や2千万の馬なんて、恥ずかしいて買えまへんわ」
いつもの馬主さんだな。
カネノって言う冠名の馬か。
2011年7000頭ほど生まれた馬の中から、桜花賞に出走出来るのは18頭。
桜の女王になれるのは1頭だけだ。
「無事回って来てくれるのが一番だけど、カネノカンムリだけには先着してほしいわ」
「コユキは今のところ5番人気で、カネノカンムリは2番人気だね」
カネノカンムリは、前哨戦のG2報知杯フィリーズレビューを勝って来ている。
まあ、コユキより格上って事になるけど…
【パドック】
居た居た。
「桜ちゃん」
「お兄ちゃん、抱っこ」
「ハイハイ」
「あら、覚えてたの?」
「うん」
桜花賞の出走馬が、パドックに入って来る。
誘導馬も桜花賞仕様で、ドレスにピンクの上着を着た女性騎手だ。
「コユキ」と桜ちゃんが言った。
「コユキ来たね」
「うん」
芦毛はコユキだけだから、わかりやすいね。
「今日は、それほど入れ込んでないみたいね」
「少し気性が大人になったのかな?」
それでも周回を重ねると、時々早足になったりする。
いつものコユキだね。
【スタンド】
「馬主席に行かなくて良いんですか?」と、さつきさんが聞いた。
お姉さんは、馬主席があまり好きではないみたいだ。
小さな子供も居るし、スタンドの方が良いね。
本馬場入場だ。
「お兄ちゃん、コユキまだ?」
「16番だから、もう少し後かな?」
次々と返し馬に入って行く。
「コユキ、コユキ」
「来たね」
「うん」
今日は、かかってないな。
厩務員さんが放すと、弾けるように飛んで行った。
曇りで少し寒いけど、良馬場で良かったね。
満開の桜舞い散る中、桜の女王の戴冠だ。
「コユキ5番人気ね」
「金成さんの馬は、2番人気」
金成さんて仰るんだ、あのオーナー。
「人気になった方だよね」
「コユキは重賞勝ってないからね。2歳女王も居るし、フェアリー勝ってる仔も居るから」
コユキは500万条件を勝っただけだからね。
それでも5番人気は、チューリップ賞で3着になったからか、未勝利勝ちの時の末脚や500万勝ちの時の捲りが評価されてか。
「落ち着いて輪乗りしてるわよ」と、舞ちゃんが言った。
ふと顔を見たら、思い出してしまった。
縁談が有るんだよな…
先輩からも付き合ってくれと言われてる、って…
やっぱり少し妬けるのかな?
僕達は中々会えないし、仕方ないよな。
「あら?どうしたのかしら?」舞ちゃんが僕の腕に手をかけて言った。
ジョッキー下馬?
「まさか、故障?!」僕の腕をキュッとする。
コユキ大丈夫だよな、ケガなんかしてないよな?
発走時間が遅れるアナウンス。
「あ、大丈夫。落鉄だ」
「ケガじゃなくて良かったね」
落鉄。
発走前で良かったよ。
有馬記念スタート直後に落鉄で掲示板なんて、エアグルーヴじゃなきゃ無いよね。
って、舞ちゃんは、僕の腕に手をかけたままだ。
女の子は、何気無くそうしているつもりなんだろうけど、男はこういうのでドキッとするんだぞ。
「お兄ちゃんと舞ちゃん仲良し?」
「え?」
「うん。仲良しさんだよ」
「凛ちゃんも仲良し?」
「凛ちゃんも仲良しさんだよ」
「どっちがお兄ちゃんのお嫁さんになるんかね?」って…
さつきさんまでそんな事言うし。
「本当よね。私としては、舞ちゃんか凛ちゃんがお嫁に来てくれたら、本当に嬉しいわ」
また言ってる。
「僕が良くても、2人がね」
「そうかい、嫁に貰ってくれるかい」
いや、だから、僕が良くても舞ちゃんと凛ちゃんが…
「私まだ21だから、結婚はもう少し先かな」
ほらね。
「だって、付き合ってる人居ないもん」
何だか少しホッとする僕です。
コユキは無事回って来てくれるだけで充分だと思うけど、実は密かに期待してるんだ。
僕の好きな馬で、前哨戦を2着で、本番のオークスをきっちり勝ってくれた仔が居る。
その頃はまだ競馬を見始めたばかりで、好きな馬は、男の子1頭、女の子1頭だけだった。
男の子はジャンポケ君(ジャングルポケット)彼はダービーを勝ってくれた。
