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06. 今までのアルファと違う……!?
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お見合いから一週間が経った。
悠理は世話人を通じて、内藤の連絡先を知った。話が先に進んだことを両親はとても喜んでいる。気が早いことに、母は赤飯を炊いた。
「慶介さん、素敵な方だったものねぇ」
「まあ、随分と世慣れた人のようだったが。経験豊富な男性の方が、悠理も安心できるだろう」
食事を終えて自室に戻る。
ベッドの上でくつろいでいると、内藤からメッセージが届いた。
『映画、どんなのがいい?』
『爆発シーンや流血シーンがないやつ』
『これなんてどう?』
送られてきたリンクを開く。アイスランドを舞台にした家族ものか。悠理は海外旅行にこれまで縁がなかった。外国の風景を眺めるのは楽しいかもしれない。
『じゃあ、それで』
『楽しみにしてる』
内藤にしてみればデートのつもりかもしれないが、悠理にとっては単なる遊びではない。これは内藤の人間性を見極めるテストだ。
──ヤリチンのチャラ男め。化けの皮を剥がしてやる。
悠理は内藤への対抗心を燃やした。
「おはよう、悠理くん。今日も可愛いね」
テスト当日。
ミニシアターで顔を合わせるなり、内藤は歯の浮くような言葉を投げかけてきた。悠理は内藤のペースに飲まれないように気をつけた。不敵な微笑みを返す。
「今日はあんたの本性を暴いてやる」
「まだそんなこと言ってるの? 俺ってそんなにスケベに見える?」
「目元とか、手とか、いかにもエロそう」
「それはつまり、俺がセクシーってことだな」
「ばか。違うよ!」
結局、内藤のペースになってしまった。悠理は気を取り直して、チケットカウンターに並んだ。お代は割り勘である。
「俺が出すのに」
「たとえ奢られても、俺は尻尾を振らないぞ」
「悠理くんならそう言うと思った」
一番後ろの列の真ん中にある席を取った。この場所を指定したのは悠理だ。他の観客の目が届かないのをいいことに内藤が触ってくるかもしれない。悠理はまだ内藤慶介という男を信じていなかった。
──アルファなんてみんな一緒だ。
やがて場内が暗くなり、映画が始まった。ヒロインがアイスランドの海辺を歩いている。海鳥パフィンが一斉に羽ばたいて、空が白く染まった。
のどかな風景から一転して、ヒロインと家族が囲む食卓は重苦しい雰囲気をまとっていた。
ヒロインはアートディレクターになるためアイスランドを離れ、ロンドンに旅立とうとしている。でも、家族はそれをよしとしていなかった。
『あなたはこの国を捨てるの』
『違うわ、お母さん』
白熱したやりとりに悠理は見入った。
映画は、ロンドンのギャラリーにヒロインの家族が訪れるところで終わった。
エンドロールを眺めながら、悠理は余韻に浸った。
場内に照明が点灯する。
悠理はそこでようやく、内藤が隣にいたことを思い出した。
「ラスト、ちょっと泣きそうになったよ」
「……そうだな」
「家族の絆って何だかんだ言っても切れないもんだな」
内藤の横顔を眺める。落ち着きのある表情に思わず見惚れてしまう。悠理はぷるぷると頭を振った。
──騙されるな。こいつはヤリチンのチャラ男だぞ?
「悠理くん、どうしたの?」
「擬態が上手いな、あんた。本当は俺に触りたくて、そわそわしてただろ」
「いや、映画に集中してた」
「……他のアルファは映画館に来ると、俺にキスしようとしたり、太ももを撫でたりしてきた」
「俺はそいつらとは違う」
きっぱりと言い切ると、内藤は胸を張った。
「この調子なら、初夜まで我慢できそうだよ」
「あのなあ。誰もあんたと結婚したいだなんて言ってないだろ」
「じゃあ聞くけど、俺以外にきみと付き合えるアルファっている? きみのキツい言葉を受け止めて、それでも挫けないで一緒にいようと思う奴なんてそうそういないと思うよ」
内藤の指摘を受け、悠理は沈黙した。
自分の性格が捻じ曲がっていることは悠理自身が一番よく分かっている。結婚して家庭を持ちたければ、そんな自分を変えなければいけない。
悠理は拳を握りしめた。
「……俺だって、好きでこんな性格になったわけじゃない」
「悠理くん、俺の前では鎧を脱いで。きみが嫌がることはしないから」
厳しい言葉のあとに優しい言葉をかけられて、悠理は混乱した。このアルファは今までの奴らとは違う。これまでに出会ったアルファは、悠理というオメガをモノにするために強引に迫ってきた。でも内藤は遥か未来を見据えている。
──この人、本気で俺と結婚しようと思ってるのか?
