【完結】いばらの向こうに君がいる

古井重箱

文字の大きさ
上 下
13 / 15

13. 蜜 (内藤視点)

しおりを挟む
 ヒートが明けたらしい。
 内藤は半休を取って、自宅マンションに駆けつけた。玄関のドアを開くと、内藤のルームウェアを着た悠理が申し訳なさそうに頭を下げた。

「迷惑をかけてごめんなさい」
「俺ときみの仲だろう? 謝らなくていい」

 悠理は恥ずかしそうにうつむいた。

「洗濯機、借りたから。今、シーツを干しているところ」
「お腹空いてない? レトルトのおかゆでよければ、あっためるよ」
「お願いします……」

 電子レンジで温めたおかゆを器に盛る。猫舌の悠理は、ふーふーと息を吹きかけながらおかゆを口に運んだ。

「タクシーなら乗れそう?」
「……うん」
「それ食べたら、家に送っていくよ。ご両親も心配してるだろうし」
「内藤さん、会社は?」
「半休を取った。俺のことは何も心配しなくていいから」

 悠理はおかゆを食べ終えると、涙を流した。

「どうしてそんなに優しいの? 俺、ひどいこといっぱい言ったのに」
「自分でも分からない。きみには何でもしてあげたくなる。誰かのことをこんなにも好きになったのは初めてだ」

 その昔、恋愛は内藤にとってゲームの一種だった。本気になったら負け。逃げ足の速さには自信があった。ヤリチンだという評判が立ってからは、遊び目的の相手しか近づいてこないのでやりやすかった。
 でも、悠理への想いはとどまることを知らない。悠理が望むことをすべて叶えたいと思う。

「内藤さん……好き」

 悠理が泣きながら抱きついてきた。華奢な体が内藤の懐にすっぽりと収まる。悠理から漂ってくるシャンプーと石鹸の匂いに内藤は戸惑った。このまま押し倒して、悠理の裸をすみずみまで眺め回したくなる。

「俺、毒舌はもう封印するから一緒にいて」
「いや、あれはあれで威勢がよくて可愛いから、そのままでいいよ」
「そんな風に甘やかさないで。ダメな時はちゃんと叱って?」
「うん」

 内藤の余裕のなさを察したのか、悠理がパッと体を離した。ふたりは真っ赤になりながら、しばらくのあいだ見つめ合った。

「……内藤さん、ヤリチンなのにハグしただけで照れてる」
「俺、チェリーに戻ったかもしれない。悠理くんが近くにいるだけでダメだ。クラクラする」
「フェロモンが残ってるのかな?」
「そういうことじゃなくて、きみの存在自体が蜜みたいなものだ」

 悠理がキョトンとする。

「蜜? 俺、キツい性格だけど?」
「本当に好きになると、相手のことをそう感じるんだよ」
「内藤さんはお日様みたい。いつもあったかくて、俺を包んでくれる」
「これからも悠理くんの信頼を裏切らないようにしないとな」

 内藤は晴れやかに笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

ヤンキーΩに愛の巣を用意した結果

SF
BL
アルファの高校生・雪政にはかわいいかわいい幼馴染がいる。オメガにして学校一のヤンキー・春太郎だ。雪政は猛アタックするもそっけなく対応される。  そこで雪政がひらめいたのは 「めちゃくちゃ居心地のいい巣を作れば俺のとこに居てくれるんじゃない?!」  アルファである雪政が巣作りの為に奮闘するが果たして……⁈  ちゃらんぽらん風紀委員長アルファ×パワー系ヤンキーオメガのハッピーなラブコメ! ※猫宮乾様主催 ●●バースアンソロジー寄稿作品です。

後輩の甘い支配

ちとせ
BL
後輩(男前イケメン)×先輩(無自覚美人)  「俺がやめるのも、先輩にとってはどうでもいいことなんですね…」 退職する直前に爪痕を残していった後輩に、再会後甘く支配される… 商社で働く雨宮 叶斗(あめみや かなと)は冷たい印象を与えてしまうほど整った美貌を持つ。 そんな彼には指導係だった時からずっと付き従ってくる後輩がいた。 その後輩、村瀬 樹(むらせ いつき)はある日突然叶斗に退職することを告げる。 2年後、戻ってきた村瀬は自分の欲望を我慢することをせず… 後半甘々です。 すれ違いもありますが、結局攻めは最初から最後まで受け大好きで、受けは終始振り回されてます。

お酒に酔って、うっかり幼馴染に告白したら

夏芽玉
BL
タイトルそのまんまのお話です。 テーマは『二行で結合』。三行目からずっとインしてます。 Twitterのお題で『お酒に酔ってうっかり告白しちゃった片想いくんの小説を書いて下さい』と出たので、勢いで書きました。 執着攻め(19大学生)×鈍感受け(20大学生)

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

お世話したいαしか勝たん!

沙耶
BL
神崎斗真はオメガである。総合病院でオメガ科の医師として働くうちに、ヒートが悪化。次のヒートは抑制剤無しで迎えなさいと言われてしまった。 悩んでいるときに相談に乗ってくれたα、立花優翔が、「俺と一緒にヒートを過ごさない?」と言ってくれた…? 優しい彼に乗せられて一緒に過ごすことになったけど、彼はΩをお世話したい系αだった?! ※完結設定にしていますが、番外編を突如として投稿することがございます。ご了承ください。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

処理中です...