女の子はレディパステル。
デビュー3戦目で初勝利、続く500万下はクビ差の2着で、桜花賞の前日にミモザ賞を快勝。
エアグルーヴと同じトニービンがお父さんで、顔も少し似ていて美人。
オークスは絶対この仔、って思っていたんだ。
フローラステークスでは「ここで使い切らないで、権利だけ取れば良いから」って思って見てた。
そして、2着でオークスの出走権を取ったんだ。
本番のオークスでは、後方から直線一気の末脚で差し切ってくれた。
好きな馬は沢山居るけど、彼女は僕にとって特別な1頭なんだ。
僕の猫ニコロと同じ年で、誕生日は僕と同じ4月26日。
あ…
あの時、オークスの時彼女は5番人気だった。
今日のコユキと同じだね。
ファンファーレが鳴った。
奇数番の馬はだいたい収まった。
「中々入らないわね」
まだ経験の浅い3歳馬だ、すんなりとゲート入りしてくれない。
1頭枠入りを嫌ってる。
尻尾を持って入れようとしても入らない。
何度も回して入れようとするけど、中々入らない。
コユキは、まだ外で待っている。
待っている間にテンションが上がらなければ良いけど…
ああ、覆面をして入れるみたいだ。
良し、入ったぞ。
コユキも入って良い子にしている。
「ドキドキしてきたわ」
何のアクシデントも無く無事に帰って来てほしい。
皆んな良いお母さんになるんだからね。
皆んな無事に回って来るんだよ。
美味しそうな匂いがしてるぞ。
「ワーオン、ワーオン」
「待ってね~」
トロトロのスープに細かい魚の身が入ってるんだけど、これをもっと小さくしないと食べないからな。
「ワンワーン」
犬みたいに鳴く時は、ごきげんな時だ。
「はい、どーじょ」
おっ、食べてる。
ああ良かった。
わざわざ大阪のデパートで探して来て良かったよ。
嫌だったら、開けただけで逃げるもんな。
それから僕は、疲れたのでお風呂に入ってすぐに寝てしまった。
朝起きると、舞ちゃんからメールが来ていた。
「ちょっと、相談が有るんだけど良い?」だって?
夜中に来たみたいだ。
どうしたんだろう?
「勿論良いよ。どうしたの?」と返した。
「実はね、近所の牧場からお嫁に来てくれないか、って言われてるの」だって。
ふーん、お嫁にね…
え?
お嫁に?
そうなんだ…
あ、また来た…
「大学の先輩からも付き合ってくれ、って、しつこく言われて困ってるのΣ( ̄。 ̄ノ)ノ」だって。
舞ちゃんも今年24才だもんな、そろそろ結婚の話しも有るよな。
困ってる?
「どうして困ってるの?その先輩の事は好きじゃないの?」と聞いてみた。
「とっても良い人で、いつも色々教えてもらってたんだけど、恋愛対象とは考えてなかっから…」と返って来た。
「そうか…近所の牧場の人は良さそうな人なの?」と聞いてみた。
「私が獣医になるから、牧場に必要なだけじゃないかしら?」って。
え?
それだけでお嫁さんに望まれてるの?
これは、なんて答えたら良いんだろう?
女の子って、良くこういう相談してくるんだよな…
僕の答えはいつも同じ。
「舞ちゃんは、どうしたいの?」と返した。
「皆んなは、付き合うだけ付き合ってみれば?って言うんだけど、どうしたら良いかわからなくて…貴方がやめろ、って言うならやめるわ」だって。
はあ…
そして、女の子の答えもいつも同じ「貴方がやめろ、って言うならやめるわ」だよね…
「決めるのは僕じゃなくて、舞ちゃんでしょ?」と返した。
しばらく返信が来なかった。
そして…
「それが貴方の答えなのね…もう良いわ( ̄^ ̄)ゞ」だって。
何だか怒っているみたいだけど、僕にはこれしか言えないよな…
「菱ちゃんダメね」
「え?何で?」
「舞ちゃんは「そんなのやめてくれ」って言ってほしかったんじゃない?」
「え?何で僕が?そんな事言えないでしょ」
「言って良いのよ、舞ちゃんの事が好きなら」
好きなら…ね…
あ、またメールだ。
「コユキが雑誌に載ってる( ´ ▽ ` )ノ」って凛ちゃんからだ。
「桜花賞の有力候補ですって」
本当だ!
桜花賞誌上パドックに載ってる!
