上 下
1 / 1

隣の席のクラスメートは今日も難解な言語を使うから、僕は今日もすっとんきょうに返した。

しおりを挟む

「よくそんなゾウリムシが潰れたような顔で社会に出てこられるわね。」
隣の席の彼女の言葉は、1日の最初からわからない。誰が潰れたゾウリムシを着席直後から想像できるのだろうか。
ただ、彼女がそれを理解することを求めていないことは容易にわかる。だから僕はこう返したんだ、
「潰れただけでこんなにイケメンになれるなんて、ゾウリムシは未確認生物に違いないね!」って、
できるだけすっとんきょうに。

ーーー

隣の席の彼女は容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群、まあ俗に言う完璧人間だ。
まさに漫画とアニメに出てきそうな彼女は、やはり漫画とアニメに出てきそうな「設定」を持っている。
そう、彼女に話しかける人は誰もいないのだ。
その原因は彼女の難解な言語から繰り出される工夫を凝らされた辛辣な言葉と彼女自身の行動にあるんだけど、詳しい話はまた機会があればにしよう。…勝手に言って怒られたくないしね!
まあ、僕も彼女に話掛けれない大勢のうちの一人だったってわけさ、隣の席でカースト最上位の方々が勢い良く沈んで行くのを見て、誰も話しかける勇気は起きないよね、ほら、僕って辛いことは避けて行くタイプだし?
それでなんで僕が彼女と今話してるかって?
恥ずかしいからあんまり話したくないんだけど、彼女の話ばかりもいけないかな、彼女曰く玉ねぎを12時間刻み続けてもたどり着けないほどらしいほどのこの小さな羞恥心をふりきって話すことにするよ…

あの頃の僕はまだ純真だった…ほんとに。彼女に淡い恋心を抱いていたんだよね、若いんだからしょうがない!…まあ、話せもしなかった訳だけど、
そんな僕に後押しをしたのは、「席替え」っていうクラスの誰しもが胸を高鳴らせるイベントだったんだよね、何せそんなイベントを完全に頭から消失させてた僕の心臓もドッキドキさ!!
そんな訳で、僕はコロイド粒子並みの大きさのこの脳みそをフル回転させて彼女との初会話の台詞づくりに励んだんだ。
少しでも印象に残りたいなんて、我ながら健気過ぎる!びっくりするね!そう言うと何も言われずに席を立たれるんだけど…
彼女に話しかけたのは席替えの日の朝、ごく自然に話しかけようとして、逆に職質もんの不自然さで話してるかけちゃったんだ、
「おっ…おはよう」って、今思いだしても恥ずかしい!頭を回した分、舌が回らなかったみたい。そしたら彼女、なんて言ったと思う?
「そんな村人Kみたいな人畜無害な顔をして、キリギリスの断末魔のほうがましだと思うほどの声を聞くことになるとは思わなかったわ。」だってよ、
それを顔色変えずにこっちも見ずに言うもんだから、ついつい、いつもの感じで返しちゃうよね、
「わ―お、全てのキリギリスは声学に通じてるんだね。」って小声でいっちゃった。
渋いキャラで行く予定だったんだけど、こればっかりはしょうがない。
そしたら彼女にはばっちり聞こえたみたいで、またなんか言われるかなって思ったんだけど、彼女は「えっ、ビームでも出すの?」ってつい思うほど目を開いてこっちを向いた後、何も言わず、読んでた本に目を戻したんだ。
それから、僕の「おはよう」に、彼女が、
「マンボウよりか弱そうな外見のあなたが、こんなに学校に来れるとは思わなかったわ、人は外見によらないとは良く言ったものね、まな板の上のどじょう位の生命力はあるみたい。」などと、
朝から良く回る舌から癖の強すぎる言語を良い放ち、それに僕が、
「どじょうとは良く言ったものだね!あの美しい体のラインとつぶらな瞳は他では表現できないよ!」
などと、
おちゃらけて返す。
そんな会話をするようになったんだ。大きな進歩だね!
えっ?なぜ、席が隣のままかって?
それは僕が聞きたいよ…席替えの結果はなんと変わらず彼女が隣だったんだ。僕の努力は何だったんだって感じだよね、泣きそうだったよ…彼女に話しかけるかためらっちゃう位参っちゃったよ…話しかけるんだけどね!
取り敢えず今彼女と話を出来る原因となる、僕の恥ずかしい思い出はこれで終わりかな?…いい加減目の前の現実に向き合うとするよ。彼女との決着を着けようとする現在に。

「聞いてるの?あなたのその原人の半分もないような脳じゃ理解出来ないかしら?」
隣には少し不機嫌な声色で話しかける彼女の顔がある。相変わらず、僕には目を向けない。
僕はいつものように返そうとして、やめた。

きっと僕も彼女も気づいているんだ。
僕の「これ」にも、彼女の「あれ」にもこの先はないって。
こんなのは稚拙な自己防衛手段に過ぎないって。
だから、僕は言おうとしたんだ、
たとえ、この関係が終わってしまうとしても。

「ねえ、どうしたの?なんか言いなさいよ」

………言おうと思ったんだけど、少し心配そうにこちらをのぞき見るその仕草に優越感を抱いてしまったから、結局僕はいつものように返してしまうんだ。


彼女の難解な言語に対して、すっとんきょうに。

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫

紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。 スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。 そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。 捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

処理中です...