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11. きみのためにできること (内藤視点)
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段々とフェロモンが濃くなっていく悠理を背負って、内藤は鋪道をひた走った。これ以上一緒にいたら理性を失いそうになる。限界を感じた時、マンションが見えてきた。
内藤は悠理を自室に招き入れると、すぐに外に出た。
スマートフォンを使って通話を試みる。
「悠理くん、大丈夫か? 俺はホテルに泊まるから、きみはこの部屋で休んでいくといい」
「内藤さん……、ごめんなさい」
「謝らなくていい。今は自分が楽になることだけ考えて。あとで夕飯を届けるから」
扉の向こうで悠理が苦しんでいるのかと思うと、内藤はやりきれなくなった。ヒートの際にアルファができることは一つしかない。でも、もしもその選択を取ったら内藤は一生自分を許せないだろう。
内藤は近くのホテルに部屋を取った。続いて、スーツの量販店に立ち寄り、会社に着ていくものを揃えた。
自宅に置いてあるカバンには重要な書類は入っていない。
──あと、しなきゃいけないことは……。
ホテルの部屋に入った内藤は悠理の家に電話をかけて、事情を説明した。
「私か家内のどちらかが免許を持っていれば、レンタカーで迎えに行けたんだが……」
悠理の父が声を沈ませる。内藤は悠理の父を励ますために、つとめて明るい声を出した。
「食事の手配は俺の方でしますので」
「何から何まですみません」
「悠理くんは俺の婚約者ですから」
内藤の発言を受けて、悠理の父はしばし沈黙した。
「……あの子はストーカー被害に遭ったり、ゆきずりのアルファに強引に迫られたり、散々な思いをしてきました。そのせいで攻撃的な言動を取るようになったんです」
「悠理くんと接してみて、彼が受けた傷の深さに気づかされました」
「でも、内藤さんに会ってから悠理は変わった。表情が明るく、そして柔らかくなった」
「俺に任せてください」
「よろしくお願いします」
通話を切った内藤は、夕食を調達するために外に出ようとした。その時、スマートフォンが振動した。
「悠理くん?」
「内藤さん……、どうしよう。からだ、熱い……」
「代わってあげられなくてごめん」
「すごく欲しい……。内藤さんのおっきいのが欲しい」
ヒートが言わせたことと分かってはいても、内藤は動揺した。セックスに忌避感のある悠理ですら本能には逆らえないのか。
「ねえ、内藤さんのおちんちん、ちょうだい」
吐息を交えて囁かれると、内藤は落ち着かなくなった。だが、ここで手を出したら婚前交渉はしないという悠理の願いを踏みにじることになる。
「くちゅくちゅって音、聞こえる? 俺のあそこ、洪水みたいになってるよ」
内藤は理性が吹き飛ばされないように耐えた。
「……ならないで」
「え?」
「俺のこと、嫌いにならないで」
電話の向こうで悠理は泣いていた。
「ヒートの時は変なことしか考えられなくなるっ……」
「悠理くん……」
「もう切るね。夕飯は要らない」
悠理はそう言うが、大量の汗をかいていることだろう。水分補給が必要だ。
内藤はホテルを出た。そしてコンビニでゼリー飲料とスポーツドリンクを買った。
自宅マンションのドアの前に、ゼリー飲料とスポーツドリンクが入ったビニール袋を置いた。それだけでは寂しいので、メモ帳を取り出してメッセージを書き記した。
『水族館、楽しみにしてるよ』
イルカのイラストを添える。こんなメモなど、ヒートの勢いの前では無力に違いない。それでも、悠理に独りぼっちではないことを伝えたかった。
内藤は再びホテルに戻った。
内藤は悠理を自室に招き入れると、すぐに外に出た。
スマートフォンを使って通話を試みる。
「悠理くん、大丈夫か? 俺はホテルに泊まるから、きみはこの部屋で休んでいくといい」
「内藤さん……、ごめんなさい」
「謝らなくていい。今は自分が楽になることだけ考えて。あとで夕飯を届けるから」
扉の向こうで悠理が苦しんでいるのかと思うと、内藤はやりきれなくなった。ヒートの際にアルファができることは一つしかない。でも、もしもその選択を取ったら内藤は一生自分を許せないだろう。
内藤は近くのホテルに部屋を取った。続いて、スーツの量販店に立ち寄り、会社に着ていくものを揃えた。
自宅に置いてあるカバンには重要な書類は入っていない。
──あと、しなきゃいけないことは……。
ホテルの部屋に入った内藤は悠理の家に電話をかけて、事情を説明した。
「私か家内のどちらかが免許を持っていれば、レンタカーで迎えに行けたんだが……」
悠理の父が声を沈ませる。内藤は悠理の父を励ますために、つとめて明るい声を出した。
「食事の手配は俺の方でしますので」
「何から何まですみません」
「悠理くんは俺の婚約者ですから」
内藤の発言を受けて、悠理の父はしばし沈黙した。
「……あの子はストーカー被害に遭ったり、ゆきずりのアルファに強引に迫られたり、散々な思いをしてきました。そのせいで攻撃的な言動を取るようになったんです」
「悠理くんと接してみて、彼が受けた傷の深さに気づかされました」
「でも、内藤さんに会ってから悠理は変わった。表情が明るく、そして柔らかくなった」
「俺に任せてください」
「よろしくお願いします」
通話を切った内藤は、夕食を調達するために外に出ようとした。その時、スマートフォンが振動した。
「悠理くん?」
「内藤さん……、どうしよう。からだ、熱い……」
「代わってあげられなくてごめん」
「すごく欲しい……。内藤さんのおっきいのが欲しい」
ヒートが言わせたことと分かってはいても、内藤は動揺した。セックスに忌避感のある悠理ですら本能には逆らえないのか。
「ねえ、内藤さんのおちんちん、ちょうだい」
吐息を交えて囁かれると、内藤は落ち着かなくなった。だが、ここで手を出したら婚前交渉はしないという悠理の願いを踏みにじることになる。
「くちゅくちゅって音、聞こえる? 俺のあそこ、洪水みたいになってるよ」
内藤は理性が吹き飛ばされないように耐えた。
「……ならないで」
「え?」
「俺のこと、嫌いにならないで」
電話の向こうで悠理は泣いていた。
「ヒートの時は変なことしか考えられなくなるっ……」
「悠理くん……」
「もう切るね。夕飯は要らない」
悠理はそう言うが、大量の汗をかいていることだろう。水分補給が必要だ。
内藤はホテルを出た。そしてコンビニでゼリー飲料とスポーツドリンクを買った。
自宅マンションのドアの前に、ゼリー飲料とスポーツドリンクが入ったビニール袋を置いた。それだけでは寂しいので、メモ帳を取り出してメッセージを書き記した。
『水族館、楽しみにしてるよ』
イルカのイラストを添える。こんなメモなど、ヒートの勢いの前では無力に違いない。それでも、悠理に独りぼっちではないことを伝えたかった。
内藤は再びホテルに戻った。
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