生まれた頃より随分白くなったよな。
まだ少し子供っぽいけど…
「バランスのとれた馬体で、良い感じに成長してきたね^ ^」と返した。
コユキは、飼い葉も良く食べて、桜花賞には+体重で臨めそうだね。
「+体重だと良いの?」
これは必ずしもそうとは言い切れないと思うけど、使い減りして体重が落ちていると少し心配だと思うんだ。
古馬ならだいたいベストがわかるけど、成長途中の3歳馬だからね。
牝馬は消耗が激しくて体調管理が難しいから、食べないのは心配だよね。
前に僕が応援していた馬で、人気が無かったんだけど、オークスの前の新聞の厩舎コメントで「飼い葉を沢山食べてます」っていうのが有ったんだ。
僕は、そういう動じない仔が好きで「良し良し良い仔だぞ」と思っていたんだけど、それで勝ってくれた仔が何頭か居たな。
ウメノファイバーとかスマイルトゥモローとかがそうだったかな?
コユキも頑張って彼女達名牝の仲間入りしてくれると良いな。
あ、また凛ちゃんからメールだ。
「ところで、お姉ちゃんがお嫁に行っちゃっても良いの?」だって。
「え?良いって?」と返した。
「お姉ちゃんの事好きだと思ってたんだけどな」って。
「好きだけど、そういう好きかどうか、僕も良くわからなくて…」と送ってしまった。
好き…なのかな?
でも、それなら、凛ちゃんにも同じ感情のような気がするな…
凛ちゃんの方が、一緒に居て気を使わないと言うか…
年上だと、無意識に気を使うのかな?
ちょっと付き合うだけなら良いかも知れないけど、結婚となると自然体で居られる相手が一番だと思う。
慎二は、凛ちゃんに振られてしばらくは落ち込んだけど、最近復活して彼女が出来たんだ。
僕もいい加減あのペルソナの事は忘れて、前に進まないとな…
2014年4月13日いよいよ桜花賞だ。
「ねえ菱ちゃん。クラシックって何?」
「一生に一度、3歳馬だけで頂点を争う三冠レースだよ。男の子の一冠目は皐月賞で、女の子の一冠目は桜花賞」
「コユキは、そのクラシックに出られるのね」
「出るだけでも大変なんだ。とにかく」
「無事に帰って来てくれたら、それで良いわ」
「そうそう」
【阪神競馬場】
「何だか今日は、競馬場も華やかね」
さすがに女性が多いな。
レディースデーのイベントもやっているみたいだ。
レーシングプログラムも、桜の花がデザインされていて華やいだ雰囲気だな。
「桜が満開ね」
「最近の気候だと、毎年散ってしまわないか心配するけど、大切に管理されてるからね」
【馬主席】
「おや、葉月さん。お宅の馬も出られたんですかいな」
「こんにちは」
「ここへ出て来るからには、それなりの血統の馬なんでっしゃろな?」
「私、血統は良くわからないんですけど、弟の牧場で生まれた馬なんです」
「ウチは、良血馬しか買わへんのですわ。今日走るカネノカンムリも大牧場のセリで買うたんです。2億何千万やったかな?1千万や2千万の馬なんて、恥ずかしいて買えまへんわ」
いつもの馬主さんだな。
カネノって言う冠名の馬か。
2011年7000頭ほど生まれた馬の中から、桜花賞に出走出来るのは18頭。
桜の女王になれるのは1頭だけだ。
「無事回って来てくれるのが一番だけど、カネノカンムリだけには先着してほしいわ」
「コユキは今のところ5番人気で、カネノカンムリは2番人気だね」
カネノカンムリは、前哨戦のG2報知杯フィリーズレビューを勝って来ている。
まあ、コユキより格上って事になるけど…
【パドック】
居た居た。
「桜ちゃん」
「お兄ちゃん、抱っこ」
「ハイハイ」
「あら、覚えてたの?」
「うん」
桜花賞の出走馬が、パドックに入って来る。
誘導馬も桜花賞仕様で、ドレスにピンクの上着を着た女性騎手だ。
「コユキ」と桜ちゃんが言った。
「コユキ来たね」
「うん」
芦毛はコユキだけだから、わかりやすいね。
「今日は、それほど入れ込んでないみたいね」
「少し気性が大人になったのかな?」
それでも周回を重ねると、時々早足になったりする。
いつものコユキだね。
【スタンド】
「馬主席に行かなくて良いんですか?」と、さつきさんが聞いた。
お姉さんは、馬主席があまり好きではないみたいだ。
小さな子供も居るし、スタンドの方が良いね。
本馬場入場だ。
「お兄ちゃん、コユキまだ?」
「16番だから、もう少し後かな?」
次々と返し馬に入って行く。
「コユキ、コユキ」
「来たね」
「うん」
今日は、かかってないな。
厩務員さんが放すと、弾けるように飛んで行った。
曇りで少し寒いけど、良馬場で良かったね。
満開の桜舞い散る中、桜の女王の戴冠だ。
「コユキ5番人気ね」
「金成さんの馬は、2番人気」
金成さんて仰るんだ、あのオーナー。
「人気になった方だよね」
「コユキは重賞勝ってないからね。2歳女王も居るし、フェアリー勝ってる仔も居るから」
コユキは500万条件を勝っただけだからね。
それでも5番人気は、チューリップ賞で3着になったからか、未勝利勝ちの時の末脚や500万勝ちの時の捲りが評価されてか。
「落ち着いて輪乗りしてるわよ」と、舞ちゃんが言った。
ふと顔を見たら、思い出してしまった。
縁談が有るんだよな…
先輩からも付き合ってくれと言われてる、って…
やっぱり少し妬けるのかな?