悠理が見上げると、内藤が微笑んだ。
「映画観てたら、海が見たくなってきた。今からベイエリアに行かない?」
「……別にいいけど」
どうせ家に帰っても暇なだけだ。悠理は内藤の気まぐれに付き合うことにした。
悠理は世話人を通じて、内藤の連絡先を知った。話が先に進んだことを両親はとても喜んでいる。気が早いことに、母は赤飯を炊いた。
「慶介さん、素敵な方だったものねぇ」
「まあ、随分と世慣れた人のようだったが。経験豊富な男性の方が、悠理も安心できるだろう」
食事を終えて自室に戻る。
ベッドの上でくつろいでいると、内藤からメッセージが届いた。
『映画、どんなのがいい?』
『爆発シーンや流血シーンがないやつ』
『これなんてどう?』
送られてきたリンクを開く。アイスランドを舞台にした家族ものか。悠理は海外旅行にこれまで縁がなかった。外国の風景を眺めるのは楽しいかもしれない。
『じゃあ、それで』
『楽しみにしてる』
内藤にしてみればデートのつもりかもしれないが、悠理にとっては単なる遊びではない。これは内藤の人間性を見極めるテストだ。
──ヤリチンのチャラ男め。化けの皮を剥がしてやる。
悠理は内藤への対抗心を燃やした。
「おはよう、悠理くん。今日も可愛いね」
テスト当日。
ミニシアターで顔を合わせるなり、内藤は歯の浮くような言葉を投げかけてきた。悠理は内藤のペースに飲まれないように気をつけた。不敵な微笑みを返す。
「今日はあんたの本性を暴いてやる」
「まだそんなこと言ってるの? 俺ってそんなにスケベに見える?」
「目元とか、手とか、いかにもエロそう」
「それはつまり、俺がセクシーってことだな」
「ばか。違うよ!」
結局、内藤のペースになってしまった。悠理は気を取り直して、チケットカウンターに並んだ。お代は割り勘である。
「俺が出すのに」
「たとえ奢られても、俺は尻尾を振らないぞ」
「悠理くんならそう言うと思った」
一番後ろの列の真ん中にある席を取った。この場所を指定したのは悠理だ。他の観客の目が届かないのをいいことに内藤が触ってくるかもしれない。悠理はまだ内藤慶介という男を信じていなかった。
──アルファなんてみんな一緒だ。
やがて場内が暗くなり、映画が始まった。ヒロインがアイスランドの海辺を歩いている。海鳥パフィンが一斉に羽ばたいて、空が白く染まった。
のどかな風景から一転して、ヒロインと家族が囲む食卓は重苦しい雰囲気をまとっていた。
ヒロインはアートディレクターになるためアイスランドを離れ、ロンドンに旅立とうとしている。でも、家族はそれをよしとしていなかった。
『あなたはこの国を捨てるの』
『違うわ、お母さん』
白熱したやりとりに悠理は見入った。
映画は、ロンドンのギャラリーにヒロインの家族が訪れるところで終わった。
エンドロールを眺めながら、悠理は余韻に浸った。
場内に照明が点灯する。
悠理はそこでようやく、内藤が隣にいたことを思い出した。
「ラスト、ちょっと泣きそうになったよ」
「……そうだな」
「家族の絆って何だかんだ言っても切れないもんだな」
内藤の横顔を眺める。落ち着きのある表情に思わず見惚れてしまう。悠理はぷるぷると頭を振った。
──騙されるな。こいつはヤリチンのチャラ男だぞ?
「悠理くん、どうしたの?」
「擬態が上手いな、あんた。本当は俺に触りたくて、そわそわしてただろ」
「いや、映画に集中してた」
「……他のアルファは映画館に来ると、俺にキスしようとしたり、太ももを撫でたりしてきた」
「俺はそいつらとは違う」
きっぱりと言い切ると、内藤は胸を張った。
「この調子なら、初夜まで我慢できそうだよ」
「あのなあ。誰もあんたと結婚したいだなんて言ってないだろ」
「じゃあ聞くけど、俺以外にきみと付き合えるアルファっている? きみのキツい言葉を受け止めて、それでも挫けないで一緒にいようと思う奴なんてそうそういないと思うよ」
内藤の指摘を受け、悠理は沈黙した。
自分の性格が捻じ曲がっていることは悠理自身が一番よく分かっている。結婚して家庭を持ちたければ、そんな自分を変えなければいけない。
悠理は拳を握りしめた。
「……俺だって、好きでこんな性格になったわけじゃない」
「悠理くん、俺の前では鎧を脱いで。きみが嫌がることはしないから」
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──この人、本気で俺と結婚しようと思ってるのか?
悠理が見上げると、内藤が微笑んだ。
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