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第17話 俺の兄ちゃんは超怖い
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クラウス兄ちゃんは不機嫌そのものだった。
二日酔いの上に、吸いたくもないタバコの煙を吸わされてしまった人のように目を尖らせ、俺とヴァンを見ている。
「明日の午前中、遠乗りに出かけるぞ。おまえたちの結婚について話したいことがある」
「分かったよ」
「かしこまりました」
伝えるべきことを伝えると、クラウス兄ちゃんは俺の部屋から去って行った。
大きな背中を見送りながら、俺はハーッと息を吐いた。
うちの兄ちゃんは、どうしてあれほど貫禄があるのだろう。俺たちは一歳しか違わないというのに。
「ヴァン。明日、俺たち水魔法でボコボコにされるのかな」
「クラウス様は、隣国の公女様と婚約中ですからね。俺たちの停学処分が、相手方の耳に入ったら大変です」
「どうしよう。俺、ケンカでクラウス兄ちゃんに勝ったことなんてないよ」
緊張のあまり、今夜はエッチどころではなかった。
俺はヴァンの懐に頭を預けて、体を充分に休めた。
◇◇◇
ひと晩明けて、本日は快晴なり。
遠乗り日和である。
俺とヴァンは朝食を囲んでいた。クラウス兄ちゃんの様子をうかがう。好物のゆで卵を食べているが、目つきは鋭い。
「どうだ、エドゥアール。アゼルク家の朝餉は美味であろう」
「うん。俺、リンゴのコンポート大好きだよ」
「あらいやだ、エドゥアールちゃんったら。それは梨のコンポートよ」
「疲れているようだな、エドゥアール」
グルメの俺としたことが、不覚である。クラウス兄ちゃんの全身から放たれる圧によって食事に集中できなかった。
ヴァンはもともと味にうるさくない。
魔法学園の野外実習の際、固形の超まずいレーションを食べても平気な顔をしていた。クラウス兄ちゃんが睨みをきかせていてもカトラリーを落としたりもしないし、ヴァンって強いよな。
ヴァンに惚れ直してしまう。
そうだ、俺には愛がある。
愛の力があれば、クラウス兄ちゃんの試練だってきっと乗り越えられる。
俺は紅茶を飲んで、お腹を落ち着かせた。
「そろそろ出かけてもいいか」
食後、自室で休んでいるとクラウス兄ちゃんがやって来た。
クラウス兄ちゃんはかっちりとした上着をまとい、背負い袋を装備している。もしかして……屋敷の書庫から封魔の書を持って来たのか?
魔物を閉じ込めて、召喚獣へと変えさせる封魔の書は強力なアイテムである。
クラウス兄ちゃんお得意の水魔法で攻められたうえに、召喚獣の相手までさせられるのか?
「ヴァン。おまえ、クラウス兄ちゃんの子ども時代の恥ずかしい思い出とか覚えてない?」
「記憶にまったくございません。クラウス様はつねに完璧な公爵令息でした」
「うーっ。精神攻撃のネタにしようと思ったのに」
俺が頭を抱えていると、クラウス兄ちゃんが歩き出した。
「行くぞ」
拒否権はない。
俺は屋敷のエントランスホールを出て、庭に足を踏み入れた。
二日酔いの上に、吸いたくもないタバコの煙を吸わされてしまった人のように目を尖らせ、俺とヴァンを見ている。
「明日の午前中、遠乗りに出かけるぞ。おまえたちの結婚について話したいことがある」
「分かったよ」
「かしこまりました」
伝えるべきことを伝えると、クラウス兄ちゃんは俺の部屋から去って行った。
大きな背中を見送りながら、俺はハーッと息を吐いた。
うちの兄ちゃんは、どうしてあれほど貫禄があるのだろう。俺たちは一歳しか違わないというのに。
「ヴァン。明日、俺たち水魔法でボコボコにされるのかな」
「クラウス様は、隣国の公女様と婚約中ですからね。俺たちの停学処分が、相手方の耳に入ったら大変です」
「どうしよう。俺、ケンカでクラウス兄ちゃんに勝ったことなんてないよ」
緊張のあまり、今夜はエッチどころではなかった。
俺はヴァンの懐に頭を預けて、体を充分に休めた。
◇◇◇
ひと晩明けて、本日は快晴なり。
遠乗り日和である。
俺とヴァンは朝食を囲んでいた。クラウス兄ちゃんの様子をうかがう。好物のゆで卵を食べているが、目つきは鋭い。
「どうだ、エドゥアール。アゼルク家の朝餉は美味であろう」
「うん。俺、リンゴのコンポート大好きだよ」
「あらいやだ、エドゥアールちゃんったら。それは梨のコンポートよ」
「疲れているようだな、エドゥアール」
グルメの俺としたことが、不覚である。クラウス兄ちゃんの全身から放たれる圧によって食事に集中できなかった。
ヴァンはもともと味にうるさくない。
魔法学園の野外実習の際、固形の超まずいレーションを食べても平気な顔をしていた。クラウス兄ちゃんが睨みをきかせていてもカトラリーを落としたりもしないし、ヴァンって強いよな。
ヴァンに惚れ直してしまう。
そうだ、俺には愛がある。
愛の力があれば、クラウス兄ちゃんの試練だってきっと乗り越えられる。
俺は紅茶を飲んで、お腹を落ち着かせた。
「そろそろ出かけてもいいか」
食後、自室で休んでいるとクラウス兄ちゃんがやって来た。
クラウス兄ちゃんはかっちりとした上着をまとい、背負い袋を装備している。もしかして……屋敷の書庫から封魔の書を持って来たのか?
魔物を閉じ込めて、召喚獣へと変えさせる封魔の書は強力なアイテムである。
クラウス兄ちゃんお得意の水魔法で攻められたうえに、召喚獣の相手までさせられるのか?
「ヴァン。おまえ、クラウス兄ちゃんの子ども時代の恥ずかしい思い出とか覚えてない?」
「記憶にまったくございません。クラウス様はつねに完璧な公爵令息でした」
「うーっ。精神攻撃のネタにしようと思ったのに」
俺が頭を抱えていると、クラウス兄ちゃんが歩き出した。
「行くぞ」
拒否権はない。
俺は屋敷のエントランスホールを出て、庭に足を踏み入れた。
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