僕達は中々会えないし、仕方ないよな。
「あら?どうしたのかしら?」舞ちゃんが僕の腕に手をかけて言った。
ジョッキー下馬?
「まさか、故障?!」僕の腕をキュッとする。
コユキ大丈夫だよな、ケガなんかしてないよな?
発走時間が遅れるアナウンス。
「あ、大丈夫。落鉄だ」
「ケガじゃなくて良かったね」
落鉄。
発走前で良かったよ。
有馬記念スタート直後に落鉄で掲示板なんて、エアグルーヴじゃなきゃ無いよね。
って、舞ちゃんは、僕の腕に手をかけたままだ。
女の子は、何気無くそうしているつもりなんだろうけど、男はこういうのでドキッとするんだぞ。
「お兄ちゃんと舞ちゃん仲良し?」
「え?」
「うん。仲良しさんだよ」
「凛ちゃんも仲良し?」
「凛ちゃんも仲良しさんだよ」
「どっちがお兄ちゃんのお嫁さんになるんかね?」って…
さつきさんまでそんな事言うし。
「本当よね。私としては、舞ちゃんか凛ちゃんがお嫁に来てくれたら、本当に嬉しいわ」
また言ってる。
「僕が良くても、2人がね」
「そうかい、嫁に貰ってくれるかい」
いや、だから、僕が良くても舞ちゃんと凛ちゃんが…
「私まだ21だから、結婚はもう少し先かな」
ほらね。
「だって、付き合ってる人居ないもん」
何だか少しホッとする僕です。
コユキは無事回って来てくれるだけで充分だと思うけど、実は密かに期待してるんだ。
僕の好きな馬で、前哨戦を2着で、本番のオークスをきっちり勝ってくれた仔が居る。
その頃はまだ競馬を見始めたばかりで、好きな馬は、男の子1頭、女の子1頭だけだった。
男の子はジャンポケ君(ジャングルポケット)彼はダービーを勝ってくれた。
女の子はレディパステル。
デビュー3戦目で初勝利、続く500万下はクビ差の2着で、桜花賞の前日にミモザ賞を快勝。
エアグルーヴと同じトニービンがお父さんで、顔も少し似ていて美人。
オークスは絶対この仔、って思っていたんだ。
フローラステークスでは「ここで使い切らないで、権利だけ取れば良いから」って思って見てた。
そして、2着でオークスの出走権を取ったんだ。
本番のオークスでは、後方から直線一気の末脚で差し切ってくれた。
好きな馬は沢山居るけど、彼女は僕にとって特別な1頭なんだ。
僕の猫ニコロと同じ年で、誕生日は僕と同じ4月26日。
あ…
あの時、オークスの時彼女は5番人気だった。
今日のコユキと同じだね。
ファンファーレが鳴った。
奇数番の馬はだいたい収まった。
「中々入らないわね」
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1頭枠入りを嫌ってる。
尻尾を持って入れようとしても入らない。
何度も回して入れようとするけど、中々入らない。
コユキは、まだ外で待っている。
待っている間にテンションが上がらなければ良いけど…
ああ、覆面をして入れるみたいだ。
良し、入ったぞ。
コユキも入って良い子にしている。
「ドキドキしてきたわ」
何のアクシデントも無く無事に帰って来てほしい。
皆んな良いお母さんになるんだからね。
皆んな無事に回って来るんだよ。
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