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13. 蜜 (内藤視点)
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ヒートが明けたらしい。
内藤は半休を取って、自宅マンションに駆けつけた。玄関のドアを開くと、内藤のルームウェアを着た悠理が申し訳なさそうに頭を下げた。
「迷惑をかけてごめんなさい」
「俺ときみの仲だろう? 謝らなくていい」
悠理は恥ずかしそうにうつむいた。
「洗濯機、借りたから。今、シーツを干しているところ」
「お腹空いてない? レトルトのおかゆでよければ、あっためるよ」
「お願いします……」
電子レンジで温めたおかゆを器に盛る。猫舌の悠理は、ふーふーと息を吹きかけながらおかゆを口に運んだ。
「タクシーなら乗れそう?」
「……うん」
「それ食べたら、家に送っていくよ。ご両親も心配してるだろうし」
「内藤さん、会社は?」
「半休を取った。俺のことは何も心配しなくていいから」
悠理はおかゆを食べ終えると、涙を流した。
「どうしてそんなに優しいの? 俺、ひどいこといっぱい言ったのに」
「自分でも分からない。きみには何でもしてあげたくなる。誰かのことをこんなにも好きになったのは初めてだ」
その昔、恋愛は内藤にとってゲームの一種だった。本気になったら負け。逃げ足の速さには自信があった。ヤリチンだという評判が立ってからは、遊び目的の相手しか近づいてこないのでやりやすかった。
でも、悠理への想いはとどまることを知らない。悠理が望むことをすべて叶えたいと思う。
「内藤さん……好き」
悠理が泣きながら抱きついてきた。華奢な体が内藤の懐にすっぽりと収まる。悠理から漂ってくるシャンプーと石鹸の匂いに内藤は戸惑った。このまま押し倒して、悠理の裸をすみずみまで眺め回したくなる。
「俺、毒舌はもう封印するから一緒にいて」
「いや、あれはあれで威勢がよくて可愛いから、そのままでいいよ」
「そんな風に甘やかさないで。ダメな時はちゃんと叱って?」
「うん」
内藤の余裕のなさを察したのか、悠理がパッと体を離した。ふたりは真っ赤になりながら、しばらくのあいだ見つめ合った。
「……内藤さん、ヤリチンなのにハグしただけで照れてる」
「俺、チェリーに戻ったかもしれない。悠理くんが近くにいるだけでダメだ。クラクラする」
「フェロモンが残ってるのかな?」
「そういうことじゃなくて、きみの存在自体が蜜みたいなものだ」
悠理がキョトンとする。
「蜜? 俺、キツい性格だけど?」
「本当に好きになると、相手のことをそう感じるんだよ」
「内藤さんはお日様みたい。いつもあったかくて、俺を包んでくれる」
「これからも悠理くんの信頼を裏切らないようにしないとな」
内藤は晴れやかに笑った。
内藤は半休を取って、自宅マンションに駆けつけた。玄関のドアを開くと、内藤のルームウェアを着た悠理が申し訳なさそうに頭を下げた。
「迷惑をかけてごめんなさい」
「俺ときみの仲だろう? 謝らなくていい」
悠理は恥ずかしそうにうつむいた。
「洗濯機、借りたから。今、シーツを干しているところ」
「お腹空いてない? レトルトのおかゆでよければ、あっためるよ」
「お願いします……」
電子レンジで温めたおかゆを器に盛る。猫舌の悠理は、ふーふーと息を吹きかけながらおかゆを口に運んだ。
「タクシーなら乗れそう?」
「……うん」
「それ食べたら、家に送っていくよ。ご両親も心配してるだろうし」
「内藤さん、会社は?」
「半休を取った。俺のことは何も心配しなくていいから」
悠理はおかゆを食べ終えると、涙を流した。
「どうしてそんなに優しいの? 俺、ひどいこといっぱい言ったのに」
「自分でも分からない。きみには何でもしてあげたくなる。誰かのことをこんなにも好きになったのは初めてだ」
その昔、恋愛は内藤にとってゲームの一種だった。本気になったら負け。逃げ足の速さには自信があった。ヤリチンだという評判が立ってからは、遊び目的の相手しか近づいてこないのでやりやすかった。
でも、悠理への想いはとどまることを知らない。悠理が望むことをすべて叶えたいと思う。
「内藤さん……好き」
悠理が泣きながら抱きついてきた。華奢な体が内藤の懐にすっぽりと収まる。悠理から漂ってくるシャンプーと石鹸の匂いに内藤は戸惑った。このまま押し倒して、悠理の裸をすみずみまで眺め回したくなる。
「俺、毒舌はもう封印するから一緒にいて」
「いや、あれはあれで威勢がよくて可愛いから、そのままでいいよ」
「そんな風に甘やかさないで。ダメな時はちゃんと叱って?」
「うん」
内藤の余裕のなさを察したのか、悠理がパッと体を離した。ふたりは真っ赤になりながら、しばらくのあいだ見つめ合った。
「……内藤さん、ヤリチンなのにハグしただけで照れてる」
「俺、チェリーに戻ったかもしれない。悠理くんが近くにいるだけでダメだ。クラクラする」
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「そういうことじゃなくて、きみの存在自体が蜜みたいなものだ」
悠理がキョトンとする。
「蜜? 俺、キツい性格だけど?」
「本当に好きになると、相手のことをそう感じるんだよ」
「内藤さんはお日様みたい。いつもあったかくて、俺を包んでくれる」
「これからも悠理くんの信頼を裏切らないようにしないとな」
内藤は晴れやかに笑った。
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