『ペガサスが舞い降りる日』“僕の人生を変えた恋人”

大輝

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第28章 お姉さんの決断

僕の人生を変えた恋人28

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7月、僕は久しぶりに北海道へ飛んだ。

いつものように慎二と2人で…と思ったら「私も行くわ」とお姉さんも一緒だ。

【春風牧場】

「まあまあ、良くいらっしゃいました」

「良く来たなー。菱、スイカが冷えてるから食えー」

って、駿さんが大きなスイカを切ってくれた。

だけど、これ…

どうやって食べよう…?

「どうした?塩かけるか?」

凄く大きく切って有る…どうしよう?

「何だ、凛。どこ持って行くんだー?菱に食わせないつもりかー?」

凛ちゃんが、一口大に切って来てくれた。

「何だそりゃ?」

「前に菱さんのお宅で頂いた時、こうやって出て来たから」

「けっ、スイカをそうやって食うのかー?」

「うちは祖母が居たからかな?いつも母が小さく切って出すんだ…変かなぁ?」

「はい、ホーク」

「ありがとう」

「スイカってのはなー、でっかく切って、こうやってかぶりつくから旨いんでねーか」

そんな事言ったって…

小さく切ったのしか食べた事無いから無理だよ。

「私も初めはびっくりしたけど、それにしても駿さんの切り方は豪快過ぎるわね」とお姉さんが笑った。

僕が変なのかなぁ?

だって、大きなスイカを4つに切って出してくれるんだもん。

「私にもホークくださる?」

「はいどうぞ」

「ありがとう」

「私は、ホークが有ればこのままでも食べられるわ」

何か、恥ずかしくなってきた。

「凛。こんな赤ん坊みたいな奴と結婚したら大変だぞ」

「どうって事無いわよね、凛ちゃん」

「……」

何だよ、その沈黙…

ま、良いか。


【放牧場】

ユキが走って来た。

「久しぶりだなぁユキ」

ユキは今年も子供を連れていない。

「元々子出しの良い方じゃないけどね、年を取って受胎しにくくなったねー」

さつきさんがそう言った。

「だけど、勲章の母さんだからねー。大事にしてるよー」

「フルーツバスケットの仔は?」

「ほら、あそこでママに甘えてる」

フルーツバスケットが仔馬を連れて来た。

大人しくて甘えん坊の男の子。

この血統…コユキと付けられるんじゃないかなぁ?

「頑張ってG1勝って、立派なお父さんになるんだよ」

「何だか、こんな小さな仔にそんな事言ったら可哀想な気もするわね」

「いや、コイツ、中々期待出来そうだぞー」

「種牡馬施設を作る事、考えないとね」

「やれやれ、気が早いねー」

「怪獣君も、もうすぐデビューだし、彼がG1勝ってくれたら、うちで繁養したいんだ」

「勝てば良いけどなー」

「あ、モシモシ誠人さん。お願いが有るの…」

「あいつは聞かないからなー」

あの気性だからな…ちょっと心配だけど。

「ええ、そうなのよ…ええ…ありがとう。お願いします」

フルーツバスケットが、仔馬を連れて走り出した。

「さあ、あなたの走りを皆んなに見せなさい」と言うように。

「菱ちゃん」

「はい」

「誠人さんに頼んどいたわ」

「え?何を?」

「建設会社の手配よ。すぐに来るわ」

「またかい?もう慣れたけどなー」

そして翌日から工事が始まった。

「怪獣君が種牡馬になれたとしても、帰って来るのはまだ先だから、来年の種付けに間に合うように1頭買おうかな?」

「そんな金がどこに有るんだー?」

「そうだよね…」

コユキは、日本の主流血統ばかりだから、インブリードで血が濃くなり過ぎて、相手が居ないんだよな。

海外のお婿さんを探してやらないと。

「行ってらっしゃいよ、凛ちゃんと2人で」

「え?」

「えー?」

「何よ、その「え?」は。2人で綺麗にハモっちゃって」

お姉さんは、満面の笑みでこんな事言ってるし。


【シャルル・ド・ゴール空港】

8月、僕はフランスに居る。

コユキのお婿さんを探しに来たんだ。

今日はホテルでゆっくりして、明日の朝一番で牧場に行こう。

【ドーヴィルのホテル】

「早く馬に会いたいけど、明日の朝まで我慢だね」

「私、モン・サン・ミッシェルに行きたいな」

【ホテルの部屋】

え?ツイン?

お姉さんが手配してくれたんだけど…

どうしよう…?

