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もしかして、近いひと?
20. デートの約束
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時はあっという間に流れて、番組のアーカイブ配信が始まった。
俺はアパートでひとり、動画を視聴した。緊張のあまり、スマートフォンを持つ手が震えてしまいそうだ。
新潟の蔵元、柳都酒造さんの歴史が語られたあと、うちの店が映った。木目が分かるほどに店の看板がクローズアップされる。沢辺酒店の名が、多くの蔵元さんに広まるといいな。
そしてとうとう、俺が画面に登場した。ナレーターが俺の経歴を紹介する。
「大学卒業後、酒類を取り扱う卸問屋に勤めていた沢辺誠司さんですが、地域の日本酒文化を担うという夢を叶えるため、家業を継ぐご決断をされました」
こう聞くと俺、立派な人みたいだな。実際は、まだまだ修行中の身なのに。
ビデオカメラがとらえた俺は、いつもより澄ました表情である。あとで母さんにからかわれそうだ。
おお。
常連客の四谷さんの姿も収録されている。四谷さん、いい笑顔だな。
続いて、俺のドヤ顔が画面いっぱいに映し出された。
「貝塚響也の音楽は人の心を酔わせるけど、悪酔いはさせません。うちが売るお酒も、美しい音楽のようにお客様の人生に寄り添う存在になればいいなって思います」
おいおい、待ってくれ。
カットされるだろうと思っていたパートが、バッチリ採用されているんですけど? これ、新潟では公共の電波に乗ったんだよな。しかも、この動画はネットの海を漂っている。貝塚響也に対する俺のファン魂が全世界へと配信されてるってわけか?
は、恥ずかしい……。
いくら俺が火力強めのオタクだといっても勘弁してほしい。
ベッドの上で悶えていると、貝塚さんから電話があった。
「アーカイブ配信、観たよ。まさか僕の名前が出てくるとは思わなかった」
「か、貝塚さん……。あれは、その……」
「きみの心の深いところに僕の音楽が届いてるってことだよね。嬉しいな」
「守りたいものっていうテーマで話をしていたら、貝塚さんの名前が浮かんできて……」
「嬉しいことを言ってくれるね」
俺は貝塚さんに訊ねた。
「改めてお礼がしたいです。何か欲しいものとかありますか?」
「沢辺さんと過ごす時間が欲しい。ねえ、僕とドライブに行こうよ」
「えっ……」
頭の中でイメージしてみる。貝塚さんが運転する車の助手席に座っているのが、この俺? 映えない絵面だ。何よりも、他のファンに申し訳ない。
でも、俺は貝塚さんに会って直接お礼を言いたかった。
「……俺でよければ」
「本当に? 迷惑じゃない?」
「あなたは俺にいつも力をくれます。今回の取材についてもすぐに相談に乗ってくれた。俺、貝塚さんにお返しがしたいです……」
俺はモブで、貝塚さんはスター。その垣根を今、俺は乗り越えようとしている。心臓がバクバクと暴れ出して、手のひらが汗ばんでいく。俺は身分不相応な行動を取ろうとしているんじゃないのか?
でも、貝塚さんに会いたいという気持ちが止まらなかった。
ビデオカメラを向けられた時の緊張感を思い出す。本当は逃げ出してしまいたかった。大勢の人に見られる重圧に耐えられないと思った。
でも俺は挑戦することを選んだ。
目立つのは大の苦手だった俺に勇気をくれたのは、他ならぬ貝塚さんだ。
もうCDを聴くだけじゃ満足できそうにない。生身の貝塚さんのそばにいたい。もっとあの人のことを知りたい。
俺の胸の内側を染めるこの想い。世界が華やいで見える高揚感に包まれるとともに、貝塚さんに拒絶されたくないという恐怖感が芽生える。俺の心はデザート皿に盛り付けられたばかりのゼリーのように震えていた。
こんな気持ち、初めてだ。
「じゃあ、日取りを決めようか」
貝塚さんが会いたいと言ってきた日付を聞いて、俺はうろたえた。
「その日って、貝塚さんのお誕生日ですよね?」
「そうだよ」
「20代最後の誕生日を過ごす相手が俺でいいんですか」
「他に誰がいるっていうの」
俺……予想以上に貝塚さんに愛されてる?
「あの……俺、頑張ります」
「きみに無理はさせないよ。変な真似は絶対にしないから」
「……ありがとうございます」
通話を切ったあと、俺は大きく息を吐いた。
俺たち、この先どうなっちゃうんだろう。関係が進んだら、俺は貝塚さんに抱かれることになるのか?
貝塚さんの長い指が俺の恥ずかしいところに触れるシーンを想像してしまい、俺は頬を赤らめた。
あの人……きっとキスが上手いんだろうな。
妖しい想像が膨らんでいく。
わーっ! 俺のばか。スケベ。みんなに愛されてる貝塚さんに対して、なんてことを考えてるんだ!
