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02. アルファ嫌いの子ども好き

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 犀川悠理は雑貨屋のぬいぐるみコーナーに立っていた。
 犬や猫、うさぎにイルカ。可愛らしいぬいぐるみたちに囲まれていても、悠理の機嫌は好転しなかった。

──アルファってキモい。どうしてすぐにナンパしてくるんだろ。

 先ほど書店で出会った男は背が高くて、ちょっとタレ目の甘い顔立ちで、いかにも自信たっぷりのアルファらしいアルファだった。
 悠理は大のアルファ嫌いである。
 15歳の時にバース性が判明して以来、アルファに追いかけられて不快な思いをしてきた。アルファはその特性により傲慢な者が多い。悠理はアルファから身を守るために言葉にナイフを宿すようになった。
 アルファたちは、オメガである悠理にボロクソに言われるとみな一様に絶句し、それ以上手を出してこなくなる。アルファを退けるためには、彼らのプライドを破壊してやればいい。

「あの、さっきの方ですよね?」

 見覚えのある男児を抱いた男性が、悠理に話しかけてきた。男児は先ほどの一件で泣き疲れたのか、まぶたを閉じている。

「息子の相手をしてくださって、ありがとうございます」
「大丈夫です。子ども、好きなんで……」
「お礼をさせてください」
「そんな、いいですよ」

 男性は結婚指輪をはめていた。子どものいる男性というのは、どうしてこんな風に優しいのだろうか。
 悠理には夢があった。
 子ども好きの相手と結婚をして、にぎやかな家庭を築きたい。悠理は現在24歳である。同世代の友人はまだ遊んでいたいと言うが、悠理は早く身を固めたかった。

「本当にありがとうございます」

 男性は柔らかな微笑みを残して去っていった。誰かのパートナーをそんな目で見てはいけないと思いつつも、広い背中に抱きついて甘えたくなってしまう。
 悠理は手前に置かれていた柴犬のぬいぐるみをそっと撫でた。
 アルファ嫌いの子ども好き。
 そんな矛盾した自分にパートナーができる日が来るだろうか?
 悠理の不安を吸い取ってくれるかのように、柴犬のぬいぐるみはふわふわとしていて柔らかかった。
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