横を見ると…

はぁ、凛ちゃんも固まってるな。

ホテルの人に聞いてみたんだけど、満室みたいだ。

まあ、ダブルじゃないだけ良いかぁ。

〈その夜…〉

何よ、どうして平気で寝れるのよ。

私だって、普通はどこでも平気で寝れるんだけど、フランスまで来て、このロマンチックな雰囲気で、菱さんと2人の部屋なんだもん。

平気で眠ったり出来ないでしょう?

〈翌朝…〉

早朝、僕達は種牡馬の繁養されている牧場へ向かった。

【車の中】

「どうしたの?凛ちゃん、眠いの?」

「良く眠れなかったの」

【牧場】

だいたいは調べて来たけど、ちゃんとこの目で見ないとね。

居た居た。

コユキの相手だから、本当は大人しい方が良いかも知れないけど、血統的な事を考えると、この馬しか居ない。

闘争心有りそうな目をしている。

丈夫そうだし、この馬に決めた!

ホワイトビースト8才。

「芦毛と芦毛で、白い仔が生まれたら良いな」

そうだね。

強い仔がうまれたら、海外にも挑戦したい。

きっとお姉さんも賛成してくれる。


〈翌日…〉

種牡馬を購入出来て、やれやれだ。

今日は、凛ちゃんの希望で、モン・サン・ミッシェルに来ている。

「何だか新婚旅行みたいだね」

「えっ?」

あ、凛ちゃん、俯いちゃった。

まずい事言っちゃったかな?

「牛が居る~」

「牛ぐらい北海道にだってたくさん居るけど、この景色の中に居ると、何だかステキね」

修道院が、海に映っている姿が綺麗だな。

「私、クリスチャンじゃないけど、結婚式は教会が良いな」

「えっ?」

「あ、そ、そういう意味じゃないの」

そういうって、どういう意味だろう?

【葉月家】

「気に入った種牡馬が買えて良かったわね」

「うん。また借金増えちゃって、貧乏牧場だから大変だ」

「良いわよ。返せる時で」

そして秋、怪獣君がデビューした。

引っかかりながらカリカリ飛ばす馬、まるでダイタクヘリオスみたいだ。

あんなに強いとよいけどね。

怪獣君事ハルクンは、2戦目まで惜しい競馬が続いている。

コユキは、何とか女王杯には間に合いそうだけど、また、休み明けぶっつけでG1参戦だな。

誌上パドック。

九分どおり仕上がった感じ。

良い頃のコユキではないとか、2200mではどうか?とか、色々言われているな。

調教も、馬場入りを嫌がって、中々スムーズにいかないみたいだ。

「もう…走りたくないのかな?」

「そうなのかしら?」

「早くお母さんになりたいのかも」

「決めた!エリザベス女王杯で引退させるわ」

「え?」

「もう怪我をしてほしくないのよ。無事に繁殖入りさせてあげたい」


うちの家族って、言い出したら早い。

あの気短の親父のせいだね。

のんびりしてるのは、僕と母ぐらい。

コユキのラストランは、次の女王杯に決まった。

2015年11月15日、京都競馬場、晴れ、稍重。

【馬主席】

「おや、まあ、葉月はん。あんたんとこの馬、引退やてな」

「ええ」

「ま、ピーク過ぎてるみたいやし、距離も持たへんし、今日も勝たせてもらいまっせ」

血統的にはまだ走れると思う。

距離も大丈夫だよ。

「人気落としてるわね」

5番人気。

秋華賞以来勝ってないし、2000mまでしか勝っていない。

休み明けだし、不安材料はたくさん有るけど、頑張ってほしい。

「ジョッキーは、気楽に乗るって言ってたよ」

「マークされなくて良いんでしょう?」

「そうだね」

【パドック】

コユキの横断幕がたくさん有る。

「コユキありがとう」って…

急な引退発表だったけど、作ってくれたんだね。

あれ?

いつもみたいに、桜ちゃんが飛びついて来ないぞ。

「凛ちゃんお姉ちゃん、早く早くぅ」

凛ちゃんの手を引っ張って来た。

何やら嫌な予感。

「仲良しさんして」

やっぱりか。

手を繋がされちゃった。

「お前達、新婚旅行以来だな」

だから、あれは新婚旅行じゃないって。

エリザベス女王杯の出走馬がパドックに入って来た。

もう、誰もコユキの勝ち負けの事は言わなかった。

勿論勝ってくれたら嬉しいよ。

でも、とにかく無事に繁殖入りしてほしい。

コユキの仔を見たい。

皆んな同じ思いだった。

「コユキ来たよー」

コユキは、2人引きで外々を回っている。

「前の馬、早く歩いてよ」という感じだ。

時々小走りになる。

これがいつものコユキだ。

コユキ頑張れ!

そして、無事に帰っておいで。


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