俺はシャワーを浴びて、心身を清めた。
俺はアパートでひとり、動画を視聴した。緊張のあまり、スマートフォンを持つ手が震えてしまいそうだ。
新潟の蔵元、柳都酒造さんの歴史が語られたあと、うちの店が映った。木目が分かるほどに店の看板がクローズアップされる。沢辺酒店の名が、多くの蔵元さんに広まるといいな。
そしてとうとう、俺が画面に登場した。ナレーターが俺の経歴を紹介する。
「大学卒業後、酒類を取り扱う卸問屋に勤めていた沢辺誠司さんですが、地域の日本酒文化を担うという夢を叶えるため、家業を継ぐご決断をされました」
こう聞くと俺、立派な人みたいだな。実際は、まだまだ修行中の身なのに。
ビデオカメラがとらえた俺は、いつもより澄ました表情である。あとで母さんにからかわれそうだ。
おお。
常連客の四谷さんの姿も収録されている。四谷さん、いい笑顔だな。
続いて、俺のドヤ顔が画面いっぱいに映し出された。
「貝塚響也の音楽は人の心を酔わせるけど、悪酔いはさせません。うちが売るお酒も、美しい音楽のようにお客様の人生に寄り添う存在になればいいなって思います」
おいおい、待ってくれ。
カットされるだろうと思っていたパートが、バッチリ採用されているんですけど? これ、新潟では公共の電波に乗ったんだよな。しかも、この動画はネットの海を漂っている。貝塚響也に対する俺のファン魂が全世界へと配信されてるってわけか?
は、恥ずかしい……。
いくら俺が火力強めのオタクだといっても勘弁してほしい。
ベッドの上で悶えていると、貝塚さんから電話があった。
「アーカイブ配信、観たよ。まさか僕の名前が出てくるとは思わなかった」
「か、貝塚さん……。あれは、その……」
「きみの心の深いところに僕の音楽が届いてるってことだよね。嬉しいな」
「守りたいものっていうテーマで話をしていたら、貝塚さんの名前が浮かんできて……」
「嬉しいことを言ってくれるね」
俺は貝塚さんに訊ねた。
「改めてお礼がしたいです。何か欲しいものとかありますか?」
「沢辺さんと過ごす時間が欲しい。ねえ、僕とドライブに行こうよ」
「えっ……」
頭の中でイメージしてみる。貝塚さんが運転する車の助手席に座っているのが、この俺? 映えない絵面だ。何よりも、他のファンに申し訳ない。
でも、俺は貝塚さんに会って直接お礼を言いたかった。
「……俺でよければ」
「本当に? 迷惑じゃない?」
「あなたは俺にいつも力をくれます。今回の取材についてもすぐに相談に乗ってくれた。俺、貝塚さんにお返しがしたいです……」
俺はモブで、貝塚さんはスター。その垣根を今、俺は乗り越えようとしている。心臓がバクバクと暴れ出して、手のひらが汗ばんでいく。俺は身分不相応な行動を取ろうとしているんじゃないのか?
でも、貝塚さんに会いたいという気持ちが止まらなかった。
ビデオカメラを向けられた時の緊張感を思い出す。本当は逃げ出してしまいたかった。大勢の人に見られる重圧に耐えられないと思った。
でも俺は挑戦することを選んだ。
目立つのは大の苦手だった俺に勇気をくれたのは、他ならぬ貝塚さんだ。
もうCDを聴くだけじゃ満足できそうにない。生身の貝塚さんのそばにいたい。もっとあの人のことを知りたい。
俺の胸の内側を染めるこの想い。世界が華やいで見える高揚感に包まれるとともに、貝塚さんに拒絶されたくないという恐怖感が芽生える。俺の心はデザート皿に盛り付けられたばかりのゼリーのように震えていた。
こんな気持ち、初めてだ。
「じゃあ、日取りを決めようか」
貝塚さんが会いたいと言ってきた日付を聞いて、俺はうろたえた。
「その日って、貝塚さんのお誕生日ですよね?」
「そうだよ」
「20代最後の誕生日を過ごす相手が俺でいいんですか」
「他に誰がいるっていうの」
俺……予想以上に貝塚さんに愛されてる?
「あの……俺、頑張ります」
「きみに無理はさせないよ。変な真似は絶対にしないから」
「……ありがとうございます」
通話を切ったあと、俺は大きく息を吐いた。
俺たち、この先どうなっちゃうんだろう。関係が進んだら、俺は貝塚さんに抱かれることになるのか?
貝塚さんの長い指が俺の恥ずかしいところに触れるシーンを想像してしまい、俺は頬を赤らめた。
あの人……きっとキスが上手いんだろうな。
妖しい想像が膨らんでいく。
わーっ! 俺のばか。スケベ。みんなに愛されてる貝塚さんに対して、なんてことを考えてるんだ!
俺はシャワーを浴びて、心身を清めた。
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